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申し出 Ⅱ

「あ、あの……紫藤さん、ありがとうございます……。助かりました……」


美月が立ち上がって頭を下げる。ナンパ男を追い払ってくれたことは素直に助かったことなのだが、美月は紫藤総志という男がどうも苦手だった。


決して悪い人間ではないということは分かっているのだが、迷いなく『テンペスト』を殺したことが頭をよぎる。


「あの……すみません。助かりました」


「あ、ありがとうございました……」


翼と彩音も立ち上がって礼を言う。翼にしては珍しく緊張した面持ちをしている。総志が持っている獣王のようなオーラは直感で生きている翼からしてみても近寄り難い。


彩音にしても、見た目からすでに威圧感を持っていう総志は苦手な部類だ。緊張でお礼を言う声も少し震えている。


信也の訃報を聞いて、シース村に行った時に初めて総志に会ったのだが、二人とも第一印象からずっと苦手意識を持っている。


「気にするな。あいつらは元々俺たちの出身地域から来た奴らだ。地元の奴らが迷惑をかけたみたいなものだからな」


総志はあまり愛想のよくない言い方だが、悪意は感じられない。ただ、当たり前のことをしたから礼を言われるようなことでもないと思っているだけだ。


「ところで、今日は蒼井真君に用があって来た。少し時間をもらってもいいか?」


葉霧と呼ばれていた男が真の方を見て声をかける。こちらも愛想が良くない方ではあるが、真に対しては何か興味深そうに見ていた。


「お、俺に用……?」


じっと見られてなんだか居心地の悪さを感じつつも真が返事をする。


「その前にあなた誰なの? 名乗りなさいよ! 紫藤って人は知ってるけど、あなたのことは知らないわよ」 


真に声をかけられて華凛が噛みついてきた。華凛は総志に苦手意識があるというよりも、そもそも他人に苦手意識がある。こういう風に噛みつくのは自己防衛でもあった。


「一応シース村で会っているはずなんだがな……。まぁいい、僕は『ライオンハート』でサブマスターをしている葉霧 時也だ」


「で、なに? あなたたちもナンパしに来たの? 残念だけど、真君は男だからね!」


「それは知っている。『テンペスト』の一件の時に会っているからな。僕達はそんな下らないことで足を運んだわけではない。今日は大事な話があるからここに来たんだ」


時也が淡々と返答する。真が男だということは『テンペスト』が支配する地域の要塞に殴り込みに行く時、小林と名乗った男から聞いていたことだ。どう見ても女にしか見えない男がいると。実際に時也が真を見て思ったことは、本当にどう見ても女にしか見えないということだった。


「大事な話……?」


真が時也に聞き返す。『ライオンハート』のマスターが直々に話をしにくるほどのこととは何なのだろうか。『テンペスト』は事実上崩壊しているし、『フレンドシップ』は新たな船出を切った。そうなると思い当たることがない。


「ああ、そうだ。そのために俺たちは蒼井を探していた」


これは総志が応えた。総志と時也が『オウルハウス』にやってきて、チャラいナンパ男どもを追い払ったのは単なる偶然ではなかったのだ。


「真を探してたって……どういうことですか?」


美月が不安げな表情で問う。最大最強と謳われるギルド『ライオンハート』のマスターとサブマスターが真を探していたのだ。決して小さい要件ではないだろう。だから、言いようのない不安が纏わりついてしまう。


「単刀直入に言う。俺たちと一緒にミッションをやってほしい」


「「ッ!?」」


総志の言葉に一同が驚きの表情を隠せない。『ライオンハート』はゴ・ダ砂漠でもミッションを積極的に遂行してきたギルドであるということは聞いていた。ミッションを遂行することができる力量もあると。そのギルドが5人しかいない『フォーチュンキャット』へミッションの協力要請をしてきたのだ。


「ど、どうして……私達に……?」


恐る恐る彩音が尋ねるが、おおよその検討は付いている。真の力を借りたいのだろう。ただ、確認しておきたかったことは、『ライオンハート』がどこまで真のことを知っているのかということ。


「君たちはエル・アーシアの出身だったな? エル・アーシアの出身者から色々と話を聞いたところ、エル・アーシアには『インヴィジブル フォース』という謎の組織があるそうだな」


時也が説明口調言う。整然とロジックを組んでいくように一つずつ外堀を埋めていっている。


「インヴィジブル フォースは都市伝説みたいなもんで、実際にいるかどうかなんて……」


華凛が思わず声を上げた。一時期、華凛はこのインヴィジブル フォースを探して東奔西走していたことがある。だが、結局そんなものは存在しないという結論に達した。


「ああ、僕たちも都市伝説だと結論付けたよ。ただ、エル・アーシアの出身者は未だに信じている人もいるほどでね。それは実際にミッションをクリアし、ドレッドノート アルアインという巨大なドラゴンを倒した組織があるからだ」


「……ッ!?」


華凛が何かに気が付いたように真の顔見る。時也はそんなことにはお構いなく話を続けた。


「だけど、誰もミッションをクリアした人の情報を持っていない。ドレッドノート アルアインは突然誰かに倒されたということしか聞けなかった。だが、絶対にこの二つを誰かがやり遂げている。それが、インヴィジブル フォースという名前で独り歩きしているだけだとしてもね」


「私達がその、インビジブル フォースだっていうことですか……?」


美月が神妙な面持ちで声を出す。


「いや、インヴィジブル フォースというのは見えない何かの仮称に過ぎない。それに、インヴィジブル フォースは都市伝説だと結論付けていると言っただろう。ただ、今の君の発言で確信を得たよ。やはり、ミッションをクリアし、ドレッドノート アルアインを倒したのは君たちなんだな。それに、単独で『テンペスト』の幹部を追い詰めることができる人間なんてそうはいない」


「ッ!?」


美月は自分の失言に気が付いた。『テンペスト』の幹部を全員レッドゾーンにしたことでも何かあると思われて当然だ。それなのに今の話だけで、自分たちがインヴィジブル フォースだと思われるいるのかと聞いたのはまずかったのだ。それは心当たりがあるということを露呈しているようなものだ。


「っちょ、ちょっと待ってください! あの、私達は確かにミッションをクリアしましたし、ドレッドノート アルアインを倒しましたけど、でも、インヴィジブル フォースとかは本当に知らなくてッ!?」


翼が慌てて声を上げる。確かにミッションをクリアしたし、真はドラゴンを倒した。だが、都市伝説のような特殊部隊を名乗って活動をした覚えは微塵もない。変な勘違いをされたままでは大変困る。


「お前らがインヴィジブル フォースかどうかはどうでもいいことだ。葉霧が言った通り、名前が独り歩きしているだけだ。ただ、蒼井真、お前は力を持っている。だから、俺たちと一緒にミッションを遂行してほしい」


総志が真っ直ぐ真を見つめて言う。その言葉にも強い意志が感じられる。


「ああ、分かった。協力す――」


「っちょと待ってッ!? 真、あんた少しは考えて返事しなさいよッ!」


翼が驚きのあまり大きな声を上げていた。普段は翼の唐突な行動を真が制止する役割だが、今回に限っては全くの逆だった。


「ま、真ッ!? ミッションのことはもっと慎重に動くって話し合ったばかりでしょ? 本当にどうしちゃったの?」


美月は今日一日中変だった真のことが心配で堪らない。やはり信也のことで心理的な外傷を負っているのだろうかとさえも思ってしまう。


「あ、ああ、ごめん……。そう……だったよな……。そうだよな……。でも、なんていいうか、どうしてもやらないといけないような気がして……」


真が我に返ったように声を出した。総志からの提案にはほとんど何も考えずに二つ返事で了解をしてしまいそうになった。それは、このミッションをやり遂げないといけないと心の奥底にこびりついているから。なぜそこまで思うのかは未だに分からない。そのことで今日一日中悩んできたのだ。


「迷う理由は分かる。ミッションとなると命がけだからな。僕たちも今までに大勢犠牲を出しながらミッションを遂行してきた。生き残った者はみんな精鋭だ。だけど、この世界を元に戻すための唯一の手掛かりがミッションだ。君たちもミッションをやらないといけないっていうことは分かってるんだな?」


時也が詰問するように問いかけた。時也もくぐってきた修羅場はいくつもある。大切な仲間を失った経験も一度や二度ではない。だが、それでもミッションを遂行する意志は崩れてはいない。


「言いたいことは分かります……。俺もミッションをやらないといけないと思ってるから……。ただ、エル・アーシアでのミッションの時に、その内容を聞いただけで、時間制限をかけられたことがあって……それで慎重に動こうってことになって……」


板挟み状態の真がばつの悪そうな顔で応える。別段、真が責められているということではないはずなのだが、今の議論の中心に真がいる。


「それなら、問題はない。ミッションの内容は既に調べてある」


「……えッ?」


総志が言った言葉に誰もが驚嘆の声を漏らした。思いがけないところにミッションの情報があった。





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