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高原 Ⅲ

        1



高原の夜は宝石箱をひっくり返したような満天の星を夜空に広げ、上を見上げれば、そこには視界を遮るものは何もなく、ただただ広い星空は、見上げているにも関わらず、このまま夜空の中に落ちていってしまいそうな錯覚すら覚えるほどだ。


満天の星空というものも、ゲーム化した側の世界では夜になればいつでも見れるもので、今更珍しいというわけでもないが、それでも、広大な高原の上で寝ころびながら見る星空というのは一味違った感覚を味合わせてくれていた。


とはいえ、真は10分もすれば見飽きていた。そんな時に真が『見飽きたな』と呟くと、美月と翼からはロマンがないだの、ガサツだの、夢がないだの、これだから男はだの、散々なことを言われた。どうやら女子連中は散々見てきた星空をまだまだ飽きることなく見ていられるとのことだった。多数派に真一人で勝てるわけもなく、大人しく引き下がって寝ることにした。


日が沈み切る前、野宿をするにあたって、寝ている間に誰か見張りをする必要があるという話になり、ジャンケンで見張りの交代の順番を決めることにした結果、最初の見張り当番は翼がやることになった。それもあったため、真は早々に寝させてもらうことにしたのだ。


真が寝ることしにしたのをきっかけに、美月と彩音も寝ることにした。順番では翼の次は彩音で、その次が真だ。こういう見張り番は最初にやるか最後にやるかが一番楽なのだが、ジャンケンで負けてしまったからには仕方がない。


ゲーム化した世界の側であるエル・アーシアの大地は、他のゲーム化した場所と同じく夜になっても視界は闇に包まれることはなく、一定のレベルで辺りを視認することができる。何か危険なモンスターが近づいて来ていてもある程度は目視で確認することができる。特に翼はアーチェリー部だったこともあり、視力には自信があるから任せておけと胸を張っていた。


もし何かあったら、翼の起こし方ならすぐに起きることができるだろう。嫌な思い出しかない起こされ方だが、こういう時には役に立つものだと他の三人はなんとも言えない思いで眠りについていたのだ。


今日一日エル・アーシアの大地を歩き続けて、特に危険なモンスターというのには遭遇しなかった。空を飛んでいる大型の猛禽類が襲ってこないか心配はあったが、こちらに向かってくることもなく、ただ上空を滑空していただけにすぎなかった。ただ、寝ている時に何かに襲われると危険であるため、念のために見張りをすることになったということだ。


そして、何事もなく山の間から穏やかな光を伴って朝日が昇ってきた。そう、本当に何事もなく、全員がぐっすりと眠って朝を迎えた。


「見張りが寝てどうするんだよっ!」


朝から真が声を上げていた。真は見張りの番をすることなく、大変よく眠ることができ、朝の光を浴びて起きることができていた。


「ごめん!」


両手を合わせて翼が他の三人に謝る。要するに最初の見張り番である翼がいきなり居眠りをしたため、次の見張りに交代することなく、朝まで寝ていたということである。翼は自分の失態を素直に謝っていた。


「まぁまぁ、そのへんでいいじゃない。特に何かあったわけじゃないんだしさ」


美月が真を宥めるように言葉をかける。全員が高原の真っただ中で夜中に寝ていたわけだが、問題になるようなことは起きていない。


「ごめん! ほんとごめん!」


翼が再度謝る。自分の失敗に対してはまず謝るという性格は翼の良いところではあった。ただ、猪突猛進に突っ込むところに反省がないのが難点だ。


「あ、あの、今度から、見張りをする時は二人一組でやるとか、翼ちゃんは最後にするとか考えましょう」


彩音も美月と同様に翼をフォローする。特に大きな問題があったわけではないが、こんな所で夜を全員が寝たままで過ごしたということには実はゾッとしていない。それをこの場で言うわけにもいかず、翼のフォローに回っていた。


「ごめん! 寝ころびながらずっと星を見てたらさ……いつの間にか寝てたのよね」


未だに両手を合わせたポーズを続けている翼が事の次第を話した。寝転がってたらそのまま寝てしまっただけの話ではあるが。


「ああ、もう、分かったよ! いいよ、別に何かあったわけでもないしな」


実害がないため、真としても、こうも素直に謝られては許さないわけにもいかない。脳筋ではあるが、非常に真っ直ぐで素直な性格の翼に謝られると真だけでなく、美月も彩音も弱かった。



        2



エル・アーシアの探索二日目の朝は騒がしく始まったわけであるが、朝食を食べて一度落ち着き、二日目の探索を開始すべく、真達はすぐに歩き出した。


二日目の天気も良い。多少雲が上空に出てはいるが、心配するような雲ではない。だが、真達4人は山登りをしたことがあるわけでもなく、ただ単に、晴れてるから大丈夫だろうくらいの知識しかない。それでも、山の天気は変わりやすいという言葉は知っており、少しは不安に思っていたが、それ以上の知識があるわけでもなく、結局は大丈夫だろうということで進むしかなかった。


「この探索を切り上げたらさ、一度、キスクの街に戻ってちゃんと準備しないといけないよな」


歩き出して2時間ほどが経過した時、真がそんなことを言いだした。


「そうよね。なんて言うか、無謀すぎたかもね。元々行けるところまでしか行かないってことにしてたけど、それでも、もっと準備をしっかりしておけば良かったね」


美月も真の意見に同意した。どこに何があるのか分からないエル・アーシアの大地。徐々に探索を範囲を広げて行って、情報を集める他に思いつくことはなかったため、こうして、歩いているわけだが、ゲーム化していなければこんなことはできない。アイテムを質量関係なく持てることと、体力が増強されているからこそできることだ。


「確かに、素人過ぎたわよね。私たちの他にここに来てる人っているのかしら?」


勢いに任せて突っ込む翼でもさすがに同じように思っているようだった。


「で、でも、ここまで来たんだし、もしかしたら、何か見つかるかもしれませんし、戻るにしてもまた、一日歩かないといけませんし……」


彩音としてもどうしていいか分からないでいた。真もそうだが、彩音も超インドア派。こんな原始的な旅の知識など必要として生きてはこなかった。


「そうなんだよな……。ここまで来ておいて、何も見つけずに帰るっていのも勿体ないって言うか……引き返すかどうか迷うんだよな」


真が首をひねりながら答えた。先がどれだけあるか分からない。もしかしたら、あと1時間もかからずに村があって、そこでミッションのことを説明してくれるNPCがいるかもしれないし、あと1週間歩き続けないといけないのかもしれない。先が見えないというのは、見えている時に比べて、異常なまでに距離が長いように思えてしまう。


「だったらさ、今日の日没までに何も見つけられなかったら引き返すってことにしない?」


美月が提案してきた。迷っているところに実に現実的な提案だった。要するに折衷案。妥協点とでも言うべきか。


「そうだな……それがいいかもな」


「うん……まぁ、私としてはもう少し探索してみたい気はするけど……いいわ、その案に乗るわ」


「私もそれで構いません」


特に反論はなく、美月の提案に三人が合意した。やはり、心の中には無茶をしてしまったという思いがあるため、美月が出してきた妥協案に乗っからないという選択肢は生まれてこなかった。



        3



今日一日だけ、探索をして何もなければ一旦引き返すと決めてからさらに4時間が経過した。途中昼の休憩を挟んではいるが、この日もほとんど歩きっぱなしだ。世界がゲーム化する前だったら、慣れない山の斜面でとっくに足に支障が出始めてリタイアしているところだろう。


ずっと山の斜面を下ってきて、見えるものは草と空がほとんどだった景色にもようやく木が入ってくるようになった。変わり映えのしなかった景色に少しでも変化が見えてきただけでも、進んでいるということの実感をもたらしてくれる。そして、遠くの方には森が見えてきた。そんな時、翼が突然大声を出した。


「あっ! ねえ、あれって、ほら、道じゃない!?」


翼が前方の森から少し外れた位置を指さした。


「ん? どれだよ?」


真が翼の指さす方向に目を凝らす。だが、道らしきものは見えない。


「あれよ、あれ! 見えるでしょ?」


「えっ? どれ?」


美月も翼の指さす方向を凝視するが道らしきものは見えない。


「なんで分からないのよっ!? あそこに道があるじゃない!」


「あ、あの、翼ちゃんは目が良いから、もっと近くに行かないと私達では分からないと思いますよ……」


彩音が補足説明を入れてくる。当然、彩音もまだ道が見えているわけではない。ただ、翼が見えると言ったのだから道はあるのだろう。


「そういや、昨日寝る前に目が良いって言ってたな」


真も目は良い方であるが、それでも見えない。一体翼の視力はどれくらいあるのだろうか? アーチェリー部で遠くの的を狙うために鍛えれたのだろうか。アフリカの原住民族は視力5.0以上ある人も多いということをTVで見たのを何となく思い出していた。


「昨日寝てた汚名を返上するわよ!」


得意げな表情で翼が声を出している。道を見つけたという手柄で、見張り中に寝ていたというミスをチャラにできるかというと、それは話が別と言うしかないが、手柄であることには違いなかった。


「とりあえず、行ってみるか」


翼が指さす方向に進路を変え、真達は翼が見えると言う道を目指して歩き出した。







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