表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
331/419

皇城 Ⅲ

中央階段の踊り場に現れた黒い靄はその色を濃くしていく。


「真君、こっちにも!」


後方から華凛の声が聞こえてきた。その声に真が振り向くと、もう一つの黒い靄があった。形も大きさも、階段の踊り場に出現した黒い靄と同じだ。


「こ、こっちにもあります!」


彩音も警戒の声を上げる。中央階段の反対側に位置する場所。本殿の正面入り口付近にも黒い靄が出現していた。


「っちょっ!? こっちにも――って、あああ、あっちにも!?」


若干パニックになりつつある翼が叫ぶ。黒い靄はどんどんその数を増やしていき、すでに真達を取り囲んでいた。


「くそっ……。なんなんだよ、この靄は……?」


真が状況の悪さに毒づいた。皇城本殿の広いロビーを中心に、黒い靄がまるで檻のように真達を閉じ込めている。しかも、この黒い靄の正体が不明だ。そんな状況では迂闊に動くこともできない。


「真、あれッ!」


その時、美月が声を上げた。すぐさま、美月が指さす方に真達は顔を向けると――


そこには一人の衛兵がいた。


「こいつ、どこに――」


どこに衛兵が潜んでいたのか。真がそう言おうとした時だ、その答えはすぐに分かった。真達を取り囲んでいる黒い靄の中から、次々とヴァリア帝国の衛兵たちが出てきた。


あっという間に、現れた衛兵たちによって取り囲まれてしまう。


「ッチ……罠かよ……」


真は舌打ちしつつも、周りを見渡す。衛兵達の顔は血色が良く、ゾンビとは違って生きている色がしている。だが、目の焦点はまるで合っていない。眼球が明後日の方向を向いたまま。そして、口からはだらしなく涎が垂れている。


「ァァ……グッ……アガァァァァァーーーー!!!」


突然一人の衛兵が苦しみだした。


「ギギギガアァァァァァーーーー!!!」


さらに別の衛兵も苦しみだすと、連鎖反応を起こすようにして他の衛兵たちも一斉に苦しみだした。


「な、なに? 何なのッ!?」


真に背中を預けつつ、華凛から声が漏れた。衛兵達の苦しみ方が異常だ。助けを求めるようなこともなく、異様な声を上げている。


「気を付けろ! こいつら全員デーモンだ!」


真が声を張り上げた。答えなど最初から分かりきっていたこと。皇城にいる衛兵は全員デーモンであるという想定で行動している。


真の声に、美月達の緊張が高まる。想定していた戦いではあるが、囲まれるとは思っていなかった。完全に鳥籠の中だが、やるしかない。


「ガアアアアァァァーーーー!!!」


鎧を内側から破り、完全にデーモンと化した衛兵達は一斉に真達へと向かって飛びかかってきた。


<ソードディストラクション>


デーモンの群れを十分引き付けたところで真がスキルを発動させた。


「「「――ッ!?」」」


破壊という事象をそのまま具現化したような衝撃が、皇城の本殿ごと震撼させる。あまりにも激しい衝撃に、デーモン達は悲鳴を上げることすらできずに吹き飛ばされていく。


「…………!?」


アーベルが真を見ながら茫然としていた。現れたデーモンの群れは、真の一撃によって全て倒されている。何が起こったのか、理解がまるで追い付かない。ただ、口を開いたまま真を見ることしかできない。


それはミルアも同じだった。目を見開いたまま、真を見ている。真が強いということは分かっていたが、今目にした光景は、理解の範疇を超えている。


「何よ、驚かせておいて……。結局、真君の一撃で終わるじゃない」


消し炭のように消滅していくデーモンを睥睨しながら華凛が言った。


「いや、まだだ……」


真が再び警告を発した。黒い靄の中からは新手の衛兵が出てきていた。そして、さっきの例に漏れず、デーモン化していく。


「ガァウアァァァァーー!!」


再度、デーモンの群れが真達に襲い掛かって来る。鋭い爪を突き立て、肉を斬らんと飛びかかってきた。


<イラプションブレイク>


タイミングを計って真が跳躍する。着地と同時に床に大剣を叩きつけると、四方八方にひび割れが走り、そこからマグマが一気に噴出してきた。


紅蓮の業火が本殿のロビーを赤く染め、襲ってきたデーモン達も大火の中に飲み込まれていく。


イラプションブレイクはベルセルクが使える範囲攻撃の一つで、物理攻撃主体のベルセルクにしては珍しく炎属性のスキルだ。


この一撃で、デーモンの群れを全て沈める――ことはできなかった。


<ブレードストーム>


真は咄嗟に次の範囲攻撃スキルを放つ。体ごと一回転させて大剣を真横に振ると、斬撃の嵐が同心円状に広がり、デーモン達をズタズタに斬りき刻んだ。


イラプションブレイクも高威力の範囲攻撃だが、ソードディストラクションよりは弱い。そのせいで、デーモンを倒しきれなかったのだ。


イラプションブレイクとブレードストームの一連の攻撃により、二陣目のデーモンは全て倒すことができた。だが……


「また、出てきてます!」


彩音が叫んだ。もうすでに次の衛兵が靄の中から出てきてデーモン化している。


「範囲攻撃はしばらく打ち止めだ……。一体ずつやるぞ!」


真が歯噛みしながら言う。ベルセルクの専門は近接戦闘。範囲攻撃スキルを持ってはいるものの、ソーサラーのように豊富な種類の範囲攻撃スキルはない。


特にソードディストラクションは、再使用までにかかる時間が長い。そのため、真が持っている範囲攻撃スキルの中で、今すぐ使えるのは、直線上に限られたショックウェーブだけだ。これは、囲まれている状況では使いにくい。


「う、うん!」


美月が返事をすると、集中力を高めた。この状況では、真以外にも被害が及ぶ、そうなれば、生命線であるビショップの美月の役割が重要になってくる。


<ライフフィールド>


美月がヒーリングエリアを展開させた。ライフフィールドは位置指定型の回復スキル。その場に入るだけで、自動的に回復効果が発揮するというものだ。誰がダメージを受けるか分からない状況であるため、初手のスキルとしては有効な手段だろう。


「俺が半分持つ! そっちは任せるぞ!」


真が声を張り上げた。できるだけ真が敵を受け持ちたいが、四方八方から囲まれている状況であるため、それも難しい。パラディンやダークナイトであれば、無理矢理にでもヘイトを上げて、敵の注意を引き付けるのだが、ベルセルクはそんなスキルを持ち合わせていない。


「大丈夫! 私だって、いつまでも真頼りってわけじゃないのよ!」


<イーグルショット>


翼が負けじと声を上げてスキルを放った。イーグルショットは単発だが、高速で敵を攻撃し、威力も高いスキルだ。


「私が突っ込む。援護は頼んだぞ」


ミルアはそう言うと、誰の返事も待たずにデーモンの方へと飛び出していった。


「ミルアさん、そんな、待っ――」


何の前触れもないミルアの行動に、彩音が咄嗟に止めようとした。だが、ミルアはそんなこと耳にも入っていないかのように、突っ込んでいく。


<ハイド>


デーモンに接敵する直前、ミルアはスキルを発動させた。すると、突然、ミルアの体は半透明になり、デーモンはミルアの姿を見失ったように、視線を外す。


ハイドはアサシンの補助スキルで、一定時間、敵からは姿が見えなくなる。そのため、敵の標的にされることはなくなる。


<シャープエッジ>


ミルアは背後からデーモンに短剣を突き立てた。シャープエッジはアサシンの基本スキルで、そこから連続攻撃に派生させることができる。


<ヴェノムバイト>


ミルアはすぐさま次のスキルを発動させた。ヴェノムバイトは初手の威力こそ低いが、毒の状態異常を引き起こし、じわじわとダメージを与えることができる。


<リーサルブロー>


ミルアはまだ止まらない。デーモンの背後から短剣による強烈な一撃をお見舞いする。リーサルブローは威力も高く、背後からなら必ずクリティカルヒットするという特性を持ったスキルだ。


<シャドウリッパー>


ミルアの体全体が影となり、デーモンを背後から襲い掛かった。アサシンの連続攻撃スキルの4段目。シャドウリッパーは背後からの確定クリティカルヒットに加えて、クリティカルダメージも増大する高威力のスキルだ。


「まだ、倒れないのか……。ったく、マコトはどれだけ強いんだ……」


ミルアが一連の攻撃を叩き込んだが、それでもデーモン一体倒すにはいったっていない。真は、一撃で数十体のデーモンを倒した。こうして、個別に戦うと、その差が歴然としていることを思い知らされる。


「ミルアさん、手を止めないで!」


<ダイアモンドダスト>


そこにアーベルが魔法を発動させた。無数の氷の粒が、デーモンを抱きしめるように渦巻く。


<ヘルファイア>


続いて彩音も攻撃魔法を放った。噴出するようにして黒い炎が巻き上がり、デーモンを焼き尽くす。


これが止めの一撃となった。デーモンは立っていることができずに、その場に崩れ落ちると、風化して消えていく。


「これでようやく一体ですか……」


彩音が苦い顔で呟いた。敵の数に対して、真抜きの戦力では、殲滅速度が追い付いていない。戦っている最中にも、新たな衛兵が黒い靄から出現し、デーモン化している。


「文句言ってる場合じゃないでしょ! 兎に角デーモンを倒すよ!」


<オリオンシュート>


翼が怒鳴りながらスキルを発動させる。番えた矢は、放たれると同時に複数のレーザーとなってデーモンの体を貫いた。


チラッと翼が真の方へ目を向けてみると、10体近いデーモンが倒れているのが見えた。風化することも考えると、実際にはもっと倒しているのだろう。


(全然追い付けてないじゃないのよ……)


真との圧倒的な差に翼が歯を食いしばる。『いつまでも真頼りじゃない』と言ったものの、現実は遠慮なく差を見せつけてくる。


だが、弱音を吐いている場合ではない。デーモンは止めどなく湧いて出てくる。


「翼も手を止めないで! 私ができるだけ足止めするから!」


<シルフィード>


<ショックフェザー>


華凛も声を上げて戦う。召喚したのは風の精霊シルフィード。得意とするのは行動阻害を引き起こす搦め手だ。


シルフィードのショックフェザーは無数の羽が辺りを舞い、その羽に触れた者は麻痺をしてしまうという凶悪なスキル。


風に舞う無数の羽を避けることなど、まず不可能。その例に漏れず、デーモン達はショックフェザーの効果によって、続々と麻痺にかかっていく。


華凛が発動させた行動阻害系のスキルにより、形勢は一気に有利になった。麻痺して動けないデーモンに対して、容赦なく攻撃スキルを浴びせていく。


だが、ショックフェザーの効果は一時的なもの。凶悪なスキルであるがゆえに連発はできない仕様になっている。そうなると、また形勢が傾く。


真がいる分、殲滅速度は速いが、問題は黒い靄から出て来る敵が止まらないこと。倒しても倒しても、黒い靄から衛兵が出てきては、デーモンに化けていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ