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消耗戦

異界から魔人が召喚されたバージョンアップから丸一日以上が経過した。


正午を過ぎて西日が強くなりだしても、王都上空の空は相変わらず。未だに紫紺色の空が王都全体を不気味な色に染めている。


王都中にいる魔人の数は減るどころから増える一方。特に王都の正面玄関である城門前には無数の魔人が蠢いている。


『ライオンハート』と『王龍』が中心となって、王都の城門にいる魔人を蹴散らして外に避難するという作戦はまだ決着がついていなかった。


それどころか、戦闘はすでに泥沼化。倒しても倒しても湧き出て来る魔人の群れを前に決定的な一手を打つどころか、現状を維持するだけでも必死の状態。


もはや王都の外に避難するという当初の作戦は実行不可能。王都の城門に集結している魔人をこの場所に抑えこむことができるかどうかの瀬戸際といった状況。


しかも退くことは許されない。退けば無数の魔人達が散らばって王都中を暴れまわることになる。一か所に固まっているからこそ、なんとか対応することができてはいるが、ジリ貧であることに違いはない。


「あああッーーー!! やめろーッ! うわああああー!!」


男の断末魔が上がった。だが、その声に反応をする者はいない。断末魔などそこら中で上がっている。いちいち声に反応をしてはキリがない。


疲労、痛み、恐怖、不安。紫紺色の空の下に蔓延しているのは、そういった負の感情の渦。


昨日の時点ではまだ交代や応援に駆け付ける余裕があった。だが、今ではもうそんな余裕は欠片もない。


『ライオンハート』の同盟や腕に覚えのある者が魔人と戦って、戦闘能力で劣る者は避難していたが、もうそんなことを言っていられる場合ではなくなった。


戦える者は全員戦う。幸いにして、王都グランエンドまで来ることができる人間というのは、『ライオンハート』の部隊より戦闘能力が劣るとはいえ、それなりに戦うことができる者だ。ゲームに参加させられている子供や老人は最初の村から動いていない者が多いため、王都にほとんどいない。


子供や老人が残る村にも魔人が出現したのではという懸念もあったが、異界の扉の中心が王都にあるという推測上、王都から離れた場所に魔人は出現していないと判断され、王都以外の場所の救助は見送られた。それに、距離的な問題で36時間以内に最初の村まで行くことは不可能だ。


だから、王都に出現した魔人の討伐に集中するしかない。


「踏ん張れ! ここが正念場だ!」


総志が声を張り上げた。その声は人々の悲鳴や怒号、魔人の金切り声を突き破って響く。


総志は王都の城門前に来てからずっと最前線で戦い続けていた。総志の後ろには数千の仲間たちがいる。誰もかれもが血反吐を吐きながら戦っている。


『ライオンハート』の同盟や現実の人間だけでなくセンシアル王国NPCも戦いに参加していた。


大勢の人の波と無数の魔人の波が激しくぶつかり合う。最前線はまるで濁流が渦巻いているかのような様相を呈していた。


「何としてでも押さえろ! 絶対に魔人どもの自由にさせるな!」


姫子も喉がはち切れんばかりに声を上げた。『王龍』の頭脳は悟であり、ギルドの決め事は悟が中心になって決めているが、姫子にはカリスマ性があった。『ライオンハート』の紫藤総志にも似たカリスマ性。この人についていけば大丈夫と思わせる強さがあった。


本来は総志か姫子のどちらかは指揮本部に待機することになっていたのだが、状況が悪くなりすぎたため、二人とも最前線で戦っている。


総志と姫子。この二人の支柱が一番前で戦っているからこそ、この常軌を逸した戦いの中でも人々は立っていることができた。実際には辛うじて立っているだけで、総志か姫子のどちらかが倒れれば簡単に瓦解する脆いものなのだが、それでも騙し騙し立っていられるのはこの二人の力だ。


「うおおおおーーーー!!」


<ショックウェーブ>


総志の雄たけびとともに獣の咆哮のような剣圧が魔人の群れに突き刺さる。ショックウェーブはベルセルクの持つ範囲攻撃スキルだ。攻撃範囲が直線上に限られるが、その分威力が大きい。


<ストームブレード>


止まることを知らない総志は続けて範囲攻撃スキルを放った。体ごと一回転させるようにして大剣を振ると同心円状に斬撃の嵐がまき散らされる。


「キィエェェェェーーーーッ!!!」


総志の斬撃に飲まれた魔人が悲鳴のような叫びをあげて倒れた。だが、魔人達の勢いは止まらない。倒れた魔人を踏み越えて次の魔人が襲ってくる。それでも総志は臆することなく斬り続ける。


総志は疲れを見せるどころか、どんどん戦い方が激しくなっていた。一睡もせずに只管戦い続けていたにも関わらず、まるでついさっき戦闘を開始したばかりのような動きをしている。


(やっぱりこの人は凄い……けど……)


数時間前から最前線に呼ばれた椿姫がそんな総志を目の当たりにして驚嘆する。まさに超人だ。だが、もっと上がいることを知っている。


(蒼井君がいたら、とっくにこの戦線を突破してるんだろうな……)


総志がいくら強いといっても、範囲攻撃スキル一発で魔人を倒しきれることはない。怯むことなく何度も攻撃を繰り返してようやく魔人を倒せるのだ。


真は一撃で5体の魔人を倒したと聞いている。5体という数字はそこにいた魔人の数が5体だったというだけのこと。真の攻撃範囲に入っているのであれば、どれだけの数の魔人がいても一撃で倒すことができるスキルを持っているということになる。


「椿姫さん前ッ!」


咲良の叫び声に椿姫がハッとなる。気が付くとすぐに目の前に魔人が迫ってきた。


ガシンッ!


椿姫は咄嗟に構えたスタッフで魔人の牙を受け止めた。疲労もあってか、魔人の力にじりじりと詰め寄られてくる。


<バックスタブ>


魔人の背後から咲良が致命傷の一撃を入れた。アサシンのスキル、バックスタブは背後からの攻撃であれば、必ずクリティカルヒットする性質を持っている。


そこから、周囲にいた『ライオンハート』の精鋭部隊が一斉に魔人に攻撃を加えると、ほどなくして椿姫に襲い掛かってきた魔人は倒れた。


「ボケっとしないでくださいッ!」


咲良が怒鳴った。年上の椿姫のことは姉のように慕っている咲良だが、思わず声を荒げた。今のは危なかった。極度の疲労状態で集中力が切れかかっているのは分かるが、戦場では命とりだ。


「ご、ごめん……」


自分でも危なかったことが分かっている椿姫はバツが悪そうに謝った。戦いの最中に今いない人のことを考えるなんてどうかしている。


「もういいですから、総志様のところに行ってください!」


「あ、う、うん」


椿姫は返事をすると総志の姿を探した。エンハンサーである椿姫は自身を中心とした支援スキルを発動させることができる。その効果は攻撃力や防御力を高める等、戦闘を有利に進めることができるものだ。その性質上、エンハンサーは前衛で戦う者に支援スキルを届けるために、自らも前に出ないといけない。


この場で最大の戦力は総志だ。総志は常に戦場の最も前で戦っている。これ以上前に出れば仲間から離れてしまい、敵に囲まれてしまうのではないかというくらいの距離まで敵の中に突っ込んでいく。それでも、総志が敵に囲まれたことはない。


敵に囲まれないギリギリのところを見極めていることと、『ライオンハート』の精鋭部隊が援護するからだ。


椿姫も『ライオンハート』の精鋭部隊として総志を援護する。だが、エンハンサーは戦闘職ではなく支援職。前に出ることには向いていない。向いてはいないが椿姫はそれをやってのける。それだけでなく、敵の攻撃を回避しながら、反撃と仲間の回復までやる。


そのため、総志の近くに支援スキルを届けることができるエンハンサーなど椿姫を置いて他にはいない。


人とNPCと魔人が入り乱れる中を椿姫は駆け抜け、総志の元へと辿り着く。


<バトルソング>


椿姫はすぐさま支援スキルを発動させた。バトルソングはエンハンサーを中心として展開される範囲支援スキルで、効果範囲内にいる味方の攻撃力を高める効果がある。


総志は椿姫の方を見向きもせずに、魔人に踏み込んで攻撃を続けている。


それで問題はなかった。総志がいちいち椿姫の行動を確認するようなことはしない。する必要がない。見なくても椿姫が来れば分かるし、椿姫を放置しておいていい。椿姫は自分の判断で総志が求めることを実行できる。


それが『ライオンハート』の精鋭部隊。紫藤総志の横で戦うことを認められた部隊だ。


その『ライオンハート』の精鋭部隊と総志が戦い続けているが、王都に現れた魔人の数は減っていない。『王龍』や同盟ギルド、その他の者が懸命に魔人を倒しても、倒したそばから別の魔人が湧いて出てくる。時間の経過とともに犠牲者の数が増えていく。


肉体も精神も擦り切れて限界を超えた状態。絶叫、奇声、怒号が飛び交うが、もはや誰も反応しない。完全に神経が麻痺している。


そして、過酷な消耗戦が続く中、異界の扉が完全に開くまであと8時間を切った。



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