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皇帝ブラド Ⅴ

「全員攻撃を止めてくれー!」


必死で逃げる華凛の援護のために、攻撃スキルを放つ仲間達に向けて真が声を上げた。


「攻撃を止めるの……?」


今まさに攻撃スキルを発動させようとしていた翼の動きが止まる。突然の真の言葉にどう反応していいか分からない。


「ブラドが狙いを決める仕組みが分かった! だから、攻撃を止めてくれ!」


真は続けて声を上げた。今、攻撃を止める意味を理解できている者は真しかいない。それでも構わない。攻撃さえ止めてくれれば、それで事足りる。


「仕組みが分かった?」


美月が思わず聞き返した。美月も真の言っていることを理解はしていない。この状況で攻撃の手を止める理由がまるで分からない。


「あの黒い爆発だ! あれにヘイトリセットが付いてる! その後、最初に攻撃した人にタゲを固定するのが、今のブラドの行動パターンだ!」


真がまくし立てるようにして言葉を並べた。MMORPGの専門用語も交じっているが、華凛が狙われている状況で、丁寧な解説などできない。


「わ、分かりました……。兎に角、今は攻撃を中断します」


一応の理解を示した彩音が返事をした。彩音はMMORPGの経験はないが、真の言葉からその意味を割り出していた。


「アーベルさんも攻撃を中止してください。ミルアも止まって!」


美月も手を止めて、アーベルとミルアに指示を出した。世界がゲーム化の浸食を受けて、結構な日数が経っている。ゲームの知識はほとんど無いのだが、言わんとしていることは理解できた。


「えっ? 何? どういうこと?」


まだ理解していない翼が動揺した声を出す。なぜ手を止めるのか分からない。攻撃していいのか悪いのか、判断することができないでいる。


「翼、考えるな! 手を止めればそれでいい!」


詳しい説明をしている暇はない。真はそれだけ言うと、ブラドに接近し、一定の距離を保ちながら並走する。もし、華凛が危ない状況になれば何時でも飛び込める距離だ。


「大丈夫、真さんの考えてることで正解だと思うから」


彩音が翼を宥めるようにして言った。


「うん……まぁ、真が言うなら……」


まだ釈然とはしていないが、翼は手を止めていた。ふと、アーベルとミルアの方を見ると二人ともその場で止まっている。何も疑問に思わず、何も反論することなく。ただ、その場で立っていた。


こういうところがNPCなのだ。普段は本物の人間と見分けがつかないが、ゲームのことに触れると、途端に不自然になる。ゲームに触れることができないからこその不自然さと言った方が正しか。


(もう、そろそろか……)


真はブラドから一定の距離を保ったまま、タイミングを伺っていた。できれば、ブラドの正面に立って、動きを止めたいところなのだが、肝心のブラドは真を見てはない。圧倒的な体格差で、押しのけられて終わりだ。


「本当にしつこいわね!」


華凛は逃げながら苦言を呈する。気持ちとしては、ノームを召喚して、ヘイトを上げるスキルを使わせたい。だが、真が『攻撃を止めてくれ』と言った以上、選択の余地はない。華凛もその意図しているところは理解できていないが、真が言うのだから大丈夫だという確信だけはあった。


「これで終わりだ! 小娘-ッ!」


ブラドは大きく両腕を広げると、体から溢れる黒いオーラを一気に開放させて、爆発を起こした。


「今だっ!」


真が叫んだ。考えが正しければ、ここでヘイトリセットが起こっている。そして、その後、最初に攻撃した者がブラドのターゲットとして固定されるはずだ。


<ソニックブレード>


黒いオーラの爆発を見てから、真が大剣を振った。剣先から発生した真空のカマイタチが、甲高い音を立ててブラドを斬りつける。


<クロスソニックブレード>


真は手を止めずに、連続攻撃スキルを発動させた。十字に振った剣からは、二撃目のカマイタチが飛んでいく。


「まだ、余に刃向かうというのか!」


ブラドは真の方を向いて怒鳴った。大きな手を広げて、目の前のベルセルクに向かって突進してきた。


「よし、来たっ!」


真の考えは正しかった。思った通りにブラドが狙いを真に変えている。


最初は、ミルアが啖呵を切ったことによって、ブラドのヘイトがリセットされたものと思っていた。だが、それは違った。実際には、その前からヘイトリセットは起こっていたのだ。それは、ブラドが放つ、黒いオーラの爆発。


その後、最初に攻撃を仕掛けたミルアが狙われ続けることになり、次の黒いオーラの爆発の直後に攻撃をした翼へとブラドの狙いが変わった。同じようにして、華凛に狙いが変わったというわけだ。


その仕組みを利用し、ブラドの狙いを真に移した。そして――


<スラッシュ>


真は正面からブラドに斬りかかった。同時に飛んできた、ブラドの爪は上体を下げて回避する。


<シャープストライク>


真はそのまま、素早い動きで二連撃を放つ。


そこに、ブラドが爪を立てて腕を振り下ろしてくるが、これを横に飛んで回避。


<ルインブレード>


真は避けた傍からスキルを発動させた。ブラドの前に魔法陣が出現し、真はその魔法陣ごとブラドを斬り裂いた。


ルインブレードはベルセルクの連続攻撃スキルの3段目で、ダメージを与えるとともに敵の防御力を下げる効果がある。


「虫けら風情が、鬱陶しい!」


ブラドは真の足を狙って掴みかかろうとしてきた。


真は下がらずにタイミングを計ると――


<ソードディストラクション>


足を狙ってきたブラドの攻撃を跳躍することで回避。同時に空中で体ごと大剣を振った。


その瞬間、辺り一面に激しい衝撃がまき散らされた。破壊という事象を純粋に顕現させたかのような、強烈な衝撃は、広い玉座の間を丸ごと震撼させるほどだ。


「グワァッーッ!?」


これにはブラドも堪らず後退を余儀なくされた。


「どうなされましたか、ブラド陛下? 随分と旗色が悪いように見受けられますが?」


左肩のデスマスク、ゴルドーがブラドに話しかけた。同化しているブラドがピンチであるにも関わらず、煽っているかのような言い方だ。


「貴様、今まで黙っていた分際で、今更何のつもりだッ!」


ブラドがゴルドーに怒りを向けた。


「何のつもりかと聞かれましたら、私はブラド陛下のお力になるつもりですよ」


ゴルドーの声には薄ら笑いが混じっていた。真剣にブラドを助けようとしているのかどうか疑わしいくらいだ。


「それなら、無駄口を叩くな! すぐに力を貸せ!」


ブラドは非常に合理主義な男だった。それはデーモンになったとしても変わらない。無駄な言葉を並べる暇があるのなら、実行に移す。それが、ブラドのやり方だ。


「これは、これは、失礼いたしました。それでは、魔人ゴルドーの力の神髄をお見せするといたしましょう!」


ゴルドーがそう言うと、デスマスクの目が光出した。気味の悪い紫色の光だ。


「ウグアァァァーーーーッ!!!」


ごルドーの目が光ったのと連動するようにして、ブラドが苦しみ始めた。全身から沸き立つ黒いオーラがみるみる内に赤く染まり、それは、炎となって、ブラドの全身を覆いつくしていった。


「なんかヤバくない!?」


ブラドの様子の変化に華凛が声を上げた。


「分かってる! それは、分かってるけど、スキルが発動しない!」


真も事態の悪さには当然気が付いている。だが、攻撃スキルが発動しない。敵が変身している最中に攻撃を加えることができないゲームのシステムが邪魔をしているのだ。


ほどなくして、ブラドから漏れる苦悶の声が消えた。蹲った姿勢から、静かに姿勢を戻す。


「ハハハッ、なるほど、こういうことか!」


苦しみが解けたブラドは愉快そうに言った。その全身からは燃え盛る炎が溢れんばかりにいきり立っている。


「どうですかな、ブラド陛下? これが本当の力というものです!」


ブラドの左肩に同化したゴルドーが満足げに話しかけた。


「気に入ったぞ! 実にいい気分だ!」


ブラドは上機嫌に言うと、右手を虚空に突き出した。すると、炎がブラドの右手に集まりだし、あっという間に剣を作り出した。柄も刀身も全て炎でできた剣だ。


ブラドは炎の剣を握ると、勢いよく振ってみせた。


燃え盛る炎の剣は、轟と音を響かせて熱波を走らせた。


「――ッ!?」


その熱波は真にも直撃した。ブラドはただの素振りだった。それでも、真に届いた熱波は、焼き付けるほど熱く、重たい圧力だった。


「さあ、第二幕を始めるとするか。さっきと同じ様に行くとは思うでないぞ!」


ブラドは眼下にいる真を睥睨して言った。口から漏れだす炎と笑みは、まるでご馳走を目の前にした獣のようだ。


「上等だ! こっちも様子見は終わりにしてやるよ!」


真は大剣を構えて睨み返した。目の前にいるのは全身に炎を纏ったアークデーモン。恐怖の化身と言ってもいい存在だ。それなのに、真は一切の恐怖を感じていなかった。それどころか、心が躍っていた。全身の血が騒いでいる。


「よくぞ言った! その度胸だけは認めてやる!」


ブラドは笑い声を上げながら、炎の剣を振り下ろしてきた。ゴオォーっと鳴る炎の音と共に、激しい熱波が放たれる。


真はそれを直前で回避――したのだが、熱波はもろに受けることになる。


<スラッシュ>


それでも、真は一切構わない。体に襲い来る強烈な熱波も、まるで意識の外にあるかのように、踏み込んでブラドを斬りつけた。


対するブラドは振り下ろした炎の剣を掬い上げるようにして、斬り上げる。


それを真は、倒れるのではないかというくらいに、体を傾けて避けた。当然、炎の剣から放たれる熱波はそのまま受ける。


<パワースラスト>


そして、体勢を整える間もなく、大剣を突き出した。


「フンッ!」


ブラドは掬い上げた剣を、今度は力いっぱい振り下ろす。玉座の間を炎の剣が叩きつけると、轟音が部屋ごと揺らした。


真の方は、後方に飛んで回避している。ただ、至近距離で避けているため、常に炎の剣の熱波を受け続けるも、真は一切気にしている様子がない。


<スラッシュ>


ブラドの攻撃は大振りだ。そのため、一振りごとに隙ができる。真はそこを見逃さない。一旦距離を取ったが、再び踏み込んでブラドに袈裟斬りをお見舞いした。


<フラッシュブレード>


ブラドが動きを見せる前に、真が動く。まるで閃光のような横薙ぎがブラドの体を斬りつける。


ブラドは炎の剣を引くと、空いている左手を翳した。


そして――真がいる空間がぐにゃりと歪んだと思った刹那、激しい爆発が起こった。鼓膜を直接殴打されたかのような轟音と、現出した地獄の業火が暴れまわる。




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