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バージョンアップ会議 Ⅲ

王城前広場に隣接するホテル『シャリオン』の大会議室。ギルド『ライオンハート』が主催する会議が開かれるのはいつもこの大会議室だ。


部屋の一番奥の上座には『ライオンハート』のマスター紫藤総志が、その横には同ギルドのサブマスタ―葉霧時也が座る。


大会議室はロの字型に机が並べられている。その机を取り囲むようにして、『ライオンハート』の同盟ギルドの幹部たちが座る。


真と美月は比較的上座に近い位置に座らされた。そのことが若干プレッシャーにもなる。『フォーチュンキャット』は5人しかいない極小ギルドだ。そのギルドが、数百人規模のギルドと同列に並べられているため、気まずいというのが本音。


同盟にとっての『フォーチュンキャット』の重要性を考えれば、上座に座るのが当然なのだが、さすがに、『王龍』他、1,000人を超えるギルドと同列となると他のギルドとの兼ね合いが問題なになる。そのため、数百人規模のギルドと同列に並んでいるということだ。


「さて、本日はバージョンアップの実施に伴い、急遽お集まりいただきありがとうございます。だたいまより、緊急の同盟会議を開催いたします」


まず、立ち上がって口を開いたのは時也だった。同盟ギルドのそうそうたる顔ぶれを見渡しながら挨拶をする。そして、時也はそのまま話を続けた。


「バージョンアップの内容については、皆様もご存知の通り、ヴァリア帝国領という新たなエリアの追加と新たなミッションの追加となっております。本日は、この二つの案件についての方針を決めたいと思います」


「これから各ギルドの意見を聞きたいが、まずは『ライオンハート』としての意見を聞いてほしい。俺たちは、ミッションを受けるためにはヴァリア帝国領内に行く必要があると考えている。だから、まずはヴァリア帝国領がどこにあるのかを探す必要があるのではないかと思っている」


時也が言い終わるとすぐに総志が口を開いた。『ライオンハートとしての意見』と言っているが、実のところは総志と時也の二人で話をした結論だ。緊急会議の前に『ライオンハート』の幹部を集めて事前に会議をすることなどできなかったからだが、それでもギルドを代表する二人の意見だ。『ライオンハート』の正式な見解としても差し支えない。


「はい。こちらからも」


「『王龍』の刈谷さんどうぞ」


軽く手を挙げる『王龍』のサブマスター刈谷悟に対し、司会進行を務める時也が発言を許可する。


「どうも。えぇ、我々『王龍』としても『ライオンハート』と同意見です。過去のミッションの事例を参考にしても、新しいエリアが追加されたら、そのエリアでミッションが発生しています。センシアル王国領が追加されてからのミッションも同様です。センシアル王国領ではこれまでに二度のミッションが実施されてきました。そのいずれもセンシアル王国の王都グランエンドでミッションを受けることができています。タードカハルという例外はありますが、それはセンシアル王国の属国であるため、センシアル王国でミッションを受けたと考えられます。ですから、今回のミッションはヴァリア帝国領で受けることができるというのが有力だと思います」


悟の言う『王龍としの意見』も悟がマスターの赤嶺姫子にそういう話をして、姫子を納得させたに過ぎない。とはいえ、『王龍』の頭脳である悟の意見だ。代表者としての意見として十分な重みがある。


「他に意見はございますか?」


時也が会議室内を見渡す。だが、これ以上誰も意見を言う者はいなかった。同盟の中心である『ライオンハート』と『王龍』が同じ意見だということ。それに、言っていることが正鵠を射ているため、反論の余地などない。


「他に意見がないようであれば、まずヴァリア帝国領を探すという方針にしたいと思います。賛成の方は挙手をお願いします」


時也が賛否を問うと、全員が静かに手を挙げた。


「ありがとうございます。それでは、ヴァリア帝国領への道を探す方針でいきます――とはいえ、ヴァリア帝国領はつい先ほど追加されたばかりのエリア。情報は皆無です。闇雲に探しても効率が悪い。何か心当たりがある方がいらっしゃればお願いします」


時也の質問に対して、各ギルドがざわつきだした。どこかでヴァリア帝国領に繋がるような道を見なかったか話をしている。


「すみません、質問なんですが」


「『ノア』の佐々木さんですね。どうぞ」


質問の手を挙げたのは『ノア』というギルド。そのサブマスターの佐々木という女性だ。『ノア』は『王龍』と同じコル・シアン森林から来たギルド。規模としては300人ほどのギルドだ。


「心当たりというのは、要するに封鎖されて通れない場所とかのことですよね?」


封鎖された場所とは、世界がゲーム化による浸食を受けた影響で先に進めなくなっている場所のことだ。


「ええ、そうですね。今まで封鎖されていたところは、今回のバージョンアップで開放されている可能性があります」


「封鎖されている場所はいくつか心当たりがあります。特に現実世界の方だと、道路が途中で封鎖されているところはいくつもありますが……結構な数ですよ」


佐々木の発言に各ギルドの面々もうんうんと頷いている。真たちも現実世界の道路が途中で封鎖されている箇所は何カ所か思い当たる。


世界がゲーム化の浸食を受けたことで、行くことのできるエリアは現バージョンで実装されているエリアに限定されている。そのため、浸食してきたゲームの世界の外に出られないように、現実世界の道は封鎖されているところがいくつも存在しているのである。


それでは、いくつもある封鎖された場所のうち、結局どれがヴァリア帝国領に続く道になるのか。それが全く分からない。


「はい。僕からもいいですか?」


「『フレンドシップ』の小林さん。どうぞ」


「はい――皆さんが思っているのは、数多くある封鎖された場所のうち、どれが正解なのか見当がつかないっていうことですよね?」


小林の問いかけに一同が軽く頷いている。


「僕もどこの封鎖が解かれているかなんて見当もつきません。ただ、候補は絞れると思うんですよね。例えば、タードカハルです。今までの経緯を見てみると、僕たちは新しく追加されたエリアを順々に進んできています。前回のミッションもタードカハルにある迷宮に行ったんですよね?」


「ええ、そうです」


時也が質問に答えた。“前回のミッション”というのは正確には真たちが受けたシークレットミッションなのだが、小林も時也もそのことを知らない。一般的にはタードカハルにあるイルミナの迷宮に行ったことが前回のミッションということになっている。


「僕はエル・アーシアから来たんですが、最初のエリアでのミッションがあって、次はエル・アーシアでミッションがあり、その次はセンシアル王国です。そうやって新しい地域に進んできたので、タードカハル周辺の封鎖地域がヴァリア帝国領に繋がる可能性は高いと思います」


小林の意見には一定の説得力があった。タードカハルにも封鎖されて先に進めない場所がいくつかある。その中の一つが解放されて、ヴァリア帝国領に繋がるというのはもっともな意見だ。この意見に納得して頷いている者も多い。


「タードカハル周辺からヴァリア帝国領に繋がるのではないかという意見が出ましたが、他に意見のある方はいますか?」


「ちょっといいか?」


「『王龍』の赤嶺さん、どうぞ」


何かに引っかかっているような顔をしながら『王龍』のマスター赤嶺姫子が手を挙げた。


「前のミッションなんだが、行った先はタードカハルだったけど、ミッションを受けたのはセンシアル王国だぞ。今回もセンシアル王国でミッションを受けて、ヴァリア帝国領に行くっていう可能性もあるんじゃないのか?」


「姫……それを言ってしまうと、さっき決めた方針の意味が……」


隣に座る悟が小声で言う。さっき決めた方針は、ヴァリア帝国領内でミッションが受けられるという前提に立っているものだ。さらには、『王龍』としての意見も、ヴァリア帝国内でミッションを受けられるという見解に立っている。それをギルドのトップがひっくり返しては元も子もない。


「うっせえな……分かってるよそれくらい」


自分の発言が、ギルドとしての意見と真逆だということは姫子も分かってはいたが、どうしても気になってしまい、言わずにはいられなかったのだ。


この姫子の意見に関しては、真も無視できないと思っていた。小林の言うことも理屈は通っているが、タードカハルでミッションを受けたことはない。真たちだけが受けたシークレットミッションもセンシアル王国で受けている。


「赤嶺さんが仰ることはよく理解できますよ。ただ、タードカハルはセンシアル王国の属国です。実質支配下にあるタードカハルでのミッションだから、センシアル王国が依頼したということですよね? ヴァリアは帝国なんですから、その領地はセンシアル王国の支配下にある地域ではないと思いますが」


小林が反論に出た。タードカハルは自治が認められているとはいえ、そのトップにはセンシアル王国の息がかかった者が座っている。実質センシアル王国領内だと言ってもいいだろう。


だが、帝国とは複数の国や民族、政治単位を統べる国家だ。帝国と名乗っているということは、王国であるセンシアルよりも上に立つと言っているようなものだ。そのヴァリア帝国でのミッションをセンシアル王国で受けるとは考えにくかった。


「帝国だから王国だからとかは私には分からないけどさ、何て言うか……必ずパターン通りにいくとは限らないんじゃないかって思うんだ……」


それは姫子自身の経験からくるもだった。同じパターンで来るだろうと思っていた矢先に梯子を外されるというのは、ゲーム化した世界だけのことではない。


「それを言われると……そうかもしれないとしか言いようがありませんが……。でも、一定の方向性は決めないといけないんですよ。だったら、可能性が高いと思われる方に舵を取る必要がありますよね? その可能性が高い方向というのが、タードカハル周辺の封鎖地域だと思うんですよ」


小林は退くとなく己の意見を主張する。そもそも、『王龍』が当初出した意見とは正反対のことではないのかと思うが、横にいる悟が苦笑いしていることから、心情を察して、上げ足を取るようなことはしなかった。


「いや、まあ、そうなんだろうけどさ……。何か引っかかるんだよな……」


理路整然とした小林の意見には姫子が反論できずにいた。理屈よりも感情で動くタイプの姫子は正論で攻められると、理屈で反撃することができない。『そう思うからそうする』という意見が通用する場ではないため、どうすることもできずにいた。こういう時に役立つ悟も小林と同意見であるため、頼りにすることもできない。


姫子が納得できずにいると、会議室の最奥に座る総志が口を開いた。


「赤嶺さんの言うことは可能性としてゼロではない。ただ、組織として動くのであれば、小林さんの意見が妥当なところだろう。が、それもあくまで可能性の話でしかない。加えて言うとタードカハル周辺以外にも候補があるはずだ。そこも捨て置くわけにはいかない――そこでだ。第一にタードカハル周辺の探索をする。第二にタードカハル及びセンシアル王国内以外の探索。第三にセンシアル王国内での探索とする。この案に意見ある者はいるか?」


「あの……質問なんですが……」


美月が恐る恐る手を挙げた。威圧感のある総志に対して意見を言うのは美月にとってかなり負担がある。


「いいだろう」


「あ、はい……あのですね……。その第一、第二っていうのは、その順番で探索をするということですか?」


「違う。同時進行だ。タードカハル周辺の探索に一番多くの人員を充てる。次にタードカハルとセンシアル以外、その次がセンシアル王国内という順で優先度を決めたということだ」


総志の案は優先度に順位をつけて、順位の高い方から多くの人員を充てるというもの。『ライオンハート』の同盟は人海戦術で膨大な情報を集めることができるが、広大なエリアを探索するとなると、どうしても可能性の高い方が優先度が高くなる。


「他に意見はありますか?」


時也が眼鏡の位置を直しながら意見を求める。


「…………」


だが、総志の案に意見する者はいなかった。


「反対意見がないようですので、タードカハル周辺及びその他の地域を同時進行で探索をし、配置する人数の優先度は先ほど紫藤が出した案の通りとする。賛成の方は挙手してください」


時也が採決を取ると、姫子を含めて全員が手を挙げた。






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― 新着の感想 ―
完結してるものに感想を書いてもって話もあるけど、やっぱり拭い去れないものがあるので、あえて。 過去の進行に準ずるならここは乗合馬車に問い合わせれば、ヴァリア帝国の位置等も直ぐに分かるはずなんだけどな…
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