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深層心理

― 繰り返します。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたします。バージョンアップの内容につきましては、皆様それぞれにメッセージを送付いたしますので、各自でご確認ください。 ―


毎回変わり映えもなく、バージョンアップの告知は空から聞こえてくる。時刻はもう正午。NPC達はいつも通りに動いているが、現実世界の人間はそうではない。毎回のことながらどんなバージョンアップが実施されるのか分からないことで不安にさせられる。


『フォーチュンキャット』のメンバーも黙ってメッセージが届くのを待つ。宿屋の入口で立ち止まり、心の準備をしておく。


【メッセージが届きました】


真達が顔を見合わせた。


「真……」


美月が真の名前を呼ぶ。


「ああ……。確認するぞ」


真は目の前に浮かんでいるレターのアイコンに手を触れた。まずは真がメッセージの内容を確認する。これは正式に決めたルールではないが、いつの間にか真が最初にバージョンアップの内容を確認してから、他のメンバーが見るということになっていた。


【バージョンアップ案内。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたしました。バージョンアップの内容は以下の通りです。

 

 1 新しいミッションが追加されました。


 2 新しいダンジョンが追加されました】


内容はこれだけだった。いつも通りの無味乾燥のメッセージ。内容が漠然とし過ぎていて、結局どこに行って、何をすればいいのか分からない。


「ミッションとダンジョンが追加された。内容はそれだけだ……」


真は赤黒い髪の毛をかき上げてメッセージを見ている。相変わらずの情報不足。そして、なによりこの情報の少なさが一番怖いものだ。知らないと罠にも気が付かないことになる。


「ミッションの内容次第……ですよね……」


真がメッセージを確認した後、彩音もメッセージを確認していた。内容は真が言った通り。簡素な文章が二つあるだけ。


このメッセージに嘘の情報は書かれていない。問題はその内容が不明なこと。彩音が呟いた通り、問題はその内容だ。


「まぁ、まだ意味の分かる方の内容ではあるけどね」


翼もメッセージを見ながら呟く。要はミッションとそれに関するダンジョンが追加されたということだろう。グレイタル墓地の事件の時やドレッドノート アルアインが追加された時のように何のことかさっぱり分からないようなものではない。


「意味の分かる部類ではあるけど……やっぱり問題は彩音の言った通り内容だよね……」


美月が考え込んだ。どうやってミッションの内容を確認するかを。


「普通にNPCとかに訊けば教えてくれるんじゃないの?」


華凛は何を迷っているのか分からないというような顔で言った。内容が知りたいなら調べればいい。それ以外に答えはないはずだ。悩むのは内容を知ってからのことだろう。


「あ、そうか、華凛は知らないんだったよね」


美月が華凛に言う。そういえば華凛はドレッドノート アルアインの一件以降、『フォーチュンキャット』のメンバーになったのだと思い出した。


「美月、それってどういうこと?」


「えっとね華凛、エル・アーシアが追加された時にミッションも一緒に追加されたでしょ。あの時のミッションってね、NPCから情報を聞いただけで期限が切られたのよ」


「期限が切られたって……どういうこと?」


華凛はまだ合点がいかないようだった。話を聞いただけで期限を切られたというのが今一つよく分からない。


「華凛さん、あのですね、私達はミッションの内容を確認するためにエル・アーシアで調査してたんですよ。そこで、エルフの村から情報が得られるっていうことを突き止めて、村の長老から話を聞いたんですね。そしたら、いきなり残り5日以内にミッションをクリアしろっていう内容のメッセージが来たんです」


彩音が丁寧に補足説明をする。あの時の動揺は今で覚えているくらいだ。


「ねぇ……その、5日を過ぎたら……どうなるの?」


「分かりません……。ただ、メッセージの内容からして、たぶん死ぬんだろうって……」


「死ぬって……そんな無茶苦茶な……」


華凛は信じられないことを聞いたというような驚愕の表情をしている。今まで華凛はミッションに参加したことがなかったから分からないことだったが、ドレッドノート アルアインのことを考えれば想像が付く。どこまでも追い込んでくるのだ。


「結局それなのよね……。悔しいけどさあ、どうしても慎重にならざるを得ないわよね……」


翼もエル・アーシアのミッションに参加した内の一人だ。期限を切られた時に感じた恐怖は忘れていない。


「俺が調べてくる」


黙っていた真が口を開いた。だが、その内容があまりにも唐突過ぎた。今の話の流れを聞いていたなら出てくるような言葉ではないはずだ。


「し、調べるって、真……ッ!? ねえ自分の言ってることが分かってる?」


驚いた美月が声を上げた。ミッションの内容を聞いただけで期限を切られたのは真も経験していることだ。その危険性をよく理解しているはずの真がミッションの調査をすると言っている。しかも一人でだ。


「分かってるよ。ミッションの内容を確認するんだ。そうしないと何をすればいいのか分からない」


はっきりとした物言いで真が返答してくる。


「う、うん……そうだけどね……。今話してたのはエル・アーシアのミッションのことなんだけど……真も覚えてるでしょ?」


「覚えてるよ。あの時、いきなりメッセージが来て驚いたのは俺も同じだ」


「真さん……。どうしたんですか? いつもの真さんならもっと考えてから結論を出してますよ……?」


彩音が怪訝そうな顔で真を見る。真はその強さだけではなく、分析力も優れていることは彩音も認めていた。色々な可能性を考えて、取捨選択して、より確実な方法を模索してきた。だから、真の選択について行って間違いはないと思えていたのだ。


「考えたさ……。やっぱり、ミッションをやらないといけない。これは間違いないんだ。だから俺は正しいと思ったことをする」


「ねぇ、真君。そう思う根拠は?」


さすがの華凛も今の真に対して違和感を感じずにはいられない。普段なら真が出した結論には何も言わずに従うが、今回は思わず疑問を呈してしまった。


「根拠なんてないよ。それが正解だと思ったんだ」


真は迷いなく言い切る。根拠などないと。理屈ではなく、そう感じたからそう言ったまでのことだった。


「真、今日のあんた何か変よ? どうしたの?」


翼も訝し気な表情で真を見ていた。真はここまではっきりと言い切るキャラではないはずだ。言い切る時には必ず根拠があってのことだ。直感で生きている翼とは違うといつも言っているのは真自身ではないか。


「いや、何て言いうか……。皆が言いたいことは分かる。あまりにも根拠のないことで行動するのは危険だってことだろう? でも、このミッション……いや、これだけじゃない。バージョンアップで追加されたものは全てクリアしないといけないって……。俺は……なんでこんなにはっきりと分かるんだ……?」


真は自分で話していて違和感を覚えた。言っていることの意味には違和感があるわけではない。違和感を感じたのは、なぜそこまで明確にミッションに参加すること、そして、バージョンアップで追加されるものをクリアしないといけないと確信したのか。その根拠がないことに気が付いた。


「知らないわよそんなこと!」


翼が思わず声を出した。真がなぜ、そこまで確信を持ってるのかなんて、真にしか分からないことだ。それを聞かれても知るわけがない。


「ちょっとだけ、いつもの真君に戻った……?」


華凛は少しだけ安心したように真を見つめた。話の最後の方で疑問を呈したところがいつもの真の姿に見えたからだ。


「ねぇ、真……。ミッションをやらないといけないっていうのは私達もそう思ってるよ……。でもね、ミッションのことを調べるだけでも危険があるっていうのは真も分かってることだよね? だったら、もう少し慎重に動いてもいいんじゃないかな?」


美月が真の目を見て話す。ゆっくりと静かに、それでいてしっかりと。


「あ、ああ……すまない……。どうしたんだろう、俺……。なんか俺らしくなかったよな……?」


真はバツの悪そうな顔で謝った。何となくだが、幼稚園の頃に初恋だった先生にもこんな怒られ方をしたというのを思い出していた。


「いいのよ……。信也さんのことがあってまだそんなに日も経ってないしね……。真の気持ちも分かるわよ」


美月は優しく微笑んでそう言った。


「ああ……そう、そうだな……」


美月が真のことを気遣ってくれているのはよく分かる。確かに信也のことを気に病んではいることは間違いないが、本質は違う。それは口に出すことはできなかった。


「ほら、真! いつまでしょんぼりしてるのよ! そんな顔してたら信也さんに叩かれるわよ! もう昼だしお腹空いてるんでしょ? 食べたら元気になるわよ!」


翼が真の肩をバシッと叩いて笑う。翼なりに真を気遣ってのことだ。


「そうですよ。私もお腹空きましたし、早く店に行きましょう」


彩音も笑って声をかける。


「いつまでも宿の入口にいたら怒られるわよ」


華凛がそう言うと、美月と翼、彩音はハッと気が付いて、慌ててその場を離れようといつも昼食を食べに行っている店へと真を連れて行った。


(そういうわけじゃないんだけど……)


真は黙っていた。皆の気遣いは素直に嬉しい。良い仲間を持てたと思う。だが、今、真が抱えている違和感は真ですら分からないものだ。何か重要な、核心に迫るような何かを見落としている。そんな思いがどうしても晴れなかった。




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