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エアリアル Ⅰ

        1



朝の穏やかな日の光が透き通った空気に色を付けてくと、街が目覚め、動き始める。


高地にあるウィンジストリアの朝に肌寒さを感じながらも、開けた窓から入る暖かい日差しを受けて真は伸びをした。床で寝ていたが意外と体は痛くなく、目覚めも良かった。


「アクレスまでは、ここからだと二日はかかるんだよな?」


朝食のロールパンを齧りながら真が宿のテーブルに座る四人の少女達に声をかけた。


「ええ、そうよ。高いビルだから、二日目には見えてくると思う。ただ、途中のどこかで野宿しないといけないんだけど……」


華凛は話しの途中から何か引っかかるところがあるような少し悩んだ顔になり、言葉が止まってしまった。


「野宿くらい慣れてるわよ」


翼があっけらかんとして返事をしている。今更野宿することくらいで躊躇するようなこともない。キャンプセットも充実しているので、エル・アーシアに来たばかりのような何の準備もない状態での野宿とは違う。


「いえ、野宿のことじゃなくてね……確率は低いんだけど、外だとドレッドノート アルアインがいつ飛んでくるか分からないから……現実世界だったら建物の中に入れば安全なんだけど、そこまで行く道中が開けた高原だから……」


「寝てる間に来られるとまずいわよね」


華凛の不安を察した美月が補足する。昼間にドレッドノート アルアインに遭遇したのなら、真が迎撃するだろう。だが、寝てる間に奇襲されて生きていられるのは真以外にいない。


「交代で見張りをするか、誰かが寝ずの番をしてないといけないってことだよな……」


窓に寄りかかって、口元に手を当てて考え込んでいる真が呟いた。数秒考えてから、目線を上げるとテーブルに座っている少女達が一斉に真の方を見ていることに気が付く。


「ねぇ、真……ちょっとお願いがあるんだけど……」


遠慮がちにはにかんだ笑顔を浮かべる美月が手を合わせて真を見ている。


「あの、すみいません……私もそれしか思いつかなくて……」


顔を伏せながらもチラッと彩音が真を見ている。


「言いたいことは分かるでしょ? 真、あんたが徹夜して」


腰に手を当てた翼が直球を投げてくる。


「俺かよッ!?」


四人の視線を感じた時から嫌な予感はしていたが、思った通りの答えが返ってきた。


「真以外に誰ができるのよ?」


翼がすぐさま声を出した。ギルドマスターだからだとか、男だからだとかそういう次元の理由では一切ない。真以外が夜に見張り番をしていても、ドレッドノート アルアインの存在に気が付いて、真を起こすまでに生きていられるかどうかも怪しいのだ。真がずっと起きていて、夜にドレッドノート アルアインが襲ってきたらそのまま迎え撃つのが一番安全だ。というより、それ以外に方法がない。


「あぁ、確かにそうだな……分かった、俺が起きてるよ。まぁ言っても一日徹夜するだけだからな」


真は家でMMORPGをやっていた時は寝ずにゲームをすることもたまにあった。ただ、寝落ちしたら周りに迷惑をかけるので、一応寝るようにはしていたが、一日くらい寝なくても大丈夫だろうという計算だった。それでも、徹夜明けは普段以上に目覚めが悪くなるので、それは考慮してほしいところだ。


「真、ありがとう。私も一緒に起きてるからね」


「ああ、頼むよ」


真は右手を軽く上げて、美月に謝意を示す。美月も一緒に起きててくれるということなので、途中で寝てしまうようなこともないだろう。


「ね、ねぇ……ちょっと聞いてもいい?」


華凛が言いにくそうに美月や翼、彩音を見ている。


「どうしたんですか?」


何を言いにくそうにしているのか分からず彩音が問いかけた。野宿の件ならもう片付いているので、真が徹夜することに対してもそこまで気を遣うことでもない。


「えっとね……真君が強いことは分かったんだけどさ……真君に付いて来てるってことは、皆もかなり強いんだよね? だったら、見張りは交代でもいいんじゃないの……?」


華凛は実のところ昨日から気になっていたことだった。真一人でもドレッドノート アルアインを倒せると豪語するくらいの強さを持っている。真は美月や翼、彩音に対して、戦闘中は危ないから離れたところにいろとは言っていたが、それでも、一緒にギルドを組むくらいの強さはあるはずだ。というのが華凛の目測。


「あぁ……それね……えっとね、華凛。私達はたぶん普通くらいかな? 中の下くらい? あまり他の人と比べたことがないから分からないけど」


美月が控えめに華凛の疑問に応える。実際には山籠もりで強くなっているので、中の下ということはない。


「そうなの?」


「真の強さが異常なだけだから。私達はあくまで一般人なのよ」


軽く手を振る仕草で翼も応える。山籠もりをして強くはなっているが、それ以上に真の強さが計り知れないほど遠いということを思い知らされる結果になっていた。


「そうなんだ……」


華凛としては今一つよく分からないが、そう言うのであればそうなのだろう。そもそも、真の強さもちゃんと分かっていない。


「さてと、そろそろ出発するか」


話はこれで終わりとばかりに真が声を上げる。朝食も食べ終わっているので、もう宿を出てもいい頃だ。


「そうだね。そろそろ行こうか」


美月の声に合わせて、他の三人も宿を出るように動き始めた。



        2



ウィンジストリアを出発してから街道を真っ直ぐ進む。街道は高原を覆う草の海原を真っ直ぐ縦に割ったようにして伸びている。その先は現実世界に繋がっており、超高層ビルのアクレスがあり、その最上階には目的地である空中庭園エアリアルがある。


華凛の情報ではエアリアルがドレッドノート アルアインの棲み処ではないかということだ。誰も確かめたことがなく、推測の域を出ないが今はそれが一番有力な情報だ。


大空を舞い、どこから現れるか分からない巨大なドラゴン、ドレッドノート アルアイン。街の外では常にドレッドノート アルアインに襲われる危険性を含んでいる。遭遇率は低いとのことだが、今この瞬間に遭遇しないという保証はどこにもない。


そんなことを考えながら真は空を見上げた。空には猛禽類が優雅に飛んでおり、雲もそれに合わせるようにしてゆっくりと流れている。時折聞こえてくるのは鳥の鳴く声。


今見えている空は単純に穏やかな空だった。この空から圧倒的な暴力が襲ってくるなんて誰が想像できようか。2カ月ほど前のバージョンアップがあった日もそうだった。ギルドを創設した日、真が嘆息しながら見上げた空も今日みたいに穏やかな空だったことを覚えている。


真はあの時、バージョンアップの告知を見て、碌でもない物がまた追加されたんだなとは思っていたが、同じころに惨劇が起こっていたなんて思いもよらなかった。


そして、その惨劇の犠牲者が今、真の横を歩いている。


いつドレッドノート アルアインが襲ってくるか分からない空の下。今どんな思いで華凛は歩いているのだろうか。真にはそれを想像することも難しかった。


昼の休憩を取って、すぐに歩き始め、時折休憩は入れるが基本的には早足で進む。景色は晴れた高原のピクニックだが、それを楽しむことができる空の下ではない。真がいれば大丈夫だろうという思いはあるにしても皆の緊張は隠し切れなかった。


そうこうしている内にもうすぐ日も暮れようとしている頃、ウィンジストリアから伸びた街道沿いに一軒のコンビニエンスストアが見えてきた。


「なんでこんなところに一軒だけコンビニがあるんだ?」


真が眉を顰めてポツンと佇むコンビニを見やる。街道沿いにあるため、必然的にそのコンビニの前まで行くことになる。


「なんでコンビニだけがあるんだろうね?」


美月も不思議そうにコンビニを見つめた。高原の草が生い茂る中、街道沿いに建っているコンビニの他に現実世界の物はない。ただ店とその前にガレージがあるだけ。大自然の中の一軒のコンビニ。違和感しかない。


「でも、丁度いいじゃない! 建物の中だったらドレッドノート アルアインに襲われないんでしょ? 真も徹夜せずに済んで良かったじゃない」


翼が明るく声を上げる。見渡す限り高原の緑が続く中に穴が開いたように佇むコンビニの不自然さは特に気にならない様子だ。


「あの、これってもしかして、準備されていたんですかね……?」


気楽な翼に対して彩音が訝し気に声を上げる。


「だろうな……。ドレッドノート アルアインを倒しに行くためにセーフティエリアを用意してあるんだと思う」


「真君、それってどういうことなの?」


真と彩音の言っていることに今一つピンとこない華凛が質問を投げかけた。用意されているものとはどういうことなのだろうか。


「ドレッドノート アルアインがいる所まではウィンジストリアから距離があるからな。倒しに行くとなると、今朝話をしてたみたいに夜の間はどうするかっていう問題が生じるんだよ。それを見越してここに現実世界のコンビニを置いてるんだ。ドレッドノート アルアインを倒しに行くための順路としてな」


「何なのよそれ……遊んでるんじゃないのよ!」


落ち着きを取り戻していた華凛の顔に再び怒りが込み上げてくる。ドレッドノート アルアインを倒しに行くための道にご丁寧にも休息場所を用意してくれているということだ。倒すために実装されたドレッドノート アルアインという巨大なドラゴン。そして、それに無残にも殺された大切な友達。


「ああ、虚仮にされてる気分だな……。でも、逆に言えば、このままエアリアルに行けばドレッドノート アルアインを倒せるっていうことだ」


「……ええ、そうね」


怒りに歯を食いしばりながらも華凛は何とか自制を保った。遊ばれているにしても、馬鹿にされているにしても、今はまずドレッドノート アルアインを倒すという目的に集中しないといけない。そのためにここまで来たのだから。





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