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闇底の龍 Ⅲ

今、真にできる最大限の戦法は、剣聖ゼールを模範すること。一切の雑念を消し去って、相手を斬ることだけに全てを集中させる。


そうすれば、一時の間だけでも、人として戦うことができる。


ただ、問題なのは、長くは持たないということ。戦いによって活性化したベルセルクを、一時的に誤魔化しているだけに過ぎない。


限界が来たら、抑えていた反動で激しい戦いの衝動が襲ってくる。


そうなると、真は動けなくなる。力いっぱい歯を食いしばって、己の欲望に耐えるしかない。


(落ち着いたら、もう一度同じことをやる……。これの繰り返ししか……)


「少しは待ってやると言ったが、焦らされるのは好まんとも言ったよな? 何度も何度も汝の都合に合わせてやる義理はないぞ?」


固まったまま動こうとしない真に対して、ディルフォールが怪訝な表情で言って来た。


ディルフォールに余裕はあるが、それでも真の力を見たのだ。わざわざ相手のペースに合わせてやる必要もない。


「少しは……いいんだろ? じゃあさ、もう少し――」


「これ以上は待たぬわ!」


真の言葉を遮ったディルフォールは、思いっきり地面を蹴って、真へと飛びかかってきた。


本来の力である魔法も使わずに、爪を立てて真の胸部へと突き刺してくる。


「くっ……」


真は体を捻って避けるも、ディルフォールの爪が胸部を掠める。鎧越しに受けた攻撃だが、ゲームとしてのダメージ判定は入っているようで、焼けるような痛みを感じた。


(くそっ……、こっちはまだ、治まってないってのに……)


荒狂うベルセルクの衝動を無理矢理抑えているため、ディルフォールの単純な攻撃でさえ、今の真には避けることが難しい。


「何をしている? 先ほどと同じように戦えばよい! さっさと汝の力を見せぬか!」


今度は真の顔面を目掛けて、爪を突き立ててきた。動作自体は技術も何もない雑なものだが、如何せんドラゴンの筋力から繰り出される攻撃は、異常な速さがある。


「――ッチ」


真はぎりぎりのところでディルフォールの爪を躱すが、頬に爪がひっかり痛みを覚える。


ディルフォールはまだ攻撃の手を止めない。無造作に腕を振って真の体を斬り刻んでくる。


「……なめ……るなッ!」


<スラッシュ>


ここで、ようやく真が反撃に転じた。ソーサラータイプのディルフォールが、魔法も使わずに格闘戦で来ているのは、完全に真を舐めているからだ。


真の反撃はディルフォールに直撃。肩口から袈裟斬りにディルフォールの体を斬りつけた。


<フラッシュブレード>


真は止まらずに剣を横薙ぎに一閃。瞬くような剣がディルフォールを斬り裂く。


「…………」


<ヘルブレイバー>


何も考えず、真は下段から斬り上げるようにして、体ごと剣と飛び上がる。


剣聖ゼールを模倣とした無心の剣技。歓喜も興奮も狂気も全て心の中から排除して、ただ技だけを繰り出す。


「動きが止まっておるぞ?」


だが、ここで終わり。


ディルフォールは、空中で動きが止まっている真に向けて、力いっぱい拳を突き出してきた。


無防備に晒された真の腹部を、ディルフォールの拳がめり込む。


「ぐふっ……」


まるで鉄の柱が飛んできたかのような強烈な衝撃に、真は吹き飛ばされてしまう。


(……さっきよりも……きつい……。戦うことで……どんどんベルセルクが強くなってる……。抑えていられる時間も……短くなってる……)


肩で呼吸をしながら、真は活発になっているベルセルクを抑えるために必死で堪える。あのまま、次の攻撃に移行していれば、今度こそ抑えきることができなかったかもしれない。それくらい、危なかった。


「動きが止まっておると言ったところだろが!」


ヨロヨロと立ち上がる真に対して、ディルフォールが追撃をかけてきた。


乱雑に振り下ろされた拳が、真の顔を直撃。再び地面に転がされる。


この痛みもまた、真の中のベルセルクを激しくさせる要因にもなる。


そのせいで、まともに立ち上がることさえできなくなってしまう。


「立って! そして、我と戦え! それが、汝に許された唯一の生だ!」


ディルフォールは声を荒げて、真の肩を掴むと、大きく口を開けて首筋に噛みついてきた。


「ぐあああぁぁぁぁーーッ!?」


真から情けない悲鳴が上がった。何よりも原始的な戦い。喰うか喰われるか。痛みとともに、体中の血肉が湧き踊って来る。


手が折れるのではないかというほど、力いっぱい拳を握りしめて、真はなんとか耐えようとする。


「ふんっ……興ざめだな」


真を開放したディルフォールは、屑を見るような目で睥睨した。


「…………」


真は首筋を抑えながら、ただ地面を見ることしかできない。ディルフォールの方へと目を向けることさえできなくなっている。


「最初は期待しておったのだがな……。我を知っていてなお、恐れず挑んでくる汝を。だが、最初だけだったようだな。まるで、期待外れだ。結局、我の前に何もできずに這いつくばる」


ディルフォールは完全に興味を失くしていた。確かに力を持ってはいるようだが、まったく扱えていない。すぐに息切れを起こして、この体たらくだ。本気を出すまでの相手でもない。


「…………」


真は何も言い返さない。言い返す余裕がない。


「だが、恥じることはない。人間とはそういう存在だ。脆弱で、臆病で、卑屈で、情けない。それが人間というものだ。汝はよくやった方だと褒めてつかわそう。本来、人間ごときが、我に剣を向けることなど、怖くてできるわけもないのだからな」


「…………」


ここで、真が顔を上げた。自分を睥睨しているディルフォールと目線が交差する。


「だから、褒美をくれてやる。汝には苦しみのない死を与えよう。人間は誰しもが苦痛から逃れたいものだ。汝も逃げてよいのだ。少しばかしだが、我を楽しませた功績だ。矮小な人間ごときが、我の力を見て、なおも斬りかかって来るなど、普通ではできぬことだからな」


ディルフォールは慈愛にも似た表情で真を見下す。これで終わる。どれほどのものかと楽しみにしていたが、まあ、予想通りの結果だろう。一定レベルでの満足は得られた。


「ふふふ……。そうか……、そうだよな……」


真から意図せず笑いがこみ上げてきた。


「……ん? 死を前にして狂ったか? まぁ、良いだろう。臆病な人間がここまでやったのだ、壊れてもおかしくはなかろうて」


「そうだ。お前の言う通りだよ、ディルフォール」


真はそう言いながら、スッと立ち上がった。


「我の言う通り……?」


真が何を言っているのか分からず、ディルフォールが聞き返した。


「人間が脆弱で臆病ってことだよ。ほんと、情けない生き物だよな」


真がディルフォールの目を見て微笑んだ。


「壊れたのなら、すぐに死を与えてやろうか」


がっかりとした表情でディルフォールが真を見る。もう、この玩具で遊ぶことはできない。


「少しは待ってくれる約束だろ? だったら俺の話を聞いてくれよ」


「汝の話?」


「ああ、そうだ。まずは、一つお前に言わないといけないことがある――すまない。今まで悪かった」


頭を下げることはないが、真は謝罪の言葉を口にした。


「今更命乞いか? 我に刃向かった時点で、命乞いなど無駄だと分からぬか?」


苛立ち交じりにディルフォールが言う。ここまで来て命乞いとは、まさに脆弱な人間そのもの。慈悲をかけてやる必要すらないと思えてくる。


「そうじゃねえよ――約束しただろ?」


「約束……だと?」


「ああ、お前を満足させてやるってな……。それができなかった。それを詫びている」


「ふっ……。そのことか……。くだらぬ。汝には何も期待しておらぬ。それだけなら、もう終わりにするぞ」


ディルフォールの表情は変わらない。命乞いではなかったにしろ、そんな謝罪の言葉など聞きたいわけでもない。


「それと、もう一つ……。お礼が言いたい」


「礼を言いたいと……?」


これこそ何を言っているのか分からない。ディルフォールは訝し気な顔が更に濃くなる。


「そうだ、礼だ……。まさか敵に言われて気が付くとは――いや、そうじゃないな……。前に誰かに言われたような気がするが……」


知らないはずのことを知っている、あの奇妙な感覚を真は感じていた。既視感とはまた違う感じだ。


「何を言っているのだ?」


「まぁいい。兎に角だ、俺がここまで戦ってこれた理由――いや、戦ってこれた力だな。お前の言う通り、俺はただの人間だからな。死を覚悟して戦うなんて芸当、まずできはしない。どれだけ、強くなっても、死ぬかもしれない戦いからは絶対に逃げ出していたはずなんだ」


「そのことなら、恥じることはないと言ったはずだが? それが、か弱い人間というものなのだからな」


「ああ、そうだ。それが人間なんだ。俺もその人間なんだよ。だけど、ここまで戦ってこれた。どうして、俺みたいな臆病者が、ここまでこれたのかっていうことをさ……。まさか、お前の言葉で思い出すって言うか、気づかされると言うか……。そんなことになるとは思ってもいなかったんだよ」


吹っ切れたような顔で真が話を続けた。ディルフォールは相変わらず、真が言いたいことの意味を理解できてはいない様子。


「結局何が言いたい? 話を伸ばすことで、助かるかもしれないとでも考えておるのか?」


「違うよ。俺が戦うことができたのは、“あいつ”のおかげだったんだ。ただ、俺はあいつのことを勝手に怖がって、逃げて、拒絶してた。だけど、それじゃ駄目なんだって気が付いた。あいつは、ずっと俺のために力を貸してくれてたのにな……」


「そうか。汝が納得したのなら、もうよいな?」


ディルフォールはこれ以上真の妄言に付き合う気はない。死を前にして、心が壊れた人間など、いくらでも見てきた。どれもこれも付き合うに値しにない、つまらない存在だった。


「ああ、もういいよ。言いたいことは言えたしな」


「ならば、さらばだ。ひ弱な人間よ。少しばかりは楽しめたぞ」


ディルフォールは右手を掲げて、真の顔へと向け――


<スラッシュ>


そこに、真が袈裟斬りを放った。


「――ッツ!?」


想定外の攻撃に、驚いたディルフォールが後ろに飛び退いた。


「誰が負けを認めるって言った? 戦いはまだ続いてるんだ。ようやく見せてやれる。ここからが本当の戦いだ。悪いがもう手加減はできない! 今度こそ約束してやるよ、満足させてやるってな! だから、お前も俺を満たしてくれよ、ディルフォールッ!」


<バーサーカーソウル>


真の中にあるベルセルクの魂を呼び起こした。バーサーカーソウルは攻撃力が増大する代わりに、防御力が減少する、ベルセルクの象徴ともいうべきスキル。


「な……何が……!?」


急激な真の変化に、ディルフォールが目を見開いている。


「ずっと拒絶して悪かったな……。二度とお前を突き放したりはしないからさ。もう一度、一緒に戦ってくれよ。なぁ、狂戦士あいぼう!」


<ルナシーハウル>


真の全身を覆うようにして、赤黒いルーン文字が浮かび上がる。まるで、真の体自体が燃え上がる炎のように、オーラが包み込んだ。


ルナシーハウルは攻撃力とクリティカルヒット率を上げると同時に、防御力が半減する諸刃の剣。バーサーカーソウルと併用することで更なる攻撃力を手に入れることができるが、防御力は激減するため、非常に危険なスキルだ。


【アンノウンスキル ブラディメスクリーチャーを発動します】


その時、真の脳内に、直接声が響いた。



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