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異界の扉 Ⅰ

        1



「物理攻撃力が上がるネックレスと回復量が増えるリングだ。翼と美月で使ってくれ」


アルラヒトからのドロップアイテムを確認した真が声をかけた。装備にはグレードが設定されており、最下級のノーマルグレードから順にレア、ヒーロー、レジェンド、ミシックと上がっていく。


真の装備は全て最上級のミシックグレードの物なのだが、それはこの世界の元となったゲームで手に入れた装備を引き継いでいるから。


ワールド・イン・バース リアルオンラインの世界では、未だにミシックグレードの装備は確認されていない。なので、今回手に入れたのはレジェンドグレードのアクセサリーは、現状で手に入る物の中では最上位の物になるだろう。


「あ、くれるんだ。それならありがたく貰っておくわね」


貴重なレジェンドグレードのアクセサリーを貰えるということで、翼の声はどこか高揚していた。


「私もレジェンドグレードのリングが貰えるなら助かるわ」


美月としても、レジェンドグレードのアクセサリーは欲しい。自分の戦力が上がることで、皆の助けになれることが何より嬉しかった。


「真さん……、これで王城の迷路化は解除されたのでしょうか?」


アクセサリーを渡している真に彩音が近づいて声をかけた。


「そのはずだ。王城を迷路にしたのはアルラヒトの能力で、そのアルラヒトが倒れたんだ。解除されていて当然だと思う」


真が即答した。王城の迷路化は物理的に迷路を建築したものではない。アルラヒトという魔人の特殊能力で迷路になったものだ。能力の元であるアルラヒトが倒れた以上、迷路を維持することはできなくなるはず。


「気になるなら早く確認しに行こうよ」


話を聞いていた翼が割り込んできた。ここで推測を論じるよりも、先に進んで確認した方が早いし確実だ。


「そうだな。時間制限もあるんだ。早くここから出よう」


真も翼と同意見。どの道先に進まないといけないのだ。残り時間も余裕があるわけではない。


真たちは広間の奥にある扉へと進んでいった。扉は入り口と同じく両開きの大きな扉。その扉に真が手をかけた。


真が静かに力を入れると、扉は抵抗することなく開いていく。鍵などはかかっていない。


「ここって……!?」


広間の先にあった景色に真は見覚えがあった。


「本殿だよね?」


美月も思わず声を上げた。そこは間違いなくセンシアル王城の本殿。本来なら綺麗な庭園を抜けた先にある豪奢な建物。それが、回り回されてようやくたどり着くことができた。


「ようやく……」


安堵のため息とともに華凛からも声が漏れた。ここまで来るのにどれだけの時間を要したことか。


「もう迷路じゃないんだよね!」


翼も声を上げる。迷路化していない、見覚えのある建物がそこにはあった。


「まだ終わってないぞ……。たぶん、異界の扉はこの本殿のどこかにあるはずだ……」


真も迷路を抜けたことが嬉しいが、浮足立ってはいられない。まだやらないといけないことは残っている。ここは気持ちを切り替えて声のトーンを落とした。


「そうだよね……早く異界の扉を見つけないと」


美月も真の声に合わせてトーンを下げる。外がどうなっているのか分からないが、目的を達成するまでは気を緩めてはいけない。


「どこにあるんだろう?」


翼が本殿の中を見渡しながら言った。迷路化は解けたとはいえ、センシアル王城はただでさえ広い。虱潰しに探すとなると結構時間を取られることになるだろう。


「ある程度目星は付けておいた方がいいだろうな……。玉座の間か宰相の部屋、会議室とか屋上とか……」


真が思いつく場所を並べていく。


「ここから一番近いのだと宰相の部屋になるのかな?」


真の意見を元に華凛が言う。今いる場所は本殿の入り口を入ったところ。宰相の部屋は上の階になるが、玉座はもっと上の階だし、屋上は言うまでもない。会議室は宰相の部屋から近いが、それよりも奥にある。


「そうだな。宰相の部屋が一番近い。そこから行くか」


真は華凛の意見を取り入れることにした。そして、そのまま宰相の部屋へと向かって歩き出す。



        2



迷路化は完全に解除されており、宰相の部屋へも難なく辿りつくことができた。


真たちは宰相の部屋には数回来たことがある。いずれもミッションに関わることでだ。面倒なことばかりやらされた。だから、真は宰相の部屋にはいい思い出がない。


今回だって同じだ。宰相の部屋に来る時は毎回面倒なことにしかならない。宰相の部屋の前まで来た真は、色々と思い出しながら、赤黒い髪をかき上げて嘆息した。


「開けるぞ、一応用心はしておいてくれ」


もしかしたらこの先に異界の扉があるかもしれない。ただ、何となくだが、真は宰相の部屋に異界の扉はないと思っていた。それは、単純に魔人を呼び出すには宰相の部屋では小さいように思えたから。とはいえ、どこにあるか分からない以上は、本殿の主要な場所を確認せざるを得ない。


真は宰相の部屋へと続くダークブラウンの扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。


部屋の中は前に来た時と変わらない。白い大理石の床には絨毯が敷かれており、本棚には幾つもの分厚い本が並んでいる。


そして、奥には大きな机があり、白い長髪と髭をたくわえた初老の老人が座っていた。


「ア、アドルフ……宰相!?」


真が驚き、声を上げた。宰相の部屋に入ったら宰相がいたのだ。何も間違ってはいないのだが、異界から魔人が召喚されて、パニック状態になっている王都で、なぜ宰相は自分の部屋にいるのか。


「お、き、貴殿らは……!? アオイマコトか!」


アドルフの方も驚いた声を出している。


「無事だったのか……」


「ああ、何とかな……。貴殿らもよくここまで来てくれた」


「そんなことより、聞きたいことがある! 王城で何が起こってるんだ? 異界の扉は王城にあるんだよな? どこにあるのか知らないか?」


真は矢継ぎ早に質問を並べた。アドルフとの感動の再会などを喜んでいる場合ではないし、再会して嬉しい相手でもない。


「異界の扉は玉座の間だ……。国王も私と同じように捕らわれている状態だ。衛兵もメイドもみな殺されてしまった……。頼む、異界の扉を閉じてくれ……」


縋りつくようにしてアドルフが懇願してきた。


「そ、そんな……」


衛兵もメイドも殺されたということを聞いて美月が落胆した。王城の入り口でも大量の兵士達の死体を見てきた。王城の本殿の中でも同じような虐殺が行われたということに悲痛の思いがあった。


「…………」


だが、真は何も返事をしなかった。真は何かに引っかかっていた。


「どうしたのよ真? 異界の扉は玉座の間にあるって教えてもらったじゃない! すぐに向かいましょうよ!」


黙ってアドルフを見ている真に翼は訝し気に声をかけた。目的の場所が判明したのになぜ真は動こうとしないのか。


「頼む! センシアル王国の未来のために、力を貸してほしい! 報酬なら望みの物を――」


「異界の扉を開けたのは誰だ?」


真はアドルフを睨みつけた。何か大事なことを隠しているという気がしたからだ。その根拠はいくつかある。


「――ッ!?」


「ずっと気になってたんだ。異界の扉はどうやって開いたのかってさ。突然、自然発生的に異界の扉が開いた可能性も考えてたけど、たぶん違う。今の宰相の話だと、誰かが国王と宰相を捕えてるんだろう? それは誰だ? そいつが異界の扉を開いたんじゃないのか? 捕えられているって言ってたけど、なんで見張りもいないんだ?」


「そ、それは……」


「まず教えてくれ、異界の扉はどうして開いたんだ? 誰かが意図的に開いたからこうして捕えられてるんだろ?」


真はアドルフの挙動を注視した。センシアル王国で裏も表も知っているアドルフ宰相がこれほど動揺しているのには訳があると確信していた。絶対に何かを隠していると。


「…………」


「何か知ってるんだろ? もう時間がないんだ! 教えてくれ!」


真がアドルフの目を見ながら口調を強める。


「分かった……。全て話そう……。隠したところで、異界の扉を閉じる時に必ず事実を知ることになるのだからな……」


観念したアドルフは大きくため息をつくと、真達の方に向けて口を開き始めた。


「異界の扉を開けたのはイルミナ・ワーロックだ」


「イルミナ・ワーロックって……伝説のサマナーのッ!?」


聞き覚えのある名前に真が声を上げた。


「イルミナ・ワーロックって、かなり昔に生きてた人ではないのですか?」


彩音も真に続いて質問を投げかけた。かつてイルミナの迷宮という場所まで行って、苦難の末に迷宮を攻略し、イルミナの魔書を持ち帰ったことがあった。


「そのイルミナだ……。我々はイルミナ・ワーロックの復活に成功したんだ……」


「イルミナ・ワーロックの復活に成功って……どうやって? イルミナってこんな無茶苦茶なことをする奴だったのか!?」


真が知っているイルミナ・ワーロックの情報は、強力な力を持っていたため、伝説とまで言わるようになったサマナーということだけ。異界から魔人を呼び出して王都を混乱の渦に巻き込むような狂人だったとは知らなかった。


「浄罪の聖人の遺骸に命の指輪を嵌めて肉体を蘇らせた。同時にイルミナの魔書を媒介にしてイルミナ・ワーロックの魂を呼び出した。そうして、復活したのがイルミナ・ワーロックだ」


「待てっ!? どうして浄罪の聖人が出て来る? 浄罪の聖人の肉体にイルミナ・ワーロックの魂を入れたっていうことか? 体と魂は別でも復活するっていうことか?」


「貴殿は勘違いしているようだな。浄罪の聖人とイルミナ・ワーロックは同一人物だ」


「なッ……!?」


真は言葉が出なかった。浄罪の聖人は遺骸となってもその狂気を放っていた。あの狂った教義のアルター真教の源流も浄罪の聖人だ。


伝説のサマナーの力と浄罪の聖人の狂気。この二つが同じであるというなら、異界の扉を開けたのがイルミナ・ワーロックであることには納得がいく。そのことに関しては納得がいくのだが……


「命の指輪もイルミナの魔書も聖人の遺骸もこのために持って来させたのか!?」


怒りに手が震えながらもなんとか理性を保って真が訊いた。


「……そうだ」


アドルフは取り繕うこともなくあっさりと認めた。


「待ってください! イルミナの魔書はサマナーの研究のためだと仰ってましたよね? 聖人の遺骸はアルター真教の解体のための交渉材料にするって! それでタードカハルの平和を維持すって、仰ってましたよね!」


美月も声を荒げていた。命がけでミッションを遂行してきた。全ては平和のためだと思っていた。浄罪の聖人を運ぶのも平和のためには仕方のないことだと思っていた。ゲーム化した世界を元に戻すためのミッションであることも重要だが、自分たちの目的のためだけではなく、この世界に生きる人たち皆のためになると思っていたことが、宰相の話で全て瓦解した。


「全てはイルミナ・ワーロックを復活させて、意のままに操るためだ」


アドルフは一切に言い訳をすることなく事実を語った。潔いといえなそうなのだが、あまりにも酷い事実に美月は何も言えなくなっていた。


「全部嘘だったって認めるわけだな?」


真は今にもアドルフの胸倉を掴みそうな様子だった。怒り心頭なのだが、まだ聞きたいことはあるため抑えるしかない。


「そうだ。イルミナ・ワーロックを復活させて、センシアル王国の兵器として使うなど言うわけにはいかないからな。これはセンシアル王国の極秘事項だ。誰もに知られるわけにはいかなかった……」


「イルミナ・ワーロックを復活させたまではいいが、意のままに操ることは失敗したってことだな?」


「ああ、その通りだ。イルミナ・ワーロックの力を侮っていたわけではないのだが……。我々の想像を遥かに超える存在だった……。イルミナ・ワーロックの復活に関わった術者は皆殺しにされた。私は利用価値があるから生かされているにすぎない……。見張りがいないのはいつでも殺せるからだ……。こんなことを言える義理ではないのだが……イルミナ・ワーロックによって開かれた異界の扉を閉じてくれ。そして、イルミナ・ワーロックを倒してくれ……。それしか、この国が救われる方法はない……」


「……このクソが」


アドルフのあまりにも都合のいい話に真は強い憤りを感じながらも、このまま異界の扉を放置することもできない。異界の扉を閉じなければ、どれだけの犠牲が出るか分からない。結局のところアドルフの望み通りにしないといけない。それはアドルフも分かっているのだろう。正直に話をした方が真たちが動いてくれるという計算がアドルフにはあるように思えた。






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