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迷路 Ⅴ

ヒドラを倒して、再び庭園を歩き出してから1時間ほど。ルートはただ真っ直ぐ進んでいるだけ。


(全然見えてこないな……)


真が探しているのは庭園の端。王城の中にある庭園なのだから、真っ直ぐ歩いていればいずれ壁にぶつかるはず。そして、そまま壁伝いに建物の中に入る扉を探そうというのが真の算段だ。


だが、壁らしきものは一向に見えてこない。遠くに目をやっても、見えるのは不自然なまでに奇麗な青空。鳥も虫も飛んでいない、奇麗な死んだ空。


「…………」


女子たちは皆黙って真に付いて来ている。言いたいことがありそうな顔をしているが、それを口にはしない。誰も答えを持っているわけでもなければ、代替案を持っているわけでもない。持っているのは、漠然とした不安と本当にこの道でいいのかという疑問。


「…………」


真もこの道が正しいのかという疑念が沸いてくる。そして、正しいかどうか以上に、この庭園はどこまで続いているのかという、ある種の恐怖が沸いてくる。あまりにも広いこの庭園の中にあるであろう正解の道。それを見つけるためにどれだけの時間がかかるのか。


ゴールが見えない道というのは、どこまで行けばいいのか分からないから、余計に遠く感じる。


そこからさらに歩くこと10分ほど。視線の先にある十字路の真ん中に、見たことのある山のような物体が見えてきた。それは、泥のような茶色がかった灰色で、光沢のあるウロコが見える。


「また、ヒドラか……」


見覚えのある姿に真が内心舌打ちながらも近づいていく。またヒドラが現れた。強くはないが生命力が高く、倒すのに時間を取られる。一番嫌なのは、口から吐き出す毒。痛い攻撃ではないが汚い。1時間ほど前に遭遇した時と同じように、ヒドラは蹲っていた。


「手間だけど、倒さないと先には進めないよ」


美月が戦闘態勢に入って言う。真は面倒臭そうにしているが、先に進むのであれば、このヒドラは排除していくしかない。


「仕方ないな……。こんな所で時間を取られたくはないんだけどな……」


美月に言われて、渋々といった感じで真が大剣を構える。ただでさえ、広い庭園の探索で、余計な手間を取られるたくはないのだが、進路上にヒドラが居座っているのだから仕方がない。


「こんなのに時間かけたくないから、さっさと倒してしまいましょ」


翼も背中を押すように言う。1時間ほど前にも戦ったヒドラだ。倒せることは分かっているのだから、うだうだ言ってないで、とっとと倒して先に進みたい。


「分かってるよ――行くぞ!」


真はそう言うと、まだ動き出していないヒドラに先制攻撃をかけるため走り出した。牽制や様子見は必要ない。一気に近づいて、初手から全力で攻撃をするつもりだ。


(まずはレイジングストライクで――あれ?)


一気に敵との距離を詰められるベルセルクのスキル、レイジングストライクの射程範囲内まで駆け寄った真だが、そこでスキルが発動しないことに気が付く。


ヒドラはまだ微動だにしていない。この距離なら、真の存在に気が付いているはずなのだが、全く反応がない。


(どういうことだ……?)


意味が分からないまま、真は走ってヒドラに近づく。既に真の大剣の間合いにまでヒドラに近づいたが、攻撃スキルが一切発動しない。


攻撃せずにヒドラに近寄った真に対して、美月達も意味が分からないでいる。


「……」


真は黙ったままヒドラに手を触れた。ひんやりとした蛇の皮の感触が伝わってくる。ヒドラはそれでも動かない。本当の山のように静かに横たわっているだけ。


「……死んでるな」


9つの頭は蹲ったまま、上げようとしてこない。真がヒドラの頭の一つを確認すると、口を開けたまま、だらんと舌が垂れている。


「真、どうしたの?」


翼は様子がおかしいと思い真の方へと近寄ってきていた。ヒドラが無害の状態であるのは、離れたところからでも確認できている。


「見ての通りだ……」


軽くヒドラを叩きながら真が返事をする。


「真君……これ、死んでるの?」


少し遅れてやってきた華凛が質問した。真は既に戦闘態勢を解いている。それならば安全と見ていいと華凛は判断していた。


「ああ、最初から死んでたよ」


「真さん、どうしてヒドラの死体なんかが置いてあるのでしょう?」


彩音が疑問を呈してきた。ゲームなのだから進路の妨害という意味で敵は配置されるはずだ。だが、ヒドラの死体は、ただそこにあるだけ。道を完全に塞いでいるわけでもないので、進路の妨害にすらならない。


「どうしてって……。どうしてだろうな?」


真もすぐに回答は出てこなかった。十字路の真ん中にヒドラの死体が放置されているだけ。これに何の意味があるのか。


「ねえ、このヒドラって、さっき私達が倒した奴じゃないの?」


いつの間にかヒドラの周りを観察していた翼が声を上げた。


「さっき倒した奴って……1時間くらい前に倒した奴? いや、それはおかしいでしょ?」


華凛が翼に反論する。翼は真顔で言っているから、冗談や悪ふざけといった感じではないが、何を言っているのか意味が分からない。


「そうだよ、翼ちゃん。私達は真っ直ぐ歩いてるんだよ。私達が倒したのと全然違う場所にいるんだよ?」


彩音も翼に反論した。ヒドラを倒してから、1時間ほど真っ直ぐ歩いているのだ。倒したヒドラとは距離も結構離れているはずだ。


「だって、これ見覚えあるし。ちょっと、皆も見てみてよ!」


翼が見覚えあると主張するも、真達は懐疑的に顔を見合わせる。それでも、翼が見るように言っているのだから、一応は見ておこうと移動する。


「ほら、この角度。さっき倒したヒドラも、同じ形で倒れてたでしょ!」


真達は翼が指さす方からヒドラの死体を見上げる。


「う~ん……」


真が首を傾げる。見覚えがあると言われたら似ているような気もするが、倒れ方に特徴があるわけでもなく、単に倒しただけのヒドラの形など覚えているわけがない。それは、美月や彩音、華凛も同じだ。


「え? 分からないの? 同じでしょ、これ!」


理解を示してくれない仲間たちに、翼がイライラとし始めている。どうして伝わらないのか分からない。


「同じって言われてもな……」


何と答えていいものか分からないまま、真はヒドラの周りを回ってみた。それで何か分かるとも思えないのだが、一応手がかりを探してみる。


「――ッ!?」


ヒドラの周りを確認している最中に、真がある箇所を見つけた。それは、ヒドラの首と胴体の間に空洞ができている箇所。


「翼……俺も、このヒドラに見覚えがある……」


ヒドラの首と胴体できた空洞を見ながら真が言った。


「そうでしょ!」


「えッ!? ホントに? 真もこのヒドラが、さっき倒したのと同じって言うの?」


予想外の真の言葉に美月が困惑した口調で訊き返してきた。


「ここの部分だ……。1時間くらい前に倒したヒドラなんだけど、俺が止めを刺した時に、ヒドラと肉迫してたんだ。それで、倒れてくる首と胴体の間にできた空洞に入ってしまってんだけど、丁度こんな感じの空洞だったんだ……」


真が指を指しながら説明する。翼が言うよりは特徴がはっきりしている分信憑性は高い。


「……でも、それだけじゃ……」


美月はまだ腑に落ちないところがあった。翼よりかは説得力がある。とはいえ、偶然同じような倒れ方をしたと言えばそれまで。もっと他にはないような、偶然の一致もあり得ないような特徴でもないので、確率が高くなったとしか言えない。


「他にもある。俺達が倒したヒドラの死体が消えなかった理由だ」


「死体が消えなかった理由?」


「そうだ。このヒドラは俺達が倒した奴と同じって分かってから、気が付いたんだが、これは目印なんだよ」


「目印……ですか?」


美月に続いて、彩音も真が何を言いたいのか分からず質問を返す。


「これだけ広くて、同じ景色が延々と続いてるんだ。何か目印かがないと先には進めない。俺は庭園の端を見つけて、目印にしようと思ってたんだけど、どうやらそれはできないみたいだ」


「えっと……。要するにこのヒドラの死体は目印になってるってことなんだよね? でも、目印が動いたら目印にならないんじゃないかな……?」


再び美月が訊き返す。美月の疑問は素直な疑問だ。目印は動かないから目印になるのだ。北極星が動くのなら、船乗りは誰も目印にしようとはしない。


「だから、動いてないんだよ、これは」


「……ごめん、真君。何を言ってるのか分からない……」


真の言ってることについて行くことができず、華凛が不思議そうな顔をしている。真っ直ぐ歩いて来ている先に、前に倒したヒドラの死体があるのだ。動いていないわけがない。


「この庭園は無限ループしてる場所があるってことだ。このヒドラの死体はその無限ループの目印として、消えずに残ってる」


「あっ! そうか、分かりました。私達は途中で間違った方向へ進んでいたから、無限ループに入ってしまったんですね」


合点がいった彩音が声を上げる。そして、間違っていると分かったなら、打開策も見えてくる。


「ん? どういうこと? 私まだ分からないんだけど」


翼はまだ理解できていない様子で、真の方を見る。


「要点だけ言うとだな。このヒドラの死体を起点として、進む方向が合っていれば、次の道に進める。間違ってたら、同じ場所に戻される。それが分かるのは、進んでみてヒドラの死体以外の目印が出てきたら正解っていうことだ」


どういう原理でこの庭園が無限ループになっているのかは真にも分からない。そんなこと考えても意味がない。ただ、対処方法は分かっている。こういう無限ループにハマるのはゲームでも経験しているからだ。


「それじゃあ、ここから真っ直ぐ進むのは間違いっていうことだよね?」


美月が十字路の先を見ながら言う。さっきヒドラを倒してから、十字路を真っ直ぐ進んだ。それが間違いだから、同じ場所に戻されえたということは理解できた。


「そういうことだ。ヒドラが十字路に居た理由も、選択肢を提示するためだ」


「どっちに進むか……。真は何か考えてるの?」


十字路の左右を見渡しながら翼が質問する。十字路で真っ直ぐ進む道が間違いなら、残されているのは右に行く道か左に行く道のどちらか。


「蝶とか蜂とか、鳥がいるとか、石像があるとか、進む方向を示す物があれば、そっちに進むんだけどな……」


真が辺りを見渡しながら考える。ゲームだと正解の道を示す『何か』があることが多い。だが、そのような物は何も見当たらない。この庭園は異常なまでに潔癖な空間だ。余計な物は一切排除されている。その中にいたヒドラと残ったその死体。


(これ以上のヒントはないか……)


無限ループであることが分かっただけでもよしとするしかない。真はそう頭を切り替え、再び仲間の方へと目線を向ける。


「……勘で行くしかない……と思う」


少し困った表情で真が告げた。結局明確な答えがあるわけではなく、ヒドラの死体以外に進む方向のヒントになる物がない以上、勘で進むしかない。





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