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調査報告

センシアル王国の中心、王都グランエンド。大いなる終着と名付けられた都市は、まさにセンシアル王国の栄華を象徴する街並みと言っていいだろう。


その王都のさらに中心には国王が住まう王城があり、純白の城の美しさは、人々から貴婦人に例えられることもある。


そのため、王城の周辺は厳格に管理されており、王城から一定の区画は、一般人だけでなく、貴族であっても商売どころか建物を建てることも許されない。


だが、例外はある。王室に近しい貴族がそれにあたる。そして、さらに例外中の例外。王室の者でも、貴族でもない商人で、王城前広場に隣接して建物を建てるだけでなく、商売まで許された唯一の存在がある。


ホテル『シャリオン』がその唯一の存在だ。そのホテルの歴史は非常に古く、センシアル王国がただの小国だった時代から、資金面で国を支えてきた経歴があり、センシアル王国が、ここまでの大国になる以前から、この場所でホテルを経営していたという経過がある。


だから、このホテル『シャリオン』は完全に王室若しくは貴族の御用達。一般人では絶対に手の届かない料金設定になっている。では、お金があれば一般人も利用することができるのか。それはない。たとえ一般人がお金を積んでも、紹介がなければ利用することはできない。


そんな、とてつもなく格式の高いホテルの一室を我が物顔で使っている人間がいた。その人間は王室の者でも貴族でもない。ましてやセンシアル王国民でもない。現実世界の人間だ。


既に常連となったギルド『ライオンハート』と『王龍』。この二つのギルドは、センシアル王国領内に支配地域を持っている。そのため、特別待遇でホテル『シャリオン』の利用を許可されているのである。


コンコンコンコン。


ホテル『シャリオン』にある会議室。そのドアの向こうから、品のあるノックの音が聞こえてきた。


「入れ」


いつもの会議室のいつもの席に座る総志がノックに返事をした。現在、この会議室にいるのは、『ライオンハート』の幹部と『王龍』の幹部、ざっと20人ほどだ。


「失礼いたします。シドウソウシ様、お客様をお連れいたしました」


入ってきたのは白髪の執事。ホテル『シャリオン』に努める執事で、今では『ライオンハート』の専従執事となってるNPCだ。


「第二部隊所属、高木及び堀北。ただいま戻りましたーッ!」


高木と名乗ったパラディンの男は大きな声で入ってきた。


「高木さん、会議の場です。節度を弁えてください」


一緒にいる堀北と呼ばれたビショップの女性が、呆れた顔で睨んだ。ただでさえ、格式高いホテルの一室にいるのだ。置かれている調度品に派手さはないが、超一級品であることは素人が見ても分かる。中央にある大きな会議用のテーブルなんて、木目に途切れがない。樹齢1000年は超えるであろう大木を、丸々使っているような物が、平然と置かれているような場所だ。


「はははッ! 大丈夫だ堀北、それくらい分かっているさ!」


高木が大きな声で返した。音響も考えて造られているだろう、高木の声はいつにも増して響いている。


「何も分かってないじゃないですか……」


堀北は溜息をつきながら項垂れた。


「高木、堀北。長旅ご苦労だった。何より、無事に帰還できたことを嬉しく思う」


高木の声量のことなど気にも留めずに、総志が労いの言葉をかけた。


「はっ、ありがとうございます」


高木が一礼すると、堀北も一緒に一礼した。


「では、早速ですが、高木さん。シン・ラースの調査報告をお願いしたいところなんですが……、早かったですね?」


時也は眼鏡の位置を修正しながら疑問を口にした。


「ええ、まあ……そのことなんですが……」


高木の声は大きいままだが、少し言いにくそうにしている。


「予定では、確かあと2週間はかかると思ってましたけど? シン・ラースはそんなに小さい場所だったんですか?」


この質問は悟からだ。報告に来ているのは、探索部隊の代表である『ライオンハート』の高木だが、『王龍』からも人員を派遣している。


「実はですね……。シン・ラースの中に入ることを断念して帰還いたしました……」


高木は申し訳なさそうに回答した。


「中に入ることを断念した?」


この回答に姫子も眉間に皺を寄せた。この高木という男は、シン・ラースの調査に行って、その中に入ることを断念したのに、あれほど威勢よく報告に来たのか。


高木の横にいる、堀北というビショップが項垂れているのは、単に高木の大声が気になってのことではないようだ。報告内容を知っているから、高木に声量のことを言っていたのだろう。


「経過を報告しろ」


総志は静かに口を開いた。調査を断念したということは、何かしらの不都合があったということだ。その理由を聞くまでは、高木の処分は保留となる。


「はい。我ら『ライオンハート』と『王龍』の合同探索部隊、約500人は、センシアル王国騎士団の協力の下、船でシン・ラースの調査に向かいました」


高木は真剣な面持ちで報告を始めた。


「アーベルさんも同行してもらいましたので、シン・ラースの場所は予定通り発見することができたんですけど……」


高木に続いて堀北も報告をする。ただ、その表情は後ろめたさがあるようにも見える。


「何があった?」


総志は淡々と話を続ける。こういうところは、慣れていない者からすると威圧的に感じてしまうところだ。現に、堀北は無意識に一歩下がっている。


「前情報では、シン・ラースの奥地に深淵の龍帝ディルフォールの住処へと繋がる場所があり、そこから先は150人の人数制限があるかもしれないと聞いておりました。ですから、我々は、その奥地へのルートを確保することを最終目標と定めておりました」


堀北と違い、高木は総志に威圧されることなく報告をした。そして、そのまま高木が続ける。


「そして、シン・ラースへ上陸する段になってから問題が発生しました」


「問題ってなんだよ?」


高木の話を遮る形で姫子が口を挟んだ。


「姫、その報告を今からするところなんですよ」


悟が余計な一言を姫子に言う。こういう、言わなければそのままスルーできることを、わざわざ悟は言ってくるところが、姫子は嫌だった。


「お前はいちいち、うるせえな! 黙ってろ!」


堪らず姫子が悟を睨む。悟がこういう反応を期待していると分かっているのだが、腹が立つので押さえられない。


「はいぃ、黙ってますね」


悟が嬉しそうに返事をした。それに対して、姫子は舌打ちをする。


「それで、問題なんですが……。シン・ラースに上陸できるのが150人までということが分かりました」


姫子と悟のやり取りは無視して高木は報告を続けた。


「シン・ラースに上陸できるのが150人まで!? どういうことですか? 蒼井君の話を聞いている限りでは、シン・ラースに行くこと自体は無制限のはずでは? 最奥からさらに先に進めるのが150人までのはずですよ?」


前情報と違う報告に時也が若干驚きの声を上げた。


「ええ、そう聞いていたので、シン・ラースには上陸できると思っていたんですが……。シン・ラースに着岸する前に、急に船が止まりまして、あのいつものメッセージが届きました」


高木がその時のことを思い出しながら話をした。シン・ラースの大地が見え、もうすぐ到着というところで、船がピタッと止まった。海上であるにも関わらず、まるで動画を一時停止させたかのように、船がピタリと止まり、しかも慣性の法則も働いていなかった。おかげで、急に停止しても倒れることはなかったのだが、奇妙で気味の悪い体験だった。


「いつものメッセージというと、バージョンアップの時に届く、あのメッセージですか?」


ずれた眼鏡を直しながら時也が確認をした。


「はい、そのメッセージです」


「メッセージの内容は?」


「『死の大地シン・ラースへ入場しますか? はい・いいえ 0/150』という内容でした」


高木の報告を聞いて、会場内が一瞬静まえり返った。会議に集まっている両ギルドの幹部達も顔を顰めている。


「あの、私たちもどうするか議論しました……。ですが、シン・ラースに上陸するところで、人数制限がかけられていて、もし、入ったが最後、ディルフォールを倒すまで出ることができなくなったらどうするのか、という懸念を払拭することができませんでして……」


堀北が続けて現場の報告をした。シン・ラース探索部隊は何も怠慢で帰ってきたわけではない。想定外の事態に予定を狂わされたのだ。


「そうか。シン・ラースに上陸すること断念したのは正しい判断だった。蒼井もいない状況で、人数制限のあるエリアに入るのは危険すぎる。堀北が言うように、ディルフォールを倒すまで帰れないことも、ゲーム化した場所では十分あり得ることだ。お前たちに探索を任せたのは正解だったと言えよう」


総志が口を開いた。声音は低いが威圧感は感じられない。総志にしては優しい声だった。


「あ、あの……、その……ありがとうございます」


堀北は思わず頭を垂れていた。周りからは怖がられている総志だが、同時に絶対的な信頼を得ている。強さと冷静な判断力。そして、仲間を大切にするところが、人を惹きつける。堀北は改めて、総志の器の大きさを知った。


「さてと、そうなると厄介だな。シン・ラースに上陸したら、深淵の龍帝様をやらないと帰れないっていうのは、あたしもそう思う。どうする、紫藤さん? 150人を選抜して乗り込むか?」


姫子が難しい顔で言った。姫子はゲームのことは全く分からないが、悟の話では、敵がいる部屋に入ると、その敵を倒すまで部屋から出れないというのは、ゲームではお決まりのことらしい。


現に、ミッションではゲームと同じ様に、敵を倒すまで部屋の中に閉じ込められるという経験を何度もしてきた。


「それしかないだろうな。シン・ラースに上陸したら、ディルフォールを倒すまで脱出不可能であるという想定で動く」


「それが妥当かと思います。そうなると、かなりの人数をふるい落とさないといけませんね」


悟も総志の意見に同調しつつ、課題も指摘する。一応、150人という制限は頭にあったので、ある程度の目星は付けていた。


「ああ、そうだな。訓練で成果が出ていなかった者を脱落させるのではなく、上位者150人を選ぶ方針に変更する――高木、堀北。長旅で疲れているだろうが、明日からお前達も訓練に参加してくれ。そのうえで、討伐メンバーを決める」


「ええ、構いませんよ。予定ではもっと長い旅になるはずでしたしね。疲れという点で言えば問題ありません」


総志に指示に対して、高木が快諾した。


「私も異存はありません。結局、シン・ラースには上陸できませんでしたから。戦闘というのは一切ありませんでしたし。訓練くらい問題ありません」


堀北も、高木同様に快諾。


「ああ、頼んだぞ――それでは、方針の変更に伴い、今後の予定について調整を行う」


高木と堀北の返事に、総志は満足して声をかけた。その後の会議は、いつも通りの仏頂面に戻り、変更となるであろう予定について、話し合いが行われた。




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