最後の戦い Ⅴ
「お待たせしたかしらね。これが調律者の真の姿よ!」
ラーゼ・ヴァールが手にした光の大鎌を大きく振ると、その形状を剣へと変化させた。光り輝く一振りの剣だ。
「こんなの知らねえぞ……」
真の額から一筋の汗が流れた。ここからは未知の領域。ほぼ全ての攻撃は、当たれば致命傷若しくは即死だろう。それを初見で対応しないといけない。
ゲームなら死に覚えればいいこと。何度も何度も同じ攻撃を喰らっては死に、喰らっては死ぬを繰り返して上達していく。
真はそうやって、ゲームでのラーゼ・ヴァールを倒した。
だが、これはゲームであって、ゲームではない。その死は現実の死と同義。
「それじゃあ、行くわよ」
ラーゼ・ヴァールは左手を突き出すと、光の玉を出現させた。攻撃手段として用いる光弾とは違う、もっと大きな光の玉だ。
ラーゼ・ヴァールが出した光の玉は、中空に浮いたまま静止している――と思いきや、いきなりレーザーを射出してきた。
「ッ!?」
一瞬光ったと思った時、真は反射的に身を捻っていた。おかげで、不意打ちのレーザーを何とか回避することに成功。耳の横を光が通り過ぎたのが見えた。
(次が来る!)
光の玉はまだ消えずに滞空している。ということは、攻撃は止んではいないということ。
真の予想は的中し、光の玉は再度レーザーを射出してくる。それを、真は走りながら回避。
「まだまだ、これからよ!」
ラーゼ・ヴァールは、嗤いながら声を上げた。
今度は剣を天に向けて掲げると、光の剣が急激に膨張を始める。それは、見上げても剣先が見えないほどにまで伸びると、真に向けて一気に叩きつけられてきた。
光の超巨大剣は、まるで棒切れでも振るかのような速度で真に襲い掛かってくる。
「うわッ!?」
真は飛び退くようにして光の巨大剣を回避。だが、そこを狙い澄ましたかのように、光の玉からのレーザーが飛んでくる。
これを無理矢理に体を捻って回避。ほとんど倒れ込むようにして、回避を試みたため、体勢が崩れてしまっている。
そこに再び光の巨大剣が振り下ろされてくる。剣が光でできているためか、質量をまるで感じさせない動きをしている。
真は手にした大剣を盾にしながら横に飛ぶ。
だが、体勢が崩れていたこともあり、完全に回避することはできず、光の巨大剣がぶつかってしまう。
「ぐあっ!?」
大剣を盾にしていたこともあり、真の体には直撃しなかったものの。ラーゼ・ヴァールが振った光の巨大剣の衝撃は強烈で、真は無様にも転がされてしまう。
(くそっ! 早く起き上がらないと)
真は床を思いっきり突き飛ばして、体を持ち上げる。その直後、真の足元をレーザーが通過した。一瞬でも起き上がるのが遅かったら、今のレーザーが直撃しているところだった。
しかし、安心している場合ではない。ラーゼ・ヴァールの光の巨大剣は、玩具でも振るような速度で襲ってくる。
真はラーゼ・ヴァールの方に視線を向けると、振り上げた手を斜めに下ろしてくるところだった。
咄嗟に頭を下げてこれを回避。頭上を膨大な光が通り過ぎていく。
「ほら、ほら、どうしたの? 逃げてばかりじゃ話にならないわよ!」
ラーゼ・ヴァールは楽しげに剣を振り続ける。同時に光の玉からもレーザーが飛んでくる。
真としては、ラーゼ・ヴァールの剣の振りに合わせて、懐にまで潜り込みたいところだが、光の玉のレーザーが絶妙なタイミングでそれを牽制してくる。
(面倒な攻撃だけど……)
真は動じていなかった。最初は面食らった攻撃だが、真は全て回避することができている。
(これくらいなら、行けるな!)
真は光の玉のレーザーを回避してから、力いっぱい床を蹴った。そこを狙ってラーゼ・ヴァールの光の巨大剣が振り下ろされてくる。
真は体を回転させながら前に飛び込み回避。そして、着地と同時に踏み込んで――
<スラッシュ>
袈裟斬りを放つ。その斬撃はラーゼ・ヴァールを直撃。
<パワースラスト>
更に追撃の刺突がラーゼ・ヴァールの体に突き刺さる。
<ライオットバースト>
そして、突き刺さったままの大剣が光を放つと、激しい衝撃と共に炸裂する。
(ここから追い込みをかけたいところだけど……)
真は手を止めて、後ろに飛んだ。その跡をレーザーが通る。真を狙って射出された光の玉の攻撃だ。
これがあるから、深追いはできない。
「ハハハッ! 元気があって良かったわ! これくらいで死んでもらったら、面白くないものね! あなただってそうでしょ? もっと楽しみたいわよね?」
「お前と一緒にするんじゃねえよ!」
面白がるラーゼ・ヴァールの言葉には乗らず、真は突っぱねた言い方で返した。
「一緒なのよ。だって、あなた笑ってるわよ!」
ラーゼ・ヴァールが真の表情を指摘する。尋常ではない速度で振られる超巨大な剣戟に対して、真は恐怖するどころか、笑いながら避けていた。
「だから、お前と一緒にするんじゃねえよ! 狂人が!」
真は確かに心が躍動していた。ラーゼ・ヴァールが未知の領域からの攻撃を仕掛けてくると考えただけでも、鳥肌が立つほど楽しい。
だけど、人の命を弄ぶような奴とは違う。戦い自体を楽しんでいるわけではない。世界を元に戻すという目的のために、頼れる相棒を開放して、一緒に戦っているのだ。
「ふふ、その減らず口がいつまで聞けるのか見ものね!」
「お前の下品な声はもう聞きたくないんだけどな!」
「ははは! 言うじゃないのよ! だったら、止めてみなさいな!」
ラーゼ・ヴァールの体全体が激しく光りだした。そして、閉じ込めれていた力が一気に解き放たれるようにして、無数のレーザーを放出した。
「セ、セラフィックレイッ!?」
それは、真もよく知る攻撃だ。ラーゼ・ヴァールの羽が6枚の時に使用してくる、もっとも危険な攻撃。
数えきれないほどのレーザーが雨のように降り注いでくる。一発でも当たれば致命傷。二発喰らえば死亡。
だから、兎に角当たらないように逃げ回らないといけない。
ただ、それはラーゼ・ヴァールの形態が前の一段階下だった時のこと。今はさらに上をいく攻撃をしてくる。
そう、同時に光の巨大剣が振り下ろされてくるのだ。
(チッ! 光の玉も、止まってはいないのかよ……)
追い打ちをかけるようにして、光の玉も真を狙ってレーザーを射出してくる。ランダムにまき散らされるセラフィックレイと、的確に真を狙ってくる光の玉。
二種類のレーザーを避けながら、ラーゼ・ヴァールが振ってくる光の巨大剣も避けないといけない。
最早、人間が対処できる領域ではなかった。
「どう? 楽しいでしょ? ねえ、楽しいんでしょ?」
降り注ぐレーザーの雨の中、ラーゼ・ヴァールは笑いながら剣を振って来る。
「…………」
真は何も答えられないまま、只管ラーゼ・ヴァールの攻撃を避ける。
「どうしたのよ? あなたの減らず口がいつまで聞けるのか楽しみにしてるのよ? さっきみたいに、吠えてみなさいよ!」
ラーゼ・ヴァールの攻撃は執拗なまでに続いている。
「…………」
真はラーゼ・ヴァールの挑発に対しても何も返すことができないでいる。
ただでさえ、セラフィックレイを全て回避することは困難を極める。ゲームで戦っていた時もそうだった。何度も何度もセラフィックレイを喰らっては倒れての繰り返し。どれだけ慣れたメンバーで挑んでも、セラフィックレイを喰らって死ぬ仲間がいたくらいだ。
それでも、永遠にレーザーが降り注ぐことはない。セラフィックレイの攻撃もいずれ止まる。
「ふふふ、よく生きていられるわね。感心したわ」
真は全ての攻撃を回避して、ラーゼ・ヴァールの前に立っていた。
「……舐めるんじゃねえよ! お前の攻撃なんぞに当たって堪るか……!」
肩で息をしながら真が言う。何とか回避しきって見せたものの、正直言ってかなり厳しかった。
「そうそう、そうやって、減らず口を叩いてもらわないとね。潰す方としては楽しくないのよ」
顔のないラーゼ・ヴァールが笑う。目も口もない鏡面状の顔だが、真にははっきりと見えた。ラーゼ・ヴァールは笑っていると。人を蔑む嫌な笑いだ。人の命など、紙屑と同じにしか考えていないような、そんな下卑たる笑い。
「しゃべるな……。虫唾が走る!」
真が大剣を強く握り直して、キッとラーゼ・ヴァールを睨んだ。
「そんなことしか言えないの? もう余裕は感じられないわよ」
「しゃべるなって言ってんだよ……!」
真は負けじと言い返す。だが……。
「ふふふ、噛みついてくるのもいいけど、どうしたの? 笑みが消えてるわよ?」
ラーゼ・ヴァールは真を見下すようにして言った。それは、真の顔から完全に笑みが消えてしまっているから。
「チッ……」
真が思わず舌打ちをしてしまう。それは、真も感じていたことだ。セラフィックレイと光の巨大剣による猛攻を受ける中、戦いの高揚が消えてしまっていた。




