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荒野の国

        1



バージョンアップで追加されたエリアはタードカハルという名の国だ。バージョンアップにより、タードカハルへはセンシアル王国から馬車が出るようになり、3日ほどの旅程で着くことができる。


タードカハルは周りを岩砂漠で囲まれた国。現実世界でいうところの中東の国のような雰囲気だ。乾いた空気が流れており、砂埃が舞っているためか、行きかう人々は防砂のために顔も覆うような服装をしている。


センシアル王国は温暖湿潤気候なのだが、タードカハルの領域に入った途端に中東の乾燥地帯に変わる。中間の気候というものがなく、整備された草原の道を進んでタードカハルに入ると、きっちりと色分けされたように、いきなり岩砂漠が広がっているのだ。


ゲームではエリアが変わると急激に周りの環境も変わることはあるので、それと同じなのだと考えることもできるが、やはり違和感の方が勝っている。


さらに言えば、王都から馬車で3日の距離しかないのに文化がまるで違う。建ち並ぶ家は黄ばんだ白色の壁で囲まれており、木材は見られない。


そんなタードカハルにある一軒のホテルに真達は滞在している。他の建物と同様にほとんどが土や石材で作られたホテルだ。ゴシックな王都に比べて、飾りつけもオリエンタルなものが多い。


ここは、『ライオンハート』が手配したホテルで、タードカハルにあるホテルの中ではトップクラスに豪華なホテルである。そのため、部屋は十二分に広く、絨毯も複雑で手の込んだ模様をした大きなものが敷かれている。


『ライオンハート』がここまでしてくれるのは『フォーチュンキャット』が今回のミッションで一番多く人員を派遣するから。


今回のミッションの内容は、新エリアであるタードカハルにあるイルミナの迷宮へ行くこと。そこには、今では伝説となるほどのサマナーが残した魔書が封印されているということだ。


バージョンアップが実施されてから、すぐに『ライオンハート』と『王龍』が王城へと行き、宰相から話を聞いた。


宰相の話では、イルミナの迷宮へ入るためには9人必要であり、しかもその9人はそれぞれの職が1人ずつということだ。全部で9種類ある職業から満遍なく1人ずつを選出することになる。


「どうして9人揃えないと入れないんだろうね? 葉霧さんも不明だって言ってたけど……」


ホテルの一室に備え付けられているソファーに腰かけて美月が不思議そうに声を出した。先日行われた会議で、時也から受けた説明の内容は理解しているが、どういう理屈で9人揃えないとイルミナの迷宮に入れないのかは、未だに分からない。


「それが謎なのよね……。9人っていう数字も、職業の種類が9種類っていうことくらいしか思い当たる数字がないしね……」


腰に手を当てて立っている翼も美月と同様に疑問を口にした。


「そういう仕様だから……としか説明のしようがないな」


美月の向かいのソファーに座っている真が疑問に答えた。手には赤いドリンクを持っている。この国特有の果物の果汁を絞ったジュースなのだが、やたらと甘い上に癖も強く、半分飲んだところで手が止まっていた。


「仕様って言われてもね……」


美月の隣に座っている華凛が呟いた。手に持っているのは柑橘を絞ったジュース。本当は真と同じ物を飲みたかったが、言えずに別の物を注文してしまっている。


「ゲームの世界……だからですよね? 9人用のコンテンツっていいますか……」


翼の横に立っている彩音が言う。どういう理屈か分からないが、ゲームの世界だからということで納得する以外に理解する方法はない。


「だな。イルミナの迷宮は9人で攻略するように調整してあるっていうことだ。だから、想定されていない人数で入ることはできない」


真も彩音と同じ意見だった。敵の強さや迷宮の広さ、そういった難易度が9人で挑戦することを想定して調整されているゲームの世界の迷宮なのだ。


「まあ、真の説明もよくわかんないけど、私達はちゃんと頭数揃えてるんだし、問題ないでしょ」


どうして人数制限があるのか分からないと言いつつも、翼はあっさりと頭を切り替えていた。真が言うように仕様なのだと割り切る。


「頭数な……」


真は何やら言いたげな表情をしているが、それ以上のことは言わなかった。だが、そこに彩音が言葉を続けてきた。


「あの……、真さんの言いたいことは分かりますよ……。私達では……その……危ないっていうのは……」


申し訳なさそうに彩音が言う。かなり強引に今回のミッションのメンバーに入ることを了承させたということに負い目があった。


「いや……まぁ……。皆が力不足っていうわけじゃないけどさ……。やっぱり今回のミッションは危ないと思うし……。それに、『フォーチュンキャット』から5人出して、他が2人ずつっていうのは不公平じゃないか? 『ライオンハート』も『王龍』も最大手のギルドだぞ」


危険なことに美月達を連れて行きたくはない。真としてはその思いが強い。自分が仲間を守るために最も有効な手段は、単に危険な場所に近づかせないこと。だが、結局のところギルドメンバー全員がミッションに参加することになってしまった。桁違いに大きなギルドが他に二つもあるのにも関わらず、『フォーチュンキャット』が一番多くの人員を出していることも不満である。


「真がミッションに行くのに留守番なんてできないよ……。それに、これは私が希望したことだからさ、『ライオンハート』さんも『王龍』さんも否はないよ……。むしろ私のせいでごめんね……皆を巻き込んじゃって……」


美月が『フォーチュンキャット』のメンバーを見て言う。『フォーチュンキャット』の全員がミッションの遂行メンバーになったのは美月が立候補したことに起因する。ビショップの枠として葉霧時也がミッションに行くことになっていたのだが、それを美月と交代してもらった。このことで、翼もミッションに立候補し、続いて彩音も華凛も立候補してきたのだ。


「美月! それは言っちゃダメ! ミッションに参加することは私達が希望したの。美月だけが希望したんじゃないのよ! それにね、スナイパーの枠はまだ決まってなかったようだから、美月が行かなくても、私は立候補するつもりだったよ!」


「翼……」


「そうですよ美月さん。私達は自分の意思で選んだんです。美月さんが巻き込んだわけじゃないですよ」


彩音が美月に微笑んだ。本当のことを言えば怖いのだが、それでも強くならないといけないという思いはあるからこそ立候補した。


「私は……真君に付いていくだけだから……」


小さな声でぼそぼそと華凛が言う。内容はよく聞き取れなかったにせよ、大体のニュアンスは伝わった。


「そういうことだから、真! あんたも危ないから来るななんて言っちゃダメだからね!」


「……分かった……。もう言わねえよ……」


翼がビシッと指を突き出して真に言い放つ。有無を言わせない翼の勢いに真は渋々ながらも納得するしかなかった。



        2



翌朝、岩砂漠に囲まれたタードカハルは日が昇ると同時にその強い日差しが容赦なく照り付けてくる。現実世界であれば、これから急激に気温が上昇し、夜になると急激に気温が下がるのだが、ここはゲームの世界。そこまでリアルに気候を再現しているわけではなく、王都よりも多少暑いなというくらい。ただし、照り付ける太陽は眩しいのでそれの対策は必要だ。


「これより、イルミナの迷宮へ向けて出発する。事前情報としては、迷宮内に罠があり、危険だということくらいしか判明していない。そのため、先んじて調査隊を派遣することもできない。迷宮内は何が起こってもおかしくないという心構えで挑んでほしい」


タードカハルの入口で声を上げているのは総志だった。今回のミッションではベルセルクの枠に真が入ることになったため、総志は不参加だ。だから、こうしてサポート役に回っている。


できれば事前に迷宮内を調査しておきたかったが、センシアル王国の宰相からイルミナの迷宮には罠が仕掛けられていると聞いて、誰かに事前調査をさせることなどできない。


「紫藤さん、分かってるよ。そのためにあたしらが選ばれたんだ」


腕を組みながら姫子が言う。ここにいるのは姫子の他に真、美月、翼、彩音、華凛。椿姫に咲良。そして悟。合計9人が整列している他、『ライオンハート』と『王龍』から応援と見送に数十人が来ていた。


タードカハルの入口は貿易のために朝から人だかりができていることは珍しくないのだが、武器や戦闘服、鎧、ローブ姿など、明らかに商売人ではない集団というのは浮いている。これが王国軍なのであれば違和感もないのだが、真達の集団は軍隊にしては統一性がなさすぎる。


「そうだな。よし、それでは現時刻を持ってミッションの開始とする。出発するぞ!」


総志の声が朝の岩砂漠に響くと、一団はイルミナの迷宮へと向けて歩き出した。










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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポが良い [気になる点] ヒロインの性格がウザいのを強調し過ぎ、キャラづけなのかもしれないがどのキャラにもウザい感が前面に出過ぎだと思う
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