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天使狩り Ⅰ

        1



晴れた日の午前。街路を吹き抜ける風は心地よく、降り注ぐ日差しは暖かい。行きかうNPC達の足取りは軽く、以前、ドラゴンが襲ってきたとは思えないくらい活気に満ちている。


王都グランエンドは今日も平常運転。王都の中心地にある店には多くの人が出入りし、少し外れた場所では露店が賑わいを見せる。


ただ、その活発さの中に現実世界の人はいない。


なぜなら、現実世界の人間の大半は王城前広場に集まって来ているからだ。


今回のバージョンアップにより、各地に天使が出現して人を襲うようになった。天使は一個体の強さが高いだけでなく、複数で襲ってくる。


しかも、天使は普段の狩りをしている最中にも襲ってくるものだから、対抗手段を用意しているわけでも、対天使用の人員を揃えているわけでもないので、逃げる他ない。


そのため、外に出てモンスターを狩り、生活費を稼ぐということができなくなったことにより、『ライオンハート』と『王龍』が資金を捻出して、生活支援物資を配ることになったのだ。


そのことが宣伝されたのが今朝のこと。『ライオンハート』と『王龍』のメンバーの多くが、王都中を歩き回って、王城前広場で物資を配ることを宣伝して回った結果、現実世界の人々がわんさか押し寄せたということだ。


「順番に並んでくださいー!」


「物資には余裕があります! 慌てなくても大丈夫です!」


『ライオンハート』と『王龍』の中でも裏方を専門にやっているメンバーが、長蛇の列の整理をしている。


日本人の特性というか、美徳というか、こういう並ばないといけない場所では、きちんと並んでいる。係員の誘導にも素直に従い、次々とこの日の物資を受け取っていく。


ただ、これで当面の問題が解決したということにはならない。ゲーム化した世界での生活は王都グランエンドに限らないからだ。


ヴァリアに行っている人や、タードカハルに行っている人。港町オースティンなどの周辺都市に行っている人など様々な場所に散らばっている。


そういった人達にも生活物資を支援しに行かないといけない。そのための、運搬部隊と護衛部隊の編成も急ピッチで進められている。


そして、もう一つ、王都の中心地にほとんど現実世界の人の姿が見えない理由。


天使狩りと大天使の捜索のためだ。


天使を狩る役割の人で、遠方地が担当になっている人は、その準備のために打ち合わせを。大天使捜索担当の人達も同じだ。細かい旅程や物資の確認などを午前中から話し合っている。


逆に王都の近くを担当する人の中には、既に天使狩りに出発している者もいた。



        2



「流石にこの辺りのモンスターだと雑魚よね」


王都の周辺に広がる草原で、ジャッカルを仕留めた翼が言った。倒れたジャッカルの体から白い靄が体込めており、この靄に手を翳すとアイテムを入手できる。


「この辺りで狩りをしてたのって、王都に来た直後くらいだもんね。あれから、色々な所に行ったしね。私達もかなり強くなったってことよ」


別のジャッカルを仕留めた美月が返事をした。ビショップである美月は、回復専門なのだが、攻撃用の神聖魔法も使うことができる。これが、案外馬鹿にできない攻撃力を持っているので、レベル差のあるジャッカル程度は余裕で倒すことができた。


「懐かしいですね。その頃って、初めて馬車が実装されて、歩かなくてもいいって喜んでましたよね」


ランドタートルを炎で丸焼きにした彩音が微笑みながら返した。ゲームにも関わらず、この世界は移動手段が乏しい。テレポートどころか、馬車が使えるようになったのが、センシアル王国領が追加されたバージョンアップでのことだ。


「っていうかさ、もう獲物いないんだけど」


召喚したサラマンダーに命令を出す相手がおらず、華凛は文句を垂れていた。周辺のモンスターに対して、こちらがあまりにも強すぎるため、すぐに攻撃対象がいなくなる。ゲームなので時間が経過すれば、再び姿を現すのだが、それまでの時間は何もすることがない。


「文句は真に言ってよ。真も狩りに参加するから、こんなに早くモンスターがいなくなるよ!」


早々に手持ち無沙汰になっている真に対して、翼がビシッと指を付きつけた。


「文句言うなよ! 俺だって狩りくらいしてもいいだろうがよ!」


理不尽に怒られた真が反論する。だが、事実として、真がこの辺りのモンスターを一撃で倒していくものだから、あっという間に獲物はいなくなる。


「私達は担当エリアから離れられないんだからさ、そんなペースでモンスターを倒してたら、すぐに枯れることくらい分かるでしょ!」


真達が格下のモンスターを狩っているのには理由がある。天使を狩るための担当エリアが、この王都周辺の草原なのだ。そのため、自身のレベルに合ったモンスターを狩りに行くこともできない。


「ねえ、そもそも天使以外のモンスターを狩る必要はないんじゃないの? ここで、天使が来るのを待ってたらいいだけでしょ?」


特にやることのない華凛が口を挟んできた。真達は特に金に不自由しているわけではない。5人しかいない『フォーチュンキャット』に対して、『ライオンハート』からは、100人規模のギルドと同等の資金を支給されている。活動資金の支給が停止されたといっても、貯蓄はかなり残っている。わざわざ格下のモンスターを倒して、アイテムを取る必要もないのだ。


「そうかもしれないけどさ……。ただ待ってるだけっていうのもあれかなって……。それに、いざ天使が来た時に他のモンスターがいたら邪魔になるだろ?」


真がそれなりの答えを返す。


「この辺りのモンスターがいても、あんたの範囲攻撃一発で倒せるんだから、大して意味ないじゃん」


呆れた表情で翼が言った。真は正当な理由があるように言っているが、実害になるほどの問題でもない。


「いや、でも、何もしないで待ってるってのもさ……」


「あんた、そういうの慣れてるでしょ?」


翼があっけらかんと言ってくる。普段の狩りに真が参加すると、モンスターを瞬殺してしまうため、訓練にならない。だから、真はいつも見守る役割をしていた。


「あれは、あれで辛いんだぞ! 暇だし!」


「真君、いっつも近くに来たモンスター倒してるじゃない。NMとか見つけたら、そっちに行っているし」


『辛い』と言い張る真に対して、華凛からの追撃が入った。


「うっ……。それは……」


痛いところを突かれて、真が言い返せなくなる。見守り役なのに、勝手にモンスターを倒しているのは、偏に暇だから。


「まあ、まあ、いいじゃない。いざという時に真が居てくれたら安心なんだからさ」


そこに美月がフォローを入れた。


「ほら、みろ! 美月だって言ってるだろ!」


美月からの援護を受けた真が反撃に出る。だが、翼も華凛も退かずに応戦を続ける。そんな風景を美月が微笑みながら見ていると――


「美月さん、一人だけポイントを稼ごうというのはいかがなものかと……」


美月の背後から、彩音がボソッと言葉をかけた。


「えっ!? べ、別に私、そんなつもりじゃ……」


ないこともなかった。翼と華凛は真と言い争いをしているから、上手く流せて入るが、彩音はそうはいかない。


「本当ですか……?」


彩音の疑いの目が美月を射抜く。


「本当よ本当……」


目を逸らしながら美月が返事をするも、彩音の疑いは晴れない。


「いいですけどね、別に……。元より、美月さんがリードしているのは変わらないことですし……」


若干棘のある言い方で、彩音が言う。真との付き合いが一番長いのが美月だし、『フォーチュンキャット』のサブマスターとして何かと真を支えているのも美月だ。


「そ、そんなことないよ……。皆同じだって……」


「大丈夫ですよ。それに今はやらないといけないことも――」


「美月! 彩音! 伏せろーッ!」


美月と彩音の会話に、突然、真の叫び声が割り込んできた。さっきまでの、冗談半分の声とはまるで違う、切羽詰まった声だ。


「エッ!?」


真の叫び声の直後、美月は背後に大きな影が迫っている気配を感じて振り向いた。そこには――


「「キャアーー!!」」


空を飛ぶ複数の天使が、剣を振り上げ迫って来ていた。


<ソニックブレード>


空気を斬り裂く甲高い音が美月と彩音の耳を劈く。見えない音速の刃は、迫りくる天使の一体に直撃する。


天使の方からしても、不意に喰らった強烈な一撃に、攻撃態勢を維持することができず、後退を余儀なくされた。


「大丈夫か?」


駆け付けた真が美月と彩音に声をかける。


「う、うん……。大丈夫……、ありがとう」


「私も大丈夫です……。助かりました……」


崩れた体勢のまま、美月と彩音が返事をした。


どうやら話し込んでいる間に件の天使がやってきていたようだ。来ることは分かっていたのに、緩んだ空気の中で油断してしまったことに歯噛みするしかない。


「数は10体ほどか……。俺が引き付けるから、援護を頼む!」


真は、宙に滞空している天使達を睨みながら声を上げた。


「任せておいて! あの程度の数なら、シン・ラースの時に比べたら楽勝よ!」


翼も天使達に弓を構えながら言った。


「私も大丈夫。足止めならできるから!」


華凛も追従して声を上げる。


「ああ、頼んだぞ!」


真はそう言うと、天使の群れに向かって走り出した。







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