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ミッション遂行メンバー

『王龍』主導の下で行われたフルメタル ザガドの討伐から数日後の昼下がり。『フォーチュンキャット』のメンバーは王城前広場に隣接する高級ホテルの会議室に呼ばれていた。


このホテルの会議室は『ライオンハート』の御用達であり、重要な話し合いが行われる場合には必ずこの会議室を使っている。


それは王城前にあるホテルに一般の人が入ることができないということが理由にある。非常に高級なホテルであるため、客以外は入ることはできない。客になるためには高額の宿泊費用を支払うだけでなく、そもそも紹介が必要になる。


『ライオンハート』は攻城戦により、支配地域を持っているため、王室からの紹介があり、この超高級ホテルを利用することができているのだ。


そのため、機密性に優れており、重要な会議をするためにうってつけの場所となっていた。


ホテルの会議室には重厚で大きなテーブルがあり、木目が途切れていないことから、一本の木から切りだされた木材を使用していることが分かる。これだけの大きさになるまで何百年とかかったであろう樹齢の木材。そのテーブルの細部には巧みな意匠が施されている。


「皆様、本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます」


椅子から立ち上がった時也が挨拶をした。テーブルに並んでいるのは、会議室の奥に向かって左側が『ライオンハート』と『フォーチュンキャット』、右側が『王龍』のメンバーだ。


「常日頃より、同盟ギルドとして尽力――」


「堅苦しい挨拶はいい……。本題に入ってくれ」


時也の挨拶を遮ったのは姫子だった。こういう挨拶が大事だということは分かっているが、どうも苦手だった。それよりも早く本題に入って話を進めたい。


「葉霧、本題に入ってくれ」


「あ、ああ……。では、さっそくですが本日お集まりいただいた趣旨について話をさせてもらいます」


姫子の言葉に総志も本題に入るように促してきた。互いのマスターがそう言っているのだから、時也としては本題に入らざるを得ない。だが、形式的ではあるにせよ、きちんと挨拶をしておきたいところだ。それはもう我慢するしかない。


「皆さまもご周知のとおり、ミッションの件についてです。再度確認のために説明をさせていただきますが、今回のミッションは、新しく追加されたエリア、センシアル王国の属国タードカハルにあるイルミナの迷宮へ行って、そこに封印されているという魔書を取りに行くことです」


時也がミッションの内容について、確認のために再度説明をした。共通認識として何をしないといけないかということは手間ではあっても省くことはできない。


「そのイルミナの迷宮に入れる人数は9人まで。しかも、各職1人となっています。そのため、9種類ある職業から1人ずつを選出して、今回のミッションにあたるということになります。そこで、その人選のため、本日はお集まりいただきました」


事前に案内をしていた内容を時也が説明した。時也の話が一通り終わったところで、次に総志が声を上げた。


「まず、人選がほぼ確定しているところから言う。ベルセルクの枠には蒼井真。お前が行ってくれ。『王龍』もそれで異論はないな?」


「ああ、分かった」


「文句はねえよ……」


先の会議で一番揉めていたところ。各職業で1人しか枠がないため、総志が行くのか、真が行くのかで意見が分かれていた。それに関しては『王龍』がフルメタル ザガドの討伐の際に真の実力を測り、紫藤総志よりも強いということが認められた。だから、真も異論はなく、姫子も文句はなかった。


「次にパラディンとダークナイトの枠だが、『王龍』から赤峰姫子と刈谷悟の両名に行ってもらいたい」


「ああ、任せておきな」


「心して任務に当たります」


姫子も悟もミッションの参加について快諾する。パラディンの中では姫子が最強だろう。支配地域を持つほどに強大なギルドのマスターでもあり、その実力は既に轟いている。そして、ダークナイトは『ライオンハート』の剣崎晃生が亡くなったことで、誰が最強なのかという議論はあるにしても、刈谷悟もトップクラスの実力者。人選としては間違いではなかった。


「次に、ビショップとエンハンサー、それにアサシン。この枠には『ライオンハート』から葉霧時谷、和泉椿姫、七瀬咲良に行ってもらう。ほぼ確定しているのはここまでだ」


ビショップには『ライオンハート』のサブマスターである時也が行く。ビショップで最強なのは間違いなく時也だろう。状況を分析する能力に長け、効率的にかつ的確に回復スキルを使用し、盤石の生命線として最前線に立ってきた。


そして、その時也にも並ぶと言われるほど、戦闘面でその頭角を現してきた椿姫と咲良だ。


「ま、待ってくださいッ!」


誰もこの人選に異議はないだろうと思っていた矢先、美月が立ち上がって抗議の声を上げた。


「なんだ? 真田、言いたいことがあるなら聞こう」


突然声を上げた美月に対しても総志は落ち着いて返した。美月の様子から、何やら必死になって言いたいことがあるようにも見える。


「あ、ありがとうございます……。あ、あのですね……。ミ、ミッションのことなんですが……」


「今そのことについて話をしているだろ」


ミッションのことで集まっているのだ。他の話などするわけがない。総志としてはそれを威圧的に言ったつもりはないのだが、美月には責められているように思えてしまう。


「す、すみません……。そのミッションのことで……ビショップのことで…………」


「ビショップの枠は葉霧が行く」


もう決定事項だと言わんばかりに総志が言った。より力のある者がミッションに挑む。時也以上に能力のあるビショップは考えられない。


「いや、その、ですが……。わ、私をミッションに参加させてくださいッ!」


意を決したように美月が叫んだ。真っ直ぐ総志の方を見つめる。美月の言葉を聞いた総志の表情は一切崩れていない。それが逆に怖いものでもあるが、美月はじっと我慢して総志の方を見た。


「お、おい……美月ッ!? 自分の言ってることの意味が分かってるのか!?」


驚いて声を出したのは真だった。ビショップの枠が1人しかないところを時也が入ってくれるのだから、危険なミッションに挑む必要などないのだ。それにも関わらず、美月はその枠に自分を入れてくれと言っている。


「葉霧を押しのけてお前がビショップの枠に入るということか。言っておくが、前のミッションでお前の実力は見せてもらっている。能力は高いが、葉霧には及ばない。それでもミッションに参加するというなら、どういうことか理由を聞かせろ」


総志から視線を外さない美月を睨み返して言う。実力で劣る者が、1人しかいないビショップの枠に入ろうというのだから、それなりの理由がなければ即却下する。


「私は……葉霧さんと比べて、能力は劣っています……。ですが、私には葉霧さんにないものがあります!」


「続けろ」


美月の目には力が籠っていた。それは総志にも分かる。だが、力強さと同時に不安も滲んでいる。そのことも総志は見逃していない。


「はい……。今回のミッションは少人数です。私はエル・アーシアでのミッションを7人で攻略した内の一人です! 『ライオンハート』の皆さんは大規模なミッションの攻略を得意としていますが、これほど小規模のミッションは経験がないのではないでしょうか? でも、私には少人数でのミッションの経験があります!」


「それだけか?」


少人数でのミッションの経験。それは確かに『ライオンハート』にはないものだ。葉霧だけでなく、総志も大人数を率いてミッションにあたってきた。だが、それだけで、ビショップの枠を時也から美月に変えるのは理由として弱い。


「そ、それだけじゃありません! 少人数のミッションだからこそ、個々が重要になってきます! 今回のミッションでは、真を中心に動くことになると思われます。いかに真をサポートするかが、今回のミッションの鍵となります。だ、だからこそ、真のことを一番理解している私がサポートに回る必要があるんです!」


美月は自分がミッションの参加者に選ばれないことは分かっていた。時也が実力で美月を上回っていることも重々承知だ。だから、何とか総志を説得するための理由を出さないといけないと考えていた。美月自身の実力を主張しても説得力としては弱い。そうなると真との関係で有利を主張する他なかった。


それでも、総志が納得してくれるかどうか分からない。だが……。


「…………いいだろう。真田、お前がビショップの枠に入れ」


「総志ッ!?」


「待ってくれ、紫藤さんッ!?」


時也と真は思わず立ち上がっていた。総志は絶対に許可しないと思っていたからだ。だが、総志は少し考えてからあっさりと許可を出した。


「真田の言う通り、今回のミッションの攻略は蒼井の力が最重要だ。言い換えれば、蒼井が最も動きやすい人選をすることが重要なのだろう。だとしたら、真田の起用は間違いではない」


総志がベルセルクの枠を真に譲った理由。それは、真が圧倒的に強いから。他者の追随をまるで許さない真の実力を考慮すれば、真と協力するよりも真の邪魔をしないという作戦の方が効果的なのだろう。総志はそう判断した。


「いや、しかし……。『王龍』としての意見はどうですか? 真田美月にビショップの枠を任せて大丈夫だと思いますか?」


総志の意見にまだ納得がいかない時也が『王龍』に意見を求めた。


「あたしは特に異存はないよ。この前のカニ退治の時に、そのお嬢ちゃんの実力は見せてもらってるしね。うちのメンバーの評価も上々だ。葉霧さんに比べて劣ったとしても、不安材料になるほどでもない」


姫子も美月がミッションに参加することをあっさりと認めた。実力的に問題がないのは確かだが、それ以上に姫子が見ていたのは美月の目だった。不安と恐怖に立ち向かおうとする勇気のある目。姫子はそこを見ていた。


「そういうことならスナイパーの枠は私に決まりよね? 私だって真と一緒にミッションをやってきたんだから」


続いて声を上げたのは翼だった。スナイパーの枠はまだ決まっていない。真のことをよく知っているという理由で美月が採用されたのであれば、翼も同様の理由で採用されるべきである。


「おい、翼ッ!?」


危険なミッションに翼も参加すると言い出した。翼なら確かに言い出しかねないことだが、それでも、真は声を出さずにはいられない。


「だったら私も同じですよ。ソーサラーの枠はまだ決まってませんよね?」


「私も同じ。サマナーの枠は空いてるんでしょ?」


さらに続いてきたのは彩音と華凛だ。美月と翼の話を聞いて二人ともミッションに参加する意志を固めている。


「彩音……、華凛も……。お前ら分かってんのか? 今回のミッションは危険なんだぞ!」


呻くようにして真が言う。事前に情報が開示されているミッション。迷宮を探索して、そこに眠る魔書を取ってくる。迷宮に罠が仕掛けれているということも王城の宰相から情報が出ている。わざわざ注意喚起してくれるほど今回のミッションは危険なのだ。


「真……分かってるよ……。でも、お願い行かせて……。ここで真の帰りを待ってるだけなんてできないの!」


美月は真を見つめて言う。その言葉には確固たる意志があり、力強さを感じる。こうなった美月を説き伏せることは非常に困難だ。


「蒼井、男なんだったら、あんたがこいつらを守ってやりな!」


姫子が真に言い放つ。姫子としても人選に問題はない。美月も翼も彩音も華凛も各職業のトップクラスには及ばないが、実力がないわけではないのだ。


「…………ッ」


『守ってやれ』と言われて、真はそれ以上言うことができなくなってしまった。美月たちは自分が守ると決めたのだ。できれば、危険なところに連れて行きたくはないが、本人達の意志は固く、動かせるものではない。だから、覚悟を決めないといけないのは真の方だ。絶対に守り抜くという覚悟を。


そうして、イルミナの迷宮へ行くメンバーは選出されたのであった。









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