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災禍 Ⅴ

        1



「皇城が……、ドラゴンに落とされた……」


悔しさに歯を食いしばりながらも真が報告する。ドラゴン達が一斉に去っていったことからも、結果は分かっていたことだが、改めて文章で伝えられると、もう終わったことなのだと実感させられる。


「落とされたって……、どういうことよ……? ねえ、アーベルさんは? ロズウェルさんは無事なの? 城にいた人達はどうなったの?」


翼がまくし立てるようにして言葉を並べていく。ドラゴンの群れが黒雲のように渦巻いていた光景を見ている翼には、どうなったのかくらい想像ができるが、心が全力で否定している。


「分からない……」


真も翼と同じ気持ちだが、伝えられた情報は、皇城が落とされたということだけ。それ以上のことは何も分からない。


「分からないって……そんな……」


「翼ちゃん……、私もメッセージを確認してみたけど、皇城に居た人達がどうなったのかは、何も書かれてないよ……」


パニックになりそうな翼に彩音が静かに声をかけた。皇城に居る人たちがどうなったのかは、彩音も気になっているが、情報がない以上どうしようもない。


「助けなきゃ……」


美月がポツリと呟いたのは、絶望感が蔓延した空気の中でのことだった。


「助ける……?」


何を言っているのか一瞬分からず、華凛が聞き返した。


「まだ生きている人がいるかもしれない! だったら助けに行かないと!」


美月が力強く口を開いた。その瞳はまだ諦めてはいない。


「そうだね……。うん、そうだよね! 美月の言う通りだ!」


翼が息を吹き返したように返事をした。絶望的な状況であることは見ての通りだが、かといって何も希望がないわけではない。誰か一人でも助けることができる人がいるかもしれない。


「……ああ、分かった。皇城に急ごう。こうしている時間ももったいない」


真も美月に同意する。だが、真は美月ほど希望を持っているわけではなかった。どちらかと言えば、実態を確認するための意味の方が大きい。だが、助けられる人がいるのなら、助けたいという気持ちは同じだ。


美月と翼はしっかりと返事をし、彩音と華凛は無言で頷くと、ドラゴンの襲撃を受けた皇帝の居城へと向かって走り出した。



       2



皇城に近づくにつれて、壊された建物や、未だ火の出ている建物が増えていった。損壊の度合いも比例して大きくなっていく。壁は崩れ、屋根は落ち、街灯は倒れていた。


整備された道路も捲れあがり、破壊された建築物の破片がそこら中に散在している。


そして、横たわっているのは壊された建物だけではない。あちこちに人が倒れているのだ。そのほとんどはNPC達。帝国の兵士だけでなく、逃げ遅れた一般のNPC達の死体が無造作に転がっていた。


「酷い……」


美月が顔を顰めながら倒れているNPC達を見る。数は少ないが、中には現実世界の人の死体も混じっている。


「どうして、こんなことに……」


彩音は、散らばったNPC達の死体と現実世界の人の死体を直視できず目線を外してしまう。


「私たちはできることをやったよ……」


華凛もそこら中に転がっている死体を見ることができず、俯きながら口を開いた。


「そうだけどさ……。それでも、こんなの、あんまりだよ……」


翼は悔しさで一杯だった。華凛の言う通り、全力でドラゴンの迎撃をした。それに関わらず、この結果だ。


「まだ諦めないで。誰かいるかもしれない。誰か……助けられる人が……」


現実を目の当たりして美月の心も揺らいでいた。目の前の凄惨な光景が、希望を奪い去っていく。だけど、まだ分からない。助けられる人が一人でもいるかもしれない。


それが、現実世界の人なのか、NPCなのかは分からない。ただ、助けることができるのであれば、現実もゲームも関係ない。


しかし、生きている人はどこにもいない。倒れたままピクリとも動かない。助けを求める声も聞こえない。


結局、誰一人として生きている人を見つけることができないまま、皇城の前までやってきた。そして――


「…………」


城の現状を目の当たりにして、美月も絶句するしかなかった。


それは、ぐちゃぐちゃに崩壊した瓦礫の山だった。かつての皇城の威厳と風格は見る影もない。火が燻り、黒煙が上がる瓦礫の山。それは、純粋なまでの絶望だった。


「どうすればいいのよ……こんなの……」


押し潰されるような現実を前に、華凛はどうすることもできずにいた。


「探そう……」


「えっ……?」


美月が上げた声に翼が聞き返した。探すと言っても何を探すのか。


「探そう! まだ、この中で助けを待ってる人がいるかもしれない!」


美月は絶望を前にしても、まだ希望を捨ててはいなかった。やれることはまだある。そういう顔をしている。


「探すって……、この中をですか!? 無茶ですよ、そんなの!」


ほぼ諦めていた彩音が驚いて声を上げた。目の前にあるのは瓦礫の山だ。しかも、先ほどまで、無数のドラゴンの群れに襲撃されていた場所だ。生きている人なんているわけがない。


「無茶なのは分かってる。でも、何もしないまま帰ることはできない!」


美月だってこの状況は理解している。生きている人なんて誰一人見つかるわけがないことくらい、見れば分かる。だが、それでも探さないという選択肢はなかった。それは、美月の中のビショップとしての特性が活性化していることもあるが、強くなりたいという美月の思いもあった。


「分かったわよ。こうなったら美月は頑固だからね。それに、言ってることは間違ってないわ。私だってこのまま帰るわけにはいかないしね!」


翼が美月の肩に手を置きながら言った。できることをやるだけ。結果がどうなのかは、やってみてからのこと。やる前から分かっているなんて、どうでもいいことだ。


「私も探す。ここまで来て、何もしないで帰るのも癪だしね」


華凛も一歩前に出て来た。昔の華凛なら、こんなこと絶対に言わなかった。『どう見ても無理なんだから、諦めればいい』と言っただろう。そもそも、ここまで来ることもなかった。


「ふふぅー。華凛も熱くなってきたわね」


ニヤケ顔で翼が華凛を見る。華凛がこなん熱いことを言うなんて、成長したものだと嬉しくなる。


「べ、別に熱くないわよ! アーベルとかを探すんでしょ! さっさと見つけて帰るわよ!」


頬を赤くして華凛が反論した。実のところ、さっきのセリフ、華凛としては恥ずかしかった。


「分かりました……。私も手伝います。真さんもいいですよね?」


美月達の熱意に押されて彩音も生存者の捜索に承諾。ただ、気になったのは、真がずっと黙ったままだということ。真は何か気になることがあると、ずっと黙ったままになる。それが彩音には気がかりだった。


「ああ……、大丈夫だ……。俺も手伝う……」


真の返事は力がなかった。まるで関心がないようにも見受けられる。


「ちょっと、真! しっかりしてよね! 皆で気合を入れたんだからさ、真も気合入れなさいよ!」


真の態度に対して不満げな翼が声を荒げた。ここは皆で頑張るところなのだ。誰か一人でもやる気がないのは士気に影響する。


「分かってる……。けど……」


曖昧な返事をしながら、真が前に進んだ。訝し気な顔をしながら、かつて城門だったところまで足を進めると、手を前に突き出した。


「やっぱりな……」


手を突き出したままの真が呟いた。


「真……? 何かあったの?」


真の行動の意味が理解できず、美月が訊いた。真の様子からするに、何か分かったことがあるようだ。


「ここから先に進めない」


真が端的に答える。


「進めない? 進めないってどういう――」


真の言ったことの意味を確認するために、前に進んだところで、美月も気が付いた。真が言う『進めない』の意味を。


「見えない壁がある……。くそッ! もうここに入ることはできないんだ……」


苦虫を噛み潰したような顔をしながら、真が見えない壁を蹴った。返ってきたのは固い感触だけ。


「見えない壁って……。なんでそんなのがあるの? 皇城は入れない場所じゃなかったでしょ!?」


真の回答に華凛が声を荒げながら近づいてきた。そして、真と同じように手を前に出すと、すぐに見えない壁にぶち当る。


「これって、ゲーム上侵入不可になったってことですよね……?」


彩音も見えない壁に手をやりながら言った。『見えない壁』とは、ゲーム化した世界で、これ以上先に進むことができない場所や、ゲームのイベントとして行動を制限される時に現れる、ゲーム側の“ご都合”による仕様だ。


「そういうことだ……。ドラゴンの群れに落とされたことで、物理的にも入ることができなっていう判定にされた……。だから、見えない壁ができて、侵入不可エリアになったってことだ……」


崩壊した建物の中に入れなくなるのはゲームではよくあること。その中に入れるという判定がされていない限り、瓦礫を除去したり、隙間から入ることもできない。


「どうして……。どうしてよ……! なんで、入れないのよ……」


ガンッと見えない壁を叩きながら、美月が項垂れた。見えない壁は、まるで必死で抗おうとしている美月達を嘲笑っているかのようにすら見える。


「どこかに入る場所はないの? これだけ広いんだから、どこか入れる所があるんじゃないの!?」


悔しさを抑えつつ、翼が声を上げる。どこかに希望は残っているかもしれない。それを探したい。


そんな時――


「無駄だ。そんな場所はどこにもない!」


後ろから声が聞こえてきた。ガラの悪そうな女性の声だ。その女性の声の他に、大勢の足音も聞こえてきた。


「赤嶺さん!?」


声を聞いて振り返った美月が声の主の名前を言う。そこにいたのは、現実世界の2大ギルドの一つ、『王龍』のマスター、赤嶺姫子とその構成メンバー達だった。





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