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生き残り Ⅲ

        1



【メッセージが届きました】


ほぼすべての敵を殲滅したところで、姫子の頭の中に直接声が聞こえた。何度も聞いている声だが、人間味に欠けるこの声はどうにもいけ好かない。


周りを見てみてると、どうやらサブマスターの悟にもメッセージが届いている様子。姫子は悟に目で合図を送ると、目の前に浮かぶレターのアイコンに触れた。


【センシアル王国騎士団がヴァリア帝国第一連隊を撃破しました】


「おっし! こっちは片付いた。すぐに『ライオンハート』を助けに行くぞ!」


メッセージを確認するや否や、姫子は大声を張り上げた。


「了解しました」


それを聞いた悟がすぐさまギルド内に伝令を回していく。こういう時の姫子は他の人を待ってはくれない。姫子の速度についていけるように、悟が他をサポートしないければならない。


そこに水を差したのは一人のNPCだった。


「待たれよ! どこに行くおつもりか?」


姫子の前を遮ったのは、リヒター宰相が遣わしたNPCの内の一人だった。


「決まってるだろ、『ライオンハート』を助けに行くんだ! 邪魔だそこをどけ!」


姫子はリヒターの遣いを睨みつけた。どういう理由か分からないが、このNPCは自分たちの行動を阻害しようとしていることだけは分かった。


「なりません! 我が名誉あるセンシアル王国騎士団が勝鬨を上げているところ。義勇軍はまだ待機していただきましょう!」


リヒターの遣いは蔑むような目で姫子を見た。礼儀も知らない田舎者とでも言いたげな顔だ。


「はぁ? てめえ何わけ分からねえこと言ってんだ? 待機しろだ? ふざけてんじゃねえぞコラ! 仲間の命がかかってんだよ! てめえの指図なんぞクソくらえだ!」


「ふ、ふざけているのはあなたの方です! 我がセンシアル王国騎士団は名誉を重んじる、崇高な騎士団なのです! それを差し置いて、先に応援に行くなど断じてあり得ない! 味方の窮地を救うのは、同じ騎士団の誉れなのですぞ!」


若干怯えながらもリヒターの遣いは反論してきた。だが、そのことが姫子の逆鱗に触れる。


「何が名誉だコラーッ! てめえらの都合なんか知ったことじゃねえ! 邪魔するならてめえもぶっ殺すぞッ!!!」


騎士団の名誉など姫子の知ったことではない。仲間を助けに行く邪魔をするなら、こいつも敵として倒すだけのこと。実際に味方であるNPCに攻撃を加えることなどできないのだが、姫子にはそんなこと関係ないとばかりに怒声をまき散らした。


「な、な……なんと言われようと先に行くことは――」


「邪魔するなら殺すって言ったよなッ?」


本気でキレた姫子がリヒターの遣いを睨みつけた。先ほどまでよりもさらに凄みを増している。総志とはまた違った気迫がある。リヒターの遣いは虎の尻尾を踏んでしまったのだ。ただの豚が虎の尻尾を踏めばどうなるか。結果は火を見るよりも明らかだ。


「…………」


「行くぞお前ら! あたしに続けー!」


完全に沈黙したリヒターの遣いは無視して、姫子が号令をかけた。それに対して、『王龍』とその直轄ギルドはすぐに反応をする。姫子がどう動くかというのは、もうよく知っていることだった。



        2



『王龍』の戦場から『ライオンハート』の戦場まではそれほど離れているわけではない。


それでも、戦いが終わってすぐに走って向かうには些か距離がある。慣れない戦争という行為に対して、心身ともに疲労が溜まっているいるのだが、そんなことはどうでもいいとばかりに姫子は駆ける。


同盟として、この狂った世界を元に戻すと誓った仲間のために、疲れているなどという甘えた言葉は姫子の頭の中には全くない。


そして、『ライオンハート』が戦っていた戦場である、現実世界の幹線道路に到着した姫子と義勇軍は、激しくぶつかり合うセンシアル王国騎士団とヴァリア帝国兵を見つけた。


「いたぞ! 蹴散らせー!」


姫子が張り裂けんばかりの声を上げる。


「行けー! 姫に続けー!」


それに合わせて悟も声を張り上げる。姫子自身は『姫』と呼ばれることが嫌なのだが、ギルド内では『姫』という愛称に愛着があり、ミッションの時には『姫に続け』という言葉が皆の力になっていた。


「「「おおおおおおーーーー!!!」」」


『王龍』からも、その直轄のギルドからも雄叫びが上がった。それだけではない。その他の同盟という括りに入っていた義勇軍からも雄叫びが上がっていく。


こういう人を魅了して引っ張っていく力が姫子にはあった。総志とはまた毛色の違うカリスマ性だが、力強さという点では共通していた。


そして、『王龍』率いる義勇軍が到着したことによって、戦況は決定づけられた。『王龍』とその直轄ギルトは押し寄せる大波のごとくヴァリア帝国兵達を倒していく。同時に『フレンドシップ』と『フォーチュンキャット』も敵と戦い、その後から他の義勇軍が戦場を走った。


遅れてやってきたセンシアル王国騎士団達は、敗走するヴァリア帝国兵の掃討を担当することになった。


その時点で勝敗は決した。


【メッセージが届きました】


再び姫子の頭の中に声が響く。いけ好かない声だが、この時ばかりは事情が違う。勝利を確信している。そのことを伝えるメッセージであることもすぐに感づいた。


はやる気持ちを抑えながらも、姫子は目の前に浮かぶレターのアイコンに手を伸ばす。


【センシアル王国騎士団がヴァリア帝国中央連隊を撃破し、ヴァリア帝国からの侵攻の阻止に成功しました】


「よしっ!」


姫子が思わずガッツポーズをする。


「うおおおおーーー」

「やったああーーー」

「良かったーーーー」


周りからも次々を喜びの声が上がった。『ライオンハート』が負けたことで、一時はどうなることかと思われた戦争だったが、何とか勝利をすることができた。だが――


「まだだ! 今から『ライオンハート』を助けに行く! 手分けして『ライオンハート』の生き残りを探せ!」


喜び勇んでいる間もなく、姫子が声を張り上げた。戦いに勝利しただけで終わりではない。仲間の安否を確認するまでは戦いは終わらない。


「その必要はない」


そこに低い男の声が聞こえてきた。力の籠ったその声は、騒がしい戦場の中でもよく通る。そんな声だった。


「し、紫藤さんっ!? 蒼井も」


声の方を向いた姫子が目を丸くしていた。少し遅れて他の義勇軍も総志と真の姿に気が付いた。二人ともついさっきまで戦っていたようだが、平然とした顔をしている。


「心配をかけたようだな。すまない」


総志が姫子の方へと歩いて行った。


「いや……無事ならそれでいいんだ……。ギルドのメンバーはどうした?」


姫子は総志の無事を確認できて一安心といったところだった。だが、他の『ライオンハート』のメンバーが見当たらない。


「ビルの中に避難させている。戦場に出てきているのは俺と蒼井だけだ」


「……それで、被害状況は?」


「かなりやられた。正確な被害状況はこれから調査することになるが、4~5割ほどはやられただろうな」


沈痛な面持ちで総志が答えた。


「そうか……。兎に角、戦いは終わった……。休めるところに移動しよう」


姫子はそれ以上言えなかった。『ライオンハート』から、この戦いに参加しているのは、第一から第三部隊。その約半数が犠牲になったということ。大まかな目算だろうが、相当な数の犠牲者が出たということは間違いない。


「ああ、そうするさ。俺は一旦仲間の元に戻る。蒼井、お前はどうする?」


「俺も一旦仲間と合流する。その後、美月を迎えに行くつもりだ。だから、それまであのビルで待っていてほしい」


「構わない。どうせ、すぐに動けるとは思えないからな。ある程度はビルの中で待機するつもりだった」


「助かるよ」


真が一言礼を言うと、総志はそのまま仲間の待つ現実世界のビルへと向かって歩いて行った。


「蒼井、お前にはまた助けられたようだな。ありがとう」


総志の後ろ姿を見送った後、姫子が頭を下げた。長いウェーブのかかった髪が下に垂れる。


「あ、いや……、助けるも何も……仲間……だからな」


怖い姫子から素直に礼を言われると、真としてはどう反応していいか分からない。


「それでも礼を言わせてくれ。『ライオンハート』はあたしらと杯を交わしたようなもんだ。仲間同士っていうのは分かってるが、こっちからすれば身内を助けてもらったも同然だ」


「べ、別にそんな任侠的なことでもないと……思うけどな……」


姫子の解釈の仕方に真が戸惑いを見せていた。やはり姫子は昔やんちゃしていたのだろうか。真にとって不良というのは一番苦手な人種だ。


「お前には分からないかもしれないが、そういうことなんだよ。それより、蒼井。お前は仲間を探すんだったな?」


「あ、ああ。そうだけど」


「よし――おい、悟!」


真の返事を聞いくと姫子はすぐに悟を呼びつけた。ミッションをやっている最中、悟は姫子の傍にいることが多い。


「はい、なんでしょう?」


案の定、近くにいた悟はすぐに出てきた。


「『フォーチュンキャット』のメンバーを連れてこい」


「すぐにですか?」


「今すぐ、大至急、3秒以内に!」


相変わらずの姫子の理不尽な注文。


「ふひぃ、3秒以内なんて無理ですよ、あ、もう3秒経ちましたよ?」


だが、悟は嬉しそうに答えている。それどころか、姫子の感情を逆撫でるようなものの言い方をしている。


「いちいちうるせえな、てめえはよぉ! いいから急いで連れて来いや!」


姫子は苛立ちながら悟に怒鳴りつける。これが効果のないことだと分かっていても、どうしても腹が立ってしまう。


「3秒過ぎてますから、お仕置きとかないんですか?」


「さっさと行ってこいッ!」


いい加減キレた姫子がさらに怒気を強めて言う。悟は有能でミッション中は真面目にやってくれるのだが、普段はこういう癇に障るようなことを言ってくるため、始末が悪い。


「はいぃ、では行ってきますね。姫からそういう目で見られるの、僕は好きですよ」


悟はそう言いながら『フォーチュンキャット』メンバーを探しに行った。


「あの人は掴みどころがないな……」


真の悟への対処方法は一つ。できるだけ触れないこと。


「ミッションをやる上で悟が必要っていうところが厄介なんだよな……。会議とかだと的を得たことを言うし、戦闘の能力も高い。ミッション中は『王龍』の盾として一番前に立つから、普段の悪ふざけに対して、文句も言いにくい……」


「まぁ、実力は一流だから……」


真が悟を最初に見たのは、『ライオンハート』との会議の時だ。非常に落ち着いており、本質を突いた意見を言っていた。時也とはまた違う種類の参謀といった感じ。裏も表も分かって器用に立ち回る頭の良い人だと思っていた。


だが、それは表向きの姿。本性は、女性に嫌がられることが好きという特殊な性癖の持ち主だった。平たく言えば、オンとオフの時の差が激しい。


とはいえ、悟が優秀であることには違いなく、連れてこいと言われた『フォーチュンキャット』のメンバーをすぐに連れてきてくれた。


「真さん……良かった、無事で……」


最初に口を開いたのは彩音だった。真一人でヴァリア帝国中央連隊との戦場に行かせることに、若干の不安はあったものの、どうやら問題はなさそうだった。


「真君なら当然でしょ――あっ、いや、まあ、その、真君だし……」


真の無事な姿を見れたことで、華凛の口から本音が漏れてきた。いつもなら、ここで全力否定するのだが、昨日、真に抱き着いて大泣きしたことが頭をよぎり、何とも言えない顔になっている。


「私は別に心配してない――こともないけど、まぁこうなるだろうなって思ってたわよ。で、どうだったの? 敵は強かったの?」


ちょと様子が違う華凛が気になりつつも、翼が真の無事を喜ぶ。どんな敵がいたのかは知らないが、真なら生きて戻ってくることくらい分かっていたことだ。


「強い奴はいたよ。だから、今回は凄くた――ああ、た、大変だった……」


真は『楽しかった』と言いそうになった。だが、それは言えない。実際に真が経験した戦いは『楽しい』などという生易しいものではなかった。異常なまでの高揚と興奮。あり得ないほどの快感と狂気に満ちた戦いの中で、獣のように暴れ回った。それを美月に見られてしまったのだが、これ以上、他の仲間に心配をかけたくはない。


「そうですよね……。いくら真さんでも、敵の数は数千、もしかしたら万を超える数がいたかもしれないんですもんね……」


言葉を濁した真の真意を知る由もない彩音は、素直に真が激闘を生き残ったのだと思った。


「そうか――ねぇ、真。そういえば美月は? 美月には会ったのよね?」


ここで翼がふと美月の姿がないことに気が付く。美月は途中で別れて真の下へと向かったはずだ。


「美月なら問題ない。負傷した『ライオンハート』の回復を手伝ってもらってる。今から皆で、その避難場所に行こうと思う」


話題が美月へと変わったことに真が安堵しつつ、当初の目的である、仲間の合流の話を切り出した。


「美月も無事だったんだね……良かった……」


華凛にしてみれば、どちらかというと単独で行動している美月の方が心配だった。真は一人でも死ぬようなことは絶対にないと言い切れるが、美月は戦闘向けの職ではない。


「分かった。それじゃあ、美月のところに向かいましょう!」


翼も美月が無事と分かって安心した。普段は落ち着いている美月だが、真のこととなると無茶をする傾向がある。それでも真の無茶に比べれば可愛いものなのだが、心配は心配だった。


その後、真達は美月と合流を果たし、『フォーチュンキャット』全員の無事を喜びあう。


ただ、勝手にいなくなった真に対して、美月が『一言くらい言ってくれたっていいじゃない!』と説教することとなったのだが、そこは総志が間に入って事なきを得たのだった。




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