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メッセージ Ⅳ

       1



「大変申し訳ございませんが、皆様にはここで待機していてもらいます」


時也の言葉に、ロビーに集まった同盟各員からザワザワと声が上がった。何かしらの指示が出ると思って来ている人がほとんどなのだろう。ざわめくのも無理はない。


そんな中で時也は眼鏡の位置を直しつつ話を続けた。


「現在、『ライオンハート』の紫藤総志が、センシアル王国のリヒター宰相に呼ばれて、王城へと行っております。紫藤に届いたメッセージの内容は『新しいミッションが追加されました』という一文のみ。今その内容を確認している最中です」


時也が集まった人たちの顔を見渡した。不満はあるように見えるが、仕方がないということは分かっている様子だった。


(やっぱり紫藤さんにはメッセージが来てるんだな……。だとしたら、千尋さんにもメッセージが来た理由はなんだ?)


時也の話を聞いて、真が考え込んだ。総志と千尋の共通点。同じゴ・ダ砂漠出身で、お互いの関係も深い。だが、この二人にメッセージが届く理由は不明だ。


「すみません、その待機はいつまで続きますか?」


時也からの説明を受けて、『ライオンハート』の同盟の中から、スナイパーの女性が手を上げて質問を投げかけた。


「未定です。紫藤がリヒター宰相からどのような話をされるのかも分かっておりません。どれだけの時間拘束されるのかも不明です。他に質問はありますか?」


時也は丁寧に答えているが、内心では、そんな稚拙な質問をするなと思っている。だが、それは顔には出さない。


「あの、聞きたいことがあるんですが。『王龍』の姿がないようですけど、赤嶺さんもリヒター宰相に呼ばれたということですか?」


今度はサマナーの男性が手を上げた。これは真たちも気になっていたところ。


「不明です。『王龍』の方が誰も来ていないという理由は分かってしません。ただ、赤嶺さんがリヒター宰相に呼ばれた可能性は高いと思われます」


通信網が非常に弱いこのゲーム化した世界では、同盟同士であっても、連絡をする手段が直接会って伝える以外に方法がない。そのため、『ライオンハート』と肩を並べる『王龍』であっても、今どうしているのかというのは、『王龍』の誰かが報告に来なければ分からない。


「すみません、僕からも一つ。現在、『フレンドシップ』のマスターである御影千尋もリヒター宰相に呼ばれて王城に行っています。ただ、『フォーチュンキャット』の蒼井君はここに来てます。どういう人選でメッセージを送っているのかは不明ですが、一応情報として伝えておきます」


手を上げたのは小林だった。質問というわけではないが、今は兎に角分からないことだらけ。少しでも情報を共有しておいた方がいい。


「小林さんありがとうございます。他に質問や報告がある方はいらっしゃいますか?」


再び時也が周りを見渡した時だった。一人の男が『シャリオン』のロビーに入ってきた。


「すみません、遅くなりました」


入ってきたのはロン毛で痩せ型の男。刈谷悟だった。その男の出現に集まった人たちは一斉に注意を向けた。


「あっ、刈谷さん!? 赤嶺さんはどうしました?」


すぐさま時也が確認をした。『シャリオン』に来たのは悟と『王龍』の幹部が数名。赤嶺姫子の姿は見当たらない。


「うちの姫――ああっと、赤嶺なんですが、『新しいミッションが追加されました』というメッセージを受けた後、すぐにリヒター宰相の遣いを名乗る衛兵が来て、連れていかれました……」


「やはり、『王龍』の赤嶺さんにもメッセージが来ていたんですね……。それにしては遅かったですね?」


時也が眼鏡の位置を直しながら訊いた。『ライオンハート』と『王龍』は細かいスケジュールを把握しているわけではないが、遠征に行く際には事前に連絡をしている。突発的なことがあった際にはどちらかが必ず王都にいるようにするためだ。


現在、時也は姫子が遠征に行っているとは聞いていなかったため、王都にいるはずだった。


「えっと、それに関してはすみません……。赤嶺がリヒター宰相の遣いと揉めてまして……」


苦笑いを浮かべながら悟が答えた。


「揉めた……というと?」


「リヒター宰相の遣いが理由を説明せずに赤嶺を連れて行こうとしたのが原因なんです……。それに対して赤嶺が事情を説明しろと抵抗しまして……。なんとか周りが宥めて王城へ行ったという経過です……」


「なるほど……」


悟の回答には時也だけでなく、同盟内からも納得した雰囲気が流れた。姫子を知っているのであれば、その場にいなくてもどういう状況だったのか、目に浮かぶようだ。


「ところで、今はどういう状況ですか?」


会議室に行くわけでもなく、『シャリオン』のロビーで立ち話をしている同盟の人達を見ながら悟が訊いた。まさかロビー活動中というわけでもないだろう。


「現在は、全員待機中です。今確定している情報で、メッセージが届いたのは『ライオンハート』の紫藤総志、『王龍』の赤嶺姫子、そして、『フレンドシップ』の御影千尋の3名となっています。この3名の他にメッセージを受け取ったという情報は入ってきていません」


時也が遅れてきた悟と『王龍』の幹部に説明をする。その話を聞いて――


「ヴァリア帝国の侵攻で各部隊の指揮を執ったギルドのマスターか……」


呟いたのは真だった。『王龍』の姫子にもメッセージが来ていたという確定情報を元に共通点を推測すると、出てきた答えが前回のミッションで各部隊を指揮したギルドのマスターということになる。


「ん……?」


ふと我に返った真は、自分が注目を浴びていることに気が付いた。特に時也と悟と小林は真を凝視している。


「あ、蒼井君……。それ……当たってるかも……」


目を丸くしながらも小林が言った。


「えっ、いや、まだ分からないだろ……!?」


変な注目を浴びてしまい、居心地悪そうに真が答える。だが、そこに時也も入って意見を述べた。


「蒼井君の言うことは的を得ている。今ある情報の中で、リヒター宰相が呼びつける人物の共通点といえば、ヴァリア帝国の侵攻に対する義勇軍としての活躍以外にない。蒼井君にメッセージが来ていないことも、その仮定なら辻褄が合う」


「まぁ、そうだけど……」


特に真が非難されているわけでないのだが、注目を集めてしまったことを後悔する。ふと思ったことを口に出してしまっただけなので、ここまで注目されるとは考えてもいなかったのだ。


「とりあえず、今は蒼井君の仮定を元に待機しておきますか。仮定が合っていても間違っていても、どっちにしろ答え合わせはしないといけないんですし」


そう言ったのは悟だ。悟も真の仮定がしっくりくる。おそらく間違ってはいないだろう。


「そうですね。蒼井君の仮定が正しいとしても、結局ミッションの内容までは分からない。メッセージが届いた3人の帰還を待つしかありませんね」


最後に時也が締めくくると、それ以上質問をする人は出てこず、ホテル『シャリオン』で待機することとなった。



        2



いつも同盟会議の時に借りているホテル『シャリオン』の会議室。大勢の『ライオンハート』の同盟幹部達がこの部屋で待機している。


もう何時間たっただろうか。すでに日は落ちて、外はすっかり暗くなっている。


食事や飲み物はホテルに頼めば出してくれるのだが、超高級ホテルのサービスというのは驚くほど高い。お茶を一杯飲むだけでも、一日分の食費以上はする。


だから、おいそれとホテルのサービスを利用することもできないのだが、ここは『ライオンハート』が懐の大きさを見せてくれた。


支配地域を二つ持っているということから、非常に潤沢な資金を持っている『ライオンハート』の計らいで、全員にお茶と軽食が振舞われた。


「このお茶凄く美味しいね」


お茶の香りを楽しみながら美月が微笑む。


「ああ、俺はお茶とか全然詳しくないけど、これは凄くいい匂いだな。なんて言うか、しっかりしてるんだけど、優しいって言うか」


普段からお茶を飲むという習慣がない真には難しい味なのだが、これだけ良い物を出されると流石に美味しいということくらいは分かる。


「うん、そうだよね。凄く上品で柔らかいけど、芯は強いっていう感じかな。もっと落ち着いた時に飲めたらよかったよね……」


「まぁな、今はミッションのことが気になるしな……。でも、こんな高いお茶、葉霧さんが奢ってくれなかったら絶対に飲まないよ」


お茶だけでなく、軽食も時也がポケットマネーで全員分を出してくれたというのだから、いったいどれだけの金を持っているのかと、真は赤黒い髪をかき上げて嘆息する。


(そういえば、俺もゲームの中だったらこれくらいの大盤振る舞いは余裕でできたな……)


真がこのゲーム化した世界の元となったゲーム『World in birth Online』では、手持ちのお金だけで数十億ゴールド。装備やアイテムを合わせた総資産は数百億ゴールド持っていた。


正直言って、こんなに持っていても使い道がないというくらい金を持っていたのだが、今は、『ライオンハート』から支援を受けている身だ。


「真はお茶よりお肉の方がいいもんね」


ふふふと笑いながら美月が言う。


「同じ金を出すなら肉一択だろ――」


コンコンコンコン


会議室の扉をノックする音が聞こえてきたのは、そんな雑談をしている時だった。


「どうぞ」


時也がノックに対して返事をする。


「失礼いたします。シドウソウシ様、アカミネヒメコ様、ミカゲチヒロ様をお連れしました」


ノックをしたのは『シャリオン』で働く執事だった。初老の男で白髪なのだが、背筋はピンと伸びており、何気ない所作も非常に丁寧で綺麗だ。『シャリオン』では『ライオンハート』のお付きの執事のような立ち位置をしている。


総志達が帰ってきたという知らせに、だらけていた空気が一変。全員が背筋を伸ばすと、各々の席へと戻っていく。


執事に連れて来られた総志と姫子と千尋。総志と千尋は落ち着いた感じでいるのだが、姫子だけはあからさまに苛立っていた。執事は深々と頭を下げると、そのまま部屋を後にした。


「待たせていたようだな」


まずは総志が口を開いた。見るとまだ席に戻れていない者もいるが、総志は特に気にすることなく上座へと向かう。


その横を姫子が周りを睨みながら進む。待機中であっても、もっとシャキっとしておけと、無言の圧力をかける。


そして、最後の千尋が表情を変えずに席に着いた。


「さて、同盟諸君。早速だが、今回のミッションについて説明させてもらう」


到着したのも束の間、総志は休む間もなく、今回のミッションについて切り出した。



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