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終わりに向けて Ⅲ

        1



「天使が飛び回る世界を隅々まで探索しなおすか……。確かに考えたくもないことだ……」


総志も、その困難さは痛いほど理解できた。もし、本当に大天使なる者がどこかにいて、それが、このゲーム化した世界のどこにいるのかも分からない状態だったとしたら、『天使の心臓』100個集めるどころの苦労ではない。


「あくまで可能性の話だ。一つ目に言った、天使を一定数狩ると、大天使が現れるって言うのも、十分考えられることだし」


空気が重くなるのを感じ取って、真がフォローを入れる。


「蒼井の言うことは最もだが、どちらの可能性も考慮して動かないといけない」


全体の士気が高まった所にきて、出て来た懸念材料。総志としても、これからのことを考えると、士気は高いままを維持したかったが、やはり一筋縄ではいかない。


「そうなると、天使を狩る部隊と、大天使を探す部隊に分けて編成するしかないでしょうね」


意見を言って来たのは悟だ。話を聞く限りでは他に思いつく方法はない。


「だろうな――この件に関して、他に意見がある者はいるか?」


悟の意見に賛同しつつも、総志は他の意見も募る。が、やはりというか、代替案は出てこなかった。


「他に意見もないようなので、最後の議題に移ります。最後の議題は、ラーゼ・ヴァール討伐のメンバー選出について。皆様もご承知の通り、ラーゼ・ヴァールと戦えるのは一度に6人までとなっています。これは、元となったゲームと同じ仕様ということなのですが、この件に関しては、紫藤の方から提案がございます」


時也は眼鏡の位置を直しつつ、会議を進めていった。そして、総志へとバトンを渡す。


「葉霧からも説明があった通り、ラーゼ・ヴァールの討伐メンバーは6人だ。相手は、最後のミッションを飾る敵として配置されている。非常に強大な敵であると見て間違いない。実際に、元となったゲームの経験者の話でも、ディルフォールより強いということだ。しかも、6人という少人数で挑まないといけない」


総志が真剣な表情で話をする。総志がここまで緊張して話をする姿は、誰も見たことがないだろう。それくらい、この話は重要なことなのだ。


「6人の内、一人は蒼井で決定している。これについて、反対意見は一切受け付けない」


既に決定事項とばかりに総志は言い切った。


「誰も反対する奴はいねえよ。真田もそうだよな?」


姫子は美月の方を見ながら微笑んだ。ディルフォール討伐の会議では、真が一人で戦うことについて、大きく反発していたが、今、その様子は見られない。


「は、はい……。大丈夫です……」


美月はバツの悪そうな顔で答えた。正直言うと、真が戦うことは心配だが、もう止めようとは思っていないない。


「そこで、残り5人の人選だが、これは蒼井に一任しようと思う」


「えッ……!? 俺に?」


突然の総志の提案に、真が目を丸くした。今まで、ミッションの参加メンバーは同盟会議で選出されていた。それが、真一人の一存で決定できるということだ。


「ああ、そうだ。相手は、間違いなく今まで戦ってきた敵の中で最強だろう。そして、蒼井、お前が要であることも間違いない。だから、お前が一緒の戦う者を選べ」


「俺が……選ぶ……」


「そうだ。お前が選ぶんだ。それと、もう一つ。集めた『天使の心臓』と『大天使の心臓』は全て蒼井の元に集める。蒼井は、今回のミッションでも成功の鍵を握っている。異論はないな?」


総志が再び会場全体を見渡して提案した。この提案に対しても、反対する者はいなかった。


「い、いいのか? 俺が全部決めてしまっても……」


「何か問題でもあるのか?」


突然のことだからか、真が返事をしきれていない。そこに、総志が背中を押すように声をかけた。


「いや……、問題はない……。分かった……、ラーゼ・ヴァール討伐のメンバーは俺が選ぶよ」


真は総志の目を見返して返事をした。その目には、何かを決心したような強さが伺えるようだった。


「ラーゼ・ヴァール討伐メンバーの選出期限は特に設けない。ラーゼ・ヴァール討伐に出発するタイミングも蒼井に任せる。いいな?」


「あ、ああ……。それでいい……」



        2



『ライオンハート』主催のバージョンアップ会議は、その後も続き、『天使の心臓』収集と大天使の捜索部隊の編成について長々と話し合われた。


その結果、会議が終わったのはどっぷりと夜も更けた頃。もう街中の酒場も店を閉めようという時間にまで及んだ。


この時間ともなると、王都の中心地に近い場所であっても人影は少なくなっている。


休憩を挟んではいるが、長時間にも及ぶ会議に、真も美月も疲れ果てた表情で、拠点にしている宿に帰って来た。


「ようやく帰って来れたね……。なんだか、何日も帰ってきてない気分……」


宿の部屋に向かう途中、美月がため息交じりに言った。


「シン・ラースから帰ってきて、一晩宿で休んだだけだからな……。今日も一日中会議だったし……」


真も美月と同じような感覚だった。長い間拠点として使っている宿だが、ディルフォールの討伐に向かってから、今までほとんどこの部屋で過ごす時間はなかった。


そして、また最後のミッションに向けて動き出す。休む暇もあったものではない。真は赤黒い髪をかき上げて嘆息した。


そのまま、宿のロビーを抜けて、階段を上り、いつもの部屋に向かう。


ガチャリ……。真が静かに部屋のドアを開けた。


「あっ、おかえりー。遅かったわね」


真と美月を最初に出迎えたのは翼の声だった。彩音と華凛と一緒にテーブルを囲み、お茶を飲んでいたところだ。


「ただいまー……」


疲れ果てた声で美月が返事をした。


「お疲れさまでした。今、お茶入れますね」


彩音が労いの言葉をかけて、席に着く様に促す。お茶を入れると言っているが、実際にはゲームのシステムにあるアイテム欄から紅茶を選択して出すだけの作業だ。


「ああ、ありがとう……」


真も疲れた声で返事をする。


「ここまで遅くなったのって初めてじゃない?」


椅子に腰かけようとしている真に華凛が話しかけた。


「まあ、最後のミッションだからな……。今まで以上に念入りに話し合いがもたれたよ……」


「そうでしたか。それでも、長かったですよね」


彩音はそう言いながら、真と美月に紅茶を差し出す。


「何か揉めてたの?」


翼も紅茶を飲みながら訊いてきた。


「揉めてたわけじゃないよ……。ただ、天使狩りの編成やら、大天使の捜索やらで、どこのギルドが何の役割をするかとか、そういう割り振りをするにも人数が多い分、決めることが多くてさ……。それで、かなり時間がかかったんだ……」


紅茶を一口啜って、真が答える。独特の苦みと、発酵茶葉の深い香りが口の中に広がる。


「天使狩りは分かるけど、大天使の捜索って?」


華凛が疑問符を浮かべながら質問をした。


「ああ、会議で決まったことなんだけど。『天使の心臓』の入手方法は判明してるけど、『大天使の心臓』はどうやって手に入れるか分かってないだろ?」


「うん、そうだけど……」


「で、その『大天使の心臓』をどうやって手に入れるかなんだけど、考えられるパターンが二つあるんだ」


「二つ? 大天使を倒したらいいんじゃないの?」


これは翼だ。『天使の心臓』の入手方法は天使を倒したら手に入るのだから、大天使も同じように倒せばいいだけではないのか。


「その大天使が、どこにいるかってのが問題なんだよ」


「あっ、そうか」


「それでだ、考えられるパターンとして、一つが、天使を一定以上狩れば、大天使が現れるっていうパターン。もう一つが、どこかに大天使がいて、それを探すパターン。この二つのどちかだろうってことになった」


真は言い終わると、紅茶をもう一口飲んだ。


「それで、天使を狩る人と大天使を探す人の割り振りで、時間がかかったという話に繋がるんですね」


これで彩音も会議時間の長さに合点がいった。相手はただのモンスターではない。その辺にいる雑魚よりも強力な天使だ。真ならいざ知らず、いかに『ライオンハート』の同盟ギルドと言えども、簡単に狩れる相手ではない。


「それで、私達はどっちになるの?」


「おっ、やる気だね、華凛~」


意外にも真っ先に自分たちの役割を聞いてきたのは華凛だった。そのことが何となく嬉しくて、翼が華凛に顔を寄せる。


「そ、そんなんじゃないわよ」


華凛は、半笑いの翼の顔をグイっと押しのける。とは言え、シン・ラースからの帰りの船で、真から『強くなった』と言われたことが華凛にとっては大きい。最後のミッションでは、今までの経験を無駄にはしたくないという思いが強かった。


「最後のミッションだしね。華凛も意気込みがあるってことなのよね」


美月も追従して微笑む。最初に出会った時は、真に言いよる悪い虫という印象だったが、今はそんなことを微塵も感じてはない。むしろ、自分たちの活動によく付いて来てくれたと感謝しているくらいだ。


「だから、そんなんじゃないって言ってるでしょ」


自分が熱くなっていることに、恥ずかしさを感じて、華凛がそっぽを向いた。正直言って、華凛は自分がこんなキャラだとは思ってもいなかった。ミッションなど、自分には無縁のもの。誰がやっているのかも興味がなかった。それが、真達と出会って、今は最前線に立っている。


「で、私達はどっちなの?」


一通り華凛を揶揄ってから、翼が改めて真に尋ねた。


「天使狩りの方だ。メンバーは『フォーチュンキャット』のみ。担当区域は王都周辺だ」


「編成で時間がかかったっていう割には、いつも通りの編成だね」


「これでも色々話し合ったんだぞ」


他人事みたいに言ってくれるなとばかりに真が答える。


「そうなの?」


翼は美月の方を見て訊いてみた。


「真をどこに入れるかで揉めたっていうか、議論されたのは確かなの。もう一回シン・ラースに行ってもらった方がいいのかとか、大天使探索の方が良いんじゃないかとかね……。で、結局、今回のミッションも真が中心になるから、王都にすぐ戻れる方が良いだろうってことで、王都周辺になったの。真がいれば、天使を狩るのは簡単だから、人数も私達5人だけ。他は数十人規模で天使を狩るのよ」


「なるほどね」


美月の説明で納得した翼は、残った紅茶に口を付けた。


「あの、一つ確認しておきたいことがあるんですが」


話が一段落したところで彩音が声を上げた。


「確認したいこと?」


美月が聞き返す。


「今回のミッションって、調律者ラーゼ・ヴァールを倒すことですよね。たしか、6人で挑むことになってると思うんですが、会議ではどういう話になりました?」


彩音が神妙な面持ちで訊いた。真は討伐メンバーに入っていることは確実だとして、残り5人の人選が気になる。残りの『フォーチュンキャット』のメンバー全員を入れても4人。総志が入るとなると、時也や姫子に悟は除外されることになる。逆に『フォーチュンキャット』のメンバーで選出されるのは、真だけということも考えられる。


「ええっと、それはだな……」


訊かれたのは美月だが、返答は真がしようとする。


「はい……」


どことなく真が言い辛そうにしているのが気になる。


「俺が、誰とラーゼ・ヴァールを倒しに行くかを決めることになった……」


真の言葉には迷いのような物が含まれているように感じられた。


「真さんが決める……。そういうことになったんですか……」


彩音が静かに返事をした。調律者ラーゼ・ヴァールがどれだけ強敵であるかは、真の口から聞いている。そんな相手と戦いに行く人を決めるのだ。それは、死地に連れて行くのと同義となる。選ばれた人も相当な覚悟を持って挑まないといけない。だから、真には迷いがある。


そう感じたのは彩音だけではない。この部屋にいる全員が、真の心中を察していた。








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