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総力戦

        1



センシアル王国とヴァリア帝国の双方がノーウング平原で衝突する予定の前日。陽が沈み、周りが寝静まった時刻に、真達『フォーチュンキャット』とアーベル、ミルアの7人は、帝都イーリスベルクの外にある森の中へと出てきていた。


風もない、雲もない、新月の夜。とても静かな夜。不気味なほど静かだ。虫の鳴き声すら聞こえてこない、静寂に包まれた夜の森。


帝都イーリスベルクを出てから、歩いてきた時間を考えると、後数時間ほどで夜が明けるだろう。それから、バーナムが合図を送るまでこの場所で待機することになる。


潜伏中なので、焚火で明かりを取ることもできない。ただ、ゲーム化した夜の森の中だ。現実世界のように夜の闇に覆われて、視界がなくなるということはない。


とはいっても、月のない夜の森。焚火が放つ暖色の明かりがないと、視界があっても心細くなってくる。


「ねえ、どれくらいこうしてればいいの?」


空が白みだしたころ、不満げな表情を浮かべながら華凛が呟いた。名前こそ出していないが、アーベルの方を見ている。


「レジスタンスの動き方次第ですね……。そのレジスタンスも、ヴァリア帝国とセンシアル王国の動きに左右されます……。早ければ、夕方過ぎには動けるのではないかと……」


苦い笑顔でアーベルが答える。最低でも後十数時間はここで待機しなければならない。


「長……ッ」


華凛が顔を顰める。本当に何もない森の中だ。右を見ても左を見ても、あるのは木々だけ。まだ、ここで狩りをするのであればマシなのだが、合図が来るまでずっと待機をしていないといけない。


「仕方ないでしょ、華凛。このタイミングで動かないと、皇城に入ることが難しくなるんだから」


美月が宥めるように言う。美月も華凛の気持ちは分からないではない。美月だって、こんな深い森の中で何もせずにじっと待っているというのは辛い。


「分かってるけどさ……、ここから動くのもダメなんだよね?」


美月に宥められ、渋々だが納得した華凛。それでも、少しくらいは動いてもいいのかどうか。それは、確認しておきたかった。


「はい。一応この場所に幻術結界を張っています。ただ、効果範囲は狭いので、数歩の以上の距離は移動しないでください……。万が一にも、誰かに見つかってしまう恐れもありますし、何時でもバーナム様からの合図に対応できないといけませんので……」


申し訳なさそうにアーベルが言う。別にアーベルが悪いわけでもなんでもないのだが、こういうところでも気を遣う性格だ。


「分かったわよ……。大丈夫よ……」


華凛が心の中で、『真君もいるし』と付け加える。チラッと真の方を見るが、目を閉じてじっとしているだけ。


「できれば、会話も必要最小限でお願いします……」


さらにアーベルが注文を付けくわえた。


「うっそ……まじで……」


華凛の顔が引きつった。これから十数時間、ほぼ会話もなく、じっと森の中で待機しないといけない。これもミッションなのだから、仕方ないとは思いつつも、顔には出てしまった。



        2



センシアル王国領からヴァリア帝国領に入って、すぐに広がる広大な大地、ノーウング平原。モンスターも数多く生息しており、特に注意が必要なのは、人食いコンドルにネコ科の大型モンスター、クァール。他には数こそ少ないが、超大型のランドタートルだ。


そんな危険な平原なのだが、センシアル王国に繋がる要所でもある。そのため、街道が整備されており、ヴァリア帝国が街道の警備もしているので、基本的にモンスターが街道に出て来るようなことはない。


だが、今は、その街道を10万前後の兵達が我が物顔で進軍している。


センシアル王国騎士団とロズウェル将軍率いる元ヴァリア帝国魔道軍の連合だ。すでに敵地真っただ中だというのに、微塵も臆することはない。


「全軍止まれーッ!!!」


プァーッ! プァーッ! プァーッ!


センシアル王国騎士団長、カーランドの号令と同時に、停止のラッパが吹き鳴らさた。ラッパの音は後続に伝播すると、後続の伝令兵も停止のラッパを鳴らす。そして、どんどん、ラッパの音が全体に響いたところで、ようやく全軍が停止する。


「陣形、展開ーッ!」


プップァーッ! プップァーッ!


カーランドが再び大声を上ると、それに呼応するかのようにして、伝令のラッパが吹き鳴らされる。


すると、センシアル王国騎士団とロズウェル将軍の魔道軍は一斉に動き出した。人の足音や馬の足音が地鳴りのように平原に響き渡る。まるで、大地そのものが激しく脈打っているかのようだ。


ほどなくして、センシアル王国騎士団とロズウェル将軍の魔道軍は陣形を整えた。そこからは微動だにしない。じっと平原の先を見据えている。


トビの鳴き声だろうか、高い空から甲高い鳥の鳴き声がする。見下ろす大地の異様さに警戒を強めているようにも聞こえる。


「来ましたか……」


ロズウェルが平原の向こうを見ながら呟いた。やってきたのは、地平を覆いつくさんばかりの大軍。ヴァリア帝国軍の本体だ。その数はざっと見ただけでも5万~6万ほど。おそらく出せる兵力の全てを投入してきたと見ていいだろう。


「数ではこちらの方が有利です。ですが、油断はしないでください。長距離を移動してきたこちら側は疲労があります。それに、ここはヴァリア帝国領内。物資の補給も相手側が有利です」


ロズウェルがカーランドに声をかけた。


「心得ております! 心配無用……と言いたいところですが、相手はヴァリア帝国軍。数の差で有利だとしても、気を抜くつもりはありません。この状況で互角と見て戦に臨みます!」


髭の大男、カーランドが豪快に言った。武人としても名を馳せたカーランドは、名将としても知られている。豪快かつ大胆。それでいて、緻密に計算された作戦を出す。


「流石はカーランド卿。戦場というものを熟知されている。これは私の杞憂でございましたね」


「ハハハ、心配性なのは悪いことではございませんぞ、ロズウェル卿。ですが、戦場では流れ、勢いというものも大事。勝機が見えましたら、一気に畳みかけて見せましょう!」


「その時には、私の魔道軍も全力で支援させていただきます」


「期待しておりますぞ!」


カーランドがニィっと笑う。


そこからは、無言でヴァリア帝国側の動きに注視した。いつでも動けるように意識は敵に向けておく。


全軍が緊張しているのが分かる。だが、良い緊張だ。これから命を懸けて戦う。それに向けて気持ちを高めている。


遠くで鳴いている鳥ですらうるさいくらいに、緊張が高まった時だった。唐突に風が止んだ。


プァーーーーッ!!!


地平の向こうからラッパの音が響き渡った。ヴァリア帝国軍が鳴らした戦闘開始のラッパだ。


「戦闘開始、突撃―ーーッ!!!」


ヴァリア帝国が動き出したことを察知したカーランドが叫び声を上げると、同時に、センシアル王国騎士団からもラッパが吹き鳴らされる。


最初に動いたのは重装歩兵。長い槍と大きな盾、それに重厚な鎧を纏った、防御型の騎士団達だ。これはNPC専用のクラス。それに交じって、近接戦闘用にパラディンやダークナイトもいる。


その後ろから弓術騎士団と魔道騎士団が動き出す。ロズウェル将軍の魔道軍も同時に動き出した。


騎馬兵は左右に展開。縦横無尽に戦場を駆け巡り、敵を翻弄し、時には挟撃することが狙いだ。


対する、ヴァリア帝国側も先頭に重装歩兵を突っ込ませてきている。その後ろを弓兵が着いて来ていた。ロズウェル将軍が裏切ったことで、魔道軍が欠けている状態。だが、完全に魔道兵がいないわけではない。数は少ないが、この戦場でもヴァリア帝国の魔道兵が参戦している。


センシアル王国騎士団の重装歩兵とヴァリア帝国の重装歩兵。この二者が接触する直前、先制攻撃を仕掛けたのはヴァリア帝国側からだった。


後続のヴァリア帝国弓兵が一斉射撃を放った。これに対して、センシアル王国騎士団は大きな盾を上に向けて進軍。雨あられと降り注ぐ矢をことごとく防いで見せた。


それでも、降り注ぐ矢の数があまりにも多い。その全てを盾で防ぎきることはできない。この第一波の攻撃で、犠牲になった騎士団はいる。だが、犠牲の数は少ない。センシアル王国騎士団は、矢の雨の中でも、どんどん前へと進んで行く。


「撃ち方用意――てぇーッ!」


センシアル王国騎士団もお返しとばかりに矢を放った。


結果は相手と同じ。何人か仕留めることができたが、前進を止めるには全然足りない。


そして、両者の重装歩兵が接敵する。


「「おおおおおおおーーーー!!!」」


雄叫びを上げたながら、双方が衝突した。最初に槍を持った重装歩兵が互いの先頭集団を突き刺すと、そこからは、乱戦にもつれ込んだ。


近接戦闘に入ると、長い得物は使いにくい。そこで、パラディンとダークナイトが前線を入れ替わる。鈍い金属音がそこら中から鳴り響く。


後方からは魔法による支援と、弓による援護射撃が飛んでくる。


騎馬兵は戦場を所狭しと駆けていき、敵をかく乱する。


数でこそ不利なヴァリア帝国軍だが、国の存亡がかかっている。この戦いに負ければ後がない。だから、死に物狂いで戦う。


結果、攻防は一進一退。センシアル王国騎士団も、ヴァリア帝国軍も一歩も退かない五分の戦いが繰り広げられた。






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