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最後の戦い Ⅰ

        1



草木も眠る深夜。美月達に見遅れらた真は、王城前広場の入り口まで来ていた。


広い王城前広場だ、振り返っても美月達の姿を確認することはできない。


「ここまで来たら大丈夫だろう……」


真は遠くにある王城と、ホテル『シャリオン』を眺めながら呟いた。返って来る返事は夜風だけ。とても静かな夜だ。


「管理者……いるか?」


誰もいない夜道に向かって、真が呼びかけた。


「もう、いいのか?」


返事は真の後ろから返って来た。いつもの権高な口調が、どこか柔らかさを感じる。


「ああ、話はしてきた。もう十分だ……」


真が振り返ると、そこには10歳くらいの少女がいた。血のように濃い長髪と、恐ろしく綺麗な顔立ち。真の呼びかけに応えて、管理者が姿を現した。


「お前に悔いが残っていないのなら、それでいい」


「微塵も悔いがないって言ったら、嘘になるけどな……。ただ、これで十分だ。俺は俺のやることをやる」


「一人前のことを言うようになったものだ」


管理者は微かに笑った。


「これ以上時間をもらう訳にもいかないしな……」


真も少しだけ笑って返した。だが、覚悟は決まった顔をしている。


「そうか、それなら何も言うことはない。テレポートさせていいのだな?」


「構わない。送ってくれ」


真は即答した。やれることはやったし、最後に美月達とも話ができた。後は最後のミッションをクリアするだけ。


「いいだろう。お前にしてやれる、せめてもの贈り物だ。受け取れ」


管理者は、右手てを突き出して真に向ける。同時に、真の足元から青白い光が湧きあがってきた。


その光は、瞬時に魔法陣を描くと、一瞬強く光って弾け飛んだ。



        2



真の視界がホワイトアウトしたと思った矢先、数秒もしないうちに、周りの景色が見えてきた。


目の前には、雷鳴が響く分厚い雲の下、天をも突き抜けるような巨大な塔が立っている。


「ほんと、一瞬だな。最初から、自由にテレポートさせてくれよ……。ゲームなんだからさ……」


真が愚痴を溢すも誰も応えてはくれない。それもそのはず、ここはシン・ラース。死の大地と呼ばれる不毛の地だ。


溶岩が固まってできた大地には、所々で硫黄のガスが噴き出している。満天の星空だった王都グランエンドとは打って変わって、常にどこかで雷が落ちる。


「行くか……」


真は独り言ちると、ゴツゴツとした岩肌の大地を進む。目線の先にある神々の塔の入り口に向かって、踏みしめるようにして死の大地を歩く。


ほどなくして、真が神々の塔の入口へと到着した。


入り口といっても、扉のような物は見当たらない。あるのは、巨大なアーチ状の窪み。高さは10メートルくらいだろうか。丁度、扉のようなシルエットをしている。


「ここは、世界を制御する意志である。万物の統制を図る器である。因果を束ねる法則である。其の方、新たなる摂理を創造せんと欲すれば、その力を示せ」


突然、神々の塔から声が聞こえてきた。感情のない声だが、どこか傲慢な感じがする。


【『天使の心臓』100個を捧げますか? ➡ はい ・ いいえ】


真の頭の中に声が響いた。真は迷わず、『はい』を選択。


【『大天使の心臓』1個を捧げますか? ➡ はい ・ いいえ】


続けて、頭の中に声が響く。これも、真は迷わず『はい』を選択した。


「よかろう。其の方は力を示した。これより、創世への扉を開く」


再び、神々の塔から声がすると、ズズズッという音を鳴らしながら、塔の入り口にある窪みが、上へとスライドしていった。


真は躊躇することなく、開かれた扉から塔の中へと入っていく。


塔の中は、天井のない円形の部屋があるだけ。それ以外は何もない。白い床には紋様が入っているが、何の模様なのかは不明。壁は白一色。石材などの繋ぎ目は一切ないどころか、凹凸すらない。光沢のある白壁があるだけ。


「これは、ゲームと同じなんだな……」


真は周りの様子など気にする様子もなく、円形の部屋の中心に向かって行く。ふと上を見てみるが、頂上は見えない。ただ、果てしなく上に伸びていく塔の内壁があるだけ。


丁度、中央に真が立った時だった。床の紋様が黄色く光りを放つと、急に上昇し始めた。


それは、巨大なエレベーターだった。真が定位置に付いたことによって、起動したエレベーター。それが、高速で神々の塔を上っていく。


白壁には凹凸も繋ぎ目もないため、分かりにくいが、かなりの速度が出ているようだった。


「ゲームだと、移動ムービーはスキップできるんだけどな……」


すぐに止まるだろうと思っていた真だが、予想に反してエレベーターはまだ止まっていない。かれこれ数分は上り続けているだろうか。


「外から見た神々の塔の高さを考えると、まだ着かないっていうのも分かるんだけさぁ……」


現実世界に浸食してきたゲームは、いちいち移動が長い。徒歩で移動させられることが多いせいもあるが、馬車を使っても2~3日の旅程になることもある。


ゲームなのに、そういうところは妙にリアルにしている。真からしてみれば、ゲームには不要な要素でしかない。


「それにしても、長いな……」


さらに数分が経過しているが、エレベーターは一向に止まる気配がない。白い壁に囲まれているため、外の景色を見ることもできない。上を見ても天井すら見えてこない。


今、真がどれくらいの高さまで上って来たのかも分からない。


そこから、10数分経過した時だった。


ようやくエレベーターが止まった。辿り着いたのは、更に広い部屋。乗って来たエレベーターは部屋の床と完全に一体化している。


この部屋も円形をしているが、壁はない。代わりにあるのは白い石柱だ。神殿の柱のような物が12本並んでいる。


そして、外は宇宙空間。石柱の先に支えるべき天井はなく、無数の星々と星雲が広がっている。


「ここも、ゲームと同じか……。この光景は嫌というほど見たな……」


真が周囲を見渡しながら呟いた。ゲーム『World in birth Online』で、真が一番苦戦した敵、調律者ラーゼ・ヴァールとの決戦の場。それが完全に再現されている。


ここは、宇宙空間に浮いた円形の神殿といったところか。天井がないので、神殿というには少し違うかもしれないが、神秘的な雰囲気から神殿というのが一番近いかもしれない。


「そうだ、どうせ誰も見てないなら、最後くらいは本来の姿に戻してやるか」


真はそう言うと、ステータス画面の装備欄を表示。そこから、装備の外見変更をオフに切り替えた。


その瞬間、真の装備が姿を変える。着ている防具は、白と黒を基調としたコートのような軽装鎧に変り、背負っている大剣は、無機質な金属色から燃え盛る紅蓮の炎のような刀身に変る。


これが真が装備している武具の本来の姿。『インフィニティ ディルフォール グレートソード+10』と『インフィニティ ディルフォール メイル+10』他防具一式だ。


「この姿になるのは、いつぶりだ? ゴブリンを倒して以来か」


真は自身の装備を確認しながら、大剣を振ってみた。深紅の大剣を振ると、その軌跡が残像として残る。


「ああ、これこれ! このエフェクトが好きで、無駄に剣を振ってたな」


真は満足げに大剣を2,3度振った。大剣が通った空間には、赤い残像が残され、時間と共に消えていく。


「さてと……」


一通り装備の見た目を確認した後、真はエレベーター内から出た。元になったゲームだと、このエレベーターから出て、少し歩くと、上にある宇宙空間から調律者ラーゼ・ヴァールが降りて来るという登場シーンになっている。


そして、一歩、二歩と最上階の部屋を歩いた時だった。何もない宇宙空間に白い球状の発光体が現れると、一瞬だけ強い光を放ち、中から巨大な天使が降りて来た。


真はその巨大な天使を見上げていた。銀色の金属色をした体と黒い二枚の羽。目鼻はなく、鏡面状の顔があるだけ。ゲームで見た調律者ラーゼ・ヴァールの姿そのものだ。


「あらぁ? あなた一人で来たの? 随分と勇気があるじゃないの。私が見込んだだけのことはあるわね」


突然、調律者ラーゼ・ヴァールが言葉を発した。綺麗な声だが、嫌な感じがする声だ。人を喰らう蛇が女の声をしていたら、こんな声になるのだろう。


「なッ!? しゃべった!? こんなの、ゲームにはなかったぞ!?」


真が驚いて声を上げた。ゲームでの調律者ラーゼ・ヴァールにはセリフがない。そのため、声を発することもない。


そのはずなのに、ここに現れた調律者ラーゼ・ヴァールは、女性の声を出して真に話しかけてきている。


「驚いてるわね。もしかして、この声を忘れたの?」


なおもラーゼ・ヴァールは真に話しかけてきた。そして、その声を真は聞いたことがあった。そう、忘れもしない。この声は……。


「イ、イルミナ・ワーロック……?」


声色、声質、口調、その全てが浄罪の聖人と呼ばれた狂人、イルミナ・ワーロックその人だった。


「ご名答。私としては、すぐに分かってほしかったのだけどもね」


鏡面のように何もないラーゼ・ヴァールの顔からイルミナの声だけが聞こえて来る。


「ど、どうしてお前が……!?」


真は状況について行くことができていなかった。姿形は完全にゲームで見た調律者ラーゼ・ヴァールだ。それが、イルミナ・ワーロックの声で話しかけてきている。


そもそも、イルミナ・ワーロックは――


「あなたが倒したはずのイルミナ・ワーロックが、どうして調律者ラーゼ・ヴァールの姿をして現れたのか? それに驚いてるんでしょ?」


真の頭の中を見通したようにイルミナの声が話を続けた。


「お前は、ラーゼ・ヴァールを召喚するための触媒になったんじゃなかったのか? そのために、自分の命ですら、道具として使ったんだろう!」


真は叫ぶようにして声を上げた。


「ええ、そうよ。イルミナはラーゼ・ヴァールを召喚するための触媒。イルミナの魂を触媒にして、ラーゼ・ヴァールという存在が、現世に存続できるように変質させた」


「現世に存続できるように変質させた……?」


真はまだ意味が分からず聞き返した。


「もっと、正確に言えば、ラーゼ・ヴァールが現世に出現しても、すぐに世界と反応を起こさない、安定した存在にしたっていうことね」


「……つまり、ラーゼ・ヴァールをそのままこの世界に召喚していたら、出現した瞬間に世界に何らかの影響を及ぼすと……。それだと、自由に世界を変えることができないから、まずは、この世界と反応しない存在に変えた……。そのための触媒がイルミナだったと……」


話を聞いて、真のなりの解釈を出した。例えば、爆弾を作った瞬間に爆発してしまったら、使い物にならない。意図したタイミングで爆発するからこそ、兵器としての爆弾に存在価値が生まれるのだ。


「あら、凄いわね。今の説明でそこまで理解できたなんて。あなた、ここで殺してしまうには惜しい存在ね」


「だが、どうして、お前の意思が残っている? お前の役割は、触媒になることじゃなかったのか?」


「それは少し思い違いをしているわね」


「思い違いだと?」


真は訝し気な顔で聞き返した。


「イルミナ・ワーロックという存在はもうこの世界にはいない。今ここにいるのは、イルミナ・ワーロックという触媒を使って現出した、調律者ラーゼ・ヴァールよ!」



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