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緊急通知 Ⅱ

        1



「戦争に参加って……。なんで私たちが戦争に行かないといけないのよ!?」


真が言ったことを受け止めきれない華凛が慌てたように声を上げた。


「可能性の話だ。そうと決まった……わけじゃない……」


真はそう言いながらも途中から声のトーンが下がっていた。


「そうなの……?」


いまいち自信なく答える真に対して華凛が不安げに聞き返す。


「真はさ……、その可能性がどれくらいだと思ってる……?」


美月が真を見ながら訊いた。訊いてはいるのだが、真がどう考えているのかは美月も分かっている。分かった上で訊いた。それは、覚悟をしておく必要があるからだ。楽観的な考えを持つことが得策ではないと思ったのだ。


「……今回のミッションなんだけど……」


「うん……」


言いにくそうにしている真に対して、美月は静かに相槌を打つ。


「メッセージが届くまでは全く見当もついてなかった。ヴァリア帝国内でミッションを受けて、モンスターとかを倒すんだろうなっていうことくらいにしか思ってなかった……。そもそも、ヴァリア帝国でミッションを受けるのかどうかも分かってない状態だった」


真は考えを明言しないまま、今までの考えていたことを話す。他のメンバーはその話にじっと耳を傾ける。


「それで、さっきのメッセージだ……。バージョンアップで新たなミッションが追加されたことと、ヴァリア帝国が侵攻を開始すること……。この二つを結び付けるのは自然なことだと思う……」


「それって……つまり……」


ここまで聞いたら華凛も理解をした。真が考えている“戦争に参加する可能性”がどれくらいのものなのかということを。


「ほぼ確実だと思ってる……」


真は目線を合わさずに言った。真がメッセージの内容を確認した時にまず出てきた答えがこれだ。他に考えられる可能性を模索したが出てこなかった。


「…………」


全員何も言えなかった。“戦争”という単語。それは教科書でしか見たこのないものだ。現実世界では今も戦争をしている国はある。だが、平和な日本では遠い国のこと。現実に起きていることでも現実味に欠ける事柄だ。


その“戦争”というものが目の前に迫っている。まだ、可能性の話でしかないのだが、真が言うように『ほぼ確実』ということは全員が感じていた。


「どう……するの……?」


不安に耐えきれずに華凛が口を開いた。自分ではどうしていいか分からない。


「まずは本当にミッションと関係しているのかを確かめる。戦争に参加しないといけないのかどうかも含めてな……」


これも真はずっと考えていたことだった。戦争に参加する可能性が高いという考えに至った後、じゃあどうすればいいのかを考えていた。


「どうやって……?」


続けて華凛が質問をした。


「今はまだ無理だろうな……。『ライオンハート』も『王龍』も情報をまとめてる最中だと思うし……」


「それなら……私たちにできることって……」


美月が俯いたまま考え込む。今の状況で自分たちにできることは何なのか。12日後にはヴァリア帝国が侵攻を開始する。タードカハルに来るだけでも3日を消費するため、侵攻が開始されるまでの時間は長いようで短い。


「とりあえずタードカハルに集合するしかない。他の人も同じメッセージを受け取ってる。今回の探索には『ライオンハート』のメンバーもいる。紫藤さんからギルドメッセージで何か指示が出されてるはずだ。その場で待機の指示があるのか、タードカハルの探索を指示されるのか……分からないけど、その指示に従う」


ゲーム化した世界での数少ない通信手段がギルドメッセージだ。これはギルドマスターだけが使える機能で、ギルドメンバーに対してマスターが書き込みをするというもの。もの凄く制限のある機能なのだが、スマホなどの通信機器がない世界では貴重な存在だった。


「それしかないわよね……」


真の意見に翼も納得とうか、他にいい案が出ては来なかった。美月と同様、今の状況で自分に何ができるのだろうかと考えるも、大人たちの指示に従う他にはなかった。



        2



タードカハルの乾いた大地を猛烈な太陽光が焼き付ける昼下がり。街の入り口にある馬車の寄り合い所には大勢の人が集まっていた。今回のバージョンアップによって追加されたヴァリア帝国への道を探すために集められた現実世界の人達だ。


皆不安な表情をしている。真達が出したのと同じ答えを出した者もいるだろうし、自分たちが戦争に参加するとは思っていなくても、ただ漠然とヴァリア帝国が侵攻してくることに不安を持っている者もいるだろう。


届いたメッセージの内容が大雑把であるため、人々は憶測を飛び交わしてざわついていた。


「蒼井真。少し話をしてもいいか?」


周りの人達と同じように暗い表情をしていた真達に、凛とした声の女性が話しかけてきた。


「千尋さん……。ああ、大丈夫だ」


声をかけてきたのは『フレンドシップ』のマスターの千尋だった。すぐ横にはサブマスターの小林もいる。


「お前にもメッセージは届いていると思うが、どう考えている?」


千尋は迷いなく一直線に訊いてきた。余計なことを言わないところは出会った時のままだ。


「……ヴァリア帝国の侵攻と今回追加されたミッション……。この二つは関係してると思ってる……」


少し躊躇いながらも真は答えた。


「そうか……。私たちの意見も同じだ。おそらくヴァリア帝国の侵攻に対して、私たちは兵力として関与することになるだろうな」


「俺は、センシアルとヴァリアの戦争になると思ってる……」


岩砂漠の乾いた風が吹いた。勢いよく舞う砂埃に真が目を顰める。


「僕もそう思う……。そうなると、センシアルとヴァリア、どっちに付くかっていうことだけど……。十中八九センシアルだよね?」


小林も考えていることを口にした。


「センシアル側に付く以外には考えられないな……。ヴァリアは行ったこともない国だし」


「そうだよね……。だとしたら、赤嶺さんが――」


小林が何か言おうとした時だった。それを遮るようにして大きな男性の声が割って入ってきた。


「皆さん落ち着いて聞いてください。只今より『ライオンハート』からの指示を出します。繰り返します。只今より『ライオンハート』からの指示を出します」


声の主は出発の時に集合場所で馬車に乗る指示を出していた佐藤という男だ。あの時もそうだったが、大勢の人の前でよく通る声をしている。


ざわついていた人々もその声に反応して、すぐに静かになった。


「まずは、先ほど皆さんに届いたメッセージについて説明いたします」


「まじか!?」


真は驚いていた。メッセージが届いたのは午前中のことだ。そして、今は正午を過ぎてから2~3時間といったところ。その間に『ライオンハート』はメッセージに関する説明ができるだけの情報を入手したということになる。


「このメッセージはミッションを受けたことによって発生したものです。ミッションはセンシアル王国の王城で、新たに宰相となったリヒターという人物から受けることができました」


(そういうことか……)


佐藤の説明を受けて真が合点がいった。『ライオンハート』や『王龍』の幹部は王都グランエンドで待機している。集められた情報はすべてこの二大ギルドに集約されるのだが、王城にいるリヒター宰相がミッションの発生源であるのなら、同じ王都にいる総志に情報が入ってくる速度が速いのは当然のことだった。


そして、佐藤はさらに説明を続けた。


「要するにミッションに関する話を聞いたことによって、ゲームとしてのミッションが進み、ヴァリア帝国からの侵攻というメッセージが発せられたということのようです。ちなみに、このミッションの内容なのですが、現在、情報を整理している段階であることから、詳細については不明です」


「真……これって……」


佐藤の説明を聞いた美月が思い当たることがあって真の方へと目を向けた。


「ああ……エル・アーシアの時と同じだ……」


エル・アーシアが追加されたバージョンアップ。その時も同時にミッションが追加された。真達はミッションの情報を集めるだけのはずだったが、エルフ族の族長から話を聞いたことで、ミッションが進み、時間制限まで付けられたことがある。


「このパターンは回避のしようがないのが厄介だよね……」


隣で話を聞いていた小林も、この時、真達と一緒にミッションの情報を収集していた。あの時の焦りは今でも覚えている。


「そうだな。小林さんの言う通り、ミッションの内容が分からない限り対策を考えることもできないのに、そのミッションの内容を知った途端、否応なしにミッションが動き出す。最初から覚悟を決めてミッションの内容を確認するしかないんだ……」


千尋も苦い顔で言った。千尋が経験したのはゴ・ダ砂漠でのミッションだ。このミッションもエル・アーシアのミッションと同様に、その内容を確認した途端、制限時間を設けられた。その時も『ライオンハート』主導で動いていたことを思い出した。


「そこで、皆さんには申し訳ないのですが、今すぐに王都へ帰還していただきます」


佐藤の通る声は総志からの指示を伝える。『申し訳ない』と言っているが、悪びれた様子はない。そのあたりの肝は据わっているようだった。


「今から!?」


誰のものかは分からないが、太い声で不満が聞こえてきた。


「今からです! 時間の猶予はありません! 今から各自で馬車を手配して王都へ帰還してください!」


その不満は想定のことだった。佐藤は聞く耳持たないとばかりに王都への帰還を指示する。


「帰還してくれって、来たばかりでそれって……。王都に帰ってどうするんだよ? そのあたりの説明もしてくれよ!」


人々の中から当然と言えば当然の声が上がった。


「私も他に情報は持っていません。他に説明できることはありません! 直ちに帰還してください! 帰ってからの説明は帰ってからします」


佐藤は物怖じすることなく言い切った。その横暴ともいえる佐藤の態度に、人々からは――


「おかしいだろうが! 説明しろよ!」

「そんなことで納得できると思うのか!」

「ここに来るだけでも相当な労力が必要なんだぞ!」


次々に不満の声が上がる。中にはヤジとも取れるような物まであった。


「ギャーギャー騒ぐな! ミッションだろうが!」


今まで以上に大きな声で佐藤が怒鳴った。その迫力にヤジを飛ばしていた人まで黙り込む。


「お前ら、世界を元に戻したくないのか! あぁ? どうなんだ!」


佐藤はなおもまくし立てた。その光景に真は目を丸くしている。美月達も同じだ。ただ、千尋と小林は面白そうにしていた。


「ミッションが世界を元に戻す鍵なんだろうが! そのために『ライオンハート』や『王龍』が命かけて、最前線で戦ってくれてるんだろうがよ! その頭が帰って来いって言ってんだよ! つべこべ言わずに帰れや!」


「…………」


佐藤の迫力に押されて、誰も何も言えなくなっていた。


「早くしろやッ!」


動かずに固まっている人々に対して、佐藤が一喝すると、蜘蛛の子を散らすように人々は動き出した。


「……俺たちも馬車の手配に行くか」


真が静かにそう言うと、他のメンバーは一様に頷いた。とはいえ、人々が一斉に動き出したため、すぐに馬車の手配ができるかどうか怪しいところ。そんなところに一人の女性が真たちの方へとやってきた。


「あの、『フォーチュンキャット』の皆様、ちょっとよろしいですか?」


話しかけてきたのは、王都から出発する時に、『フォーチュンキャット』専用の馬車へと案内してくれた女性だった。この女性も確か『ライオンハート』の所属だ。


「あ、あの時の……」


王都から出発する時のことを思い出しながら、真が返事をした。豪華な馬車を見て驚いているところを、この女性が面白そうに見ていた。


「ええ、3日ぶりですね」


女性の方も豪華馬車を見せた時の真達の反応を思い出しているのだろう。笑みを溢しながら話を続けた。


「先ほどは『ライオンハート』の佐藤が大声を出してしまい申し訳ありません。彼は元なんとかっていうチームでバイクによる暴走行為をしていた経歴があるそうで」


「そ、そうなのか……、っていうか、その暴走行為をしてた人に内務をやらせないでくれよ……」


真は赤黒い髪をかき上げて嘆息した。佐藤は最初の自己紹介で『内務をしている』と言っていた。だから、もっと真面目で几帳面な人なのかと思っていたのだ。


「ふふ、でも、佐藤さんは結構細かいところに気が回る人なんですよ。更生施設を出てからは真面目に仕事をしていたようですし」


「そ、そうなのか……。で、何にか用があるんだろ?」


真はどういう理由で佐藤が更生する施設に入っていたのかは聞かないことにした。


「ええ、そうです。皆様には馬車を用意してありますので、こちらへどうぞ」


「えっ!? 馬車を用意してくれてるのか!? いつの間に?」


真は驚いた声を出していた。タードカハルに着いてから、説明があるまで多少待ってはいたが、それにしても行動が早い。


「私たちはタードカハルに着く前に指示を受けてましたからね。その指示の内容に、『フォーチュンキャット』を最優先で帰還させろとありましたので、到着したその場で馬車を手配しておいたんです」


案内役の女性はにこやかに答えた。こういうチャッカリしているところも『ライオンハート』の強さなのだろう。


「でも、いいんですか? 他の人達は馬車の手配に手を焼いてるようですけども……」


美月が回りを見ながら申し訳なさそうに言った。


「問題ありません。皆様は特別ですので。今回のミッションでも活躍を期待しております」


その言葉に真や美月達の表情が強張った。これからやることはほぼ間違いなく戦争。その戦争で活躍を期待されているということ。


そのことが心に引っかかるが、ミッションである以上やるしかない。佐藤が言ったように“世界を元に戻す”ための戦いだ。これはセンシアル王国もヴァリア帝国も関係ない。ゲーム化した世界との戦いなのだ。




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