最後のバージョンアップ Ⅳ
1
天使達の数は元々それほど多くはなかった。その分、個体の能力が高いが、真の殲滅力の方が圧倒している。
一体、また一体と天使を倒していき――
<グリムリーパー>
真は最後に残った一体の天使に止めの一撃を入れた。
天使は声も上げずに、ただ悲痛の表情を浮かべて地に落ちる。
「これで終わりか……。もう残ってないよな?」
真が周囲を見渡して、天使の姿を探す。
「大丈夫だ。もう天使の姿は確認できない」
真の後ろから総志が声をかけてきた。後方で、防御を固めていたが、もう襲ってくる天使の姿は確認できない。
「そっちも、無事みたいだな」
総志の声に振り返った真が、後方に目をやると。美月達や姫子達もこちらに向かって歩いてきている。
「ああ、かなり手こずらさらてが、何とかなった……。ただ、疲弊している状態で戦ったということを差し引いても、個々の天使の力量とうのは高いな……。数で押してくるドラゴンとは、また違う厄介さだ……」
総志は、周囲に倒れている天使達を見て言った。地面に倒れている天使達は、徐々に霧散して姿を消している。この天使達もゲームの一部だ。倒せば跡形もなく消滅していく。
「それなんだよな……。あたしも悟も盾として天使の攻撃を受けてたけど、あれはドラゴンと比べてもきついわ……」
そこに、話を聞いていた姫子が入って来た。最強のパラディンとして知られる姫子ですら、天使の一撃は重かった。
「正直言って、並みのパラディンやダークナイトでは荷が重いでしょうね。『ライオンハート』さんでいうところの、第二部隊以上の人でないと死にますよ」
姫子の横にいた悟が追従してきた。遠距離から攻撃するソーサラーやサマナー、スナイパーは数がいればそれに越したことはないが、直接攻撃を受ける盾役となると、そうはいかない。
アグニスには程遠いとしても、腕の立つパラディンかダークナイトでないと、天使の攻撃を凌ぎきるのは難しいだろう。
「天使の討伐については、今後話し合いましょう……。兎に角、今は船に戻らないと」
少し遅れて時也がやってきた。この手の話は時也としても気になるところだが、また天使達が来ては堪らない。
「そうだな。すぐに――」
「ちょっと待ってくれ」
総志が指示を出そうとしたところで、真が止めに入った。
「どうした?」
急に割り込んできた真の方に総志が顔を向ける。
「アイテムドロップの確認だけさせてくれ。『天使の心臓』が落ちてるかもしれない」
真はそう言うと、総志の返事も待たずに倒れている天使達の中を探し始めた。
「そうだったな。よし、手分けして『天使の心臓』が出ていないか確認しろ」
総志が指示を切り替えると、『ライオンハート』と『王龍』の生き残りメンバー、それに『フォーチュンキャット』のメンバーも天使の死体を探し始めた。
ゲーム化した世界で敵を倒すと、何かしらのアイテムを入手することができることがある。倒した敵からアイテムを入手できる場合は、倒れている敵から白い靄が立ち込める。それに手をかざすと、アイテムを入手することができるというシステムだ。
現在、倒れている天使の中で白い靄が立ち込めているのは十数体。倒したからといって、必ずしもアイテムを入手することができるとは限らないし、アイテムがあったとして、求めているアイテムであるとも限らない。
そして、手分けして探しているため、あちこちで散らばった天使の死体を確認するのに、それほど時間はかからず、数分で全て調べ終わった。
「どうだ? 『天使の心臓』は見つかったか?」
戻って来た『ライオンハート』と『王龍』、『フォーチュンキャット』のメンバーに総志が訊ねた。
「こっちは収穫なし」
姫子が『王龍』を代表して答える。
「僕の方でも確認できなかった」
時也も続いて報告。こちらも収穫はなかった。
「俺が一つだけ見つけた。他はなかったみたいだ」
最後に真が報告をした。こちらの収穫は1個だけ。何もないよりはマシと言ったところか。
「これだけの数を倒しても、『天使の心臓』は1個だけか……。シビアだな……」
総志が眉を顰めて言った。天使の強さはかなり高い。1体倒すだけでも時間がかかるのに、目的のアイテムの入手確率が低い。これは、かなりの労力が必要になってくるだろう。
「確かにシビアだと思う……。ゲームの方でも、ここまでドロップ率が悪かったわけじゃない……。これだけの数を倒してれば、5~6個くらいは出てもおかしくなかった……」
真も渋い顔で答える。元となったゲームの方でも、『天使の心臓』集めは面倒だった。それが、このゲーム化による浸食を受けた世界では、更に面倒なことになりそうだ。
「ここで、言っていても仕方がない。用が済んだなら、急いで船に戻るぞ」
総志は気持ちを切り替えて口を開いた。『天使の心臓』の入手については、後で考えるしかない。それに、必要なアイテムは『天使の心臓』だけではない。『大天使の心臓』という、真も知らないアイテムも入手しないといけない。考えることはまだまだ山積みだ。
「了解。全員、ちんたら歩いている余裕はないぞ!」
姫子が声を張り上げて気合を入れる。今この場で休みたいという気持ちは皆持っているだろうが、いつ天使が飛んでくるか分からない状況では、そんなこと言っていられない。体に鞭打ってでも、急いで船に戻るため動き出した。
「蒼井。とりあえず、その『天使の心臓』はお前が持っておけ」
全員が、足早に帰還しだしたところで、総志が真に声をかけた。
「俺が? いいのか? 紫藤さんが持っていなくて?」
てっきり、総志が全て管理するものだと思っていた真は、意表を突かれたような顔をした。
「調律者ラーゼ・ヴァールの討伐メンバーで、確定しているのはお前だけだ。だから、お前が持っておけ」
「それって、紫藤さんがラーゼ・ヴァールの討伐メンバーに入らない可能性もあるってことだよな……?」
総志の言葉を聞いて、真が思わず聞き返した。確定しているのが真だけ、というのは裏を返せば、総志が入らない可能性を示唆している。
「それはこらから考えることだ。ただ、6人という人数制限の中で、攻撃役は蒼井だけに絞るという選択肢も視野に入れている。それだけのことだ」
総志は、それだけ言うと、早足で隊の先頭へと行った。
(攻撃役を俺だけに絞るか……。確かに、それが一番なのかもな……)
真は総志の背中を見ながら、歩く速度を速めた。
2
「急げー! また天使どもが来る前に乗り込めー!」
センシアル王国騎士団の船の前で姫子を声を張り上げている。
シン・ラースの中心で、天使達の主撃を受けた後、船に辿り着くまでに接敵することはなかった。着た時は、ドラゴンが散発的に襲って来ていたが、それは、ドラゴンの数が多いのと、機動力が高いから。
天使は確かに強いが、個体数がドラゴンほど多くはなく、機動力も低い。そのおかげで、真達は再び天使と接敵することなく、船へと帰還することに成功したのである。
「これで、全員だな?」
総志が確認を取る。
「大丈夫です。全員乗ってます」
言われる前から点呼を取っていた椿姫がすぐに返事をした。どこかに集合したら、即人数確認をするというのは、『ライオンハート』に所属してから、毎回やってきたこと。もう、体に染みついていた。
「よし、船を出せ!」
低いがよく通る総志の声が響いた。センシアル王国の船乗りたちも即座に応答し、声を張り上げて、船を出航させる。
センシアル王国が誇る大型船は、シン・ラースの強風を帆が受け止め、全速力で死の大地から離れていく。
草木も生えない死の大地が、徐々に遠くなっていく。噴出するガスの音も、鳴り響く雷鳴も小さくなっていく。荒れる波を掻き分けて船は進んで行く。
ここで、ようやく腰を下ろすことができた。
生き残ったメンバーは、崩れるように甲板に座り込んでいる。立っているのは、総志と時也、姫子に悟。そして、真だけだった。




