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少女の覚悟 Ⅰ

真は爆風に乗って、大きく後方へと飛びのいた。大剣を盾のように構えて、高熱の余波を受けとめる。


「よくぞ躱した! だが、これはどうかな?」


ブラドは距離の開いた真に向かって炎の剣を突き出した。間合いから考えて、まず届かない距離なのだが――突如ブラドの前に空間の穴が開く。そこに、ブラドが炎の剣を突き刺した。


炎の剣はその刀身の全てを空間の穴に飲み込まれる、と同時。真の死角から炎の剣が付きだしてきた。ブラドは空間転移能力を持つ魔人、シャンティの能力を部分的に使って攻撃を仕掛けてきたのだ。


「ッ!?」


大きく飛んだことによって、真の体制は崩れてしまっていた。そこを狙い澄ましたかのように、死角から突きだした炎の剣。この攻撃は避けきれるものではない。真は炎の剣をまともに食らってしまう。


「いやあッ!? 真ーッ!」


美月が悲痛の声で叫ぶ。炎の剣は真を串刺しに貫通していた。


「こいつはヤバい! 私たちも全力で攻撃するよ! アーベルさんもお願い!」


<イーグルショット>


翼が声を張り上げると、返事を待たずに攻撃スキルを発動させた。高速の矢が、一直線にブラドの体に突き刺さる。


「了解しました! 僕も全力を尽くします!」


アーベルも鬼気迫る声で返事をした。


「華凛さん、これで終わらせますよ!」


彩音も声を上げた。真が出した攻撃停止の指示は、まだ解かれていない。だが、真は戦いに没頭している。指示のことなんてもう頭にはないのだろう。だから、ここからは自己判断で行動しないといけない。


「う、うん!」


緊張した声で華凛が返した。手が震えているのが分かる。何しろ、相手は全身から炎を巻き上げている巨大な悪魔だ。あんなものにも真は正面から斬り合っている。華凛には到底真似のできないことだ。


そんな華凛にもできることはある。少しでも真の負担を減らすこと。手の震えを抑えながら、華凛は精霊を召喚した。


<ウンディーネ>


<アイスケージ>


ブラドの周りに漂う、空気中の水分が一瞬の内に氷結し、さながら氷の檻となってブラドを閉じ込めた。


水の精霊ウンディーネは回復と補助を得意とする精霊だが、攻撃もできる。アイスケージは、ダメージと共に、敵をその場に閉じ込めることができるスキルだ。


バリンッ! 氷の檻が砕ける音がした。ウンディーネの妨害スキルも、ボス格であるブラドには効果を発揮していない。動きを止めらることはできなかったが、一定量のダメージを与えることはできている。


<ダイアモンドダスト>


<ダイヤモンドダスト>


続けてスキルを発動させたのは、彩音とアーベルだ。使用したスキルは同じもの。水属性のダイヤモンドダスト。無数の氷の粒がブラドの体全体に渦巻き、白く覆いつくす。


だが、ブラドは真から目線を外さない。獲物は真一点のみ。


「砕け散れ、虫けらめがーッ!」


ブラドは飛び上がって、炎の剣を振りかざした。宙に舞う巨体ごと叩きつけるようにして、真に向けて炎の剣を振り下ろす。


ゴォンッ!! 低く鈍い音が玉座の間に木霊した。金属同士がぶつかる音にも似ているが、どこか違う。


それは、真の大剣がブラドの炎の剣を受け止めた音だった。


「フー……ッ!」


真は炎の剣を受け止めながら息を吐きだした。まるで、獣が威嚇音を出しているかのような声だ。


そして、真の目がブラドを睨みつける。瞳孔は開き、瞬きは一切していない。それは、美しい顔立ちからは想像もできないほどの、異質な目つきだった。


「ぐっ……」


その目にブラドが一歩下がった。見たことのない目だった。人でもない、魔人でもない、モンスターでもない、その目つきに皇帝ブラドが足を退いた。


「アアアアアァァァァーーーッ!!!」


<バーサカーソウル>


奇声と共に真がスキルを発動させる。バーサカーソウルは攻撃力を増幅させる代償として、使用者の防御力を下げる諸刃の剣。ベルセルクを象徴するようなスキルだが、使い処は難しい。


<スラッシュ>


一歩下がったブラドに対して、真が踏み込んで斬りつけた。


ブラドはこの攻撃を受けてしまう。それは、真に気圧されて一歩下がってしまったことが原因だ。それがなければ、躱せていたはずの一撃だった。


<フラッシュブレード>


真はすぐさま連続攻撃スキルの二段目を発動させる。鋭い横薙ぎの一閃がブラドを斬りつけた。


「良い気になるなよ小娘がーッ!!!」


ブラドは怒り心頭に声を荒げた。ただの少女に気圧されたことは、ブラドのプライドが許さなかった。認めるわけにはいかない事実。それを覆すがごとく、左手を掲げると、真の周りの空間に歪みが生じた。


次の瞬間には大爆発が起こっていた。顕現した地獄の業火は、その場を蹂躙するかのように焼き尽くす。


真はそれを前に出ることで回避した。ブラドの横を通り過ぎ、後ろから襲い掛かる。


<ヘルブレイバー>


下段から飛び上がるようにして、ブラドを斬りつけた。


「小癪なーッ!」


ブラドは振り向きざまに炎の剣を振り払った。真は斬撃とともに飛び上がっている。空中では、思うように動けない。そこを狙われた。


だが、真に向かって飛んでくる炎の斬撃を、まるでネコ科の動物のように、空中で体を捻って避ける。


着地した真をブラドが再度狙うが、それも後退して回避。ブラドは続けざまに左手を翳し、地獄の業火を現出させるが、これも、真は後退して回避してみせた。


「なんか……、真の様子、おかしくない……?」


真に違和感を覚えた翼が言った。毎回、戦闘では無茶をする傾向のある真だが、今は輪をかけて無茶を――いや、無茶とは違う気がする。翼にはよく分からないが、真とは違う何かが戦っているような違和感を覚えていた。


「うん……。なんて言うか、真さんじゃないみたいな……」


彩音もその違和感を感じていた。今の真は知っている真とはどこか違う。確かに真は強く、戦いにも慣れているが、凶暴ではない。


「真君って……あんなに……」


華凛はその後の言葉を言えなかった。『真君って、あんなに怖かったの?』、それを言うおうとして言葉が止まった。それは華凛が認めたくなかったことだから。初めて好きになった人に、怖いという感情を持ってしまったことを口に出して言うことはできなかった。


「真が……」


美月から冷や汗が出ていた。みるみる体温が下がっていくのが分かる。恐れていたことが起ころうとしている。


美月は今回のミッションで、イルミナと二人の魔人、この両方と同時に戦うことを想定していた。そもそも、今回のミッションでは、『イルミナを討伐しろ』と言われているのだ。だから、美月の想定は現実的で妥当な線だった。


しかし、実際に蓋を開けてみると、イルミナは逃亡し、残った二人の魔人と皇帝ブラドが合体して、巨大な悪魔に姿を変えた。


そこが、まず想定外の展開だった。当初は、二人の魔人を美月達が受け持つつもりだったのが、敵が一つに融合してしまったことで、真の負担を分散させることができなくなった。


そして、もう一つの誤算はブラドの強さを見誤っていたこと。イルミナと戦わずに済んだということで、強敵と戦わなくてよくなったと思い込んでしまっていた。


だが、現実はそんなに甘くはない。アークデーモンと化したブラドの強さは、真の中の狂戦士を活性化させるに足りる存在だった。


今はまだ『ブラッディメスクリーチャー』が発動するに至っていないのは分かる。“アレ”はもっと異質なモノだったから。


これは、真が言っていた通りだ。『ブラッディメスクリーチャーが発動する前から狂戦士化していた』。つまり、今は、得体のしれないモノになる前の段階ということだろう。


それでも、このままでは、真が『ブラッディメスクリーチャー』を発動させてしまう。また真が発狂して、化け物ですらない何かに変わってしまう。


「止めないと……」


ポツリと美月が呟いた。


「えっ?」


その声を聞いたのは華凛だった。美月は一体何を止めようというのか。それは分からない。ただ、分かることは、美月が何か覚悟を決めたようだということだけ。


「アアアアアァァァァーーーッ!!!」


真はさらに加速していった。奇声を上げながら、ブラドを斬りつけている。瞬きもせずにブラドを斬っている。


対照的にブラドの攻撃は全くもって真には当たらない。空間転移からの攻撃も、炎の剣も、業火をまき散らす爆発も、何もかも真には当たっていない。


全て避けられると同時に反撃を喰らっている。どこから攻撃しても結果は同じ。死角からの攻撃も、真は目視もせずに避けてしまう。そして、ブラドを斬りつける。


「ブラド陛下……。もう一段階上げます。これが最後となります。よろしいですかな?」


状況がまずいことを悟った左肩のゴルドーが進言してきた。


「構わん。やれ!」


すぐさまブラドが承認する。このままでは負けることをブラドも理解していた。まだ奥の手があるのなら、出し惜しみをしている状況ではない。


「畏まりました!」


ゴルドーがそう言いうや否や、ブラドの左肩のデスマスクの目が激しい光を放ちだした。ブラドの全身を覆っている炎ですら、その光に掻き消されてしまうほどだ。


「グウオオオオオオーーーーーッ!!!」


同時にブラドから激痛に耐える声が吐き出された。全身から沸き立つ赤い炎は、青白い炎へと変わり、激しい勢いでブラドの体中から噴出し始めた。


それは、ブラドの全身がバーナーにでもなったかのような、凄まじい炎の噴出だった。


「ハァ、ハァ……。フフフ……ハハハ! ハハハハハハーッ!」


強烈な痛みが去ると、訪れたのは全身から溢れ出す力の奔流だった。今までに感じたことのない桁違いの力に、ブラドは理性を保つことすらできなくなるほど。


「コレガ 本物ノ 力トイウモノカ! 素晴ラシイ力ダ! サア コレデ終ワリニシテヤルゾ 虫ケラガーッ!」


最早、ブラドの声は人のそれとは程遠いものになっていた。これが、素体としての皇帝ブラドが持つ力の最大限。魔人ゴルドーに『これほどの素体は初めて見る』と言わしめた、ブラドの本当の力。


「――ッ!」


真は何も言わずに突っ込んで行った。目を見開き、顔は笑っている。もしかしたら、こいつは求めているモノを満たしてくれるかもしれない。こいつは渇きを潤してくれるかもしれない。こいつは――


「ダメーーーーッ!!!」


そこに美月が叫びながら割り込んできた。何も考えずに、真に抱き着いて、ブラドから引き離そうとする。


次の瞬間――


ブオォンーッ!!! ブラドが青白い炎の剣を横薙ぎに一閃。噴出する蒼炎が斬撃となって、真と美月を薙ぎ払った。



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美月ヘイトキャラだろマジで不快
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