ドレッドノート Ⅰ
くすんだ緑色と黄土色の斑模様の身体。発達した筋肉は身体を覆う硬い鱗の下からもはっきりと分かるくらい強靭なもの。開かれた口からは鋭い牙を覗かせ、この世に恐れるものなどないと言わんばかりに大きな翼を広げるドレッドノート アルアイン。
真はエアリアルの中心に降り立った暴力の象徴ともいうべき巨大なドラゴンに向かって走り出した。一片の迷いもなく、相手よりも先に行動を起こす。
<レイジングストライク>
真の初手は遠くから一気に距離を詰めることができる攻撃スキル、レイジングストライク。獲物に襲い掛かる猛禽類のごとき強襲で、ドレッドノート アルアインが攻撃に移る前に真が先手を取ることに成功する。
だが、ドレッドノート アルアインに動揺した様子は微塵もない。もし現実の世界にドラゴンがいたとしたら、自分よりはるかに脆弱な生物が逃げずに強襲をかけてきたら、想定外のことに驚いて動きが乱れることになったかもしれない。しかし、ドレッドノート アルアインは現実世界に浸食してきたゲームのモンスター。先手を取られようが、予想外の行動を取られようが関係ない。来たものに対処するだけだ。
ドレッドノート アルアインは大きな腕を振り上げると突撃してきた人間に対して無造作にその爪を振り下ろした。
「おっと!」
相手の懐に入ったわけだから、攻撃方法は限られてくる。前に戦った時と同じ攻撃であり、予想通りの攻撃に対して、真は振り下ろされた凶悪な爪の攻撃を難なく回避する。
<スラッシュ>
回避行動から一拍も置かずに踏み込んでからの斬り込みを入れる。
<シャープストライク>
初撃の体勢からそのまま切り返す刃で素早い二連撃を放つ。スラッシュから派生する連続攻撃スキルがシャープストライクだ。
<ルインブレード>
続けさまに円形魔法陣が浮かび上がると、魔法陣ごと斜めに真っ二つにする斬撃を繰り出す。いくつものルーン文字と幾何学模様が刻まれた魔法陣とともに撃ち放たれる連続攻撃スキルの三段目、ルインブレードはダメージとともに相手の防御力を下げる効果も持っている。
「ガアアァァーーー!!!」
ドレッドノート アルアインが吼えると同時に振り上げた腕を横薙ぎに払う。単純な攻撃であるが、縦に振り下ろされる攻撃と違い、攻撃範囲が広い。そのため、真は回避行動を選択せず、大剣を構えて防御の姿勢を取った。
(これが厄介なんだよな……)
地味ながらも横薙ぎに爪を振るわれる攻撃は回避が難しい。しかも、単純な通常攻撃の一つであるため使用頻度が高い。後ろに飛んで回避できなくもないだろうが、腕の振りの速さや届く範囲を考えると防御した方が安定する。
それに、真はレベル100のベルセルク。同レベルのパラディンやダークナイトの防御力はには及ばないにしても今の状況で回復が必要なほどのダメージを受けるわけではない。
(大丈夫だ、いける!)
<スラッシュ>
防御体勢を解いてすぐさま踏み込みからの斬撃を放つ。ベルセルクの初期スキルであるスラッシュは再度使用するための時間はほぼ皆無に等しい。
<パワースラスト>
踏み込んだ体勢からそのまま大剣を引き戻し、全力で突きを押し通す。パワースラストはスラッシュから派生する連続攻撃スキルの一つ。
<ライオットバースト>
大剣を突き刺したままの姿勢でスキルを発動させる。大剣全体が光を放ち、その場で破裂したような衝撃を放つ。
ライオットバーストはスラッシュから派生する連続攻撃スキルのルートの一つで、単純なダメージに加え、継続的にダメージを与え続けるDoT攻撃が特徴だ。
DoTとはダメージ オーバー タイムの略で、一度にダメージを与えるのではなく、時間経過ととともにじわじわとダメージを与える攻撃のことを言う。
「グアアアァァァーーーッ!!!」
真の連続攻撃を受けたドレッドノート アルアインはけたたましい咆哮を放つと、大きな翼をバタつかせた。
(どうしたんだ?)
ドレッドノート アルアインが突然体をバタつかせたことに疑問を持ちながらも、真は何かしてくるのではないかという予感もあった。
地団駄を踏むような動きを見せていたドレッドノート アルアインが一瞬間を置いた次の瞬間、巨大な身体ごと一回転させ、長く大きな尻尾を鞭のようにしならせて真目がけて振り払った。
「うあぁぁぁーッ!?」
警戒はしていたが、知らない攻撃に対しては対処が遅れてしまう。何とか大剣を盾のようにして構えてはいたものの、巨大な尾撃を正面からまともに受け止める形になってしまった。
(クッソッ……前はこんな攻撃してこなかっただろが……)
真は鋭いドラゴンの尾撃に弾き飛ばされ、思わず舌打ちしてしまう。逃げることを前提とした前回の戦いではほとんど手の内を見せていないだろうとは思っていたが、やはり知らない攻撃をしてきた。真としても警戒をしていなかったわけではないが、初見だとどうしても対応が難しくなる。そのことに内心愚痴をこぼした。
そんな真の愚痴など全く関心がないドレッドノート アルアインは弾き飛ばされた真へと巨体を揺らしながら向かってくると、矮小な人間を叩き潰すために再び大きな腕を振り上げて傲然と振り下ろした。
距離を詰められるまでの僅かな時間ではあったが、真は体勢を整えて、向かってくる凶爪を横に飛んで回避する。
<スラッシュ>
真が反撃とばかりに踏み込みからの斬撃を加えた。ドレッドノート アルアインの攻撃はどれも鋭く凶暴ではあるが、その巨体故に一度攻撃をすると、次の攻撃までにタイムラグがある。特にこの腕を振り下ろす攻撃は回避が容易な上に攻撃を入れるための隙が大きい、いわばチャンス攻撃とも言えた。
<フラッシュブレード>
間髪入れずに閃光のような横薙ぎの一閃を放つ。轟としているが、しなやかで流れるような真の連続攻撃は更に続く。
<ヘルブレイバー>
下段から体ごと切り上げるようにして斬撃とともに飛び上がる。
<カタストロフィ>
ヘルブレイバーの発動によって空中に飛び上がっている身体が、急激な加速を受けて大剣を叩きつけるように真っ直ぐ斬りつける。
その刹那、神速の斬撃から放たれる一撃と同時に凄まじい轟音を響かせて、崩壊の白光が爆発したかのように噴出する。
空間ごと震撼させるカタストロフィはベルセルクが使えるスキルの中では最も威力のある攻撃だ。単発スキルであることと、連続攻撃の四段階目にしか使えないこと、再度使用するまでにかかる時間が長いことが難点だが、それを補って有り余る攻撃力を持っている。
「グガアアアーーーーーッ!!!」
ドレッドノート アルアインは再び咆哮すると大きく頭を振り上げた。そして、口を開けて凶悪な牙を覗かせると、頭ごと地面に激突させるようにして真を狙って振り下ろしてきた。
「あっぶねぇーッ!?」
連続攻撃を終えた直後に攻撃を仕掛けられたことで回避行動が遅れて慌ててしまったが、予備動作が大きく、前回戦った時も同じ攻撃をしてきたため真はこの噛撃を回避することができた。真ならドレッドノート アルアインに噛みつかれたとしても問題はないだろうが、真は回避できたことに心底安堵していた。巨大なドラゴンに噛みつかれるというのは大丈夫かどうかという問題ではなく、想像しただけでゾッとしないものだ。
しかし、この攻撃も真にとってはチャンスになった。大振りな攻撃で隙が大きく、回避もしやすい。それに加えて、次の動作までのタイムラグが大きいとなれば、そこに連続攻撃を叩き込む他ない。
「グアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!」
真の連続攻撃を受けて、何度目かになるドラゴンの咆哮を放つと、ドレッドノート アルアインは翼をはためかせた。そして、尊大で傲慢なその巨体が空中へと飛び上がると一気に上空へと上昇していった。
「逃げるのかッ!?」
真は思わず声が出ていた。ここで倒せるものだと思い込んでいたところが、突然ドレッドノート アルアインが上空高くへと飛んで行ったのだ。
(俺がエアリアルに入った途端に姿を現したんだぞ! 卵もあるのに逃げるわけ――)
既に姿が見えない所まで飛んで行ったドレッドノート アルアイン。真はそれを逃げたと思ったが、すぐに考え直す。まだ知らない攻撃はあるはずだと。
その時だった、天高く飛び上がったドレッドノート アルアインは真の背後から隕石が降ってきたかのような強襲を仕掛けてきた。




