表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
347/419

災禍 Ⅳ

爆発音とけたたましいドラゴンの鳴き声が、あちこちから響いてくる。それに交じって人々の怒声と悲鳴が上がる。


真達も懸命に戦い、何とか被害を抑えようとするも、ドラゴンの群れは次々と襲い掛かって来る。


「クソッ! 数が多すぎる!」


真は次の標的を見定めながら独り言ちた。もう何匹倒したのか分からないほどになっている。


「これじゃあ、『王龍』さんと合流するところじゃないよ」


翼も矢を射りながら言葉を漏らす。今襲ってきているドラゴンの対処だけで手一杯の状況だ。とてもじゃないが、『王龍』と合流して指示を仰ぐなんてことはできない。


「このドラゴンの襲撃は、異界の扉の時みたいに、何か原因があって、それを止めないといけないとかじゃないんですかッ?」


ドラゴンと戦いながらも、彩音が口早に言う。


「バージョンアップが原因で間違いないと思う!」


また一体のドラゴンを斬り伏せたところで真が返事をした。


「それは分かるけど、こいつらをどうやったら追い返せるの!?」


一向に減る気配がないドラゴンの大群を前に、翼の声には焦りの色が見え始めていた。


「分からない。兎に角倒すしかない!」


真が即答した。センシアル王国で異界の扉が開き、魔人が街に出現した時は、その異界の扉を閉じればよかった。


だが、今回のドラゴンの襲撃は、バージョンアップが原因であるという推測しかない。なぜドラゴンがヴァリア帝国の帝都を襲いに来たのかも不明だ。


「そ、そんな……」


真の回答を聞いて、華凛の表情が曇る。ゴールが見えないだけでなく、進んでいる方向も合っているのか分からない。それが端的な今の状況。


「華凛、今はドラゴンを倒すことに集中して! やれることはそれだけだから!」


美月が渇を入れるように言った。華凛の気持ちもよく分かるが、弱音を吐いている場合ではない。


「うん、ごめん……。大丈夫、やれるから」


華凛はそう言うと、自分の両頬をバシッと叩いて、気合を入れ直した。


今できることはただ一つ。真の言う通り、兎に角戦うだけ。どれだけの数がいるのかも把握できていない状況で、それが正解であるかどうかも分からない


ゲーム化した世界でのことだ、無限に敵が襲ってくるなんてこともあり得る。


だから、戦いながら何が正解であるのかを導き出さないといけない。


しかし、問題はそれだけではない。真だったら、一人でもドラゴンと戦い抜くことができるが、逆に言えば、真以外にこれだけの数のドラゴンとやり合える人間はいない。


どうしても犠牲者は出てしまう。真もできる限りの人を助けながら戦っているが、広い帝都で、ドラゴンの大群を相手にするということが、どれほど困難を極めるのかを思い知らされていた。


「機動力が違い過ぎる……ッ!」


真は歯噛みしながら空を見上げる。その間にもドラゴンの群れは、真の頭上を次々と通過していく。


地上を走る人間と空を飛ぶドラゴン。自転車VS飛行機のレース。


ドラゴン一個体の戦闘能力は、真の足元にも及ばない。だが、その数と機動力は圧倒的な差がある。真が100匹のドラゴンを倒している間にも、1000匹のドラゴンが帝都内で暴れまわっている。


この広い帝都の中では、機動力があるドラゴンの群れの方が完全に有利な状況になっていた。


「不味いですね……」


彩音も真と同じ危機感を持っていた。いくら真が強いと言っても、空を飛べるわけでもなければ、高速移動できるわけでもない。1対1の状況に持っていけたら、確実に勝てるというだけで、広範囲の敵を瞬時に根絶やしにする能力など持ち合わせてはいない。


「『王龍』が動いてくれてるはずだ……。そっちに頼るしか――」


「真、あれ!」


そんな中、真の言葉に割り込むようにして、翼が大声を出して空を指さした。その先にあるのは――


「グワオォォォーーー!!!」


一際大きな鳴き声が響いた。それは、戦場の喧騒を割るほどの大きさ。その鳴き声の迫力に、鼓膜がビリビリと震えるほどだ。


「で、でかい……ッ!?」


真が視界に捉えたのは巨大なブルードラゴン。今まで襲ってきたどのドラゴンよりも二回りは大きい個体だ。


巨大なブルードラゴンは一直線に真に向かって急降下してきた。


真は大剣を握りしめて待ち構える。正面から巨大なブルードラゴンを見据えて、迎撃の体勢を取る。他のどのドラゴンよりも大きなその身体を見て、無意識に口角が上がっていた。


「真、逃げて!」


美月が叫ぶも真の耳には入っていない。ただ一点、巨大なブルードラゴンを見つめる。


「ガオアァァァァーーー!!!」


ブルードラゴンは急降下の勢いに乗せて、その巨体ごと真に突進してきた。


<スラッシュ>


真は逃げもせず、ブルードラゴンに向かって飛び出し、その大きな体躯の下に潜り込みながら大剣を振った。


すれ違いざまの一撃はブルードラゴンを直撃。対する真は一切のダメージを受けていない。


だが、ブルードラゴンの方もこれで終わりではない。すぐさま真の方へと向き直ると、鋭い爪を突き立ててきた。


真はそれをギリギリの所で回避すると同時――


<パワースラスト>


大剣をブルードラゴンの腕に突き刺した。


<ライオットバースト>


突き刺したままの大剣は、ブルードラゴンの内部で光が炸裂させる。ライオットバーストはベルセルクの連続攻撃スキルの3段目で、高い攻撃力だけなく、体内で裂傷を引き起こすことで、継続的なダメージを与え続けることができる。


他の雑魚ドラゴンであれば、とっくに息絶えているところだが、流石に巨大なブルードラゴンはタフだった。まだ、真に向かって敵意を剥き出しにしている。


ブルードラゴンは大きく息を吸い込むと、今までのお返しとばかりに、真に向けて頭ごと突き出して大きく口を開けた。


ブワアアアーーーーーーーー!!!


ブルードラゴンから吐き出されたのは、凍てつくアイスブレス。真っ白な氷の息は、荒れ狂う吹雪のような轟音をまき散らして、真に襲い掛かる。


真はそれを大きく横に飛んで回避。ドラゴンのブレス攻撃は今までにも何度が経験しているものだ。ブルードラゴンが大きく息を吸い込んだ時点で、次に何が来るのか予測済み。


標的を失った氷の息は、帝都の道路と建物を巻き込み、白く凍り付かせていた。


(ブレスの効果が残ってるな。一定時間、効果が残るAOEってところか)


真がアイスブレスの効果を冷静に分析する。AOEとは、エリア オブ エフェクトのこと。特定の場所に効果を発揮する攻撃だ。


アイスブレス単体の攻撃だけでなく、ブレスが吹きかけられた場所にも何かしらの攻撃判定が残っているということである。


真はAOEに気を配りながらもブルードラゴンの方へと意識を向ける。


ブルードラゴンは真に向けて鋭い爪を振り下ろそうとしているところだった。


真はそれを寸前で回避。この時点で既に、真の表情から笑みは消えていた。最初に見た時は、脅威となる恐ろしい敵かもしれないと思ったが、やはりと言うべきか、こいつでは相手にもならない。


<ショックウェーブ>


残念な気持ちになりながらも、真は大剣を振った。猛獣の咆哮のような激しい剣圧がブルードラゴンに襲い掛かる。


(俺は……、今がっかりしている……!?)


そこで、真がふと我に返ったように、今の心境に気が付いた。期待していたのに裏切られた気分。それは、ベルセルクが強敵との戦いを望んでいるからに他ならない。


戦いが真の中のベルセルクを活性化させる。しかし、ただ戦えばいいというものではない。命のやり取りができるほどの強敵でなければ、楽しくない。


「真、避けてッ!」


そこに美月の叫び声が聞こえてきた。


「ッ!?」


その声に真が反応すると、目の前にはブルードラゴンの顎が見えた。


「うわッ!?」


間一髪、ブルードラゴンの噛撃から逃れる。美月が声をかけてくれなかったら、反応が遅れて、巨大な牙の餌食になっていたところだ。


「やってくれたな!」


<グリムリーパー>


真は地面スレスレから大剣を掬い上げるようにして斬撃を放つ。剣の軌跡は弧を描いてブルードラゴンの体を斬りつける。それは、まるで死神の大鎌のような軌跡。


「グワァ……オォ……」


グリムリーパーが最後の一撃となり、ブルードラゴンは地面に沈み込むように倒れた。


「これで終わり……ってわけにはいかないよな……」


真がブルードラゴンの死体を見ながら呟く。このブルードラゴンがボス格の敵で、こいつを倒せば、他の雑魚は逃げて帰っていく――というパターンを少し考えたが、そこまで甘くはなかった。


空を見上げると、ドラゴンの大群はまだまだ健在。ほとんどのドラゴンは、地上にいる真など見向きもせずに一直線に飛んで行っている。


(こいつら、どこに向かってる……?)


ここで真が気が付いた。ドラゴンの群れの大半はある場所に向かって飛んでいるのだ。その先に目をやり、ドラゴン達がどこに向かっているのかを割り出していく。


「こいつらッ!」


真はハッとなって声を上げた。


「ど、どうしたの?」


いきなり大声を出した真に、びっくりした美月が声をかける。まだ戦闘の最中だというのに、どうしたのか。


「ドラゴンの目的だ! こいつらのほとんどが皇城を目指してる!」


「皇城に!?」


美月が思わず聞き返した。同時に、皇城がある方へと目を向ける。


「う、うそでしょ……」


翼も同じく皇城がある方向へと目を向けた。その先に見えたのは真っ黒い雲の塊。皇城のある辺りの上空を、真っ黒い雲の塊が圧し掛かるようにして渦巻いている。


それは、実際には雲ではない。全てドラゴンだ。無数のドラゴンの群れが、一斉に皇城に襲い掛かってるのだ。その数の多さに、遠目からは黒い雲の塊に見えたのである。


「助けに……、助けにいかないと!」


彩音が震える声で叫んだ。助けるものなにも、今どういう状況になっているのかなど、想像に難くない。だけど、助けないいかないという選択肢もない。


「俺は皇城に行く、皆はここで――」


指示を出そうとする真の言葉が、唐突に止まった。なぜか、空を見ながら固まってしまっている。


「真……?」


真の様子が気になって、美月が声をかけるが返事がない。真は空の一点を見つめたまま微動だにしない。


「どうしたの……?」


華凛も心配になって声をかけた。緊急事態であり、一刻を争う状況だというのに、真は動く気配がない。


「おい……、あれ……」


皆が真の視線の先を追った。上空を飛んでいく無数のドラゴンの群れが見える。だが、真はそれを見ていない。見ているのは、少し高度を下げた位置に滞空している一匹の黒竜。


何をするわけでもなく、ただ空中に留まっているだけ。向いている方角は、皇城の方。


「誰か乗ってるわね……」


視力の良い翼には真が見ているものが見えた。空に待機している黒竜の背中に人が乗っている。それは褐色の肌をした女性だった。長い銀髪が強風に流されている。その姿は翼にも見おぼえがあった。


「イルミナ……ワーロック……」


真が黒竜の背中に乗っている女性の名前を口にした。


かつて、タードカハルで他国からの侵略を阻止した伝説のサマナー。同時に、殺戮という手段で世界を浄化しようとした狂信者でもある。


ヴァリア帝国にセンシアル王国との戦争を仕掛けさせた張本人。イルミナ・ワーロックの姿がそこにはあった。


【メッセージが届きました】


意識が上空に向いている中、突然、真の頭の中に声が響いた。このタイミングでのメッセージに、真の体が強張る。


それと同時、ドラゴンの群れが一斉に飛び去って行った。戦っている最中のドラゴンも、戦いを中断して、飛び去って行く。


空を飛んでいるドラゴンの群れも、急に方向転換して、帝都イーリスベルクから去っていく。皇城の上空に渦巻いて、黒い雲の塊のようになっていたドラゴン達も同じだ。まるで蜘蛛の子を散らすように、その場から去っていく。


あれだけいたドラゴンの群れがたった数十秒の間にいなくなった。


残っているのは、目の前に浮かぶレターのアイコンだけ。真はドラゴンの大群と一緒に去っていくイルミナ・ワーロックの姿を、ただ見ていることしかできなかった。


「メッセージが……」


嫌な予感しかしない中、美月が恐る恐る口を開いた。


「分かってる……」


真は目の前に浮かぶレターのアイコンにそっと手を伸ばす。この状況で来るメッセージなど、どう考えても悪いことしか書かれていない。


そして、レターのアイコンから、メッセージの内容が開示される。


【深淵の龍帝ディルフォールの軍勢が、ヴァリア帝国の皇城を陥落させました】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ