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天使狩り Ⅱ

「うおおおおー!!!」


<レイジングストライク>


真の先頭の一体に狙いを付けて、スキルを発動させた。猛禽類が白鳩を狙うように、鋭く大剣を突き付ける。


真の大剣は、天使の体を突き抜け、そのまま地面へと叩きつけた。


だが、これでも天使は倒れない。すぐさま体勢を整えると、手にした剣を振り上げ、真に襲い掛かる。


天使の剣は的確に真の急所を狙ってきた。しかも、速い。ただ……、


「単調なんだよ!」


真は天使の剣を潜り抜けると同時に一歩踏み込んだ。


<スラッシュ>


その一撃は、天使の肩口から袈裟斬りに両断。


しかし、これでも天使は倒れない。


そうしている間にも、他の天使が真を囲んで剣を向けて来る。10体はいる天使が、四方だけでなく上空からも真を狙っている。


<ショックフェザー>


そこに華凛がスキルを発動させた。


風の精霊シルフィードによってまき散らされた無数の羽が、風に舞って10体ほどの天使達を取り囲む。


華凛が使用したスキル、ショックフェザーは、それ自体にダメ―ジはないのだが、無数の羽の一つでも触れると麻痺してしまうという凶悪なスキルだ。


天使の大きさは成人男性よりも大きい。優に2メートルは超える身長だ。その分、的も大きい。風に踊る幾多の羽を、その身体で全て回避することは不可能。


10体ほどの天使は全てショックフェザーに触れてしまい、直後に体が麻痺して動けなくなる。


「ナイスだ華凛!」


<イラプションブレイク>


真は跳躍して、思いっきり地面に大剣を叩きつけた。すると、大地には方々にひび割れが走り、その隙間から、一気にマグマが噴出した。


まるで大地がその怒りを爆発させるかのような、紅蓮の大火が天使達を飲み込む。


「今よ! 彩音もやっちゃって!」


<アローレイン>


掛け声とともに、追い打ちをかけるようにして、翼がスキルを発動させた。


天空に向けて放たれた矢は、土砂降りの雨のように天使達に降り注ぐ。


「私も便乗させてもらいますね!」


<サイクロン>


さらに彩音も追撃を入れる。急激に巻き起こる竜巻は、風の牙となって天使達に襲い掛かる。


これらの一連の攻撃で倒れたのは、先んじて真から攻撃を受けていた一体の天使だけ。


「やっぱり、しぶといな、こいつら……」


真からすれば、雑魚であることは変わりない天使なのだが、如何せん耐久力がある。それこそ、巨大モンスター並みのしぶとさだ。


<ストームブレード>


愚痴を溢しながらも、真は範囲攻撃スキルを発動させた。体ごと一回転させるようにして、大剣を振りぬく。


放たれるのは、同心円状に広がる斬撃の嵐。麻痺して動けない天使達は、なす術もなくズタズタに引き裂かれていく。


「彩音、華凛、まだ行くわよ!」


<バーストアロー>


再び翼が声を上げると、力を溜めて、矢を解き放った。


翼の矢が、狙いを付けた一体の天使に突き刺さると同時、矢は爆発四散し、周囲にもダメージを与える。


「分かってるわよ!」


<サラマンダー>

<ラヴァ エクスプロ―ジョン>


華凛は風の精霊シルフィードと入れ替えで、火の精霊サラマンダーを召喚。同時にスキルを発動させると、天使達の中心に火山が噴火したような大きな爆発が起こり炎上する。


「私も!」


<フレイムバースト>


華凛とほぼ同時のタイミングで彩音もスキルを発動させた。華凛が巻き起こした噴火と重なるようにして、彩音の爆炎が巻き起こる。


それでも、残りの天使達は健在だ。ショックフェザーによる麻痺の効果も切れて、再び動き出す。


「甘えよ!」


<ソードディストラクション>


その時を待ってましたとばかりに真が跳躍した。そして、体ごと斜めに大剣を振り回す。


そのスキルが発動すると、周囲一帯の空間ごと震撼させるほどの猛烈な衝撃が走った。まるで、そこにある世界の一部をまるごと破壊するような激しさだ。


ソードディストラクションは、ベルセルクが持つ範囲攻撃スキルの中では最強の威力を誇る。しかも、追加効果として、敵がスタンするという極悪ぶり。


天使の麻痺が解けた所に、今度はスタンによる妨害。完全に天使達の動きを封じ込めて、このまま一方的に蹂躙するつもりであったが……。


「終わりか」


真のソードディストラクションは、それ自体が強力な範囲攻撃。しかも、最強装備でレベル100のベルセルクが使ったとなれば、いかにタフな天使といえども耐えることはできない。


残った10体近い天使達も、力なく地面へと落ちていく。


「結構余裕だったわね」


戦いが終わり、翼が真の所へとやってきた。


「あれだけ本気を出せばな」


軽く笑って真が返す。華凛のショックフェザーに始まり、天使達にはほとんど何もさせなかった。仮に、まだ戦闘が続いていたとしても、彩音と華凛が妨害スキルを駆使して、天使達を封殺しただろう。


「これくらい軽いでしょ」


少し遅れてやって来た華凛が、若干ドヤ顔で言って来た。確かに、サマナーの華凛は、この手の妨害スキルのエキスパートだ。麻痺以外にも、敵を眠らせたり、氷の檻に閉じ込めたりと、色々な搦め手ができる。


「これだけ余裕だと、今回は私の出番なさそうだね」


対照的に苦笑いをしているのは美月だった。回復の専門家であるビショップの美月は、当然のことながら、高威力の範囲攻撃を持ち合わせてはいない。


持っている攻撃スキルも、対アンデット特攻を持つ、『ライト』などの神聖魔法だ。天使相手には分が悪い。


「今来た奴らは、10体くらいだったしな。あれくらいの数なら、力押しすれば無傷で倒せる」


真が美月にフォローを入れる。美月の力不足などとは誰も思っていない。単なる相性と職業特性の問題だ。


「普通に考えて、10体の天使なら力押しできるって、真さんがいなければ無理なんですけどね」


彩音が倒れた天使を見渡して言う。彩音としても、先ほどの戦いは手ごたえのあるものだった。完全に敵を封殺しきって倒すことができている。理想の戦い方と言ってもいいだろう。だが、それができたのは、真の意味不明な攻撃力があってのこと。


「私としては、状態異常が効く分、やりやすいけどね。また来たら、さっきの戦い方でいいわけだしさ」


華凛が満足げに言った。いつになく饒舌になってるのは、自分が役に立っているという実感から。敵の妨害という、役割をしっかりと果たせたという確信があった。


「他のところも同じような戦い方してるのかな?」


ふと疑問に思った翼が言う。


「似たようなものだと思うぞ。違いがあるのはパラディンとダークナイトが数人配属されてるところだな。盾役がガチガチに守りを固めて、後衛が状態異常をかける。後は、攻撃職が一気に叩くっていう戦法のはずだ。どのチームもバランスを考えて編成されてるし」


長かった昨日の会議を思い出しながら、真が答えた。


「バランスを考えられてないのは、私達くらいのものだもんね」


またも美月は苦笑しながら話した。真がいるということで、他のバランスは一切考慮されていない。そのため、盾役もいなければ、近接職は真しかいないという『フォーチュンキャット』のメンバーで、天使を狩ることとなった。


「まあ、何にせよ、私達でできる限り多くの『天使の心臓』を集めてしまえばいいってことでしょ? で、収穫はっと……あれ?」


翼が意気揚々と『天使の心臓』を回収しようと、倒れている天使達を見たが……。どの天使も体から白い靄は出ていない。モンスターが何らかのアイテムを落とした場合は、体から白い靄が出て、その靄に手を翳すとアイテムが入手できるシステムなのだが……。


「収穫なしってことだ」


真は赤黒い髪をかき上げながら嘆息した。倒れている天使は、何も落とさず、次々と消滅していく。


「一個くらいあってもいいのに……」


華凛も残念そうな声を上げている。余裕があったにせよ、天使は強敵だった。本気のスキルを惜しみなく使って倒したにも関わらず、何も手に入れることができていない。


「仕方ないわよ。シン・ラースで倒した天使が50体くらいだったでしょ? それで、ようやく一個取れただけなんだから、10体くらいで『天使の心臓』を取ろうっていうのはね……」


相変わらず苦笑いのままの美月が言う。やはり、現実というのはそれほど甘くはない。ゲームだけれども……。


「あまり考えたくなかったことですが……。天使を50体倒して、一個ってことは……。100個集めるのに、天使を5000体狩らないといけないという計算になりますよね……」


「「「…………」」」


彩音の呟きに美月も翼も華凛も黙り込む。どこにでも天使は現れるが、いつ現れるかは不明。待っていないといけない時間もある。そうして、ようやく10体の天使を倒したのだが、収穫はなし。その数字に気が滅入ってしまう。


「……ゲームの方でもここまで渋くはなかったんだけどな……。ゲームだともっと効率よく天使を狩ることもできてたし。正直、ここまで絞らなくてもいいと思うよ……」


真は再び髪をかき上げて、嘆息交じりに答えた。ゲームの方でも、ラーゼ・ヴァールと戦うのに手間がかかっていたが、この仕様は、ゲームの比ではないくらいに面倒だ。


「はぁ……。私達だけで、100個全部集めてしまおうって思ってたのに……。これじゃあ、他の人も頼らないと無理よね……」


落胆した顔で翼が愚痴を溢す。


「そのための同盟ってことでしょ。私達にできないことを、『ライオンハート』さんや『王龍』さんがやってくれてるわけだしさ。私達は私達の役割を果たしましょうよ」


美月が宥めるように言った。これから、大勢の人が各地で天使を狩りに行く。真達の他にも『天使の心臓』を入手してくる人がいる。それが集まれば、100個なんていう数字、実現不可能な数字ではない。


「そう……だよね。うん、そうだ。よし、気合入れ直して天使を狩るよ!」


翼は自分中で納得がいったようで、一人、士気を高めていた。


「気合入ってるところ悪いんだけど、そんなすぐに天使は来ないと思うぞ……」


真が冷静に口を開く。まだ午前中だが、天使が現れるまで、結構暇を持て余していた。それを考えると、そう頻繁に天使が現れるとも思えない。


「あんた、そういうところ、本当に無神経ね! 『一緒に頑張るぞ! おー!』くらい言えないわけ?」


真の正論に、翼が文句を言う。言っていることは、その通りなのだが、もう少しこちらの気持ちも汲んでもらいたい。


「いや、俺はそういうキャラじゃねえし」


冷静な真のツッコミが入る。


「うっ……、確かに、真がそんな熱血爽やかキャラになったら、違和感が半端ないわね……」


翼が何やら想像したようで、眉間に皺を寄せた。そして――


「確かに、真君がそんなこと言いだしたら、気持ち悪い……」


「うん……。私も、真がそんなこと言いだしたら、本気で心配になる……」


「そうですね……。ついにおかしくなったのかって……」


華凛、美月、彩音も引いた表情で、酷いことを言っている。


「ちょっ!? そこまでか……!?」


思った以上に、爽やか系のキャラが不評だったことに、真は少し心が傷ついた。


「いいのよ……。真は今のままで……。今のままでいいの……」


憐れみに満ちた美月の目が、真を優しく包み込む。


「優しい言葉の方が余計傷つくわ!」


真が苦情を申し立てるが、誰も取り合ってはくれず、そのまま狩りは続行された。




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