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大同盟の噂 Ⅲ

新たなバージョンアップの知らせが届いてから、真達はすぐに狩場から王都グランエンドへと帰還した。正午過ぎには狩場を発っていたいたが、王都へ帰ってくるころにはすっかり夜になっていた。


王都へ帰ってきてまず気が付いたのは落ち着かない空気。人の賑わう王都はいつもざわついているが、今夜の空気はいつもとは違う。


バージョンアップのあった日はいつもこうだ。通知された内容の不明瞭さから色々な憶測が飛び交い、余計な不安を煽る。街灯が彩る街の景色もどこか頼りなく揺れているように見える。


外で立ち話をしている声も、井戸端会議というような安穏のしたものではなく、不穏の色を濃くしてた。その声に混じって聞こえてくるのは、『ライオンハート』と『王龍』の名前。最近同盟を結んだこの二大ギルドの話を中心として、今回のバージョンアップについて話をしているようだ。


そんな王都の中心地を真達は足早に進んでいった。行く先は決まっている。『ライオンハート』のメンバーがよく屯しているという酒場だ。まずは総志と話をしないといけない。


そこに総志がいる可能性は低いのだが、『ライオンハート』のメンバーなら総志がどこにいるのか知っているはずだ。


「いらっしゃいませー!」


酒場『ファミリア』の扉を開くと店員のNPCが愛想よく出迎えてくれる。この酒場は広い1階席と吹き抜けになっている2階席が特徴。どちらも席の値段は変わらないのだが、2階席の方が人が少ない分ゆったりしている。


「あ、すみません、私たちは人を探しにきただけですので……」


美月が丁寧に頭を下げる。NPCの店員は特に気にする様子もなく、「それなら好きに探せばいいよ」と言ってすぐに自分の仕事に戻って行った。


「確か2階席にいることが多いって聞きましたよ」


彩音が店内を見渡しながら言う。この情報は椿姫から聞いたもの。『ライオンハート』は大所帯であるため、行きつけの店は人によって違うのだが、『ファミリア』は『ライオンハート』内でも人気の店だから、連絡を取りたければ『ファミリア』に行くようにと言われているのだ。


「いるかな……? バージョンアップがあったんだし、『ライオンハート』の人たちって集まって話し合いをしてるんじゃないの?」


同じく店の中を見渡しながら翼が言う。『ファミリア』は所謂大衆酒場なのだが、この日はどうも人が疎らだ。バージョンアップがあったばかりの不安の中で酒を飲むという気分でもないのだろう。


「とりあえず行ってみましょう。もう夜になってるし、話し合いも終わってる可能性があるからね」


本当にいるのだろうかという疑問は美月にもあった。だが、他に心当たりがある店となると、『ファミリア』以上に可能性が薄い。


「そうだな。俺たちは狩場にいたから、その分出遅れてるし、紫藤さんに会っておいて明日以降の段取りを決めておきたいしな。できるだけ今日中に連絡を付けておこう」


真はそう言うと、店の両端にある階段を登り始めた。木製の階段を靴が打つ音がコツコツと聞こえてくる。普段の喧騒なら、そんな音も聞こえてこないくらいだろうが、今日の店は比較的静かだ。


「あッ!? 蒼井君!」


真が2階に上がってきてすぐに聞こえてきたのは知っている女性の声だった。黒髪にボブカットのエンハンサー。少女というには少し大人びた雰囲気の和泉椿姫だ。それと横にもう一人いる。栗色のツーサイドアップの小柄な少女。


「あれっ!? 椿姫!? それに咲良も」


真は少し驚いて声を上げた。『ファミリア』の2階にいたのは『ライオンハート』の和泉椿姫と七瀬咲良だ。二人とも『ライオンハート』の精鋭部隊に所属している、ギルドにとっては重要な人物だ。


「ちょっと、気安く名前で呼ばないでくれる?」


真に名前を呼ばれたことにムスッとしながら咲良が愚痴をこぼす。咲良にとって、総志に認められている真は気に入らない人間ランキング上位だ。真の見た目が美少女だということも気に入らない。ただ、真は男だからまだマシといった程度だ。


「いいじゃないのよ咲良。蒼井君は男なんだからさ。男女の関係ってことじゃないでしょ。それこそ、男同士の熱い関係になるかもしれないんだしさ――ああ、でも葉霧さんとの関係も考えると……フフッ、堪らんわ……」


椿姫の顔がにやけたものになっている。何か変なことを考えているというのは容易に想像できた。普段の椿姫はもっとしっかりとしているのだが、趣味趣向に走ると自制が効きにくくなる。


「つ、椿姫さん!? そ、そそそ、そういうこと言うの止めて下さいって言いましたよね!?」


顔を真っ赤にしながら咲良が抗議をする。何故か興味津々といった目つきをしているのは彩音だが、この状況で身動きが取れないでいる。


「おい、椿姫……。腐敗をまき散らすな……、そんなことを言うためにここに居るのか?」


呆れた目で椿姫を見ながら真が言う。そんな腐った妄想を言うためにここにいるのではないだろう。


「あ、そうそう。この話はまた後で彩音とするとして、本題は別なんだよね」


「ミッションのことだろ?」


『しませんッ!』と反論する彩音はスルーして真が切り出した。


「うん。皆も知ってるとおり、今日の正午にバージョンアップがあったよね。それに新しいミッション……。このことで『フォーチュンキャット』にも協力をしてほしいと思ってる」


先ほどのにやけた顔とは打って変わって、真剣な面持ちで椿姫が話し出した。


「俺たちもミッションのことで紫藤さんを探してるところなんだ」


「そうだろうと思ってた。だから、私と咲良がこの店で待ってたんだよね、って言っても紫藤さんがここで蒼井君を待ってろって言ったんだけどね」


ここに椿姫と咲良が居たのは総志の指示によるものだった。だが、それならそれで一つの疑問がわいてくる。


「二人とも精鋭部隊なんだろ? いいのか俺達を待つ他にもやらないといけないことがあるだろ?」


椿姫と咲良が真達を待っていたのは、総志と連絡を付くようにするため。そのためのパシリをやらされているということなのだが、最強最大のギルドである『ライオンハート』の精鋭部隊がそんなパシリをしている場合なのだろうか。


「ああ、大丈夫、大丈夫。私と咲良は精鋭部隊っていっても戦闘が専門だからさ。所謂実働部隊ってやつ? 重要な会議とかは紫藤さんと葉霧さんを中心とした参謀がやってるから。参謀が決めたことを決起集会とかで知らされるっていうのがうちのやり方なんだよね」


確かに『ライオンハート』のメンバーは20代から40代前半の大人が大半を占めている。未成年の椿姫や咲良は『ライオンハート』の精鋭部隊としては異色の二人だ。重要な意思決定を未成年に任せることはできないから、今はこうやって真を待つ役割を与えられているのだろう。


「そうか。で、俺達を待ってたってことは紫藤さんのところに案内してくれるんだよな?」


「もちろんそうよ。それで、急な話で悪いんだけどさ、今から一緒に来てもらいたいのよ」


「それは構わないよ。こっちも今日中に紫藤さんに会っておいた方が良いって思ってたしな」


もう夜になっているが、大事なミッションの話だ。おそらく今回のミッションでも真が重要な役割を担うことになるだろう。急なことではあっても会わないわけにはいかない。


「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。あとね、これから会ってもらうのは紫藤さんだけじゃないのよ」


椿姫の目はさらに真剣なものになっていた。


「紫藤さん以外? ってことは『ライオンハート』のメンバーじゃ……あっ!?」


これから真が会う人物で総志以外となれば選択肢は限られてくる。一瞬、亡くなった剣崎晃生の後任の人と会うのかとも思ったが、それならここでわざわざ言うことでもない。直接会った時に紹介すればいいことだ。だとしたら、『ライオンハート』以外の重要な人物ということになる。


「そう、『王龍』のギルドマスター赤峰さんとサブマスターの刈谷さんよ」






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