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アルター真教 Ⅰ

真達は美月が発見したサーラム寺院の地下への階段を降りていった。


階段を下りた先にあるのは通路。上下左右を石材で囲まれた通路だ。外のように風に晒されていなかったせいだろうか、地下通路を構成している石材の壁の痛みは少ない。上の建物と比べれば、違う年代に作られた物ではないかとさえ思えてくるほど。


ゲーム化した世界の特徴として、地下の光源がない場所でも視界は確保されている。その例に漏れず、サーラム寺院の地下も暗闇に閉ざされることなく、周りを見ることができている。


「慎重に行きましょう。このような場所では見張りをやり過ごすことはできません」


いつでも抜刀できるように剣に手を添え、サリカが言う。この地下通路の幅は広くはない。横に三人並べば窮屈になる。


「そうですね……。この先は曲がってるから、どうなってるか分かりませんけど、敵と遭遇したら戦うしかないですよね……」


サリカの意見に美月が追従する。今いる通路の先は左に曲がっており、その先は見えない。おそらく、同じような通路が続いていると予測はできるが、定かではない。


「敵がいたとしても、真がいるから何とかなるでしょ」


翼がそう言いながら真の方を見ると、何やら黙って考え込んでいる。


「どうかした?」


その様子は翼もすぐに気が付いた。


「あ、えっと……。考え事してた……。敵がいるかどうかだっけ? まぁ、倒すしかないだろうな」


話半分にしか聞いていなかった真だが、おおよその内容は掴めている。狭い通路で敵と遭遇したら、倒す以外の選択肢はない。


それは、全く問題がないのだ。通路が狭くなくても、敵がいたら真が倒せばいいだけの話。


問題は敵がいるところに誘い込まれているという疑念が拭いきれないこと。ガドルとの戦闘は絶対だろう。そして、ガドルはアルター真教の秘術を使って、異形の怪物となって立ちはだかる。そこまでは分かる。


(誘い込まれているかどうかはまだ不明だが……。もし誘い込まれているとしたら、俺達を倒すための用意があるはず……。サーラム寺院の地下を見つけたのがここ最近のことだとすると、寺院自体に仕掛けられている罠を使うというのは無理があるな。となると、やっぱり内通者……)


サーラム寺院はアルター真教にとっても忌むべき場所。近寄ることもないのだから、寺院の地下に罠があったとしても、まずその罠にかかるのは先に来ているアルター真教の方だ。


ゲームだから、理屈などお構いなしに寺院の罠を使ってくるかもしれないが、そもそも、サーラム寺院の地下に罠があるかどうかも不明。考えられる罠で可能性が高いのは内通者、裏切り者の存在だ。裏切り者が逃げ場のないサーラム寺院の地下へと真達を誘い込んでいるというパターン。


真は頭の中でいくつもの可能性を考える。黙考しながら歩く真に、美月達は少し不安気な目を向けるが、全く気が付いていない。


そのまま、地下通路を歩き続けていく。通路は一本道だが、曲がりくねっていた。左に曲がったと思えば、すぐに右に曲がる。そして、また左に曲がるということを繰り返していく。


「こんな地下があるなんてね……。サリカさん、アルター教の寺院にはこういう地下通路があるものなんですか?」


美月が歩きながらサリカに質問をする。地下への入口を見つけた時は、まさかこんなに長い通路があるなんて思ってもいなかった。


「いえ、普通はこれほどの地下通路を作ることはありません。タードカハルは岩砂漠の国ですから、地下を掘ることは容易ではないのですよ。地下を作っているのはスマラ大聖堂くらいのものです」


「それじゃあ、何のためにこれだけの地下通路を作ったんでしょうか?」


続いて彩音が質問をした。普通は作らない地下施設。地盤が固い岩砂漠であるから、これだけの掘り進めるのはかなりの労力が必要だったはずだ。それでも堀った理由。


「申し訳ありません。私には分からないのですが……。スマラ大聖堂に地下があるのは、敵からの侵略に備えているからだと聞いています」


「ということは、サーラム寺院に地下があるのも、敵からの侵略された際に大事な経典とかを隠せるようにしてあったということですか?」


「そういうことだと思います。サーラム寺院の場所は他国との国境が近い場所ですので、それに備えていたのかもしれません」


「なるほど」


サリカとの話で彩音は納得した。歴史的背景と立地からこういう地下通路を作っているということだ。それなら、この先に浄罪の聖人を安置できる場所もあるはず。


それから数分、細い通路の先に開けた場所が見えてきた。狭い通路から見える範囲だと、正面に壁があるだけ。どうやら左右に部屋が広がっているようだ。


先頭のサリカがさっと手を横に翳して、真達に静止を求める。その指示に真達は素直に従った。


「部屋の様子を確認します」


サリカは静かに言うと、通路のから顔を出して辺りを見渡した。そこは、石材に囲まれた広い部屋。両脇ににある10本ほどの石柱が天井を支え、壁には松明が数本灯されている。


「ッ!?」


先頭のサリカが何かに気が付き、咄嗟に真達を通路の奥へと押し戻した。


「敵か!?」


サリカの慌てように、ただ事ではないと感じた真が訊く。


「はい……。敵です」


サリカが静かに答える。しかし、その慌てようは尋常ではない。敵を発見したのはこちら側なのに、動揺しているのはサリカの方だ。


「見つかったの……?」


華凛が不安気に口を開く。サリカの様子がおかしいことは一目瞭然。となると、考えられることはサリカが敵に見つかった可能性。だが、サリカは少し顔をのぞかせただけだ。それで敵に見つかるものなのか。


「見つかったかもしれません……。敵は通路を出て右手の奥に2人いました。一瞬しか見ていませんがおそらくアルター真教の上僧かと思います……」


苦虫を噛み潰したような顔でサリカが話す。戦い長けているアルター真教とはいえ、普通の教徒であれば、まずサリカは見つかっていないだろう。だが、一瞬だけ見えた敵の姿は、アルター真教の上僧が纏う法衣を着ていた。そうなると話が変わってくる。


「上僧って、ダウードみたいなのが2人いるってこと!?」


翼が声を殺しながらサリカに迫る。修練場に現れたアルター真教の上僧、ダウード。戦闘技術に長けており、真の攻撃も見切っていた。


「いえ、ダウードの強さは特別です。他の上僧はダウードに一歩劣ります。ですが、油断はできない相手であることに違いはありません……」


真剣な表情でサリカが答える。ダウードには一歩劣るとしても、アルター真教の上僧は命の危険を伴う厳しい修行を越えてきた者。並みの教徒とは比べ物にならない強さを持っている。その上僧が2人いる。


「そのダウードよりも強いのがガドルなのよね……」


華凛が呟く。それに対して誰も何も言えることはない。重い空気が流れる中――


「いつまでそこに隠れているつもりだ?」


広い部屋の奥から男の声が聞こえてきた。声の主は容易に想像できる。2人いる上僧の内の一人だ。


「ここまで来ておいて、帰るなんてことは言うまいな?」


挑発するように別の男の声が聞こえてきた。余裕のある声だ。勝つ自信があるのだろう。


やはり見つかっていた。真達が顔を向き合わせる。お互いがその表情を見つめ合う。選択肢はない。取れる方策は一つだけ。


「出るぞ……」


真がそう言うと静かにその身を部屋の中へと進めていった。サリカが真に続く。そして、美月達もそれに続いた。


「聞いてはいたが、本当に少女ばかりだな」


部屋の奥にいる男の一人が驚いたとばかりに言う。比較的大柄でがっしりとした体格の男だ。褐色の肌に顎髭。眉毛は薄く、目つきは悪い。現れたのが少女ばかりだからだろうか、どこか揶揄うような表情を見せている。


「気を抜くでないぞ、アルマド上僧。少女だとしても、ここまで来たということは、ダウード上僧を倒したということだ。油断して首を落とされても知らんぞ!」


もう一人の男がアルマドと呼んだ上僧に注意をする。長身で細身。長い髪と鋭い目。アルマドと違い、見た目で敵を判断していない。ダウードを倒したという事実を重く受け止めている。


「相変わらずお堅いねえ、シャファル上僧は――。だが、確かにそうだな。こいつらはダウード上僧の仇だ」


アルマドの目つきが変わった。静かに抜いた大振りのシミターが鈍い輝きを放つ。


「慈悲だ。できるだけ苦しまずに殺してやる。死ぬ覚悟ができたなら、いつでもかかってくるがいい!」


シャファルと呼ばれた男が言い放つ。腰のシャムシールはまだ抜いていないが、その眼光から放たれる殺気は、鋭い刃そのもの。できるだけ苦しまずに殺してやるといのは、少女達に対するせめてもの情けだろう。


「俺が2人とも受け持つ。皆はダウードの時のように頼む」


ベルセルクの大剣を構えながら真が前に出た。振り返りはしないものの、美月達が首肯していることを気配で感じる。


単純な強さだけなら、2人同時に相手をしても大丈夫だ。問題は戦闘技術。アルター真教の卓越した剣技を前に苦戦を強いられるだろう。


「良い目をしているな、ベルセルクの少女。名前を聞いておこうか」


殺気の籠った目は変わらず、アルマドが真に声をかけてきた。


「蒼井真っていう名前の男だよ!」


<ソニックブレード>


徐に振り切った大剣から繰り出されるのは真空のカマイタチ。見えない刃が音速で敵に襲い掛かった。






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