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天使狩り Ⅵ

「何体、現れたんだ……?」


非常に聞きずらい空気だが、真が椿姫に質問をした。


「一体だけ……」


椿姫が端的に答える。やはり、かなり辛そうだ。よほど怖い目に遭ったのだろう。


「そうか……、一体だけか……。分かった。天使を狩っていたら、大天使が来るんだな。だったら、俺が――」


「待って! まだ話は終わってない。私達がどうやって大天使と戦ったのかを聞いてもらわないと」


真が話を終わらせようとしたが、椿姫がそれを遮った。


「いや、でも、それは……」


椿姫の傷口を、椿姫自身で抉ることになる。これ以上、椿姫の口から言わせることは、憚られる。


「知ってもらわないといけないの! 知ってもらわないと意味がない! 大天使がどんな攻撃をしてきたのか、どうやって対抗したのか、どうして……皆……、死んだのか……」


椿姫がグッと歯を食いしばる。横にいる咲良も痛いくらいに手を握り締めている。


「……分かった。話の腰を折って悪かった……」


椿姫の覚悟に押されて、真が引き下がった。


「ううん、いいの……。こっちもごめんね、気を使わせたね……」


大きな声を出して、吹っ切れたのか、椿姫は一定の落ち着きを取り戻している。


「あ、ああ……、いいんだ……」


「それじゃあ、話すけど……。大天使は、他の天使の倍くらいの大きさがあるの」


「倍くらいの大きさ……!?」


「うん、倍くらいはあったと思う。だから、そいつが大天使なんだってすぐに分かったんだけどね。名前の通り、大きさも違ったから」


「なるほどな……」


「持っている武器は他の天使と同じ剣なんだけど、体が大きい分、剣のサイズも大きくて……。パラディンが防御を固めても、受け止めるのが精いっぱいなくらいの攻撃力がある……。それに加えて、状態異常系のスキルが一切効かない……」


椿姫の報告に、美月達も顔を見合わせていた。防御を固めたパラディンですら、受け止めるのが精いっぱいの攻撃力。しかも、状態異常系のスキルが効かないときている。これでは、狩りのセオリーが通用しない。


「状態異常が効かないか……。大天使はNMだろうから、それはそうだろうな……」


雑魚として出現するモンスターと違い、ボス格の敵には、こちらが有利になるような状態異常系のスキルに対して耐性を持っていることが多い。ゲームとして、雑魚と同じ様に倒せないようになっているからだ。


「状態異常が効かないのは、まだいい……。動きを封じられなくても、剣による攻撃なら、パラディンの人が受け止めることができてたから。私達回復役が全力でサポートすることで何とか耐えてた……。問題は、大天使が放つビーム……」


「ビーム!? 大天使ってビームを出すの!?」


思わず、翼が声を上げた。考えなしに声を上げてしまったことを、翼が後悔しつつ下がるが、椿姫は軽く手を上げて、『問題ない』のジェスチャーをする。


「そうなの……。大天使が空いてる方の手を翳すとね、そこからビームが出て来る……。そのビームでダークナイトの一人がやられた……」


「やられたって……、えっ!? 剣を受けていたのはパラディンの人なんですよね……?」


話の内容に、疑問が浮かんだ美月が質問をした。話の中で、大天使の攻撃を受けていたのは、パラディンであって、ダークナイトではななかったはず。ということは、ダークナイトはダメージを負っていないはずだ。


「大天使の攻撃をパラディンの人が受けてたんだけど……。途中で、ターゲットが後衛のソーサラーに向いったのよ……。それで、咄嗟にダークナイトの人がヘイトを上げて……、確か、あの時、リフレクトアーマーも使ってたと思う……。だけど、大天使のビームを喰らって……、一撃で……」


一度は、落ち着きを取り戻した椿姫だが、話をしているうちに、だんだんと声に影が見え始める。


「防御無視の攻撃かもな……」


口元に手をやりつつ、真が推論を言う。ダメージを負っていないダークナイトで、しかも、防御系のスキルを使っているのに、一撃で殺されたというのであれば、その防御力を無視する攻撃だったという可能性がある。


「私もそう思う……。あれは、防御を固めても、それを貫通する攻撃……。蒼井君の言葉を借りるなら、防御無視の攻撃……、だったと思う」


「厄介だな……」


防御力を貫通してダメージを与える攻撃。推測通りだとすると、真としても問題がある。真の防具は、インフィニティ ディルフォール メイル等一式を+10段階強化した物。当然、並外れた防御力も持っている。


それを大天使は貫通する攻撃を持っているとなると、装備の強さがあるからといっても安心はできない。


「どんな攻撃か知っていたら、対処できたかもしれないけど……。ただ、知っていても凄く速い攻撃だから、大天使が空いてる方の手を翳したら注意して……そこからビームが放たれる」


現場にいた椿姫も、大天使が手を翳した時に何か来るとは思っていたが、迸るビームを目で追うことすらできなかった。


あんなものは、初見で回避できるようなものではない。


「分かった。それは注意しておく」


「うん、お願い。あれは、しっかりと対策をしておかないと駄目だから……。それで、そのビームが来た後の攻撃なんだけど。上空に飛び上がってから、急降下で突進してきたの……。それには、パラディンの人も弾き飛ばされてしまって、大天使は後衛まで突っ込んできた……。それが、決定打だったわ……」


「直線範囲攻撃ってところか……」


「そうだね……。知っていれば、全員避けたんだけど。初見だったから……。前衛は生き残れた人が多かったけど、防御力の低い後衛は半壊……。その時点で撤退を決めて、パラディンの人が殿になってくれた……。でも……」


椿姫の言葉が詰まった。咲良も黙ったまま俯いている。


ここまでの椿姫の話では、大天使にやられたのは、ダークナイト一人と、後衛が半壊。最初に聞いた、生き残りが35人中9人しかいないという話と計算が合わない。


「パラディンの人が、イージスを使って時間を稼いでくれたんだけど……。しばらくしたら、大天使に追いつかれて……。別の人が殿になって……。それでも、また追いつかれて……」


「…………」


真は黙って聞いているしかなかった。美月や翼に彩音、華凛も同じだ。自分を生かすために、仲間がどんどん死んでいく。まさに、生き地獄とも言える光景だっただろう。


それは、真達にもよく理解できた。今こうして、『フォーチュンキャット』のメンバー全員が生きているのは、誰かが代わりに犠牲になってくれたからに他ならない。


椿姫や咲良だって、これが初めてというわけではない。何人もの仲間の犠牲の上に、今の生がある。


「結局、生きて帰ってこれたのは、私と咲良を含めて、9人だけ……」


ここで、椿姫の話が終わった。真も美月もどう声をかけていいか分からない。翼や彩音も同じだ。華凛だって、何も言うことできずにいる。


「俺が報告を受けた時点で、全員に帰還命令を出した。『王龍』も同じだ。天使を狩っていて、より強大な大天使が出現する可能性がある以上は、『天使の心臓』集めを続行するわけにはいかない」


沈黙を破ったのは総志の声だった。いつもと変わらない不愛想な声と口調。


「だから、一旦ここで、『天使の心臓』を回収しようと思っている。ただ、全員が帰還するまでには、しばらく時間がかかると思う。遠方地にまで行ってる人たちもいるしね。当然、大天使探索に行ってる部隊にも帰還命令を出している」


眼鏡の位置を修正しながら時也が口を開いた。


「100個集まってそうか……?」


真が時也に訊いてみた。一旦ここで、回収すると同時に、『天使の心臓』集めも一旦停止することになる。そうすると、問題は現時点での『天使の心臓』の総数だ。


「それはまだ分からないよ。定期的に報告は受けているけど、遠方地からの報告にはタイムラグがあるからね。ただ、報告を受けてる限りだと、若干足りないかもしれない……」


時也は険しい表情で答えた。あくまで推測でしかないし、『天使の心臓』の入手は、運の要素も大きく関わって来る。それを計算した結果、100個は集まっていないかもしれないという結論。


「蒼井、お前は昨日の時点で11個と言っていたな」


今度は、総志が真に尋ねた。


「今日取ったのを合わせたら13個だ」


「多……!? そんなに……」


咲良が顔を上げて声を漏らした。自分たちは出発が遅れたこともあり、天使を狩っていた期間も真達よりは短いので、差があることは分かっていたが、それでも取得数に4倍以上も差が出ているのは開き過ぎだ。


「蒼井の天使を狩る速度を考えれば、少ない方だろう。運が悪かったとしか言いようがない」


驚いている咲良の横から総志が口を挟む。別に、椿姫や咲良の戦力が低いというわけではない。真の能力を考えたら、こういう評価になるというだけの話。


「運が良かったのか、悪かったのかは知らないけどさ……。結局、どうするんだ? 俺たちもしばらく休むのか?」


この空気の中で、真の強さを持ち上げられるのは、流石に気まずい。真は本題の方へと話を振った。


「いや、お前達は、天使狩りを継続してくれ」


「いいのか? 俺達だけが天使狩りを継続する理由は?」


「天使を狩れば、大天使が出現する。これで間違いはないはずだ。だが、問題はどの部隊が大天使と遭遇するかだ。単純に一定数の天使を狩った者に対して、大天使が現れるとすると、蒼井が一番最初に大天使と遭遇するはずだ。だが、それはなかった」


「っていうことは、ランダムで出現するっていうことか……?」


「ああ、そうだ。天使を狩っている誰かの所に大天使が出現する――」


つまりは、大天使と遭遇するのは抽選ということだ。天使を狩っていれば大天使と遭遇する抽選が行われ、当たれば大天使と遭遇する。


「だが、それだけでは不十分だ」


「不十分?」


真が総志に聞き返した。総志の口振りでは、まだ何か要件があるということ。


「ああ、不十分だ。天使を狩っていれば、大天使と遭遇する。この仮定が正しければ、別の部隊でも大天使と遭遇していることろがあるはずだ。だが、報告を受けたのは、和泉が初めて。大天使と遭遇して全滅しているのであれば、定期報告もなくなるが、全て定期報告に来ている。その説明がつかない」


「まあ、それは、確かにおかしいな……」


「考えられる可能性は、天使を狩った総数だ」


「あっ! そうか! 大天使を出現させる条件が、個人で倒した数じゃなくて、皆が倒した天使の数の合計。それが一定数に達したら、大天使が出現する条件になるってことか」


「そういうことだ。そして、条件が整った状態で、天使を狩ると、ランダムで大天使が出現するようになる――というのが、葉霧の意見だが、お前も同意見のようだな」


総志が真と時也の顔を見合わせる。どうやら、大天使の出現に関しては、ゲームなりの事情があるようだが、総志は専門外だ。


「ああ、それで合ってると思う。今日、俺の所に大天使が現れなかったのも、ランダム性――つまり、抽選に外れたということだろう」


「そうだ。だから、今後は、大天使と遭遇しても、勝てる者しか天使を狩らないという方針に切り替える。つまりは、蒼井、お前達だけで『天使の心臓』を集めるということだ。残り何個の『天使の心臓』が必要かは不明だが、大天使を引きずり出すためにも、天使を狩る必要はある。『大天使の心臓』を入手するのと、『天使の心臓』100個集まるのは、ほとんど同じタイミングになると見ている」


「それしか、ないだろうな……」






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