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宿の夜

王都グランエンドは夜になっても活気が溢れている。現実世界のネオンに比べれば地味ではあるが、街中で灯されているランプの暖色は煌々と夜の夕闇を照らしている。まるで街全体が火を放っているようだ。


そんな王都の中心地からも近い場所にある宿に真たちは宿泊している。王都の中心地から近いこともあって、ちょっとお高い宿だ。広さも十分で、備え付けのテーブルや椅子はしっかりとした作りだし、床を歩いていて軋むようなこともない。ベッドもクッションが効いて寝心地も悪くない。


以前ならこんな宿に泊まれるだけのお金はなかった。日々の生活、食べ物を買うお金、装備を整えたり、アイテムを補充していればすぐにお金が底をつく。だから、泊まるとしたら安宿。野宿をすることもあった。


だが、今は金がある。有り余るほどとまではいかないが、『ライオンハート』の同盟に加入したことによって配当金が支給されるようになったからだ。しかも、配当金の額が破格。5人しかいない『フォーチュンキャット』に支給されるのが数百人規模のギルドと同等の配当金なのである。


真がミッション攻略の要であることは言うに及ばず、他の『フォーチュンキャット』のメンバーもミッション攻略に尽力してきた。それこそ、『ライオンハート』の精鋭部隊と言われる第一部隊に勝るとも劣らない活躍だ。


「それで、私たちはどこに行くことになったの?」


柑橘系のジュースを片手に翼が訊いた。


「俺たちはタードカハル周辺担当だ」


部屋のテーブルの反対側に座る真が端的に答える。


真と美月が会議から帰ってきたのは夕方になってから。それから食事を済ませて、宿に戻り、仲間に今回の会議の報告をするためにテーブルを囲んでいる。


「また、あそこまで行くのね……」


華凛が愚痴を溢しつつ、露店で買ってきた煎り豆に手を伸ばす。


「それは仕方ないよ……。タードカハルが有力候補だから、その分人数も多く配置されるし、それに私たちはタードカハルに詳しいからさ」


美月が華凛を諭しながらも煎り豆に手を伸ばす。程よく振られた塩加減に、煎られた豆の香ばしさ。噛めば出て来る甘味が女子たちに好評なのだが、なぜか真は手を付けない。


「まぁ、華凛さの気持ちも分かりますけどね……。タードカハルは暑いですし……」


彩音も苦い笑いを浮かべながら煎り豆を摘まんだ。タードカハルは岩砂漠の国だ。日中の容赦なく照り付ける日差しは、燃やされるのではというくらいに強い。反面、夜になると急激に気温が下がって、寒いくらいになる。非常に厳しい環境にある国だ。


「俺だって行きたくはないよ。暑いし、砂埃は多いし、食べ物は独特の味付けだし」


真はタードカハルでの食べ物を思い出していた。内陸で四方を他国に囲まれた地域がタードカハルだ。その歴史は防衛の歴史。周辺諸国からの侵攻と戦い続けてきた。


海から遠く、回りを敵に囲まれている。そういった立地条件からか、タードカハルでは塩が貴重だった。料理の基本ともいえる塩が使えないとなると、様々な香辛料を使って味付けをする文化が生まれ、独特の食文化が形成されたのがタードカハルである。真は正直ってその味付けが苦手だった。


「真も文句言わないの! 決まったことでしょ!」


美月が説教じみた声で言った。会議の場で決まったことでもあるし、選出された理由も合理的なものだ。反論できるような材料もないため、『フォーチュンキャット』がタードカハル周辺の担当になることを止めることはできなかった。


「ところでさ、私たちの他にはどこのギルドが行くの?」


柑橘系のジュースを飲み干した翼が質問した。


「『フレンドシップ』の人達も来るぞ。それから……えっと、『ライオンハート』の第三部隊とか探索やってる人たちが所属してる部隊とか」


「えっ!? 『フレンドシップ』さんも来るの!? それを先に言ってよ!」


翼の顔がパァッと明るくなった。『フレンドシップ』のメンバーとは繋がりが深い。非常に痛ましい事件もあったが、それを乗り越えてきたことで関係はさらに良くなっていた。


ただ、『フレンドシップ』の活動はゲーム化した世界での弱者の支援。そのための資金稼ぎに奔走し、集めた物資を届けるために日々移動の毎日を繰り返している。だから、王都を拠点としている『フォーチュンキャット』のメンバーが『フレンドシップ』のメンバーと顔を合わせることは少なくなっていた。


「それと、『王龍』からも結構な人数が来ることになってるよ。あとは直接知らないギルドの人達が多いかな」


美月が補足説明をした。美月は『フレンドシップ』以外にも顔を知っているギルドはいくつかあるが、『ライオンハート』の同盟は巨大なものだ。さすがに知らないギルドの方が多い。


「そうなんだよな……。同盟のギルドって未だにほとんど知らないところばかりなんだよな……」


真が赤黒い髪をかき上げ嘆息した。同盟に加入しているギルドが多くて把握しきれていないところが多かった。


「それは、あんたの交友関係が狭いだけでしょうが」


すかさず翼がツッコミを入れる。何度も同盟会議に出席しているにも関わらず、どうして真はまだ『フォーチュンキャット』以外のメンバーと交流を持っていないのかが不思議でならない。


「うっ……!? そ、そんなことはねえよ! ただ、あれだよ……。『ライオンハート』の同盟って、ほとんどがゴ・ダ砂漠かコル・シアン森林の出身なんだよ。だから、エル・アーシアからの人が少ないだけで……。別に俺がボッチとか……そんなんじゃ……」


「ボッチなんでしょ?」


翼の鋭いツッコミが飛んでくる。その一言は無慈悲に真の心臓を一突きにした。


「う、うるせえな! ボッチじゃねえよ! あそこは遊びに行くところじゃねえんだよ! 会議に行くところなんだよ! 真剣な話をしに行くところなんだよ! それにさっきも言っただろ、エル・アーシアから来た人はほとんど加入してないんだよ!」


真が言うことは、言い訳としては苦しいが、特に間違ってはいなかった。事実、エル・アーシアから来たギルドは『ライオンハート』の同盟に加入していない方が多い。それは、エル・アーシアでのミッションのやり方に原因があった。


エル・アーシアでは、ギルド同士が協力し合ってミッションを攻略するという文化がない。一番最初の村で発生したミッションは皆が強力しあって攻略したところが多いが、それ以外のミッションではギルド単位で連携を取ってミッション攻略をするということがなかったのだ。


その理由は真がミッションを攻略したから。真が人知れず単独若しくは少人数でミッションを攻略してしまったこと。その他、突然現れた巨大ドラゴン、ドレッドノート アルアインを一人で倒したことにより、ギルド単位でミッションを攻略する文化が生まれなかった。


「いや、私が言ってるのは、新しい友達を作らないのかっていう――」


「ああーーッ!!! 今はミッションの話なんだよ! ミッションの話!」


さらに真の心を抉ろうとしてきた翼の言葉を無理矢理止めた。


元々人間関係の構築が苦手な真なのだが、『ライオンハート』の同盟で新しい友達ができないのにはそれ相応の理由があった。


一つは、同盟幹部が元社会人ばかりだということ。真は実年齢25歳の男なのだが、見た目は16、17歳の美少女。さらには元ニートだ。


それに加え、同盟幹部には真の強さが知れ渡っている。前回のバージョンアップで現れた魔人数十体を真一人で蹴散らした話やミッションでの活躍も広まっており、紫藤総志が言うその実力が想像以上のものだと分かったことで、おいそれと話しかけられない存在になっていたのだ。


「真……ごめんね……でも、私たちがいるから――」


「止めろやッ!」


優しく言っわれる方が余計に傷つく。それを分かっている翼も悪戯な笑みを浮かべている。


「その話はもういいから。本題に戻るよ」


美月は呆れながらもパンパンと手を叩いて、この話は終わらせる。


「おう……ミッションの話だよ……」


モヤモヤとした気持ちを残しながらも、真は話を戻してくれた美月に感謝した。


「正確にはミッションをどこで受けることができるかを探しに行くんだけどね。一応、もう一度確認しておくけど、目的は新しいミッションを受けることができると思われるヴァリア帝国領を探すこと。私たちの担当はタードカハル周辺。そこにヴァリア帝国領に繋がる道があるかどうかを探すことだよ」


「出発は5日後だ。馬車は『ライオンハート』が手配してくれる。食事の用意も『ライオンハート』がしてくれるそうだ」


美月の説明に真が補足する。相変わらず『ライオンハート』が関係しているミッションは手厚いサポートが付いてくる。それは巨大ギルド『ライオンハート』の内部構造に庶務的なことをする人たちもいるからだ。5人しかいない『フォーチュンキャット』には到底真似できないことだった。




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