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帰りの船

深淵の龍帝ディルフォールを倒し、シン・ラースから帰還するために船を出してから1日が経過していた。


船内では、誰も帰還を喜んではいない。あるのは重苦しい空気と喪失感。


今回の作戦では、『ライオンハート』も『王龍』も大勢の犠牲者を出した。しかも、ギルド内でも精鋭として活躍していた者だ。


共に死線を潜り抜けて、ここまで生き残ってきたのに、一瞬の油断が命取りになり、多くの者が死んでいった。


帰りを待つ人たちになんて言えばいいのだろう。生きて帰る自分たちはどういう顔をしたらいいのだろう。


誰がそんなことばかりを考えていた。


それでも、やるべきことは決まっている。迷うこともない。答えは一つしかない。最後のミッションをやり遂げ、死んでいった者達への手向けとし、生き残った人達の望みを叶える。


だから、この日の夜には、船内の一室を会議室として、真と総志、姫子、時也に悟が情報共有を行っていた。


「悪いが、俺達はゆっくり休んでいる場合ではない。最後のミッションに向けて、最善の手を尽くしていく」


テーブルの上座に座る総志が口を開いた。船長室ほど豪華でもないが、自由に使える部屋の中では一番広い。大きな窓の外からは満点の星空が見えている。


波も穏やかで、天井に吊るされたランプも、揺れることなく部屋の中を照らしている。とても静かな夜だ。荒狂う空のシン・ラースとは大違い。


「紫藤さんの言う通りだ……。あたしらにとっては、これが最後になる。何が何でもやり遂げなきゃいけない……」


腕を組みながら姫子が言う。巨大ギルドのマスターとして、大勢の仲間を率いてきた。そして、大勢の仲間を犠牲にしてきた。散っていった仲間のためにも、退くわけにはいかない。


「それは僕達も同じ思いですよ。ここまで来たからにはやるしかありません」


眼鏡の位置を直しながら時也が言う。


「そのためには何より情報が重要――というわけで、蒼井君がイルミナと何を話していたかを教えてほしい。僕たちは距離を取ってたから、ちゃんと聞こえてはないんだよね」


テーブルに肘を付きながら悟が言った。今はどちらかといえば、素の悟に近いだろう。5人しかいないということで、会議モードにはなっていないようだ。


「ああ、分かってる……。俺があいつと話してたことは、最後のミッションに直接繋がることだ……」


神妙な面持ちで真が口を開いた。


「最後のミッションに直接繋がる……か。たしかに、イルミナが死ぬ前に、ラーゼ・ヴァールの名前を叫んでいたな」


真の言葉に対して、総志が呟いた。真とイルミナが話していたことまでは、聞き取れなかったが、最後にイルミナが叫んだ言葉は聞こえている。たしかに『調律者ラーゼ・ヴァール』と口にしていた。


「イルミナの本当の狙いは、調律者ラーゼ・ヴァールを呼び寄せることだったんだ……」


真は苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う。


「イルミナは、世界を浄化するために動いていたんだろ? ディルフォールを使って浄化しようとしたけど、失敗したから、次の手を打ってきたってことかな?」


悟が真を見ながら質問を投げた。以前の会議で、イルミナが戦争を起こした理由について話し合われたところ、ディルフォールを復活させるためという結論に至った。それは、アルター教の教義である世界の浄化というものを、イルミナが極端な解釈により、深淵の龍帝を使って、人間の殺戮を行うことで実行しようとしていたというもの。


「いや……。それが、そもそも間違いだった……」


「間違いだっただぁ?」


真の言葉に姫子が反応した。眉間に皺を寄せながら真を見ている。


「イルミナの話では、世界の浄化っていうのが、そもそもアルター教の本来の教義じゃない――まぁ、この辺りは詳しくは分からないけど、たぶん、長いアルター教の歴史の中で、教義の解釈が変化していったんだと思う」


「イルミナ・ワーロックは、数百年前の時代のアルター教の聖者だから、教義自体が変容したっていうのは理解できる……。それじゃあ、本来の教義というのは?」


今度は時也が聞いてきた。


「イルミナ曰、この世界は狂ってるらしい。全てがズレてるって言ってた。それを正しい形に直すのがアルター教の目的だって」


「なんだそれ?」


また姫子が訝し気な顔で言ってきた。世界を浄化するやら、正しい形に直すやら、一体何を考えているのかさっぱり分からない。


「そんなの俺にも分からないよ。ただ、イルミナの目的が、世界を綺麗な形にすることだっていうことだ。そして、それを実行できるのが、調律者ラーゼ・ヴァール……。そいつを呼び出すためには、巨大な魂を捧げる必要があった……。それが、ディルフォールだ……」


「待ってくれ蒼井君! どういうことだ? それじゃあ、僕達がやったことは……」


時也は思わず立ち上がっていた。真の話を聞くに、自分たちが命を賭けて何をやったのかを理解してしまった。


「……ディルフォールと戦うことによって、ディルフォールの魂を調律者ラーゼ・ヴァールに捧げる儀式にされた……。センシアルとヴァリアの戦争で命を落とした人が、ディルフォールに捧げられたのと同じことだ……」


暗い表情で真が答える。


「……つまり、俺達は、イルミナが調律者ラーゼ・ヴァールを呼び寄せるための手伝いをやらされたというわけだな?」


総志の声は静かだった。だが、とても重い声だった。怒りに震える心を無理矢理抑え込んでいる。そんな声だ。


「……そういうことになる……。もっと言えば、イルミナ自身も生贄になって、ラーゼ・ヴァールを呼び寄せた。ディルフォールはラーゼ・ヴァールを呼ぶためのエネルギーで、イルミナは現世と繋ぐための触媒だ……。だけら、イルミナは何も抵抗することなく俺に斬れらたんだ……」


真はイルミナを斬った時に違和感を感じていた。その違和感の正体に気が付くのがほんの数秒だけ遅かった。まさか、イルミナ自身が生贄になるために、わざと斬られるなんて思いもしなかった。


「ふざけんじゃねえよ! あたしらがやったことは、全部イルミナっていう女の掌の上ってか? あいつに利用されるために、仲間は命を落としたっていうのかよッ! だったら、イルミナもディルフォールも倒したら駄目だったってことか?」


姫子をドンッとテーブルを叩きながら怒鳴った。虚仮にされるにしても、仲間の命まで奪われている。到底許せるものではない。


「……いや。この結果が分かっていても倒さないっていう選択肢はない」


真が静かに言う。


「はぁ? ラーゼ・ヴァールが復活するのを、分かってて手を貸すっていうのか?」


姫子が真を睨む。


「何度も言うけど、これはゲームなんだ……。ゲームを終わらせるために、最後のボスを倒さないといけない。そのためには必要なステップを踏まないといけない」


「またゲームの理屈かよ!」


姫子は納得していないような声を上げている。何度も何度もゲームだからという理屈で、危険な目に遭わされてきた。しかも、今回はいいように利用までされているのだ。ゲームだからと納得できるわけがない。


「姫、要するにですね。このゲームの親玉を倒せば、ゲーム自体を終わらせることができるんです。でも、その親玉が出てこないことには、倒せませよね? だから、そいつを引きずり出すために、利用されていると分かっていてもやらないといけないことがあるっていうことです。今回の場合は、ディルフォールを倒すことですね」


悟は宥めるように説明をした。だが、姫子はまだ腹を立てている様子で悟を睨んでいる。


「もっと簡単に言うと、ディルフォールを倒したら、ラーゼ・ヴァールが出てくる。ラーゼ・ヴァールを倒したら、ゲームは終わるっていうこと」


真も話を単純化して説明する。


「……ッチ、分かったよ……。あとな、悟。あたしを姫って呼ぶな! 蒼井も敬語を使え!」


姫子は一応の理解を示したようで、ひとまず収まった。


「蒼井、他にイルミナと話をしていたことはあるか?」


話の区切りに総志が訊いてきた。


「いや、これだけだ」


「なら、イルミナの行動は、全て、調律者ラーゼ・ヴァールを呼び寄せるためという見方で間違いないようだな」


総志は同意を求めるようにして、真の方を見た。


「ああ、俺もそう思う……。イルミナには何度も騙されてきたけど、流石にこれ以上はないはずだ……。バージョンアップの告知でも、『最後のミッション』って書いてあったしな」


真は全員を見渡して言った。


今までずっとイルミナに利用されていたというのは、真としても憤りを感じずにはいられないが、それでも、ゲームとして必要なプロセスであると考えると、納得せざるを得ない。いや、納得するとかしないとかそういう問題でもない。それしか道がない。だったら、それを行くしかない。


そう、腹をくくるしかないないのだ。


こうして、帰還途中の船内での会議は終了となった。






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