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生き残り Ⅰ

「センシアル王国に栄光あれー!」

「突撃―!」

「うおおおおーーー!!!」


接敵当初はジリ貧だったセンシアル王国騎士団だったが、ヴァリア帝国のゾンビ兵士達が一斉に消えたことで、流れが180度変わった。今やセンシアル王国騎士団は破竹の勢いで押している。


「踏ん張れ!」

「生きて帰ろうとは思うな! 死んでもセンシアルを殺せー!」

「帝国のため――ぐああああーーーー!!」


対するヴァリア帝国も必死の抵抗を見せる。戦っているのはヴァリア帝国の中央主力部隊であり、一番戦力が大きい部隊なのだが、残存勢力では士気も兵の数も不利な状況だ。


武器がぶつかる金属音が雨の音に交じってコンクリートの壁に反響する。一人また一人と兵士がアスファルトの上に倒れていく。そのほとんどがヴァリア帝国の兵士たち。


真が魔人を倒したことで勝敗は決したと言っていいだろう。ゲームでいうところのクリア条件を満たしたということだ。


そのため、真と美月は『ライオンハート』の生き残りがいないかを必死で探した。戦場の真っただ中を、敵には脇目も触れずに『ライオンハート』の生き残りを探す。


(俺があれだけのゾンビ達と戦ったっていうことは、それだけ多くの敵をセンシアルと『ライオンハート』で倒したっていうことだ……。たぶん、黒騎士団は『ライオンハート』が受け持ったはずだ……。センシアルの騎士団ではまず太刀打ちできない。それだけの強さを『ライオンハート』は持ってるんだ……。絶対に……絶対にどこかで生きている……)


広い現実世界の幹線道路。一縷の希望を胸に真が戦場駆けていく。ヴァリア帝国がセンシアル王国を撃破したというメッセージ。その中には義勇軍の情報は含まれていない。


(センシアルの騎士団が壊滅した時点でも『ライオンハート』は生き残っていたはずだ……。個々人の強さを考えても希望的観測じゃない……。だとしたら……、そんな状況で紫藤さんはどう動く……?)


真が必死で総志の行動を予測する。総志は自分の内面をほとんど表に出さな人間だ。その分、行動予測がつきにくい。


だが、一つだけ分かっていることがある。それは――


「紫藤さんは絶対に仲間を無駄死にさせるようなことはしない」


真の口から自然と声が漏れてきた。


「うん。私もそう思う。紫藤さんはいつも仲間の命を大切にしてるから……」


並走する美月が同調して声を出す。常にミッションの最前線で戦ってきた『ライオンハート』では、仲間の死は決して少ないものではない。


むしろ他のギルドよりも、仲間を失った経験は多い。だからこそ、ギルドマスターである紫藤総志は仲間の命を誰よりも大切にする。総志が一番前に立つことで、一番危険な役割を総志が担うことで、仲間が危険に晒されることを防ぐ。


それでも、ミッションでの犠牲は出てしまう。その葛藤の中で『ライオンハート』は戦っている。


そこからまた無言で『ライオンハート』の生き残りを探す。真も美月も必死になって戦場を探し回る。


いつしか最前線から離れたところまで来て、真は不意にあるものを見つけた。


「あ、あれは……!?」


真はアスファルトに横たわるローブ姿の人影を見つけると慌てて駆け寄った


横たわった人が装備しているローブは、センシアル王国騎士団の物でもなければ、ヴァリア帝国の兵装でもない。ましてや一般的に売られている装備の類とも違う。


その装備は特殊な物だった。一般的には出回ることのない特殊装備。その装備を持っているギルドは二つしか存在しない。


支配地域を持っていることによって支給される特別な装備。『ライオンハート』と『王龍』だけが持っている物だ。


「おい! しっかりしろ! おいッ!」


真がローブ姿の人影に声をかける。水色を基調としたローブ。それを着ているのは男性。持っている武器からするとソーサラーだろう。支配地域を持っているギルドにしか手に入らない装備なのだが、総志や姫子が装備している物と比べるとランクは低い物だ。おそらく『ライオンハート』の第三部隊の人間だろう。


「しっかりしてください! お願い返事をしてください!」


美月も駆け寄ってソーサラーの男に声をかけるが、返事はない。


「くそ……ッ」


ソーサラーの男は完全に死んでいた。死んでいる人はどうしようもない。


「…………」


美月もどうすることもできない。ビショップである自分は人の命を助けるためにある力を行使できるが、死んだ人を生き返らせる能力までは備わっていない。


「行こう……。生きている人を探そう……」


真は悔しさに歯噛みしながらも、倒れているソーサラーから目を離した。


「……うん」


美月は小さく頷くと、前を向き、再び生き残りを探すべく足を前に出した。


そこから次の『ライオンハート』のメンバーを見つけるまでに時間は要しなかった。ソーサラーの男の死体かそう遠くない場所にあったからだ。


「そ、そんな……」


美月の口から悲痛な声が漏れてくる。


「ぐっ……」


真が強く歯を食いしばった。真と美月が目にした光景は凄惨なものだった。


アスファルトを覆いつくさんばかりの死体。センシアル王国騎士団の死体に交じって、『ライオンハート』の第二部隊と第三部隊の死体が無造作に地面に横たわっている。


「くそがッ!」


真は毒づきながらも、さらに先へと足を運んだ。その後を青ざめた顔の美月が付いてくる。


「まだだ! まだ第一部隊の人がいない! まだだ!」


誰にというより、自分自身に言い聞かせるように真が声を荒げた。目の前の現実を否定するかのように声を上げる。その時だった――


ガキンッ!! 


不意にビルの中から金属音がした。何故か妙に反響している音だ。


「ぐあーーーッ!」


同時に断末魔の悲鳴が上がる。この声もどこかに反響している。


「ッ!? 誰か戦ってるのか?」


真と美月が立ち止まり、音のする方へと顔を向けた。ここは最前線から離れた場所に位置している。そのため、戦闘行為は一切行われていない。全員、最後の戦力を振り絞って最前線で戦っているはずだ。


それなのに、金属音と悲鳴が聞こえてきた。戦闘のない場所での戦闘音。


「がぁあああーーー!!!」


再び断末魔の悲鳴が上がった。その悲鳴はやはり現実世界のビルのある方角から聞こえてきた。ビルの中からというより、そのビルの地下駐車場への入り口からだ。音が反響していたのは、地下の駐車場が音の発生源だからなのだろう。コンクリートの壁に音が反響しているのだ。


「行こう!」


「うん!」


すぐさま真と美月がビルの地下駐車場へと向かった。


地下へと続くスロープを降りていくと、戦闘音はより大きく、よりはっきりと聞こえるようになってきた。しかも複数の音が響いている。どうやら、一人二人が戦っているわけではなさそうだ。少なくとも数十人規模で戦っているだろう。


「どうした―! その程度かヴァリア帝国!」


コンクリートの壁に総志の雄たけびが響いた。それはまるで獅子の咆哮。


地下駐車場へと入っていった真と美月が目にしたのは、100人近くはいるであろうヴァリア帝国兵とそれに立ち向かう紫藤総志。そして、10人ほどの『ライオンハート』第一部隊員達。


「『ライオンハート』舐めるんじゃねえぞコラー!」


総志に続いて、第一部隊の男が叫ぶ。総志たちは完全に囲まれているのだが、全く怯む様子はない。むしろ、押しているのではないかというくらいの勢いだ。


だが、現状はそう甘くはない。どう見ても多勢に無勢。数の力で押されれば、かなり危険な状況でもある。


「紫藤さん!」


<ソードディストラクション>


真は地面を蹴るや否や、ベルセルク最強の範囲攻撃スキルを発動させた。具現化した破壊の衝動が、地下駐車場を蹂躙するかの如く震撼させる。


「「「ぐわああああーーー!!」」」


突然後方から発生した強烈な衝撃に、その場にいたヴァリア帝国兵たちが一気になぎ倒されていった。


「なッ!?」


それには流石の総志も驚きの声を上げた。自身を取り囲んでいる敵の一角が突如として消滅したように見えたからだ。それも、正面の一番部厚い一角だ。


「うおおおおーーー!!」


<ストームブレード>


真は続けざまに大剣を振った。体ごと一回転させるようにして放たれた斬撃の嵐が、ヴァリア帝国兵達を斬り裂いていく。


一連の真の範囲攻撃により、100人近くいたヴァリア帝国兵は壊滅。地下駐車場というい限られたスペースにいたことで、真が放つ範囲攻撃スキルから逃れることができなかったのだ。


「…………!?」


突然のことに『ライオンハート』のメンバーは思考が追い付かなかった。何が起こったのか分からない。かなり危機的な状況にあったのたが、突然、地下ごと潰されるのではないかというくらいの激しい衝撃が起こったと思えば、一瞬竜巻が発生したようにも見えた。そうしたら敵が全滅していた。ただ分かることは、助かったということだけ。


茫然とする『ライオンハート』のメンバーをよそに一人だけ状況を理解した男がいた。


「蒼井か。助かった」


全滅したヴァリア帝国兵には興味を持たず、総志が目の前に現れた真に声をかけた。


「えッ!? 蒼井君!?」


驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げたのは椿姫だった。戦闘態勢のまま真の姿を探すと、すぐに見つけることができた。


「椿姫さん、無事だったんですね……!」


美月が嬉しさのあまり、泣きそうな声で言った。年も近くて、何かと世話になったのが椿姫だ。総志と並んで戦うことが多い椿姫はそれだけ危険に晒されることになる。そのため、美月はとても心配していたのだが、こうして無事な姿を見ることができてホッとした。


「ええ、何とかね……。咲良も無事よ……。ありがとう……。本当に助かった……」


かなり憔悴した様子の椿姫だが、何とか立って返事をした。


椿姫に名前を呼ばれた咲良は少し前に出てきて無事をアピールした。今にも倒れそうな顔だが、握りしめた短剣は離さない。


「咲良も……。良かった……、本当に無事で良かった……」


小柄な咲良を見つけて、美月が堪えていた涙が溢れてきた。強がってはいるが、咲良は『ライオンハート』では最年少だ。美月よりも年下。華凛とは何かと喧嘩をする仲だが、美月にとってはちょっと生意気な妹の様な存在だった。


「総志様がいるのよ……負けるわけがないでしょ……」


咲良は言葉ではそういうものの、声に力がない。自分は何とか生き残ることができたが、この戦いでも大勢の仲間が犠牲になった。今いる場所にも、仲間が横たわっている。そのことを思うと、素直に喜ぶことができない。


「そう……だね……。とにかく回復スキルをかけるから……」


倒れて動かなくなった『ライオンハート』のメンバーを美月も見つけた。咲良が言った『負けるわけがない』、この言葉。生きていることを喜んでくれた相手に対して、『死ぬわけがない』とは言わなかった。


それは、何人もの仲間が死んでしまったから。美月はこれ以上話をせず、傷ついた『ライオンハート』の人達に回復スキルをかけていった。




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