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義勇軍 Ⅴ

「ま、真ッ!? 何を言い出すの!?」


まず声を荒げたのは美月だった。千尋と小林のやり取りに口出しすることができずに黙って聞いていたが、真がとんでもないことを言い出したため、思わず声を上げた。


「そ、そうよ!? いくら真でも無茶が過ぎるでしょ!」


続けて翼も声を上げる。相手は『ライオンハート』を含めたセンシアル王国騎士団の中央主力を倒しているのだ。しかも、余力はまだ残っているという想定。


「二人の言う通りだ。いくらお前が強くても相手にする数が桁違いに多い。一人でどうにかできる数じゃないだろ」


千尋も美月と翼と同意見だった。敵のイレギュラーが何かも分かっていないのに、一人だけで行くなど正気の沙汰とは思えない。


「……みんなが言いたいことは分かるけどさ……。一応、俺にも計算があってのことなんだ」


周りからの猛反発に真が少したじろぎながらも反論した。


「蒼井君、聞いておくけど、その“計算”っていうのはどういう計算なんだい?」


比較的落ち着いた態度の小林が質問をした。小林としては真が一人で行くということに対して検討の余地はあると思っていた。


「俺一人で行くっていうのは、あくまで義勇軍としてのことだ。すでに先行している王国騎士団がいる。数は約1万弱っていうところか。騎馬兵は斥候として動いているだろう。接敵する前に陣形を整えると思うから、戦いが始まるころには追い付けると思う」


「でも、ヴァリアは中央主力部隊だ。残存勢力もかなり多いという仮定だけど、その仮定が正しければ、数の差は相当多いけど?」


真が言いたいことは小林も分かっていた。真が一人で帝国軍と戦うわけではない。センシアル王国騎士団約1万弱と一緒に戦うのだから、問題ないと言いたいのだ。だが、数の差があるという前提はどうするつもりなのか。


「何も俺と先行してる王国騎士団だけがこっちの戦力じゃない」


「というと?」


「俺以外の義勇軍は『王龍』の応援に行ってほしい。それで、できる限り早く帝国軍の右翼を倒して、すぐに中央へ駆けつけてもらえれば、戦力は五分になるはずだ」


「蒼井君がそれまでの時間を稼ぐっていうことかな?」


「ああ、そうだ」


「ヴァリア帝国の“イレギュラー”はどうする?」


「敵のイレギュラーが何か分からないけど、もし軍師だとしたら、俺のことまで計算には入れてないはずだ。俺が戦場を引っ掻き回せばかなり時間を稼ぐことができる」


自分でも手前味噌なことを言っているのと思いながら真が話をした。どちらかというと、こういう自分でハードルを上げること言うのは苦手だ。


「イレギュラーが少数精鋭の特殊部隊だったら?」


「そっちの方が厄介なんだけど……。俺がそのイレギュラーを引き受ける。そうすれば、時間は稼げるはずだ……」


真は少しだけ不安気に答えた。敵のイレギュラーが特殊部隊だとしたら、敵の相手をしている間、真はセンシアル王国騎士団の応援に行けなくなる。そうなると、単純に数の差が物を言うことになるため、こちら側がかなり不利な状況になってしまうのだ。


「なるほどね……。分かった。僕は蒼井君の意見に賛成するよ。千尋さんは?」


真の案に納得した小林が千尋に問う。


「それしか方法はないか……。蒼井真、悪いが一人で行ってほしい。それと、できれば『ライオンハート』の救助も頼みたい」


千尋としては反対したい気持ちは山々なのだが、代替案が出てこない。現実的に可能な作戦ということであれば、真の提案が一番成功する可能性がある。それに、『ライオンハート』に生き残りがいたとしたら、真が行くことで生きて帰ってこれる希望が出て来る。


「いや、待ってください! 本当に真一人で行かせるんですか!?」


美月が堪らず反対意見を出した。まさか、千尋まで真の提案に賛成するとは思ってもいなかったからだ。


「本当もなにも、他に打てる手立てがない。それに蒼井真一人ではない、センシアル王国騎士団もいるんだ」


千尋としても苦渋の選択だった。センシアル王国騎士団もいるとはいえ、戦力差があることが想定されている状態だ。『ライオンハート』を倒したということも気になるが、他に頼れるものはない。


「真君も一緒に『王龍』の方に行ったらダメなの? そっちの方が早く終わって、中央にもすぐ応援に行けるでしょ?」


華凛にしては珍しく意見を出してきた。こういう場面で華凛が意見をすることはないのだが、さすがに真の無茶が過ぎるため、口を出さずにはいられなかった。


「俺が『王龍』側に行ってる間に、中央の王国騎士団が壊滅状態になりかねない。そうなったら、『王龍』側の応援も意味がなくなる」


すぐに真が反論した。華凛が心配して言ってくれているのは分かるが、現実問題として、『ライオンハート』を倒せるほどのヴァリア帝国軍中央主力に、真抜きのセンシアル王国騎士団が耐えられる可能性はゼロに近い。


「ここで議論している時間はない。義勇軍の指揮として、蒼井君にヴァリア帝国中央主力へ向かうことを命ずる!」


小林が美月と華凛の意見を跳ね除けるように強い口調で言った。その他の連合の指揮権を持っているのは『フレンドシップ』だ。そのサブマスターとして、指揮権を発動させる。


「ああ、了解した! 『ライオンハート』のこともできる限りのことはする」


真が二つ返事で了承する。


「ちょっと待ってッ! 真もそんなに簡単に応えないで!」


あまりにも簡単に決断する真に対しても美月が怒ったような口調で声を上げた。


「美月……、これしか方法がない……。俺なら大丈夫だ。だから、行ってくる」


「真!? 待って――」


「ダメだ!」


真を止めようと出てきた美月を千尋が制する。


「どうしてですかッ!?」


行く手を阻む千尋に対して、美月がキッと睨みつけた。


「本当に時間がない! ここで迷っていては全てが手遅れになる! 真田美月、お前もそれは分かっているだろう?」


千尋は美月の目を見つめながら言った。睨んでくる相手に対して、睨み返すようなことはしない。目の奥を覗き込むようにしてじっと見つめる。


「くっ……」


美月は反論することができなかった。真が言っていること以外に選択肢が出てこなかった。真を一人で行かせることが現状では最善の策であることが理解できてしまった。そのことに歯噛みするしかない。


「蒼井君、行ってくれ」


小林が立ち止まっている真に声をかけた。


「……ああ、分かった」


後ろ髪を引かれる思いがあるものの、真は走り出した。


「…………」


美月は走って遠ざかっていく真の背中を見つめることしかできなかった。


それは、美月だけに限らない。翼や彩音、華凛も同様に真の背中を見送ることしかできない。


少女たちが、渋々だが真のことを諦めたようなので、千尋がすぐさま切り替えて待機している義勇軍の方を向いた。


「こっちも時間に余裕があるわけではない。蒼井真の作戦を遂行するためにも、敵右翼、『王龍』の応援に駆け付けるぞ!」


心配する少女達の気持ちも分かるが、今はそれどころではない。千尋が号令を出すと、待機していた『フレンドシップ』のメンバーが義勇軍全体に伝令を出していった。最近のミッションには参加していなかった『フレンドシップ』だが、ゴ・ダ砂漠時代に『ライオンハート』と一緒にミッションを遂行してきた経験が動きを早くしていた。


「事情を説明したら、赤嶺さんは怒りますよね?」


作戦を伝達していく『フレンドシップ』のメンバーを見ながら小林が呟いた。残された『フォーチュンキャット』のメンバーも指示に従っているようだ。


「激怒するだろうな。『蒼井一人に行かせて、なぜ自分のところに来たんだ』って言うだろうが、刈谷悟が説き伏せるだろう。あっちの副官もかなりいやらしいからな」


理屈より感情で動くタイプが姫子だ。それを理屈で抑えるのが悟。上下関係ははっきりしているものの、悟が上手いこと姫子を動かしているのは見えている。


「僕は刈谷さんほど有能でも変人でもないですけどね」


「どうだかな。前は真面目な人だと思っていたが、最近は評価を見直している。私が『フレンドシップ』のサブマスターだった時はもっと素直な副官だったぞ」


「そうでしたっけ? 真辺さんがガサツ過ぎただけで、千尋さんが素直だということにはならないと思いますが?」


「どこぞの副官と比べれば、私は可愛いくらいに素直だ」


「それを言われると返す言葉がなくなりますね」


小林がふふっと鼻で笑った。こういう軽口が言えるくらいに落ち着くことができたのは、真が希望を示してくれたからだろう。


『フォーチュンキャット』のメンバーは黙ったまま口を開こうとする者はいないが、小林にとっては、どうしていいか分からなかったところに光明が見えたのだ。


それは千尋も同じだった。絶望的に思われた『ライオンハート』の救出もできるかもしれない。そもそも、『ライオンハート』が全滅したという情報はない。ただ、センシアル王国騎士団がヴァリア帝国の中央主力部隊に撃破されたことは間違いないため、楽観視することはできない。


「千尋さん、整列終わりました」


『フレンドシップ』のメンバーの一人が千尋に報告しにやってきた。


「ご苦労だった――よし、時間が惜しい状況だ。これより、直ちに『王龍』の応援に向かう! そこで、敵を蹴散らしたらすぐさま中央へ戻る。全軍進め!」


千尋が気高く声を上げると、義勇軍は一斉に『王龍』の応援へと向かって進みだした。




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