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迷宮 XXII

<スラッシュ>


真は勢いよく踏み込み、ヴィルム目がけて大剣を斬りつける。が、ヴィルムはしっかりと真の斬撃を見極めて回避をする。


その間にも翼の弓や咲良の短剣がヴィルムを狙っているが、これは全て命中。ヴィルムは真の攻撃を避けることだけに傾倒した行動を取っている。


「あたしらの攻撃は避けるに値しないってかっ?」


姫子がギリっと歯を噛みしめる。真が強いことは重々承知していることとはいえ、ここまで敵から相手にされないというのは流石に腹が立つ。


「姫、そんなことはないと思います……」


「あぁ? 現にこいつは蒼井にしか注意してねえだろ?」


宥めるようにして言ってきた悟に姫子が苛立ちながら返した。


「避けるに値しないのではなくて、蒼井君の攻撃に集中せざるを得ないと言った方が正確かと」


「どういうことだ?」


「つまりですね、蒼井君の攻撃は一撃でも受ければヴィルムにとって非常に痛手であることは姫も分かりますよね?」


「ああ……」


「僕達の攻撃を受けていても被害がないわけではないんですが、蒼井君の攻撃は絶対に回避しないといけない。おそらく、僕らの攻撃まで避けつつ、蒼井君の攻撃を避けるっていう器用な真似はできないんでしょうね。だから、僕達の攻撃を被弾することは覚悟の上で、蒼井君に集中してるんですよ。まぁ、苦肉の策と言えばそうなりますかね」


「苦肉の策と言うか、潔いって言うかってとこか……」


なんとなくだが、悟のいって言いることが腑に落ちた姫子がヴィルムの方を見やる。真の攻撃をことごとく躱しているように見えるが、真の方もヴィルムを追い詰めていた。もうすぐ部屋の端にまで追いやる。そうなれば壁に邪魔されて回避行動が大きく制限されてしまうのだ。


真は単に避けらているだけではなかったのだ。しっかりと逃げにくいところまで追いつめていっていた。


「追い詰めたぜ!」


とうとう真が部屋の角までヴィルムを追いやった。これで回避行動がとれるエリアは前方90度の角度しかなくなる。


「……」


ヴィルムは真の挑発に乗ることはなく、黙して真の攻撃を待った。


<スラッ――


真が連続攻撃スキルの起点となるスラッシュを放つため踏み込んだ。それに合わせてヴィルムは左方に飛びこもうとする。


だが、真はスラッシュの発動を寸でのところで止めた。そのことはヴィルムもすぐに気が付く。しかし、一旦回避行動を取ろうとしたところを止められ、ヴィルムの身体も一瞬硬直する。


「本命はこっちだよ!」


<ソードディストラクション>


真はすぐさま別のスキルを発動させた。跳躍し、空中で体ごと一回転させるようにして大剣を振る。


そこから放たれたのは、破壊という事象をそのまま形にしたような強烈な衝撃。広い部屋の空間ごと震わせる、激しいエネルギーの奔流が暴れる。


「ぐっ……ッ!?」


ヴィルムは咄嗟に両手でガードするが、直撃は免れない。ソードディストラクションはベルセルクが持つ範囲攻撃スキルだ。スラッシュのような単発攻撃と違い、その効果範囲内から逃れるには大きく回避行動を取らなければならない。


しかも、ソードディストラクションはベルセルクが持つ範囲攻撃スキルの中では最強の攻撃力を持っている。


「……これ以上は……やられるわけにはいきませんね……」


ヴィルムは静かに口を開いた。その声には若干の焦りが伺えるが、取り乱すほどではない。


「悪いが、こっちはこれ以上やらせてもらうつもりなんでな!」


<スラッシュ>


これが好機と見た真はすかさず踏み込み、斬撃を放つ。


ヴィルムはこれを大きく後方に飛び退くことで回避した。ソードディストラクションの直撃を受けてしまったが、部屋の角からは抜けることができていた。そのため、回避行動に余裕ができる。


「逃がさねえよ!」


だが、真としてもヴィルムを逃がしてやるつもりはない。また同じことをやって端に追い詰めて、範囲攻撃をぶつけるだけ。


「それは私のセリフだ!」


パチンッ


ヴィルムは不敵な声とともに指を打ち鳴らした。真の攻撃から逃げることに専念していたヴィルムだが、距離が空いてことで攻撃に転じたのだ。


「気を付けろ! 何か来るぞ!」


警告を発したのは姫子だった。戦いの最中、ヴィルムが指を鳴らした後には何かしらの攻撃が来る。


「分かってる……」


真が静かに返事をした。だが、大量のナイフが飛来したり、麻袋をかぶった大男を呼び出したりと、何が来るか予測がつかない。ここからさらに追い詰めたいところなのだが、どんな攻撃をしてくるのか分からない相手に、どうしても警戒の方を強めざるを得ない。


「なぁに、ちょっとしたお遊びですよ!」


ヴィルムがそう言った瞬間、部屋に敷き詰められた49枚のパネルの一部が赤く発光した。


「な、なに?」


何が起きているのか分からない華凛が声を上げる。華凛が立っているパネルも赤く光っていた。


光っているのは部屋の外周を囲む24枚のパネル。そして、内側にある25枚のパネルの内、華凛が立っている場所を含めて3枚のパネルが赤く発光していた。


「華凛! そこから離れろ!」


絶叫にも似た真の声が響いたのはその時だった。それがどんな攻撃なのかは真にも分からない。だが、赤いパネルの上に居てはいけない。それはゲームで散々経験してきたことだ。光る足場の上にいたら大半は被害を被る。


「えっ!?」


突然の大声に華凛の身体がビクッと反応をする。


「早く逃げろ! 赤い床を踏むな!」


「う、うん!」


真に言われて、華凛はすぐに赤く光るパネルの上から退避した。何が起こるのかは分からないが、これが危険なものだと理解する。


次の瞬間、赤く発光していたパネルは一気に輝きを増すと、ガラガラと崩れ落ちていった。


「ヒィッ……!?」


華凛が悲鳴を上げたのは崩れ落ちたパネルの先を見たから。それは真っ暗な闇だった。ある程度は部屋の光に照らされて見えるが、それ以上に深い深い闇が続いている。どこまで続いているかは不明。肉眼で見える範囲の深さではない。


「気を付けてくださいね。落ちた先は奈落の底ですので。二度と上がってくることはできませんよ!」


ヴィルムの声は嬉しそうだった。真に追い詰められていたが、恐怖に顔を引きつらせた華凛の顔を見れて、少しは満足したのだろう。


「くっそ……」


周りを見て真が毒づく。49枚あったパネルが一瞬のうちに半分以下の22枚にまで減っている。部屋の外周は全て崩落。残った5×5枚のパネルの内、3枚が抜け落ちている。


(落ちたら即アウト……だろうな)


真は声には出さずに心中で独りごちた。いかに最強装備であっても、レベル100であっても、即死する罠がある。強さとは無関係に死ぬ仕掛け。ヴィルム自体は真の敵ではないのだが、こういう即死ギミックにかかればひとたまりもない。


「赤いパネルに気を付けて下さい! 赤く光った場所は落ちます!」


椿姫が警告を発した。おそらく全員が理解をしていることだろうが、あえて警告を発する。これくらい他の人も分かっているだろうと思うことは、命取りになることを身をもって経験しているからだ。一言言っておけば助かったかもしれない仲間は両手の指では足りないほどだった。


「はい!」


しっかりとヴィルムを見据えながら美月が返事をする。他のメンバーも同様に首を縦に振って返事を返していた。


「皆さま、ルールは理解できましたね? それでは次、いきますよ!」


ヴィルムは嬉しそうに指を鳴らした。パチンッという音が殊更大きく部屋に響く。


「来る!」


真は皆にも自分にも言い聞かせるようにして声を発した。この攻撃は絶対に受けるわけにはいかないのだ。


残された22枚のパネル。今度は、その内の19枚が青く発光した。


「あ、青……ッ?」


驚愕に翼が声を上げてしまう。赤いパネルは崩れ落ちてしまうため、その上に乗っていてはいけない。だが、今回は青く光っている。


「青だ! 青いパネルの上に乗れ!」


咄嗟に真が叫んだ。残っているパネルのほとんどが光っている状態だ。もし、この青く光っているパネルが崩れ落ちたとしたら、残される足場は3枚しかないということになる。それはいくらなんでも少なすぎる。それに、


「赤は警告だ! 逆に青は安全だ!」


色が意味するもの。赤色というのは概して警告や危険を意味する。信号でも赤は進んではいけない。逆に青は正常や安全を意味している。


「わ、分かった!」


翼が勢いよく返事をする。それに同調するようにして周りも青く光るパネルの上に乗った。


そして、青く光るパネルは一層強く光を放つと、光っていないパネルがガラガラと崩れ落ちて行った。


「ご名答! ですが、これくらいのことはすぐに分かってもらわないと面白くありません」


「てめえッ!」


遊んでいる風なヴィルムに向かって真が怒気を露わにする。大剣を構えて再び斬りかかろうとしたが、


「まだ、ゲームは終わってませんよ!」


パチンッ


再度、ヴィルムが指を鳴らした。パネルと共に奈落の底に落とされては真でも助からない。そうなると、一旦剣を引いて、敵の攻撃に備える他ない。そのことに歯噛みしながらも、真は意識をヴィルムの攻撃に向ける。


残っているパネルは19枚。部屋の外周は全て抜け落ちており、残された正方形の足場も6枚が虫食いのように抜けている。


全員が最大限の注意をして、次に来る色に備える。赤なのか青なのか。それに合わせて行動を取らないといけない。


そして、パネルが光りだした。光を放ったパネルは部屋の中心に位置する1枚だけ。そのパネルは赤でもなく、青でもなく、黄色い光を放っていた。


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