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禍根

巨人の石像が自爆したことにより、怒号のような爆風を背中からまともに受けた真は北風に吹かれた落ち葉のように吹き飛ばされていた。


「っつう……っ!?」


石室の奥まで飛んで壁に激突したところで、真が止まった。それなりの広さがあるとはいえ、密室で自爆されることに戦慄を隠しきれない。そこでハッとなって真が叫び声を上げる。


「大丈夫かっ!?」


巨人の石像が自爆をした場所は石室の中央よりも奥に寄っていた。真は巨人の石像が石室の奥の方へ向くように位置取りをして戦っていたため、逃げる方向も石室の奥になった。当然、逃げられる距離は短いため、真が一番被害を受けることになる。


「コホッ……だ、大丈……大丈夫よ……」


咳き込みながらも、美月が反対側から声を上げる。後衛職が多いパーティーであったことが幸いして大して被害は受けていないようだった。


「ぼ、僕は……あまり大丈夫じゃないけどね……」


仰向けに横たわる小林が痛々しい声を上げた。ダークナイトは前衛職。真と同様に巨人の石像とは近距離で戦っていたため、後衛職に比べて受ける被害が大きい。それでも真に比べたら軽微なものだろう。


「あ、あああーっ!? すみません、すぐ回復しますから!」


石の床に大の字で転がっている小林を見つけて、美月は慌てて回復スキルを使用した。


「真田さん、慌てなくても大丈夫よ。まだ余裕あるみたいだし」


美月の後から小林に回復スキルをかけて園部が嘆息する。ちゃんと逃げることができているし、そもそもダークナイトはそんなに軟ではない。それに軽口を叩くことができているならなおさら心配することはない。


「えっ……あ、はい……」


美月がどう答えていいか分からないような顔で返事をしている。まぁ、園部が言う通り小林は大丈夫そうにしているようではあった。


「汝ラ 試練 ヲ 越エシ 者ヨ 神ヘ ノ 謁見 資格ヲ 持ツ ト 認ム」


低く重い声が響いた。今までよりも一番はっきりと、そして祭壇に鎮座する蛇の像から聞こえてくることもはっきりと分かった。


声を聞いた全員が蛇の像へと目を向ける。数秒の後にやってくる視界の暗転。静寂とともに訪れる闇を平静に向かい受ける。


何も見えなくなるのはほんのわずかな時間。そのわずかな時間で全員が別の部屋へ転送される。すぐさま視界が回復すると立っている場所は今までとは違い、円筒形の広い部屋の中だった。


円筒形の部屋も壁や床は石でできている。数本の松明が灯されているだけで薄暗いことも今までと変わりはない。広さはさっきの部屋よりも少し狭いくらいか。だが、天井の高さが尋常ではない。見上げても途中で闇に吸い込まれてどこまでの高さがあるのか見ることができない。


そして、この部屋の奥には祭壇があり、黒い法衣を纏う年老いた男と中空に浮いて横たわる美しい金髪のエルフの女性が見えた。エルフの女性は目を閉じ、意識がないようだった。


「……来たか」


奥の祭壇で祈りを捧げている老人がしゃがれた声で話しかけてきた。


老人はすっと振り返りこちらを睨み付ける。身に着けて法衣に派手さはないが、細かな刺繍が施されており、主張し過ぎることのない意匠は身に着けている者の品格を感じさせてくれる。


老人の長い髪の毛は白く染まっており、髭も真っ白である。その毛の色とは対照的に肌の色は褐色。尖った耳も褐色の色をしたエルフの司祭。


「お前がダークエルフだな!」


一歩前に出た小林が声を上げる。褐色肌のエルフが目の前にいる。その背後には眠っているエルフの娘。エルフの長老が言っていた、ダークエルフと攫われた巫女だろう。


「ふっ、貴様は何も分かっていない……だから、あのエルフどもに騙されるのだ!」


下賤の者を見るかのようにダークエルフの司祭が答える。愚か者を見る目、憐れみも含んでいるだろうかそんな目をしている。


「どういうことだ……?」


真が驚きを含んだ声で質問を投げかける。騙されるとは一体どういうことなのか。


「そこの男は儂のことをダークエルフと言った。それは違う。儂はダークエルフではない」


小林に対する反応とは違い、落ち着きのある声が返ってきた。どうやらこのエルフも人の見た目で対応を変えているようだ。真が訝し気な顔をしていると、ダークエルフではないと言う褐色の司祭が続きを話始めた。


「我らはアースエルフだ。ダークエルフとはエアエルフどもが我らを蔑んだ呼び方をしているだけだ」


褐色の司祭は自らをアースエルフと呼んだ。エアエルフというのは肌の白いエルフのことだろう。そのエアエルフが差別的な意味を込めてアースエルフのことをダークエルフと呼んでいるのだ。


「どうして? どうしてなんですか!? あなた達には何があるんですか?」


美月が声を上げた。ダークエルフと呼ばれたエルフは私利私欲のために自分たちの邪神を復活させようとしているのではないのか。


「娘よ聞きたいのであればいいだろう、聞かせてやろう……。我らの住む大地、エル・アーシアという名は元々、古代エルフ族の言葉だ。‟エル”とは‟我らの”、‟アーシア”とは‟大地”という意味を持つ。つまり、エル・アーシアとは『我らの大地』という意味なのだ」


「我らの大地……」


「そう、エルと言う言葉がエルフ族という名の由来となっておる。大地を司る褐色の肌をしたアースエルフと空を司る白い肌をしたエアエルフのな。互いの種族は干渉しあうことなく、それぞれの役割を果たしていた。だが、次第にエアエルフどもがアースエルフに対して侮蔑するようになり、エル・アーシアの正当な支配者であるということを主張し始めた。もう2000年も前の話だがな……」


長命のエルフ族にとって2000年という時間はどれほどのものなのだろうか。人間の尺度で測ることはできないにしろ、その禍根は未だに残っているのだろう。


「そして、争いが起こった。結果は数に勝エアエルフどもが勝利し、我らアースエルフは故郷の大地を追われることになったがな……」


「だから、自分たちの故郷を取り戻すために神殿に祀られている神を復活させようとしている……」


真がアースエルフの司祭の言葉に続いた。


「ああ、そうだ。この大地は‟我ら”のもの! 我らアースエルフの大地! 不当に迫害された我らアースエルフの同胞が眠る地でもある! 我らの神『ミーナス』を復活させ、エアエルフどもを駆逐し、故郷を取り戻す!」


「ちょっと待って! それじゃあ、エアエルフがやったことと同じことじゃない!」


話を聞いていた翼が大声を張り上げた。最初はこのアースエルフの話しに同情した。素直に可哀そうだと思った。だが、やろうとしていることは、エアエルフの巫女を生贄にして、自分たちの神を復活させてエアエルフ族を殺すこと。要するに神を殺戮兵器として利用しようとしているということだ。


「小娘には分かるまい! この2000年の間、同胞がどうやって生きていたのか。汚泥を啜り、石にかじりついて飢えを凌ぐ。エルフという種族が大地を追われることの意味を知らぬ者には分からぬことだ! これは復讐だ! 忌々しいエアエルフどもの傲慢に踏みにじられてきた我らが同胞への復讐だ! そして、今一度豊かな大地に帰る、我らの悲願だ!」


アースエルフの司祭は叫ぶようにして声を上げた。奪われた故郷を取り戻す。そして、憎き怨敵に同じ目を合わせてやるという執念。その悲痛な叫びが円筒形の石室に響き渡った。そして、アースエルフの司祭は両手を上げて何やら呪文のようなものを唱え始めた。


「まずいっ!!!」


真は咄嗟に大剣を抜き、アースエルフの司祭へと駆け寄る。


「もう遅いわっ!!! 我らの大地エル・アーシアに救済の光を!!!」


アースエルフの司祭は喉を引き裂かんばかりの叫びを上げると、光に包まれた。光は掲げられた両手の上に収束すると祭壇に眠るエアエルフの巫女の中へと吸い込まれていった。


光が消えるとともにアースエルフの司祭の目からも光が失われ、全ての生気が抜け落ちてその場に崩れるようにして息を引き取った。


「くそっ! 遅かった……!」


もうあと一歩のところで真の手は届かなかった。目の前には泥人形のように崩れたアースエルフの司祭とその後ろに立っているエアエルフの巫女。


いつの間にか祭壇から立ち上がっていたエアエルフの巫女の姿は素直に美しかった。長く奇麗な金色の髪に白く透き通った肌。長くとがった耳と人形のように不自然に整った顔立ち。薄いローブを纏ったその立ち姿はまさにギリシャ神話に出てくる女神のように神々しい姿だった。


そう、閉じられたその目が開くまでは……。





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