最後の戦い Ⅲ
「さぁて、それじゃあ、行くわよ!」
光の槍を手にしたラーゼ・ヴァールが、勢いよく飛び出してきた。それは、まるで巨大な弾丸だった。真との距離を瞬く間に詰めて、ラーゼ・ヴァールが横薙ぎに光の槍を振る。
真はそれを後ろ飛びに回避。相手の動きをよく見て避けることができている。
(思ってたより速いな。それに……)
ラーゼ・ヴァールは続けて突きを放ってきた。
真は高速の突きをギリギリの所で回避するも、ラーゼ・ヴァールは連続で槍を突いてくる。しかも、ただ真直ぐ槍を突きだしてくるのではない。真が避ける方を予測して、先回りしているかのように突きを繰り出してきている。
(他の天使みたいに機械的な動きじゃない……。こいつ、戦い慣れてる……)
正確無比な天使の攻撃は、逆に攻撃が読みやすかった。だが、ラーゼ・ヴァールはフェイントを交えて巧みに突きを繰り出してきている。
浄罪の聖人として、数多の敵を葬って来た戦いの経験が染みついているのだろう。イルミナ・ワーロックはサマナーだが、武器の扱いにも長けているようだ。
二撃、三撃だけならいざ知らず、連続で繰り出されてくるラーゼ・ヴァールの槍を全て回避し続けることは困難を極める。
ただでさえ、大型の天使であるラーゼ・ヴァールとはリーチに差がある。そこに槍のリーチが加わるため、更に戦いは難しいものになる。
(それでも……!)
飛んでくる槍を前に出ながら避けていき、真は徐々にラーゼ・ヴァールとの距離を詰めていった。
(捕えてた!)
とうとう、真の間合いまで距離を詰めると、一歩踏み出して大剣を振りかぶる。
<スラッ――
あと少しで手が届くというところで、真が急ブレーキをかけた。
一瞬の間を置いて、真の目の前を光の輪が通り過ぎる。外周を回っていた光のチャクラムだ。その一つが、突然真目掛けて飛んできたのだ。
「偉いわねー。忘れてなかったのね」
ラーゼ・ヴァールは面白がるように言いながらも、槍を真に叩きつけて来た。
真は横跳びに回避すると、またもやラーゼ・ヴァールとの距離が開いてしまった。
(やっぱり、あのチャクラムは厄介だな……)
ここぞとう所で、チャクラムの邪魔が入る。そうなると、避け続ける他ないのだが、攻撃をしないことには勝つことはできない。
「ご褒美にもう一個増やしましょうか」
ラーゼ・ヴァールは楽し気に言うと、左手を掲げ、光を集めだした。収束した光は輪の形を作り、チャクラムとなって、外周へ飛び出していった。
これで、外周を回っているチャクラムは合計3個。真は更に動きが制限されることになる。
「それじゃあ、戦いを再開するわよ!」
ラーゼ・ヴァールは再び槍を構えて突撃してきた。体ごと突き出すようにして、槍を繰り出してくる。
単純な攻撃だが、その分速い。当たれば致命傷になりかねない攻撃だ。
真は半身になって攻撃を回避。続くラーゼ・ヴァールの攻撃も、大剣を盾にしながら受け流していく。
ギリギリのところで回避と受け流しを繰り返しながら、少しずつラーゼ・ヴァールに近づいていく。
そして、距離が詰まってくると、今度は真へ有利な方へと傾いてくる。槍のリーチは長いが、接近戦となると、その強みを活かせない。
どうしても槍を短く持って、対応せざるを得なくなる。そうなると、リーチの差というアドバンテージは失われ、互角の間合いでの勝負となる。
ここで、技量の差が現れた。
浄罪の聖人として幾多の戦場を駆け抜けてきたであろうが、本職はサマナーだ。つまりは、術者。武器を持って近接戦闘をすることが本業ではない。
類稀なるバトルセンスで戦っているに過ぎない。そして、そのセンスなら真の方が上だ。
真はラーゼ・ヴァールを間合いに入れると、一歩踏み込んで大剣を振り上げた。
<スラッ――
そこに、再び光のチャクラムが飛んでくる。真はスキルの発動を中止すると、真の目の前をチャクラムが通り過ぎて行った。
そして、もう一度、真は大剣を構――頭を下げた。
直後、真の頭上をチャクラムが通り過ぎる。
「へえ、やるじゃないのよ。よく見てるわね」
ラーゼ・ヴァールはそう言いながら、真の足元を狙って槍を払った。
それに対して、真は槍が飛んでくる方向へ向かって跳躍。足元を光の槍が通過するのと同時に、真の脇をチャクラムが飛んで行った。
ラーゼ・ヴァールの狙いは、真を垂直方向若しくは後方へ飛ばせることだった。そこに斜め上から飛んできたチャクラムが真へ直撃するという計算だった。
ラーゼ・ヴァールの足払いを上に飛んでも、後ろに飛んでもチャクラムに当たる。これを真が予測して、横に飛んで回避したということだ。
<スラッシュ>
今度こそ、真は踏み込みからの袈裟斬りを入れた。
<パワースラスト>
間髪入れずに真が大剣を突き出す。
「くっ……!?」
思わずラーゼ・ヴァールから苦悶の声が漏れてきた。3発目のチャクラムまで避けられるとは思ってもいなかったことだ。
イルミナ・ワーロックの記憶の中にも、これほどの武芸者はいなかった。あのヴァリア帝国で剣聖と呼ばれた男でさえ、ここまでできるか怪しい。
それを、どう見ても10代の少女がやってのけたのだ。しかも、手痛い反撃まで付いて来ている。
<ライオットバースト>
真は突き刺したままの大剣からスキルを発動させた。剣全体から光が放たれると、膨大なエネルギーが炸裂した。
体内で暴れまわるエネルギーの奔流に、ラーゼ・ヴァールは後退を選択し、後ろへと飛んだ。
「逃がさねえよ!」
だが、真は同じ距離だけ詰めてきた。結果、真とラーゼ・ヴァールの間合いは変わらない。真は自分のテリトリーでの戦いを強要する。
<スラッシュ>
真は詰めた距離から袈裟斬りを放った。
対するラーゼ・ヴァールは、短く持った槍を半回転させて真の斬撃を払う。
<フラッシュブレード>
弾かれた大剣を戻し、真が横薙ぎに一閃。瞬くような斬撃がラーゼ・ヴァールに斬りかかる。
ガキンッ! と金属音が響いた。ラーゼ・ヴァールが真の大剣を受け止めた音だ。真の大剣とラーゼ・ヴァールの槍がギリギリと押し合う。
体格差でいえば、断然ラーゼ・ヴァールの方が大きい。それでも、真は負けじと踏ん張っている。
双方、互角の競り合いに見えたが、退いたのは真の方だった。
死角からチャクラムが飛んできたからだ。飛来したチャクラムを後方に飛び退いて躱すも、2つ目、3つ目のチャクラムが連続して飛来。
真は更に後方へと下がることを余儀なくされてしまう。
一旦詰めた距離だが、再びラーゼ・ヴァールの間合いに戻ってしまった。
「流石、一人で来ただけのことはあるわね。でも、まだ本気は出してないでしょ?」
真の連続攻撃を受けたラーゼ・ヴァールだが、その声にはまだ余裕が感じられる。
「どうして、俺がまだ本気を出してないって思うんだ?」
「イルミナ・ワーロックが見てたのよ。あなたとディルフォールが戦うところをね。あの時の戦い方は、今ほど大人しくなかったわよ?」
「ああ、そうか……。たしか、あの後、出て来たな……。よく考えたら、イルミナが近くで見ていたってことだ。それなら、ディルフォールを助けに来なったことに疑問を持つべきだったな……」
真がシン・ラースで、深淵の龍帝ディルフォールを倒した後のことだった。生前のイルミナ・ワーロックが拍手しながら現れた。真がディルフォールを倒したことを苛立ちながら称賛していたのだ。
その後、すぐにイルミナと戦闘になったのだが、その前の戦いを見ていたのなら、イルミナがディルフォールに加勢するのが普通だ。だが、そこに疑問を抱かなかった。
真はゲームとして、ボスとの連続戦闘になるという風にしか思っていなかった。ただのゲーム側の演出だと認識していた。
なら、他の人はどうか。あの場にいたのは総志や姫子、美月達の他、巨大なドラゴンとの死闘の果てに生き残った人達だ。イルミナの行動に疑問を抱けるような余裕はなかっただろう。
「まあ、イルミナ・ワーロックの演技力が素晴らしかったということよ。まんまとあなたを騙せたのだから」
イルミナの目的は、ディルフォールだけでなく、自身も調律者ラーゼ・ヴァールの生贄となること。そのために、戦いという行為を儀式として利用し、真にイルミナを斬らせた。
「別にイルミナを斬ったことを後悔はしてないさ」
結局、イルミナが生贄になることもゲームの進行として必要な手順。調律者ラーゼ・ヴァールと戦うためのプロセスに過ぎない。
「へえ……。負け惜しみというわけでもなさそうね……。それとも、ただの戦闘狂なのかしら? 私と戦えれば、それでいいと思ってるかしらね? それなら、もっと本気を出してほしいところだけど」
ラーゼ・ヴァールは値踏みするような声で言った。顔がないにしても、その声は表情豊かだ。
「お前が本気を出してないのに、俺が本気で戦うと思ってるのか?」
真はゲームで調律者ラーゼ・ヴァールと戦っている。だから、その実力も嫌というほど理解していた。今のラーゼ・ヴァールの羽の枚数は4枚。ゲームでは6枚まで増える。そして、ラーゼ・ヴァールの羽が6枚になった時こそ本番。本当の戦いが始まる。
「ふふふ、まさかそこまでお見通しとはね……。まったく恐れ入るわ……。ほんとムカつく小娘ね! 私のペットになって、悲鳴を上げていればいいものを! それなら、更に一段階上げましょうか!」
ラーゼ・ヴァールは苛立ち交じりに叫ぶと、手にした光の槍を掲げた。
槍が一層強く光りを放つと、外周を飛んでいたチャクラムもラーゼ・ヴァールの手元に戻る。そして、光の槍に吸収されると、その姿を変形させた。
槍の柄の部分はそのままに、刃が大きく湾曲し、光の大鎌が形成される。
同時に背中の黒羽にも変化が起こった。4枚だった黒羽がさらに2枚増え、合計6枚の黒羽になる。
真がゲーム中で最も苦しめられた、通称『6枚モード』という、調律者ラーゼ・ヴァールの最終形態へと移行した。




