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風の都 Ⅲ

キスクの街に滞在してた人々がウィンジストリアに移住してから約三週間が経過していた。


ドレッドノート アルアインの脅威から解放され、新たな街を拠点とした生活は早い段階で馴染むことができていた。


ただ、一つ問題があるとするならば、ウィンジストリアが現実世界から遠く離れた場所に立地しているため、安全に狩りをしようと思うと、今まで以上に移動の負担がかかること。


そうなると、やはり少数や単独での行動というのは利点が少なくなり、ギルドへの加入が促進される結果となった。


そして、人数を増やしたいと考えているギルドは、少数や単独で狩りをしていた人たちを受け入れる形となっていた。


大人数になると人間関係や規律、管理が難しくなっていくため、少人数のギルドというのも多く存在するが、煩わしさが増えても人数を増やしたいと考えているギルドは基本的に野心的だ。即ち、人数が多ければそれだけ大物を狙えるということ。エル・アーシアにもネームド モンスター。NMと呼ばれるモンスターが複数確認されており、それらのモンスターを狩って一儲けするためには、それ相応の戦力が必要となってくるのだ。


そういった、規模を拡大したいと考えるギルドの中でも最近、特に新人の勧誘に積極的なギルドが『花鳥諷詠』だ。元々はそれほど、勢力を伸ばしているギルドではなかったが、ギルドへ加入する流れが高まったことで力をつけたギルドである。


華凛がギルド『花鳥諷詠』に入ったのもここ一週間のことだった。


この日の夜は、ウィンジストリアに来てから『花鳥諷詠』に入った新人メンバーの歓迎会をすることになっており、街の一角にある酒場『スワローテイル』の二階を貸し切って、大勢のギルドメンバーが集まっていた。


酒場『スワローテイル』は店の屋根に風車が付いていて初めてウィンジストリアに来た人の目を引いた。そして、建物は白樺を主な建材として使用しており、外観も内観も白を基調としたデザインになっていることも人気の要因だ。いくつも灯されたランプが白樺で作られた壁に反射して、店内は非常に明るい雰囲気に包まれていた。


ギルド『花鳥諷詠』の歓迎会が始まって30分もしない内に、ある一カ所に多くのギルドメンバーが集まっていた。集まっているのはほとんどが男性。その中心にいるのは華凛だ。


長いシルバーグレイの髪と美しく整った顔立ち。ウィンジストリアに来てから買い替えたシルバーローブを纏った華凛はひときわ目立った存在であり、ギルドの男性の注目の的となっていた。


「えっと、華凛ちゃんてさ、最近うちに入って来たんだよね? あっ、華凛ちゃんって呼んでもいい? 仲間なんだし橘さんっていうのも他人行儀だよね?」


すでに酒で顔を赤くしている三十代後半のスナイパーの男が馴れ馴れしく華凛へ話しかけている。


「えっ、はい、華凛ちゃんって呼んでもらっていいですよ」


引きつった愛想笑いを浮かべながら華凛は返事をする。


「ねぇねぇ、華凛ちゃんってさどうして、うちに入ろうって思ったの?」


スナイパーの男とは別のローブを着た男性が華凛に話しかけた。髪の毛は黒々としているが、頭皮の見える部分がかなり多くなっているため年齢が分かりにくい。


「最近、ギルドを大きくしてるそうで、NMも狩ったりするって聞いたので……」


相変わらず馴れ馴れしく話しかけてこられることに我慢をしながらも、華凛はできるだけ愛想よくする。


「華凛ちゃんって、NMに興味あるんだ? なんか、そういう危険なやつは避けてそうに見えるんだけどね」


今度は体格の良いパラディンの男が華凛に話しかけている。


「あ、はい。NMに立ち向かう人ってかっこいいと思うんですよぉ」


華凛は、ちゃん付けで呼ばれたくはないが仕方がない。特にここで媚びを売っておく必要がある。


「あ、俺この前、イーグルキング ジャックソード倒したよ!」


華凛の話を聞いて、いち早く手を上げたのはダークナイトの男性だ。イーグルキング ジャックソードとは、ウィンジストリア近郊に現れる大型の鳥のNM。大して強くはなく、それ程良いアイテムを落とすわけでもないため、狩れるなら狩ってもいいかという程度。


「華凛ちゃんて、どんな人がタイプなの? やっぱり強い人が良いとか?」


ダークナイトの男が主張したことは流されて、ソーサラーの男が質問をしている。


「はい! 私、強い人が好きなんです!」


ここが勝負とばかりに華凛は精一杯の作り笑顔を浮かべる。握った手は我慢するために力んで小刻みに震える。


「そっか、華凛ちゃん強い人が好みなんだね。NMを狩りに行く時は俺が連れて行ってあげるよ」


さっき話しかけてきた体格の良いパラディンが得意げな顔で話している。これ見よがしに腕をまくって、筋肉を見せようとしているところが、華凛としてはきつかった。


「っていうかさ、華凛ちゃん、彼氏いるの? あ、これだけ可愛かったら彼氏くらいいるよね?」


三十代の男とはまた別のスナイパーが華凛に話しかけた。この男も酒が入っている。


「い、いえ……彼氏はいませんよ」


妙に近づいて来ようとする男に対して、何とか距離を取ろうとするが、離れた先にはまた別の男性がいる。そっちにも近づきたくはない。


「ええ~まじで、こんなに可愛いのに? ほんと?」


逃げた先にいた小太りのビショップの男が話しかけてきた。


「ほ、本当ですよ、彼氏はいませんよ」


華凛は頬を引きつらせながらもなんとか質問に答える。堪えろ堪えろと自分の中で言い聞かせて、必死で堪える。


「え、じゃあさ、華凛ちゃんが倒してほしいNM倒したらデートしてくれる?」


もう誰が言った言葉なのか華凛には分からなかったがどうでもいい。華凛は釣れたと思った。


「いいですよ! 私が倒してほしいNM倒してくれたらデートしますよ!」


オオーッと大歓声が上がった。その声を周りの女性たちが冷ややかな目で見ているが、当の男性陣は全く気が付いていない。


「で、何? 何を倒してほしいの?」


「ドレッドノート アルアイン」


華凛の言葉に一瞬場が静まる。だが、数瞬の間を置いて、笑い声が響きだした。


「ハハハハハッ、華凛ちゃんも冗談きついね~。未成年なのにお酒飲んでるのかな? 別に飲んでも良いけどさ。で、本当に倒してほしいの言ってごらん」


ビショップの男が笑いながら返事をした。この男は華凛が言ったことを冗談だと受け取っている。


「ドレッドノート アルアインです!」


だが、華凛は本気だ。ドレッドノート アルアインを倒すことができる人達を探してわざわざこんな所まできて、相手したくもないような男と話をしている。


「あんなの倒したって意味ないよ。そんなのよりさ、もっとお金になる奴を狙わない? えっと、何だっけか、カブトムシみたいなやついたよな?」


「そんなのって……。私はドレッドノート アルアイン以外に興味はないの! 皆強いんでしょ? だったらドレッドノート アルアインを倒すのに協力してよ!」


ドレッドノート アルアインを倒すことを軽んじられたことに華凛は激怒し、怒鳴り声を上げた。甲高く響いた声に騒がしかった歓迎会の場が凍り付く。


「そこまでよ!」


騒ぎを聞きつけたギルドマスターの黒崎梓が割って入ってきた。年齢は三十前後、キャリアウーマンのような威圧感を持っている、どこから見てもできる女といった感じの女性。


「橘さんだったわね。うちの男連中が失礼な真似をしたことは謝るわ。でもね、今この場がどういうところなのか分かってるわよね?」


梓はそう言うと、華凛の目の前に立ってじっと目を見つめていた。長身の梓は見下ろす形になり、これはこれで威圧感がある。


「分かってます! 私の倒してほしいNMを倒してくれるって言うから頼んだだけです!」


華凛は負けじと梓を睨み返す。ドレッドノート アルアインを目の当たりにした時に比べれば、今いる女性など矮小な存在でしかない。


「あなた、本気でドレッドノート アルアインを倒したいと思ってるの?」


華凛の怒鳴り声は当然のことながら梓にも届いている。ドレッドノート アルアインを倒すのに協力してくれと叫んだ声はしっかりと聞こえていた。


「本気です! 本気だからここにいるんです!」


「無理よ。私達にドレッドノート アルアインを倒す力はないわ」


華凛の言葉に籠る熱の量が半端なものではないことは梓にも分かった。だが、冷たく返す。華凛の目に宿る熱量は負の感情によるものだからだ。


「やってみないと分からないじゃないですか!」


「どれだけ犠牲が出ると思ってるのよ!」


冷静に対応していた梓が我慢の限界とばかりに大声を張り上げる。その声に周りのギルドメンバーは完全に沈黙していた。


「だったらこのまま放置しておくんですか? 今まであいつのせいで犠牲が出てきたんですよ!」


だが、華凛は怯まなかった。梓の声に負けない大声を張り上げる。


「だから、私達はここまで逃げて来たんでしょ!」


「これからも逃げ続けるつもりなんですかっ!?」


「そんなにドレッドノート アルアインを倒したいならインヴィジブル フォースにでも頼みなさい!」


不毛な会話に梓の声は更に大きくなる。ここまで大声で怒鳴ったのは何時ぶりだろうか。


「……どこにいるんですか?」


華凛も梓が言ったインビジブル フォースのことは聞いたことがあった。何のために組織されたのかも分からない正体不明の特殊部隊。誰も知らない不可視の存在。


「知るわけないでしょ……。凄く強いっていう話だから、強い人を見つければ手掛かりになるんじゃないの?」


梓は華凛が諦めるだろうと思って言ったことだが、華凛は引き下がろうとしなかった。そのことに気圧されて、梓は何の根拠もないことを言ってしまっていた。その言葉で少女が振り回されるかもしれないと思いながらも、いるかいないか分からない存在を追いかけてくれた方がマシなのかもしれないとも思っていた。


「分かりました……。情報ありがとうございます……私、ギルド抜けます……」


華凛はそういうと踵を返して酒場から出て行った。その後を追う者は誰もいない。





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