死の大地 Ⅱ
1
総志の号令で全員が一斉に動き出した。千人規模を誇る『ライオンハート』と『王龍』の中でもさらに選りすぐりの強者で編成された部隊だ。その動きには微塵も無駄がなく、即座に陣形が組み立てられる。
美月達も陣形の中にしっかりと入っている。以前も『ライオンハート』と合同でミッションを遂行した経験と椿姫のフォローがあり、問題なく動くことができていた。
陣形の正面に立つのは総志と姫子、それに悟。さらにその両サイドから円を描くようにして、パラディンとダークナイトを配置。その後ろにはアサシンやベルセルクが待機し、陣形の中心はビショップとエンハンサーが配置される。
そして、さらに後ろはスナイパーとソーサラー、サマナーという隊列になっている。
この陣形での真の役割はというと、何もない。
真は完全に陣形の外に出ており、好き勝手に敵を倒すというのが、その役割だ。誰からも守れることなく、誰からの回復も受けない。誰も庇ってくれず、誰も援護してくれない。
ただ只管に敵を屠る。それが、もっとも被害を抑えることができる最善策であった。
「グオォォォーーーーーン!!!」
ドラゴンの群れが到着すると、大きな鳴き声を上げて襲い掛かってきた。まるで降り注ぐ雹のように、次々とドラゴン達が急降下してくる。
「うおおおおおーーー!!!」
それに対して、真が自分の判断で走り出した。
<スラッシュ>
先陣を切って突っ込んできた一匹のドラゴンに対して、真がカウンターの斬撃を喰らわせる。
<フラッシュブレード>
真は袈裟斬りにしたドラゴンには目もくれず、次の標的に向けて大剣を横一閃。
そのまま、横薙ぎに斬り裂いたドラゴンの脇を駆け抜けると――
<ヘルブレイバー>
頭上のドラゴンに向かって体ごと大剣を振り上げた。
ものの数秒で3匹のドラゴンが地に落ちる。だが、これだけでは止まらない。
<ソニックブレード>
真は飛び上がった体勢のまま、大剣を振った。狙いは一番距離の近かったドラゴン。切っ先から放たれた、音速のカマイタチが、ドラゴンの体を斬り裂く。
<クロスソニックブレード>
着地と同時に真が大剣を十字に振ると、見えない刃は、甲高い音を立てながら、次の標的となったドラゴンを斬り裂いた。
(やっぱり数が多いな……。広い場所だと、一匹ずつやるのは効率が悪いか……だったら)
真は一旦、攻撃の手を止めて、ドラゴンの群れの中を走り出した。
「ガアアァァァーー!!!」
すると、まだ標的を定めていないドラゴン達が一斉に真に狙いをつけだした。
それでも真はお構いなしに、ドラゴンの群れの中を走り回る。そんなことをすればどうなるか。他のドラゴン達も次々に真に狙いを付けていく。
ほどなくして、ドラゴンの群れが、濁流のように真に押し寄せてきた。
(これくらいでいいか)
真はそこで急に足を止めて方向転換。向かってくる大量のドラゴン達を正面から対峙する。
<ソードディストラクション>
接敵する直前、真は大きく跳躍すると、体ごと斜めに大剣を振り切った。
猛烈な爆発音と共に、辺り一面空間が震撼する。あまりにも激しい衝撃に対して、いかに強靭な肉体を持つドラゴンでも抗うことはできず、真の攻撃範囲に入ったドラゴン達は無残にも落ちていった。
真の一撃で、かなりの数のドラゴンを倒すことはできたが、それでもまだドラゴンは多く残っている。
大空を自由に飛び回るドラゴンに対して、真の手の届く範囲ではやはり狭い。
当然、真に狙いを付けなかったドラゴンも相当な数がいる。
「守りを固めろ! 無理にドラゴンを倒す必要はない!」
向かってくるドラゴンを見ながら、姫子が大声を張り上げた。その声に呼応するかのようにして、前衛のパラディンとダークナイトが盾を構えた。
「ドラゴンの殲滅は蒼井に任せろ!」
続けて総志も声を出した。パラディンやダークナイトに混ざって、総志も最前線に出てきてはいるが、目的は襲ってくるドラゴンを倒すことだけ。
押し返して、ドラゴンを倒しにいくことまではしない。ドラゴンの殲滅は真の仕事だ。
放っておけば、いずれ真がドラゴンを全て倒して戻ってくる。それまでの間、真の手から漏れたドラゴンの襲撃を凌ぎきればいい。
この作戦はかなり有効なものだった。
ビショップとエンハンサーからの手厚い支援を受けた前衛の守りはまさに鉄壁。そこにスナイパーやソーサラー、サマナーの援護が入ると、ドラゴン達は有効な攻撃を加えることができないまま倒されていく。
倒しきれずに、襲ってくるドラゴンの数が増えても問題はなかった。自由に動ける真が、ドラゴンの群れの背後を突くからだ。
真が来た時点で、ドラゴンの群れは瓦解。あっという間に蹴散らされて終わる。
鉄壁の守りと、圧倒的な真の殲滅力により、どんどんドラゴンの数は減っていく。
やがて、目算で数えられるほどの数にまで減ると、残ったドラゴンは文字通り尻尾を巻いてい逃げ出していった。
「ふぅ……。まあ、こんなもんか」
いきなりの襲撃ではあったが、特に問題なく撃退できたことで、姫子が一息ついた。
「相変わらず数が多かったのが厄介でしたね。こっちは150人しかいないわけですから、王都に来るようなレベルで襲撃されたら結構きついんじゃないですか?」
ドラゴンが飛び去って行った方を見ながら悟が言った。選りすぐりの150人とは言え、数の差があるとかなりきついのは確かだ。
「そうだな……。さっきの襲撃は撃退できるだけの数しかいなかったが、奥に行けば、もっと多くのドラゴンが出て来るかもしれねえな……」
「それは大丈夫だと思うぞ」
そこに、戻ってきた真が入ってきた。
「大丈夫とは、どういうことだ? 何か根拠でもあるのか?」
姫子と同じく最前線で戦っていた総志が真に訊いた。
「刈谷さんが言った通りだ。こっちは150人しかいない。だから、150人に合わせた数の敵が襲ってくる」
「何言ってんだ、お前? 敵の本拠地に乗り込んでるのに、なんでわざわざ、こっちの数に合わせてくれるんだよ? 馬鹿じゃねえのか?」
真の回答に対して、姫子が文句をつけてきた。
「ゲームだからだよ……。ゲームとしてバランスを取るために、基本的には150人でも倒せるだけの敵しか襲ってこない」
「はぁ? またゲームの理屈かよ……。そういうところが意味不明なんだよ……。おい、悟。お前はどう思ってるんだ?」
訝し気な顔をしながら姫子が悟の方へと目を向けた。
「……多分ですけど、蒼井君の言ってることで合ってると思います。王都やヴァリアが襲われた時は、こちら側に人数制限はありませんでしたしね。ですが、今は150人という制限がある。となると、ゲームとして成り立つ範囲でしか、ドラゴンは襲ってこないということで間違いないかと」
少し考えてから悟は結論を出した。国の主要都市を一つ落とすだけの戦力で来られたらどうするか、とういう懸念があったのだが、真の考えを聞いて、それは杞憂だったと思えた。
「それよりも、問題は休憩場所の方ですね……。こんな所でも、僕達はどこかで休憩しないといけない。安全な場所があるかどうかも分からないですから……」
そこにやってきたのは時也だった。回復役として前線からは少し下がっていたが、戦闘が終わって、やって来たところで、今の話が耳に入ってきた。
「そうだな……。確かにドラゴンも来ない場所で、しかも落雷もガスの噴出もない場所なんて、あるとは思えないな……」
真は赤黒い髪をかき上げて嘆息した。見渡す限り不毛の大地。有毒のガスがそこら中で噴出しており、大地の裂け目からは流れる溶岩と煙が立ち込める。見上げればどす黒い雲と稲光。どこに休める場所なんてあるのだろうか。
「だったら、少しでも休めそうな場所があれば、こまめに休憩を取るようにしよう。その都度、交代で仮眠を取る。異存はあるか?」
総志が案を出してきた。これは手堅い提案と言えるだろう。
「あたしはそれで構わない」
「僕も姫と同意見です」
姫子と悟はすぐに同意をする。
「それしかないだろうな……」
真も賛成の意を示した。総志の案以外に考えられる方法はない。
「よし、それじゃあ、こんな所に留まっていても仕方ねえ。出発だ!」
姫子は気合を入れて声を上げた。その一言で移動が決まると、即座に動き出した。
2
150人のディルフォール討伐メンバーは隊列を組んで、死の大地を行進していた。固まった溶岩はゴツゴツとしていて、凹凸が激しい。足の裏に伝わってくる感触も非常に硬い。
かれこれ半日になるだろうか。途中で休憩できそうな場所を探すも、どこも同じような場所ばかり。結局、碌に休憩をすることもできず仕舞い。
そんなこちらの事情など、空を飛ぶドラゴン達には知ったことではない。散発的な襲撃は何度もあった。
それでも、数がそれほど多くなかったことと、ガチガチに固めた陣形に加えて、殲滅はほとんど真に任せることで、危なげなく撃退することができていた。
ある意味では順調と言えなくもない進行状況。そんな中、進路の先に何か建物のような物が見えてきた。
「止まれ!」
総志のよく通る声が響いた。低い声音のなのだが、ダイレクトに耳に届くような声だ。その声に、隊列全体が止まる。
「なんだあれ?」
姫子も進行方向にある建物を見つけていた。まだ距離は遠いため、何なのかは分からないが、大きな建造物であることは見て取れる。
「人工物……っていうか、現実世界の建物だな……」
真が目を凝らして、視線の先にある建物に注視する。
「かなりの規模がありそうですが……、もう少し近づいてみないと分かりませんね……。どうします? 行ってみますか?」
悟も目を凝らしてみるが、この距離では、まだよく分からない。
「そうですね……、行ってみましょう。現実世界の建物なら、休憩できるかもしれません」
そろそろ休憩を挟みたいと思っていた時也には朗報だった。現実世界の建物だとしたら、おそらくはゲーム化の浸食を免れた場所なのだろう。その建物の中に入ってしまえば、ドラゴンの襲撃を受けない可能性もある。
「それがいいだろう――目標は前方建造物。安全の確認ができれば、そこを拠点とする」
即断即決。総志が声を上げると、再び隊が動き始めた。
安全な場所があるかもしれないという期待からだろうか、全体の足並みは若干早くなっているような気がする。
そのまま、どんどん建物に近づいていくと、次第にその全貌が明らかになっていく。
その建物は白と青を基調とした中世西洋風の建物。正面は大きなアーチ状になっており、横に伸びている壁は端が見えないくらいに長くて、広い。
だが、全貌はそれだけではない。見えているのはあくまで正面ゲート。現実世界の建造物があまりにも広すぎるため、視界に収めることができる範囲が、それだけしかないのである。
「遊園地……!?」
真が思わず声を上げた。確認できた“それ”は、どう見ても巨大遊園地の正面玄関だった。




