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神殿を探して Ⅱ

        1



「どうしたんだ?」


渓谷の底を見つめて何やら話をしていた真と翼に小林が声をかけた。他の皆も様子が気になり、崖の近くまで来ている。


「あれを」


真が指さす方向に皆が目を向け、渓谷の底を覗き込んだ。高所恐怖症の彩音は恐る恐るで腰が引けていたが、這いつくばるようにして高い崖の下を見る。


「あ、あれって、地下鉄の路線ですよね。だったら、現実世界から迂回してくればここに来れますよね」


「でも、あの路線がどこに繋がってるかなんて分かるの?」


彩音が言った言葉に翼が疑問を挟んだ。地下鉄の線路を見つけたのは翼だが、どこから入れば見えている路線に繋がっているのかはさっぱり分からない。通学のために電車を使っているが、この路線ではない。


「たぶん……たぶんだけど、分かるよ」


地図を見ながらじっと考えていた小林が声を上げる。何か思い当たる節があるようだ。


「えっ!? 分かるんですか!?」


「うん、こう見えて鉄道は好きでね。通勤も電車だし、仕事でも電車移動が多いからね。この辺りまでならある程度路線は把握しているよ」


「小林さん凄いですね! こんなところの路線まで分かるんですか!」


美月が感心したような声を上げる。エル・アーシアの地図と照らし合わせただけで、どこの路線のものかを特定できるという。これには美月だけでなく他の皆も注目していた。


「いやぁ、大したことはないよ。休みの日も電車に乗って色々なところに行ったりしてるからね。電車ってね、各路線は別々の会社が運営しているんだけど、どこかで繋がっているんだよ。凄いよね、会社は違っても人と人との繋がりは線路を通じてどこまでも続くんだ。だから、行こうと思えばローカル線だけを使って遠くまで旅行もできたりするんだよね。時間はかかるけど、新幹線を使わなくても安くで行けるんだよ。路線図を見ながら、どこでどの路線に乗り換えて行くとか考えるだけでも楽しくてね。旅行の行先よりも電車に乗っている時間の方が楽しいかもってくらい――」


「小林さん、小林さん……。それくらいにしておいた方が……」


美少女に褒められて意気揚々と鉄道について語る小林に木村が声をかける。


「ん? ……あぁ。そうだね……。いや、なんていうか、久しぶりに鉄道の話ができたから……」


少し残念そうな顔をしたが、これ以上は周りが引くだけだろう。分かってほしいことではあるが、理解者というのはなかなか得難いものだ。


「よし、大体の場所は分かる。すぐに行こう!」


気を取り直した小林が一同に声をかけた。まだ時間はある。場所もおおよその検討が付いている。



        2



「すまない……ここまでは想定していなかった……」


エル・アーシアにあるウル・スラン神殿の場所を把握してから、現実世界に戻ったころには夜になっていた。真達はファーストフード店のソファーを使って一晩過ごし、朝からエル・アーシアへと続く地下鉄の路線へと向かった。


小林が当たりを付けた場所で、現実世界とエル・アーシアの境界線に一番近い地下鉄の駅。そこにたどり着くことはできなかった。ゲーム化の浸食を受けた世界は行ける範囲が限られている。バージョンアップで行ける地域が増えているとはいえ、封鎖されて行けない場所が多いことには変わりない。小林が言う駅が封鎖されていなければ、おそらくエル・アーシアへと続き、ウル・スラン神殿の入口に行ける地下鉄の路線に繋がっていただろう。


一番近いであろう場所がダメなら、二番目に近い場所、三番目に近い場所と探していったが、どれも封鎖されていて地下鉄の駅がある周辺にも辿りつけない。そして、現実世界が終わり、ゲーム化した地域に戻ってきて、小林が謝罪の言葉を口にした。


「いや、小林さんのせいじゃ……」


現実世界で封鎖されている地域を細かく把握している者はいないだろう。地図が出回っているわけでもない。行ってみたら封鎖されていたというのはよくあることだ。だから、真が入れたフォローの言葉もよくわかるが、誰しものが顔を曇らせていた。すでにミッションを受けてから三日以上が経過している。ここでの時間のロスは正直辛かった。


「それじゃあ、一体どこから入ったら……」


彩音が泣きそうな声を出した。ここで泣き言を言ってはいけないことくらいは理解できている。しかし、漏れてしまう。


「鍾乳洞……」


「鍾乳洞って、確か大きなムカデが出るとかなんとかっていうところだよね? 僕たちは行ったことないからよく分からないけど……」


美月の呟きに木村が反応を示す。一時期鍾乳洞が話題になったことがある。方解石を落とすモンスターがいて金になると。だが、鍾乳洞を徘徊する大ムカデが強敵でしっかり人数と装備を整えていかないと危ないという話だった。だから、三人で狩りをしている小林達が鍾乳洞に行くことはなかった。


「あるんです! 地下鉄の駅が。鍾乳洞の奥に地下鉄の駅があるんです!」


「まじか!? それだよ! そこから行くんだよ!」


「待って……。本当にそこから神殿に行くことができるの? 別の場所に出たら、もう時間は無くなるわよ……」


鍾乳洞に行ったことがない園部だが、場所は知っていた。ギルドに入っている知り合いから聞いたことがあるだけで、おおよその地域だけしか知らないが、今から向かって地下鉄を通ってエル・アーシアに着いたところで、睡眠時間も入れると残り1日といったところか。もし見当違いのところに出てしまったら、戻って探して移動してミッションまでクリアする時間はほぼ絶望的だろう。


「それは……」


「ごめん……責めてるわけじゃないの……」


「いや、行ってみれば分かるかもしれない。確かにあの辺りは複数の路線が交差している地域だ。だけど、駅の中に何線なのか掲示物があるはずだ。それを見れば分かる」


小林の言うことはその通りだった。だが、小林も鍾乳洞に行ったことがない。だから知らないのだ。


「分からない……かもしれません……。鍾乳洞の奥にある駅は、壁や天井が鍾乳洞に覆われていて、駅の部分は地面だけなんです……だから、掲示物も……」


美月は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。鍾乳洞の奥にある地下鉄の駅は半分現実世界で半分はゲーム化した世界。鍾乳洞の中に地下鉄の駅を作ったような場所で、壁や天井の掲示物は鍾乳洞に浸食されている。


「行ってみよう」


迷いのない真の声に誰もが驚いたような顔をした。ここで間違えれば本当に取り返しのつかない事態になりかねないのだが、真は話を続けた。


「直接地下鉄の駅に向かう入口を探しても封鎖されているんだ。探せるところは探したけどなかった。だったら、別の入口があるはずなんだ。それが鍾乳洞なんだと思う。勘だけど、それに賭ける他ないよ」


皆が沈黙して考える。他に案は出てこない。時間の余裕もあるわけではない。これを外したら後がないことも分かっている。


「私も……それしかないと思う。地下鉄に行けるのは確かなんだし、迷ってる時間はないわ」


「私も乗ったわ! なんていうか直感でそれが正解だって思うわけよ」


美月と翼が追従する。翼に至ってはまるで勘だが、美月の言う理屈には一定の説得力があった。実際に地下鉄に繋がっている場所がある。そして、そこには行くことができる。


「分かった……僕もその案に乗ろう。園部さんも木村君もいいね?」


反論はなかった。他に代案はない。だったら行くしかない。もっとも可能性があるところに賭けるしかない。



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