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被害報告 Ⅰ

        1



ヴァリア帝国の帝都イーリスベルクが、深淵の龍帝の軍勢により壊滅させられたことを報告するために、真達は赤嶺姫子率いるギルド『王龍』と共にセンシアル王国へと向かった。


無数のドラゴンの大群により、ものの数時間でヴァリア帝国の皇城は陥落。見る影もない程の瓦礫と化してしまった。


一番被害が大きかったのは皇城だが、帝都イーリスベルク内もあちらこちら損壊している。そのため、交通網が麻痺。帝都イーリスベルクから出る馬車も、他所からやって来る馬車も全て止まってしまっている。


結局、真達と『王龍』の全員は、徒歩でセンシアル王国へと向かうことになった。


以前、真達がミッションのために使った密入国ルートではなく、正規のルートを通るため、山越えをする必要もなく、順調な旅程となった。


とはいえ、徒歩は徒歩。馬車よりも時間がかかるため、正規のルートを急いだとしても、センシアル王国の王都グランエンドに付いたのは5日後のことだった。


姫子と悟は、グランエンドに着くや否や、休むこともせずに『ライオンハート』の紫藤総志に会いに行った。その間、真達は宿で待機。


そして、次の日の明朝、『ライオンハート』の連絡係りが真達を訪ねてやって来ると、その日の正午から緊急会議を開催することが伝えられた。



        2



朝から出ていた雲は次第に厚さを増していき、正午前には雨が降り出してきた。鉛色の雲は重くのしかっかるようにして空を覆っている。


湿り気のある鈍よりとした空気が漂い、気分まで重くなってくる。だから、雨の日は嫌いだ。真はそんなことを思いながらも、会議の席に着いていた。


今、真がいるのは、ホテル『シャリオン』の会議室。王室から直々に、王城前広場に隣接して経営することを許可された超豪華ホテル。王都内でも一番ランクの高いホテルだ。


その高級ホテルが『ライオンハート』の同盟の会議の場所として使われている。当然、使用料は馬鹿みたいに高い。


それが可能なのは、ギルド『ライオンハート』がセンシアル王国領内で支配地域を持っているからだ。当然、金銭的な収入も、一般人には到底稼ぐことができないような額が、税収として入って来る。名実ともに『シャリオン』に認められたギルドが『ライオンハート』ということだ。


そのホテルの会議室に、だんだんと人が集まって来ている。全員が『ライオンハート』の同盟ギルドのマスターやサブマスター、それにギルドの幹部達だ。


真がギルドマスターを務める『フォーチュンキャット』は5人しかいない少数ギルド。そのため、バージョンアップに伴う緊急会議に参加できるのは、マスターである真とサブマスターの美月のみ。翼や彩音、華凛は宿で留守番だ。


こういう場が苦手な真は毎回居心地が悪そうにしている。今回は美月も横にいるのだが、美月も緊張している様子だった。帝都イーリスベルクが陥落したのだから、その緊張も当然と言えば当然のことか。


「大変だったみたいだな、蒼井真」


息が詰まりそうな様子の真に一人の女性が声をかけてきた。ギルド『フレンドシップ』の御影千尋だ。長い黒髪をポニーテールに纏めた姿は、凛とした美しさがある。


「大変だったなんてもんじゃないよ、こっちは……」


うんざりとした表情で真が答えた。


「イーリスベルクが落とされたことは僕も聞いたよ。かなりの数のドラゴンが、いきなり現れたんだってね。広いイーリスベルクの中じゃ、空を飛べるドラゴンが有利なのは仕方のないことだよ」


同じく『フレンドシップ』に所属している、サブマスターの小林が真をフォローする。千尋も小林も、バージョンアップがあった日は、センシアル王国領内にいたため、帝都イーリスベルクの襲撃に関しては、伝聞でしか知らない。


「完全に数の暴力と機動力で押し負けた……。不意打ちだったことも重なって、ほとんど何もできないまま終わってしまったっていうのが実状だよ……」


溜息と共に真が言う。ドラゴン個体の強さは、真からしてみれば単なる雑魚でしかない。だが、空を飛んでいる敵に手を出すことはできないし、移動速度も段違いで早い。自分の土俵に立てないと、ここまでやりにくいのかと痛感させられた。


「その辺りの詳しい情報は、この後の会議で正式に聞かせてもらう。兎に角、無事に戻ってこれて良かったな」


千尋は一言労いの言葉をかけると、自分の席へと向かった。その後を小林もついて行く。


(詳しい情報か……。俺の知ってることは全部話さないとな……。色々聞かれるんだろうな……。気が重い……)


真がまた溜息をついた。帝都イーリスベルクが陥落したのは、今回のバージョンアップが原因だ。深淵の龍帝ディルフォールが復活。それは、このゲーム化した世界の元となった『World in Birth Online』に登場した強敵である。


真が装備しているのは、インフィニティ ディルフォールグレートソード+10などの最強装備。これは、『World in Birth Online』で、深淵の龍帝ディルフォールを倒して手に入れた逸品をさらに強化したものだ。それをゲーム化した世界に引き継いで使っている。


今は、装備の見た目を変更するアイテムで、普通のアイテムにしか見えないようにしている。そのことは報告しないとしても、元となったゲームについては、全て話さないといけないだろう。


それにイルミナ・ワーロックのこと。深淵の龍帝ディルフォールの軍勢に交じって、あの女の姿があった。そのことも報告しないといけない。


この大勢集まる会議の場で。かなりの注目を集めながらの報告となるだろう。真は考えるだけで気が重かった。


(美月からもある程度のことは報告してもらうことになるか……。いつになく緊張してるみたいだけど……。こういう場では、俺は力不足だ……すまん)


真は黙ったままの美月を横目で見ながら、口下手な自分では力になれないことを懺悔する。


その時、ざわついていた会議室が一瞬で静まり返った。真はふと顔を上げると、丁度、『ライオンハート』のマスター、紫藤総志とサブマスターの葉霧時也がやってきたところだった。


総志はスタスタと上座までいくと、周りを見渡しながら口を開いた。


「『ライオンハート』の同盟ギルド諸君、緊急の招集に応えてくれたことに礼を言わせてもらう。ただいまより、バージョンアップに伴う緊急同盟会議を開会する」


低いがよく通る声で、総志が開会を宣言した。


「それでは、早速ですが、今回の会議の趣旨について説明いたします」


時也が司会進行を引き継いだ。そして、そのまま話を続ける。


「約1週間ほど前にバージョンアップがあり、『死の大地 シン・ラース』の追加と『深淵の龍帝ディルフォールの復活』、この2点が実施されました。そして、ヴァリア帝国の帝都イーリスベルクが、この深淵の龍帝ディルフォールなる者の軍勢によって陥落させられたというメッセージが全員に届いています。今回の会議では、まず情報の共有をします。そのうえでどのように対策をするかは、その後検討する予定です。それでは、帝都イーリスベルク陥落について、『王龍』から報告をお願いします」


時也は一気に会議の趣旨を説明すると、『王龍』へと報告を求めた。


「はい。では、現地にいた『王龍』から報告をさせていただきます」


立ち上がって口を開いたのは悟だった。会議の場での報告やギルドとしての意見は、サブマスターの悟が代表することが多い。姫子では正式な場で、きちんとした形式での報告をすることが難しいからだ。


「最初に言っておきますが、かなり急なことでしたので、こちらとしても十分な対応ができなかったという点を考慮してお聞きください」


悟は完全に会議モードに入っていた。普段の道化じみた口調はない。


「我々『王龍』は帝都イーリスベルクに滞在しておりましたが、バージョンアップがあった日は、ヴァリア帝国領内の探索のため、『王龍』の大半は帝都の外にいました。帝都に残っていたのは、『王龍』の中枢と、たまたま戻ってきていた探索チームのみ。そこにバージョンアップが実施され、内容を精査する間もなく、突然ドラゴンが帝都を襲撃しにきました」


「突然と仰いましたが、何か予兆のようなものはありましたか?」


悟の報告に対して、時也が質問をした。


「予兆ですか……。いえ、特に気になることはありませんでした。何の前触れもなく、無数のドラゴン達が帝都の空を埋め尽くした、というのが実際に見たことです」


「ドラゴンの数と個体の強さを教えていただけますか?」


「ドラゴンの数は……そうですね、数えきれないほど。1000や2000といった数ではなかったと思います。ほとんどのドラゴンは地上に降りて来ずに、皇城に直行してましたので、我々が相手にしたのは、足止め要因のドラゴン達といったところでしょうか。ドラゴンの強さについては、個体差があります。多くのドラゴンは少数で対応できるくらいの強さですが、中には大型の個体もいて、その個体に対しては、ある程度纏まって戦わないと厳しいと思われます」


「後から届いたメッセージには、『深淵の龍帝ディルフォールの軍勢が、ヴァリア帝国の皇城を陥落させました』と記されていましたが、これはバージョンアップがあってから、数時間後のことです。傀儡政権となったとはいえ、ヴァリア帝国の皇城がこうもあっさりと陥落した原因は何だと思われますか?」


時也はさらに突っ込んだ質問をした。


「ドラゴンの数があまりにも多かった。というのが一番の原因だと思います。しかも、ドラゴンは空を飛べます。地上にいる我々では、飛んでいるドラゴンに追いつくことはできない。さらに、イーリスベルクの街中にもドラゴン達が襲撃をしてくるため、ドラゴン達の狙いが皇城であると気が付いた時にはもう手遅れでした」


「なるほど……。では、なぜドラゴンの群れは皇城を狙ったのか。その理由はどうですか?」


「ドラゴンが皇城を狙った理由は不明です。単に人を襲いに来たというのであれば、イーリスベルクの街中で暴れまわるはず。ですが、ドラゴン達は皇城を落としたらすぐに立ち去っていきました。何か意図的なものがあるのではと考えていますが、仮設すら立てられていないのが現状です」


「そうですか……。分かりました。報告ありがとうございます」


時也は眼鏡の位置を直しつつ、報告内容を反芻する。だが、やはり、分からないことだらけ、というのが今の状況だ。


「それでは、続いて、現場にいた『フォーチュンキャット』から報告をお願いします」


そして、司会を務める時也が真の方を見ながら、報告を促してきた。




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