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狼の集落 Ⅰ

「お前は何者だ?」


突然現れた狼の原生種に対して総志が問う。傲慢な態度ではあるが、野性味のある原生種に対してはどちらの方が力が上なのかを明確にしておいた方がいいのかもしれない。


「何者だって、それはこっちのセリフだ! 俺はここの住人だ。お前らこんな辺鄙な山の集落まで何しに来たんだ?」


狼の原生種は怪しまれているような言い方をされ納得がいかないところがあるようだが、素直に答えている。


「ここの住人って……どこに住んでるんだ?」


真が間の抜けた声で質問した。建ち並んでいるのは現実世界のログハウス。おそらくはレジャー用に建てられたものだろう。どの建物もデザインが統一されている。違うのは表札に書かれている文字。入口に近いログハウスは『フォレストラビット』。その向かい側のログハウスには『フォレストディア』と書かれている。


「お前、目の前に建ってる物が見えないのか?」


こいつは何を言ってるんだというような顔で狼の原生種が返答する。目の前に家が並んでいて、ここの住人だと言っているにも関わらず、何故どこに住んでいるのか聞いているのか。馬鹿なのかとも思ってしまう。


「いや……えっと……。この家に住んでるんだよな? この建物は誰が作ったんだ?」


現実世界の建物のはずだが、狼の原生種はこのログハウスのどれかに住んでいるようだ。真が想像したのはログハウスの横に犬小屋があってそこに住んでいるのではと思ったが、どうやら違うらしい。


「俺の家はもっと奥の方だがな。誰が作ったって言われたら俺らも作るし、俺の親父とか死んだ爺さんとか、みんなで作るんだよ」


狼の原生種が周りに建っている家々を見ながら言う。これは自分たちので作った物だと。


「自分たちが作ったっていう記憶になってるのか……」


ゲーム化した世界の住人の記憶は設定されており、しかもバージョンアップで記憶が変わることもある。このログハウスにしても、窓は防寒用の二重ガラスになっていてサッシは樹脂製だ。さらにエアコンの室外機も見えるので、どう考えても現実世界の物だ。


「何をごちゃごちゃ言ってるんだよ? で、お前らは何しに来たんだ? 俺のことは話したんだから、今度はそっちの番だろうが」


真が何か言ってるようだが、言ってることの意味が理解できない。原生種からしてみれば人という種族の

考えていることはよく分からないところがある。


「俺達はもっと先に用があって来た。ここには偶々通りかかっただけだ」


狼の原生種の質問には総志が答えた。総志が疑問に思っていたことは真が聞いてくれたのでどういう状況であるかは分かった。


「この先? この先に行っても何もないぞ」


「何もないとはどういうことだ?」


狼の原生種の言葉に総志が眉をひそめた。何もないとはどういうことか。べースキャンプを出てからほとんど一本道を進んできたようなものだ。目的のものがこの先でないとするなら、さっき通ってきた針葉樹林の道なき場所を探索することになる。


「しばらく行くと林もなくなるんだよ。あとは雪と氷の世界だけだ」


「氷……。氷があるのか?」


氷という単語を聞いて時也が反応を示した。


「ああ、あるっていうか、雪と氷しかないんだがな」


「もっと詳しく聞かせてくれ。この先には氷で覆われた洞窟はあるか?」


時也は更に質問を重ねる。より具体的に、目的のものがそこにあるのかどうかの情報を得るために。


「それならあるけどよ。お前らあんなところに行くのか? あそこはガキの頃から親父とお袋に行くなって言われた場所だ。それこそ何もないぞ」


「どうして何もないと知っている? 子供の頃から行くなと言われてる場所なんじゃないのか?」


少し引っかかるところを覚えて総志が質問を投げた。


「ハッ、大人に行くなって言われて行かないガキがいるのかよ? 確かに危ない場所ではあるんだがよ。ガキの頃に連れと探検に行ったことがあるんだよ。その後バレて大目玉だったがな」


ニヤケタ笑い顔で狼の原生種は子供の頃の思い出を語った。危ない場所だから子供に行くなと言うのは当然のこと。そして、その言いつけを守らないのも当然のこと。


「その氷で覆われた洞窟は『ゼンヴェルド氷洞』か?」


総志が核心の質問をする。この狼の原生種が言っている氷の洞窟が目的の『ゼンヴェルド氷洞』なのかどうか。それが非常に重要だ。


「あの洞窟の名前なんて知れねえよ。あれだろ、そのゼンなんとかっていうのはお前らが付けた名前だろ? 俺たちは氷穴って言ってるだけだ」


狼の原生種が言うように『ゼンヴェルド氷洞』というのはそこに住んでいる者とは関係のない者が付けた名前なのだろう。だから、この狼の原生種が名前を知らないというのも頷ける話だ。


「そうか、分かった。情報をくれたことには礼を言う」


結局のところ行って確かめるしかない。この狼の原生種が言うように何もないのであれば、別の場所を探索するだけだ。幸い今回のミッションで時間の制限は設けられていない。


「なあ、お前ら自力で氷穴を探すのか?」


「そのつもりだ。この先にあるんだろ?」


この後の探索計画について思案し始めていた総志が不意に声をかけられて狼の原生種の方を向く。


「ああ、確かにこの先にあるっていうのは間違いない。だが、広いぜ。俺はここにずっと住んでるから行けるが、人種族が探すには骨の折れる場所だ」


「なら、お前が案内してくれるのか?」


「お、話が早いね! つまりはそういうことだ。10,000でどうだ?」


物分かりの良い総志に対して狼の原生種が機嫌の良さそうな声で言ってきた。


「10,000だと? ふざけるな、3,000だ!」


地元の案内をしてもらうのに10,000Gは吹っ掛け過ぎだ。しかも、元から案内の仕事をしているわけでもなさそうである。たまたまこの話が出てきたというだけのことだ。


「お前がふざけんなよ! 3,000って3分の1以下じゃねえか! 9,000だ。これ以上は負けられねえ!」


狼の原生種も吹っ掛けたことは自覚しているが、それでも3,000という数字を提示してきた目の前の男の神経の図太さには敵わない。


「お前に金が必要なのか? 3,000だ」


「俺らも街に行くことがあるから金はいるんだよ! って、なんでお前は3,000から値段を上げないんだ! 8,000。もう無理だ!」


「8,000も必要ないだろう。3,000だ」


「だから、ここはお互いが値段を上下させて最終的に辿り着いた金額で手を打つんだろうが!? 5,000だ! これ以上は本当に下げられないからな!」


「俺は3,000だと言っている!」


鋭い眼光で総志が睨み付ける。総志が纏っている空気は百獣の王を連想させる。人であってもそう思うのであるから、獣に近い原生種には尚更だろう。狼の原生種が一方的に値段を下げているのも、力で負けているということを本能的に理解しているからだ。


「くっそ……。分かったよ……。3,000でいい……クソッタレめ!」


最終的には狼の原生種が折れる形となった。折れるというか総志が折ったという方が正確か。だが、狼の原生種としても、金が手に入らないよりは案内するだけで3,000G手に入るのならそっちの方が良い。


「決まりだな。俺は紫藤総志、この部隊のマスターをしている」


「ケビーだ。よろしくなクソッタレの大将さんよ!」


呆れた表情のケビーが毒づきながらも一応の納得はしているようだった。より強い者に従うというのは狼ならではの本能だろう。


「では、ケビー。明日の朝には出発したい。早朝この場所まで来てくれ」


「急だな。まぁいいぜ。明日の早朝だな。……ところで、今夜はどうするんだ? 大将だけなら家に泊めてやってもいいが、この人数じゃな……」


ケビーが『ライオンハート』のメンバーを見渡す。ここに来ているのは第一部隊から第三部隊までと『フォーチュンキャット』を合わせて数十人がいる。


「大丈夫だ。俺たちは野営の用意がある。この集落の入口付近を使かえればそれでいい」


「そういうことなら、空いてる場所はいくらでもある。好きに使いな」


ケビーの言う通り、ログハウス群の入口付近は特に何もない。針葉樹がまばらに立っているだけ。野営をするには特に問題はなさそうであり、今夜はここで過ごすこととなった。





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