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山籠もり

        1



前回のエル・アーシアの探索とは違い、広大な大地の斜面を下りずに標高の高い場所を進み、道中に見つけたモンスターは基本的に全て倒していく。


現実世界の境界線に近い場所に生息するモンスターは地面を走る大型の鳥や長い体毛のバッファローの他には齧歯類のようなモンスターが見られた。


基本的にこれらのモンスターはこちらから攻撃を仕掛けない限り襲てくることはない、非好戦的なタイプのモンスター。


あくまで修行が目的であるため、できるだけ強そうなモンスターと戦うことになる。そうなると狙いはバッファロー。二番手は大地を走る大型の鳥になる。


戦法は翼か彩音がスタン効果のあるスキルで先制し、近づかれる前に倒してしまうこと。だが、バッファローはキスク周辺のモンスターとは格が違い、耐久力も高く、思うように封殺することができずにいた。


真が攻撃を加えれば耐久力の高いバッファローであっても一撃で沈むのだが、それでは修行にならない。そのため、真は基本的に見ているだけ。手出しはしない。ただ、危ないようなことになればすかさずモンスターを倒す準備だけはしているが、美月と翼、彩音は苦戦しながらもなんとか大型のバッファローを倒すことができていた。


真は最初、我が子を見守る親の気持ちで少女達の奮闘ぶりを見ていた。しかし、それも次第に飽きてくる。


「暇だな……」


以前も美月の成長のためにあまり手出しをしなかったことがあるが、やることがないというのはやはり辛い。


そして、山の斜面で狩りをしながら動き回ること三時間。暇を持て余した真は横目で美月達を見ながら大型の鳥を斬っていた時、美月が声を上げた。


「ちょっと、休憩しましょう……」


「そうね、流石に疲れるわね。一旦休憩しましょうか」


ゲーム化の影響から体力が増強されているとはいえ、倒すにも一苦労のモンスターをずっと狩っていれば、流石の翼も疲れた表情をしている。美月の提案に異を唱えることなく追従した。


「賛成です……」


彩音は口には出さなかったが、もっと早い段階で休憩したかった。それでも、美月が休憩を言い出してくれたことには感謝している。


三人はそう言うと、山の斜面に腰を下ろして、一息ついた。そこに様子を見ていた真が近づいてくる。


「修行の手ごたえはどうだ?」


一人だけ全然疲れていない真が腕を組みながら話しかけた。暇なので大型の鳥を狩っていたが、あまり狩り過ぎると美月達が狩る分がいなくなるため、やはり手持ち無沙汰になっていた。


「きっついわ……ここのモンスター、こんなに強かったのね……。キスクの周りとは全然違うわ」


大地に体ごと預けるようにして大の字に寝転がっている翼が愚痴をこぼした。彩音と二人でキスクの街周辺で狩りをしていた時はここまで苦労することはなかった。


「ほんと……なかなか倒れてくれなくて。今までは真が一緒だったから気にしなくても良かったんだけど……」


美月が疲れた表情で微笑みながら真を見上げている。


「ですね……真さんのありがたみがよく分かりますよね」


「お、ようやく俺の大切さが分かってきたようだな」


少しにやけた顔の真が自慢げな口調をしている。美月たちの修行中は暇だったが、こうして褒められているので気分は良い。


「そうやって調子に乗らなければね……」


残念といったジェスチャーをしながら美月が嘆息する。


「う、うっせぇよ!? 別に調子乗ってるわけじゃねえし!」


「ふふっ、分かってるわよ。でも、こうやって真抜きで狩りをしてみるとよく分かるわよね……」


「そうよね……ほんと、自分の力不足をまざまざと実感させられるわね……」


翼も美月の言葉に同調していた。こうして自分たちだけで新しいエリアの強いモンスターと戦い、苦戦して、身をもって知る。


「うん……だから、翼の山籠もりに付いて来て良かったと思う」


美月はしみじみと感じていた。真の強さがあったから、エル・アーシアのモンスターもあっけなく倒すことができていたということは理解していたが、やはり、自分の力はまだまだだ。それが分かっただけでも収穫であった。


「いや、まぁ、そこまで危ない場面があったわけでもないから、卑下することもないと思うぞ」


休憩中にも関わらず何やら反省会が始まったようなので、真がフォローを入れておく。実際に見ていても、苦労しているのは分かったが、倒すことはできているので、そこまで心配するようなことはなかった。


「あんたは馬鹿みたいに強いからそういうことが言えるのよ!」


翼が抗議の声を上げた。真が暇そうにしていて、時折大型の鳥を倒しているのは翼も見ていた。しかも一撃で倒している。バッファローほどの耐久力はないにしても、大型の鳥を倒すことも苦労していた翼にとっては実力の差を思い知らされることになって悔しい。


「へいへい、分かったよ。でも、あまり無理はするなよな」


「大丈夫よ、いざとなったら真が付いててくれるしね」


期待を込めて微笑む美月がプレッシャーをかけてくる。危なくなったら守ってくれと。


「真さん、頼りにしてますよ」


「というわけで、真がちゃんと見ててくれるから、私たちは安心して狩りの続きを再会するわよ!」


彩音も翼も美月に乗っかってプレッシャーをかけてきた。要するによそ見して一人で狩りをせずにちゃんと見ておけということだ。


「……分かったよ、ちゃんと見ておくよ」


真は諦めた表情で返事をした。修行に付き合わされているが、これから危険なバージョンアップが実施された時の事を考えると、今は黙って修行に付き合うのが一番いいのだろうとは思う。だから、真は暇なのも悪くはないかと思うことにした。



        2



日が沈み、高原の夜は星の輝きだけでも明かりとしての機能を果たすのではないかというくらい、空一面に星が敷き詰められている。


ゲーム化した世界の星空というのはどこでも奇麗に見えるが、エル・アーシアの夜空というのはまた格別に壮大な景色を見せてくれているように思えた。どこまでも広い大地とそれを覆いつくすような深い空がそう思わせるのだろうか。


とはいえ、何回も見ている星空の景色にそこまで感動することもなく、むしろ、真達は買ったばかりのテントの方に感動をしていた。


「テントいいわねーっ! テンション上がるわよねー!」


テントから身体の半分を出しながら翼がはしゃいでいる。ただの布と骨組みだけのテントだが、それでも新しく導入した物を使うというのは気分が高揚する。


「うん、薪もあるし、キャンプって雰囲気出てるよね」


翼ほどではないが美月も高揚した声で応えた。目の前にはパチパチと静かに火の粉を舞い上がらせながら、薪が燃えている。その周りを囲むようにして夕食を食べていた。


「たしかに、バーベキューセットとかない分、逆に本格的なキャンプしてるみたいだな」


真は買いだめした干し肉を齧りながら燃える薪を見ていた。


「形だけ見たらそうですよね……なんかちぐはぐな感じがしますけども……」


彩音としても便利なのことは歓迎したいが、違和感があるのは否めなかった。現実の文明が使えないという不便さがある反面、ゲーム化した世界なりの便利さというものがある。今の状況もその一つで、ゲーム化した世界のアイテムなので、火打石と薪だけで火を確保できている。しかも、ゲームと同様にアイテム欄に収納できるため、荷物としての質量はゼロだ。文明の力に頼らず本格的なキャンプをしているように見えて、実はすごく楽をしている。


「何事も形からよ」


「そういうものなの?」


上機嫌に言っている翼に、美月が疑問符を投げかける。確かに今のキャンプの見た目は良いということは美月も思っている。


「まぁ、この前は形すらなかったからな俺達……」


「そっか……そうよね、あの時の野宿に比べたら形があるだけでも進歩なのよね……」


美月は感慨深く呟いた。今までのエル・アーシアでの野宿を考えれば、革命的と言ってもいいくらいの状態である。そういうことであれば確かに形からというのも一理あるように思えた。



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