アルター真教 Ⅱ
アルマドを狙って放ったソニックブレードが甲高い音を鳴らす。それと同時、アルマドが半身になると、見えない刃は、その身体の横を通り過ぎていった。
<レイジングストライク>
ソニックブレードが避けられたが、真は間髪入れずに次のスキルを使う。近接戦闘専門のベルセルクが相手との距離を一気に詰めると同時に攻撃を仕掛けるスキル。猛禽類が獲物を狙うかのような強襲がアルマドに迫る。
ガキンッ! 真の大剣とアルマドのシミターがぶつかり合い、金属音が石壁の部屋に響く。
「面白い攻撃だ。不意打ちの遠距離攻撃で態勢を崩してからの強襲。狙いも悪くない。だが、相手が悪かったな!」
アルマドは攻撃を受け止めたシミターを力任せに振った。その腕力は真の体ごと大剣を弾き飛ばす。
「ダウードほどじゃねえよ!」
真は相手の力量を試していた。初手のソニックブレードからレイジングストライクに繋ぐ戦法は、ダウードとの戦いでも使ったもの。ダウードはソニックブレードを避けるだけでなく、レイジングストライクにカウンターを合わせてきた。
アルマドはソニックブレードを避けはしたものの、レイジングストライクは攻撃を受け止めるのみ。カウンターの一撃を入れるまでのことはしてこなかった。サリカの言う通り、技量ではダウードに一歩劣ると見ていいだろう。
「ダウード上僧と比べられると、力の差を認めざるを得ないが、だからこその二人ががかりだ!」
その声に真がハッとする。いつの間にかシャファルが至近距離まで近づいて来ていたのだ。音もなく、気配もなく、気が付いた時にはそこにいた。
「ッ!?」
シャファルが腰のシャムシールを抜刀すると同時に真に斬りかかる。
真は咄嗟に倒れるようにしてシャファルのシャムシールを避けた。真の首を正確に狙ってきた抜刀術。視界の端を一瞬だけ光がとおり過ぎた。
「やるな。あれを躱すか。ダウード上僧を殺っただけのことはあるってわけだ」
アルマドが感心したような声で言う。だが、目つきは変わらない。殺すという意志は揺るがず真を見据えている。
「小手調べだからな。これで敵の技量も分かったことだ。避けられたとて問題はない」
再びシャムシールを納刀したシャファルが構えて真を睨み付ける。
「そうだな――。お前、アオイマコトと言ったな。悪いが、苦しまずに殺してやることはできそうにない!」
今の交戦でアルマドとシャファルの警戒が一気に高まった。見た目が少女だからと言って戦う手段を選んでられる余裕はないと分かった。そうなると、敵を苦しめてでも勝つための策を取る。
そして、アルマドは真へ向けて一気に飛びかかっていった。
「速い!?」
静止していた状態から無挙動での加速。アルマドの筋力があるから成せる業だろう。いきなり爆ぜたように向かってくるアルマドの動きに、真の反応が一瞬遅れる。
ヒュンッ!
その時だった。真の後ろから何かが飛んできた。それは、真を横切ると真っ直ぐにアルマドへと飛来する。
「チッ!」
アルマドが思わず舌打ちをして、顔を背けた。それは翼が放った矢だった。顔に目がけて飛んできたその矢を寸でのところで回避した。
それはアルマドにとって隙になった。飛んできた矢を回避するために顔を傾けてたのだが、それと同時に体も動いてしまった。
「うらぁあっ!」
<スラッシュ>
そこに真が大剣で斬りつける。踏み込みからの一撃は態勢を崩したアルマドに直撃した。
「ぐっ!?」
想像以上のダメージにアルマドの顔が歪む。
<シャープストライク>
真はすかさず切り返す刃でアルマドに二連撃を叩き込んだ。そのまま、連続攻撃スキルの三段目をお見舞いしようとした時だった。
「――!」
音を消して近づいてきたシャファルがシャムシールを抜き放つ。今度は声を出さず、完全に気配を絶った状態からの抜刀一閃。
真は横に飛ぶことで回避する。だが、シャファルの攻撃はそれだけではない。続く斬撃を繰り出そうと、さらに真との距離を詰めてくる。
(避けきれない……ッ)
真が被弾を覚悟した時だった――
<フレアボム>
真とシャファルの間をエネルギーが収束し、一瞬の内に爆発を起こした。華凛が召喚したサラマンダーのスキル、フレアボムだ。フレアボムは座標を指定して、その場所で核熱の炎を巻き起こすスキル。
(ここだッ!)
<ルインブレード>
巻き起こる爆炎の中から真がスキルを放った。スラッシュから派生する連続攻撃スキルの3段目。出現した魔法陣ごと敵を袈裟斬りにする。
ルインブレードは高威力であることに加えて、敵の防御力を低下させる効果があり、続く攻撃の威力を高めることができる有用なスキルだ。
「うっ!?」
華凛の攻撃が目くらましになり、シャファルは真の攻撃を避けることができなかった。
「はぁああーーー!」
そこにサリカが追撃を仕掛けた。これが好機と見てアルター真教の上僧相手にも怯まず、鋭い刃を突きつける。
カキンッ
シャファルはシャムシールを抜刀すると同時に、サリカの攻撃を何とかいなすと、素早く後方に飛ぶ。真の攻撃をまともに喰らったため、後退を余儀なくされたのだ。同じく退いていたアルマドと合流する。
「真一人だけに注意してるからそうなるのよ!」
弓をアルマドに向けたまま、翼が声を上げる。翼がアルマドを狙って撃った矢は外したものの、隙を作ることには成功した。真はその隙を見逃すことなく連撃を入れてくれた。
「私たちのことを舐めてると、困るのはそっちの方よ!」
魔法書を手にしながら華凛も言い放つ。こうすれば真が敵を攻撃しやすくなるということが、華凛にも分かってきた。ただ真に縋るだけの戦いではなくなってきている。
「なるほどな……。ダウード上僧を倒しただけのことはある……」
シャファルが胸元を押さえながら声を振り絞った。たった一撃だが、レベル100である上に最強装備をした真の攻撃は致命的なものになる。
「それじゃあ、お前ら……。これは知ってるよな?」
苦悶の表情を浮かべるアルマドが胸元から小瓶を取り出した。
「お前……。それを、使うつもりか……」
真にはその小瓶に見覚えがあった。ダウードがアルター真教の秘術を使う際に飲んだ薬が入っている小瓶だ。それと同じ物をアルマドが出してきた。
「ああ、そうだ……。察しのとおり、アルター真教の秘術を使うための薬だ!」
「それを使ったらどうなるか分かってるんですか! それでも使うって言うんですか!」
声を荒げたのは美月だった。アルター真教の秘術は人を異形の怪物に変える外道の法。しかも使えるのは一度だけ。一度使ってしまえば、異形と化した身体に人間が耐えられなくなる。一時的な力を手にしても、その後に待っているのは身体の崩壊と死だ。
「分かっているともさ。アルター真教の教徒となった時点で、この命は敵を殺すための物だと思っている!」
シャファルも胸元から小瓶を取り出した。ダウードやアルマドが持っている小瓶と同じ物だ。
「少女が無残な姿になるのは趣味ではないが、これも戦いだ。悪いがまともな殺し方はできなくなる! お前らも戦いに身を投じたのだ、それは覚悟してもらうぞ!」
その一言を最後にアルマドは小瓶の中を飲み干した。続いて、シャファルも小瓶の中に入っている薬を飲み干す。
「止めて――」
美月が慌てて声を上げるが、もう遅かった。何の迷いもなく一気に薬を飲んだ、アルマドとシャファルを止めることはできなかった。
「があああああーーーーッ!」
「ぐおおおおおーーーーッ!」
アルマドとシャファルが唸り声を上げると、みるみるうちに体に変化が起こりだした。
最初の変化は体の膨張。アルマドもシャファルも長身だが、さらにその大きさを増していく。身にまとっている法衣は身体の膨張に耐えることができずに引き裂かれて、鍛え上げられた肉体が露わになる。
次に起こったのは皮膚の変化。褐色の肌は砂色に変わり、全身を鱗が覆いだす。硬質化した鱗の一部は棘となり、全身に広がる。
最後に顔が変化する。髪は無くなり、口は大きく避けて前に迫出す。目の瞳孔は縦に割れて、冷たい視線を真達に向ける。
「お待たせしたようだな。これからが本当の戦いだ!」
アルマドが真に声をかけた。それはもう人間の声とは思えない異色の声。全身が棘に覆われた砂漠のトカゲ。アルマドとシャファルがアルター真教の秘術によって手に入れた力はトカゲの力。身長3メートル近いリザードマンとなって真の前に立ちはだかった。
「馬鹿が……」
変化したアルマドとシャファルの姿に真は歯噛みした。アルター真教の秘術が待っているのは死だけだ。人としての死に方ではなく、怪物としての死。
(そんなことをしてまで敵を殺したいのか、こいつらは!?)
まさに狂信者。センシアル王国だけでなく、アルター正教も危険視するのは、こういう敵を殺すことに傾倒し過ぎている思想だろう。あまりにも極端であり、危険な思想。アルター真教の解体に手段を選ばないセンシアル王国の宰相の考えも否定できなくなるほどだった。




