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戦場へ

        1



ヴァリア帝国がセンシアル王国への侵攻を開始するまで残り3日。王都グランエンドの正面玄関である城門の前には万を超える王国騎士団が集結していた。


これほどの数のセンシアル王国騎士団が一堂に会すると見る者を圧巻する。センシアルという国の力を象徴するかのように、騎士団達は威風堂々と整列している。


そして、王国騎士団とは少し離れた場所に集合しているのは義勇軍として参加することになった『ライオンハート』の同盟だ。これもまた数が多く、担当によって3カ所に分かれて集合していた。


ヴァリア帝国の中央主力を担当する『ライオンハート』が城門前の正面入り口に、ヴァリア帝国軍の右翼を担当する『王龍』とその直轄同盟は城門の西口に、真達を含むその他の同盟連合は城門東口に集合していた。


「…………」


真は無言で集合場所に待機している。センシアル王国騎士団は何やら隊長格の人が団員に向けて声高らかに演説しているが、真達からは少し距離があり、何を言っているのかは分からない。凄く熱い言葉で語っているということは、内容が分からなくても、見た感じからその熱量が伝わってくるほどだ。


それに反して真達のいるその他同盟連合はあからさまに沈んでいた。新しく宰相となったリヒターが義勇軍の集合場所に遣いの者を出しており、こちらも熱い言葉で話をしているが、完全に上から目線であり、『センシアル王国のために戦える名誉』という内容であるため、人々の反応はほとんどない。


あるのは厭戦ムード。毎回ミッションに参加している真も見たことがない顔ぶればかりが集まっている。『ライオンハート』の同盟会議で話題に出てきた後方支援組なのだろう。


今までのミッションでは物資集めや寄付金集めなどをしてきて、直接戦ってはこなかった人達も、今回のミッションは戦場に行くということで、人数が必要なため駆り出されたのだ。


世界を元に戻すために仕方なく参加しているのだろうが、露骨に嫌な顔をしてる人もいる。


(俺たちも人のことは言えないんだけどな……)


真が心の中で独り言ちた。今回のミッションは『フォーチュンキャット』としても非常に気が乗らない。浄罪の聖人の遺骸を持ってくるシークレットミッションよりも今回の方がギルドの全体的なテンションは低いだろう。


何せ戦争をしに行くのだ。今までのミッション以上に疑念がある。美月達は“戦争”という言葉に対して嫌悪感を持っている。実際に戦争を経験したことはないが、学校教育においてその悲惨さは嫌というほど教えこまれてきた。


(侵略に対する防衛だから、正当性はあるんだけどな……)


そんな美月達と違い、真としては今回のミッションは一定レベルでモチベーションがあった。ヴァリア帝国の不当な暴力に対して、センシアルの国民を守る。そのために振るう力だ。高い理想や信念があるわけではないし、自分たちが正義だと言うつもりもない。ただ、侵略という卑劣な行為に対して、守るという行為は、それが戦争という形であっても当然のことだと思っていた。


真がそんなことを考えていると――


プァーーーーー!!!


突然、甲高いラッパの音が鳴り響いた。いきなりの高音に、少し驚きながらもラッパ音の方へと視線を向けると、センシアル王国騎士団が出陣するところだった。


センシアル王国騎士団はその大軍ながらも隊列を崩すことなく、センシアル王国の旗を掲げて戦場へと向けて歩み始める。


隊列の後ろの方には若い新米騎士の姿も見えた。緊張した面持ちで隊列を組んでいる。騎士団の鎧なのだが、鎧を纏っているのか、鎧に纏われているのか分からないくらいに不慣れな感じだ。


「それでは義勇軍の諸君、これよりヴァリア帝国との戦いに出陣する!」


一人だけ熱量のあるリヒターの遣いの者が声を張り上げると、センシアル王国騎士団の最後尾についていく形で移動を開始した。



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リヒターが遣いとして義勇軍に派遣したのは10人ほどのNPC達。遣いと言っても一応戦う準備はしてきてるようで、鎧に剣と盾を持っている。だが、主な役割は義勇軍の誘導及び騎士団と連携するためのパイプ役だ。


そのリヒターの遣い達を先頭に、真達が所属しているその他同盟連合は担当する戦場へと向かって只管歩き続けた。


戦場への道のりは徒歩で二日ほど。草原や湿地帯を抜け、野宿をし、翌朝にはまた歩き始める。王都から主要な街や村に移動するためには馬車があるのだが、戦場へ行く馬車などない。


世界がゲーム化してからの移動手段は主に徒歩であるため、真達からしてみればいつも通りの移動ということになる。狩場に行くために半日以上歩き続けることも日常的なことだ。


ゲーム化して間もない頃は半日以上歩き続けるとさすがに疲れていたが、人間慣れるもので、今となっては、半日以上歩き続けた後にモンスターと戦闘することだってあるくらいだ。


そういった理由からか、二日目の夕方には戦場となる地域のセンシアル王国側陣地にまで辿りつくことができた。


センシアル王国側の陣地となる丘陵からは現実世界の河川が見える。幅広の河川で、河原には整備されたグランドもあった。現実世界では野球少年たちが練習をしていたのだろう。西から差し込む夕日がグランドの土を照らしている。


河川には大きな橋が架かっている。鉄骨とコンクリートで固められた頑丈な橋だ。この橋を渡って反対側からヴァリア帝国が攻め込んでくると想定されている。主な戦場はこの橋の上ということになるだろうと真は丘陵から橋を眺めていた。


一方、先に到着していたセンシアル王奥騎士団は若い新米騎士たちがせっせと野営の設営をしている。よく訓練されているようで、手際よくやっているようにも見えるが、そこら中で怒鳴られている声が聞こえてきた。


どこの世界でも新人というのは怒られるのだなと、働いたことがない真が様子を見ていると、リヒターの遣いの者が話を始めた。


「義勇軍の諸君。諸君らはここに野営を敷く。ヴァリア帝国との開戦までには丸一日あるが、明日は戦いに備えて英気を養ってほしい。作戦の指揮は義勇軍に一任する。くれぐれもセンシアル王国騎士団の邪魔になるようなことだけは避けてくれ。以上だ」


リヒターの遣いはざっくりと話をした後は、我関せずといった感じで義勇軍の陣地から離れていった。


慣れない戦場に連れてこられて、あとは投げっぱなし。野営を敷くということだけは分かるのだが、これからどうしたらいいのだろうかという空気が、その他同盟連合の中に流れだした時だった。すぐさま一人の女性が前に出てきた。


「さてと、みんな聞いての通りだ。ここはもうすぐ戦場になる。私もそうだが、戦争は初めての経験となる。今までミッションに参加したことがある者もそうでない者もいるとは思うが、これまでの戦いとはわけが違うだろう。敵は統率が取れた軍隊だ。戦争ということであれば、敵の方が遥かに慣れている」


声を上げたのは千尋だった。ギルド『フレンドシップ』のマスターであり、その他同盟連合の指揮は千尋が執ることになっている。


「だが、臆することはない。こちらには最強の剣がある――と言っても、ほとんどの人には何のことか分からないだろう。これは言葉で言っても分からない。実際に見てみて初めて理解できることだ。この部隊は最終兵器を持っているということをな」


『ライオンハート』の同盟の幹部は真の強さを聞いてるが、普通のギルドメンバーは真の強さなど知らない。それは、『ライオンハート』の同盟の方針として、真の強さを表に出さないようにしたためである。だが、今回のミッションでは、同盟の各員に対して、真の強さを隠しておく必要はない。


「…………」


案の定と言ったところか、ほとんどの人の反応は不安気だった。


「心配することはないと言いたいところだが、信じられないのは無理もないことだ。ただ一つだけ信じてほしい。この部隊が一番負担の少ない部隊だということを」


千尋が声高らかに上げるが、士気は上がらない。誰もが戦争に駆り出されたという不満と不安でいっぱいだった。『フレンドシップ』では鼓舞することが難しい。そのあたりは『ライオンハート』や『王龍』との力の差を思い知らされる。


「それでは各自、野営の準備をしてくれ」


自分の力がまだ弱いということは千尋も承知していることだ。自身のギルドの中では厚い信頼を得ているが、対外的にはまだまだ無名に等しい。それでも千尋の気持ちは高いままだった。真の強さを見たらこの意気消沈とした空気が吹き飛ぶことなど目に見えているのだから。


(やたらと持ち上げるのは勘弁してほしいんだけどな……)


当の真は赤黒い髪をかき上げ嘆息した。千尋が言っていることは間違ってはいないし、真自身も最大限の力を発揮するつもりはいるのだが、注目されるのは歓迎したくない。


(まぁ、後方支援しか経験してない人が多いみたいだから、俺がいる最前線までは来ないかもな)


真の予想では積極的に前に出て来る人はほとんどいないだろうと考えていた。前に出て来る人は千尋や小林あたりか。あとは『フォーチュンキャット』のメンバーくらいのものだろう。大半は後方に陣取っていると考えると、注目を集める心配はそれほど高くはなさそうだった。



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