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災禍 Ⅵ

「赤嶺さん! 無駄ってどういうことですか!? 探してみないと分からないじゃないですか!」


今度は翼が口を開いた。まだ諦めないと決めた矢先に、その希望を否定された。相手は年上だが、堪らずに抗議する。


「あたしたちも城に入れる場所をくまなく探したさ。でもな、どこにもなかったんだよ」


これが現実だと分からせるため、姫子が冷たく言い放つ。


「そんなの、まだ探してない場所もあるんじゃないんですか?」


すかさず美月が反論する。


「こっちは、お前らが来る前から探してたんだ! でもな、そんな場所なかったんだよ! あたしら『王龍』で探したんだぞ! お前ら5人しかいないのとはわけが違うんだ! それでも見つからなかったんだよ!」


苛立ちから姫子が声を荒げた。姫子だって、この惨状を目の当たりにして、できることは精一杯やった。その結果、諦めるしかないという結論に達したのだ。姫子だって悔しい気持ちで一杯だった。


「……ッ」


流石に美月も反論することができなかった。『フォーチュンキャット』と『王龍』では、その構成人数が桁違いだ。姫子の後ろに控えている『王龍』のメンバーはざっと見ただけでも百単位の数だ。


「まあ、お前らが探したいなら、あたしは止めはしないがな。ただ、一つ言っておく、これからすぐにセンシアルに戻って今回の件を紫藤さんに報告する。何が大事なのか考えて行動しろ。それでも、城に入りたいなら好きにしろ」


姫子が突き放すような口調で言う。それは、物事には優先順位というものがあるからだ。美月や翼の気持ちも分かるが、優先順位が入れ替わるようなことではない。


「一つだけ教えてください……」


俯きながら美月が言う。もう諦めるしかないという事実に抗うように質問をした。


「なんだ?」


「アーベルさんとロズウェルさんは無事なんですか?」


顔を上げて、美月が質問をする。皇城に来た理由の一つが、アーベルとロズウェルの安否確認だ。


「それは分からない」


答えたのは『王龍』のサブマスター、刈谷悟だった。


「ドラゴンに襲われた時に、どこにいたのかとか、そういうでもいいんです」


『分からない』と答える悟るに対して、美月がさらに質問を重ねる。


「悪いけど、何も分からないんだよ。ただ、言えることは、生きてるなら生きてるだろうし、死んでるなら死んでるってことかな」


「……?」


悟の回答に美月や翼が眉間に皺を寄せている。悟は当たり前のことを言っているに過ぎない。そんなこと言われるまでもないことだ。


「そういう顔になるよね」


少女達が嫌な目を向けると、悟は満足したような顔になった。


「あの……何を言ってるのか分からないんですけど……」


本当に何を言っているのか分からない美月が訊き返した。悟にはあまり関わりたくないが、答えは教えてほしい。


「僕が言ってることは、蒼井君ならもう分かってるんじゃないかな?」


悟はそう言うと、美月達は一斉に真の方へ目を向けた。


「……ゲームのイベントってことだろ? ここで死ぬことになってるなら、絶対に助けることはできない。逆に、生き残ることになってるなら、助けなんて必要ない。勝手に生きている」


真が淡々と答えた。皇城がドラゴンに陥落させられたというメッセージが来た時から薄々勘づいていたことだ。そして、城に見えない壁があることで結論を出した。


「何それ……? 私たちが必死で助けようとしたのも無駄ってこと?」


出て来た回答に対して、翼は腸が煮えくり返る思いだった。何としてでも助けようとしていたことが、これではまるで茶番ではないか。


「まぁ、蒼井君には答えにくいだろうから、僕が言うけど。つまりは、無駄ってことだね。ロズウェル氏もアーベル氏もNPCだろ? つまり、ゲーム側の人間ってことだ。だから、ゲームによって生きるも死ぬも決められてる。その生き死にに、僕達が介入できることになってないと、助けることも見殺しにすることもできない。ここに見えない壁があるってことは、要するに僕達現実側の人間が関与することはできないパターンってことだね。これを姫に説明したから、こんなに不機嫌なんだよ」


悟が姫子の方を見ると、案の定睨み返してきた。その目つきに悟はまた嬉しそうにする。


「城に居た人達がどうなったのか、刈谷さんは心配じゃないんですか?」


悟の態度に対して、翼が噛みつき気味に口を開いた。翼が目上の人に対して反抗することは珍しい。だが、ドラゴンの群れによって壊滅させられたヴァリア帝国の皇城を前に、軽々しく話をしている悟の姿勢がどうしても納得いかなかった。


「彼らはゲームのNPCだからね。本物の命があるわけじゃない。それに、ロズウェル氏もアーベル氏も直接会ったことがない。姫から話を聞いていたくらいにしか知らない人だ。それよりも、今回のバージョンアップで現実側にどれだけの影響が出るかの方が心配だね」


悟はあくまで正論で話をする。感情論はしない。確かに言っていることは間違いではない。だが――


「そんな理屈で納得するんですか!? 確かに刈谷さんはアーベルさんもロズウェルさんも知らない人かもしれないですけど、私たちは一緒に戦った仲間なんです! ゲームだからとかで引き下がるわけにはいきません!」


翼は感情論で話をする。悟の言う合理的な論法では通らない、人の気持ちというものがある。


「さっきも姫が言ってただろ? 何が優先なのかを考えて行動してくれって。ゲーム側が設定した、侵入不可の場所に入る方法を探すのが優先なのか、センシアルに戻って、今後の対策を練るのが優先なのかは、考えて決めてもらったらいいと思うよ。僕たちはセンシアルに戻るけどね」


翼の反論など、悟からしてみれば子供が駄々をこねている程度でしかない。ここまで言って、まだ反論してくるようなら、もっと具体的に言ってやればいい。人の形をしたモノと本当の人の命のどっちが大事なのかと。


「……ッ」


翼も頭では理解してしまった。心では納得していないが、悟が言っていることが正しいと理解してしまったため、何も言い返せなくなってしまっている。


「悟、それくらいにしておけ」


見かねた姫子が悟を制した。


「姫が言うなら下がりますね。ただ、僕は別に嫌われても構わないんですけど」


悟は悪びれることもなく言うと、軽い足取りでその場を離れていった。大勢いる『王龍』のメンバーの中に紛れて姿が見えなくなる。


「赤嶺さんだって、刈谷さんの言うことに納得はしてないんですよね? だから、そんなに怒ってるんですよね?」


この質問は美月からだ。悟が去っていった方を見ながら口を開いた。


姫子が現れた時から機嫌が悪かったのは、悟がゲーム側の都合で、NPC達に手を出すことができないと説明されたからだ。その事実を受け入れないといけないことに、姫子も内心モヤモヤしているのだ。


「納得はしていない。だけど、やらないといけないことは悟が言った通りだ。それはお前らも分かってるだろ?」


やや落ち着いた声で姫子が返した。身内ながら、悟の言い方は非常に腹が立つが、言っていることはやはり正しい。


「それは……。そうですけど……」


美月も何が優先なのかは理解している。姫子も我慢して優先順位の高い方を選択しているのだから、美月だってそれに従うしかない。


「あと、言っておくが、これが悟のやり方だ」


「えっ……?」


何が悟のやり方なのか分からず、美月が訊き返した。


「わざと怒りの矛先を自分に向けるんだよ。そうしたら、あたしの言うことを聞きやすくなるだろ。あたしもお前らも、悟っていう共通の敵を持つことになるからな。ほんと、そういうことろが嫌らしんだよ、あいつは」


うんざりした表情で姫子が言う。悟が道化を演じるのは、何も揶揄っているわけではない。人を効率よく動かすためのプロセスとして道化を演じている。


「そうだったんですか……。だったら、私謝りに行かないと……」


悟に噛みついてしまった翼が反省の弁を述べる。感情に任せて、侵入不可の城に入る抜け道を探すようなことにならなかったのは、悟のおかげなのだ。


「いや、その必要はない。悟がお前らに嫌なことを言ったのは、あいつの純然たる趣味によるものだ。だから、あたしは悟が嫌いなんだ」


姫子は即座に否定した。他にもっと言いようがあるのに、わざわざ少女達に嫌われるような言い方をしたのは、悟の性癖によるものだ。それに対して、謝罪など一切不要。


「そ、そうなんですね……。でも、そんな『嫌い』とまでは言わなくても……サブマスターなんですし……信頼はしてるんですよね……?」


翼が戸惑いながらも言う。やはり、刈谷悟という男とは馴染めない。


「悟は信頼できるが、生理的に嫌いだ! 実力からサブマスターにしてるが、心底嫌だと思ってる! 人として本当に嫌いなタイプが悟だ」


心から嫌そうな顔をしながら姫子が言った。だが、実力主義で悟を『王龍』のサブマスターにしているところが、姫子の器というものだろう。


「あの人、そこまで嫌われてるのに、よくサブマスターを続けてるな……」


真が思わず呟いた。完全に嫌われてるのに、平然とサブマスターをしている神経が分からない。


「だから、それが悟の趣味なんだよ。ほんとうんざりするわ……」


姫子はそう言いつつも、悟には感謝していた。悟は、ギルド内の不満が悟自身に向かうように誘導している。おかげで、マスターである姫子に不満は向かない。傍で見ている姫子は、そのことをよく理解していた。『王龍』が上手く回るのは悟の力によるものだと断言できる。だが、人としては嫌いだ。


「なるほどな……」


姫子の説明に妙に納得した真は、赤黒髪をかき上げて嘆息した。


「悟の話はここまでだ。あんな奴の話に時間を割くのは虫唾が走る――さっきも言ったが、あたしらはこれからセンシアルに戻って紫藤さんに今回の件を報告する予定だ。お前らも付いて来い」


姫子は気持ちを切り替えて話を振った。悟の言う通りにするのは癪だが、やるべきことの最優先は、『ライオンハート』の同盟として行動すること。


ここまでくれば、『フォーチュンキャット』からも反論はない。今何をしないといけないのかを認識して、次の行動へと移っていった。


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