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アルター真教 Ⅵ

「うおおおおおーー!!」


<レイジングストライク>


真は叫びと共に跳躍すると、大剣がまるで猛禽類の爪のように敵へと襲いかかる。狙いはナジ。レイジングストライクによって一気にナジとの距離を0にした。


「それ、対処方法は知ってますよ!」


ナジは半身になって大剣を躱すと同時、すれ違いざまにシャムシールで斬りつけてきた。真の胴を横薙ぎに一閃。ダウードがやってのけたカウンターと同じことをナジもやってきた。


「くっ……ッ」


この一撃で、真は冷静さを失っていたことを思い知らされた。サリカを斬られたことで、完全に頭に血が上ってしまっていたのだ。不用意に敵の懐まで飛び込んでしまったことを歯噛みする。


「どれ、噂のベルセルクの力、試させてもらおうか!」


真の耳にガドルの低い声が入ってきた。ナジだけに意識を向けるわけにはいかない。もっと強敵がいるのだから。


真は焦りながらもガドルの方へと剣を構える。ガドルは既に構えを取っている。重心は低く、左手を前に突き出し、右手のシミターは上に掲げている。


(この構えは!?)


修練場でダウードが取った構えと同じものだ。ここから高速で接近してきて、死角から攻撃をしてくる。


「いくぞ!」


ガドルはそう言うやいなや、床を蹴って真へと迫る。


「はやッ!?」


ダウードよりもガドルの方が身体が大きい。それでも、ガドルの動きの方が俊敏だった。『いくぞ』と合図があったとしても、その速度についていくことは至難だ。


真は咄嗟に体を横に向けた。次の瞬間、さっきまで体があった空間を光が通り過ぎる。ガドルのシミターが一瞬のうちに通った軌跡だ。


ガドルの攻撃は、下から上にシミターを斬り上げるというもの。最初は剣を上段に構えておいて、高速で近づき、後ろ手に剣を回して、下から突きあげる。上から斬撃が来ると思い込まされるとこの攻撃は当たってしまう。


しかし、真はダウードとの一戦で同じ攻撃を経験している。ガドルの動きがダウードよりも速かったとしても、対処方法は変わらない。はずだった――


「ぐあっ!?」


真は脇腹に強烈な蹴りを受けた。その衝撃で体ごと飛ばされてしまう。


「シミターを躱したことは褒めてやる。だが、それで終わりだと誰が言った?」


蹴りの態勢をゆっくりと戻しながらガドルが言う。ガドルはシミターを斬り上げた勢いを利用して、そのまま後ろ回し蹴りに移行した。それは、真の視界と意識の外からの一撃だった。


「チッ……。今までの奴らより段違いじゃねえかよ……」


ガドルとナジは余裕の表情だ。真としても、攻撃を喰らっているが、レベル100の最強装備。ダメージとしては軽微なものだ。だとしても、このままではじりじりと追い詰められてしまう可能性がある。


(ここで一度冷静にならないと……)


サリカの方をチラリと見る。美月達が倒れているサリカを守るように囲んでいる。倒れるサリカが戦いに巻き込まれないように守っていた。


「あ、そうそう。言い忘れてたことがあります。本当のアルター真教のナンバー2は僕なんですよ。ダウード上僧はガドル様の右腕っていうことになってますが、実力はナンバー3です。とは言っても、そこまで実力に差があるわけではありませんけどね」


ナジが手にしているシャムシールを片手てポンポンと叩きながら口を開いた。


「なっ!? お前……サリカの方が実力が上だとか言ってた――」


「ああ、あれね。僕の方が上ですよ。敵に手の内を見せるようなことをするわけがないでしょう?」


面白がるようにナジが言う。真もナジが撒いたブラフに完全に踊らされていた。ここでネタバラシをする意味。それは真を揺さぶること。ガドルだけでも強敵なのに、ダウード以上の敵もいるという事実を突きつけて、心を折る作戦だ。


「全部、嘘なのかよ……」


「全部嘘かって聞かれたら、ほとんどが嘘でしたっていうことになりますね。君の顔が僕の好みだっていうのは本当ですよ。本当に女性ではなくて残念です」


「そうか……。お前にダウードみたいな趣味がないって分かっただけでも戦い易くなったよ!」


おしゃべりの時間は終わりとばかりに、真がナジに向かって駆け出した。


(まずは弱い方から)


ガドルとナジならナジの方が弱い。これは本人が公言している通りだ。ガドルがアルター真教のナンバー1で間違いない。ナジはナンバー2だ。まず、弱い方から叩いて、敵の数を減らすのがセオリー。


<スラッシュ>


余裕の顔をしているナジに向けて真が大剣を斜めに振り下ろした。一歩踏み込んでからの鋭い一撃。それをナジは後ろに飛んで回避する。


「っと!? 少し見ない間に、剣の鋭さが増してますね……。カウンターを入れるつもりでしたけど……」


真の一撃がナジの声から余裕を消した。真のスキル自体には何も変化はない。だが、それを使う真の方に変化はある。どこまで敵の間合いに入るか、どこのタイミングで発動させるか、次にどう動くのか。そういったものが同じスキルでも差を生む。


頭に血が上っていたところを、いいように手玉に取られたが、もう同じ轍は踏まない。アルマドとシャファルとの戦いで得たものを思い出して、敵にぶつける。


<シャープストライ――


離れたナジを真が追う。続けて連続攻撃を入れようとした時、真はスキルの発動を止めた。


次の瞬間、後ろから斬撃が飛んできた。それを真は横に飛ぶことで回避する。音を消してガドルが攻撃を仕掛けてきていたのだ。それを読んだ真が攻撃を止めて回避行動に移った。


「ハアッ!」


ガドルは攻撃を緩めることなく、蹴りを放ってきた。斬撃を外したとしても、振りの勢いを利用して蹴撃に移る。しっかりとしたガタイから、流れるような身のこなしで蹴りが飛んでくる。


「……」


真はそれを大剣を盾にすることで受け止める。蹴りの衝撃で少し体を後ろに飛ばされるが、問題はない。


(レベルや装備のことは一旦忘れろ。甘えを捨てないと攻撃は当たらない!)


ただでさえ、大剣という大振りの武器を使うベルセルクだ。小回りが利かない分、攻撃を読まれやすい。特に敵は手練れ。戦闘技術では負けている。レベル的に格下相手という意識は捨てないと、いつまで経っても倒すことはできない。


「目が変わったな……。ナジ、油断するなよ。こいつは一級品の相手だ!」


ガドルが楽しそうに笑う。その笑みは猛獣の笑み。強い敵と出会えたことに戦いたいという本能が喜んでいるように見える。


「はい、心しております!」


ナジは返事をすると同時、真に向けて突進してきた。いつの間にか納刀していたシャムシールを抜刀すると

同時に真へと斬りつける。


鞘から刀身を抜き出す勢いをそのまま斬撃とする抜刀術。シャファルが使ってきたのと同じ技だ。


鋭い斬撃だが、真は間合いを見極めて冷静に射程外へと身を置く。ギリギリのところで斬撃をやり過ごすと、真はそこから踏み込んだ。


<スラッシュ>


真の袈裟斬りがナジを襲う。ナジはこれを読んでいたとばかりに避けて見せた。再びシャムシールを鞘に納めると間合いを測る。


じりじりと間合いを測るナジ。それに対して、真は目線を外し、別の方向へと意識を向けた。


真が意識を向けた先。そこにはガドルが至近距離まで迫ってきていた。


ザンッと空気を切り裂く音が真の耳に入る。目にも止まらないガドルの斬撃が真のすぐ横を掠めた音だった。


ガドルは攻撃を外したからといって焦る様子は微塵もない。続けて斬撃を繰り出し、真はそれを躱す。ナジが攻撃の準備をしているのを見せておいて、その隙にガドルが音もなく近づいてくる。連携としては見事なものだった。


「ッ!?」


真が咄嗟に頭を下げたところに、ガドルのシミターが飛んでいく。正直、真がガドルの連続攻撃を回避するのは本当にギリギリのところだった。少しでも気が緩むと、直撃を受ける。極度の集中の中で戦いを継続していた。


当然、ガドルだけが相手ではない。ナジも音を消して抜刀術を放ってくる。真を大剣を盾にして何とか防ぐも、続いてガドルの猛攻が飛んでくる。


どちらにも意識を向けていないと、いずれ喰らってしまう。それでも問題はないとは言え、そんな甘えた意識ではこちらの攻撃を当てることはできない。


反撃の機会を狙いながらも、防戦一方になる真だが、あることに気が付いてきた。


(攻撃が見える……。少しずつ慣れてきている……)


ガドルの攻撃も、ナジの攻撃も今まで戦った敵の中では一番鋭い攻撃だ。攻撃に無駄は無く、虚を突き、隙をついてくる。速度も技術も超一流。その攻撃に晒され続けた結果、真は読めるようになってきた。


(だけど……、まだ……。まだ、足りない……)


敵の攻撃は対処できている。だが、何かが足りていない。それが何のか、真自身も分からない。ただ漠然と足りていないと感じる。


(何か……、何か掴めそうな……)


真がこの戦いで何かを得られそうで、でも雲をつかむような感覚に、もどかしさを感じている時だった。


<ショックフェザー>


無数の羽が風に乗って地下聖堂の中を舞い踊る。場違いなほど軽やかに、白い羽が戦いの最中に広がった。







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