テンペスト Ⅱ
『テンペスト』のメンバーが『フレンドシップ』に襲われたという話を信也が聞いてから数日が経過していた。
その数日の間に、信也と『テンペスト』の下層メンバーは桐山龍斗の呼び出しにより、ハーティア地域の要塞まで来ていた。
「華がねえなー。こんな辛気臭いところに引き籠ってるのかお前らは?」
信也と『テンペスト』の下層のメンバーの眼前には灰色の要塞がそびえ立っている。高い石造りの壁が周囲を囲み、黒い鉄城門が来るものを拒んでいるかのように閉じられている。飾り気はなく、機能だけを重視した建物だ。大きさは学校より少し大きいくらいだろうか。
「うるせえな! 俺たちは普段は入れてもらえないんだよ! いつもは王都にいるから引き籠ってなんかいねえんだよ!」
信也を連れてきた『テンペスト』の下っ端が応える。
「余計なこと言ってんじゃねえよ! 龍斗さんらはここにいるのを忘れるんじゃねえよ!」
先ほど応えた下っ端とは別のメンバーが声を上げた。自分たちは引き籠ってないが、自分たちの頭は辛気臭いところに引き籠っていることを認めるような発言に、慌てて声を上げていた。
信也を囲むようにして連行した『テンペスト』のパシリは4人。ちょっとした会話からも信也に手玉に取られるようだからパシリなのだろう。
「おい、真辺。調子に乗ってられるのは今だけだぞ! そのことは分かってるんだろうな?」
怒気を含んだ声で別の他の下っ端が威嚇する。だが、この下っ端、悲しいかな身長が低い。日本人の平均身長よりも低く、大柄の信也を見上げる形になっている。
「お前、声が上ずってるぞ。なんだ? お前ら、桐山に会うのが怖いのか?」
信也が憐れみを含んだ物言いで返答する。『テンペスト』の序列は戦闘能力の高さだ。強い奴が上層に行き、弱い奴は下層のまま。だから、人格が優れていて、人の上に立って導くというような人間が上層にいるというわけではない。
そして、桐山龍斗は『テンペスト』で最も強い男だ。ただし、それに伴う人格は破綻している。同じギルドであったとしても、桐山龍斗という人間は畏怖の対象になっていた。
「な、な、なに、な、何を言ってんだてめえー! なんで龍斗さんにビビらないといけねえんだよ!」
「ビビッてないってことは、桐山は大したことないってことか?」
「いや、違、え? 違わない、いや、違う! 龍斗さんを怒らせたらただじゃ済まねえんだよ!」
小柄な男は龍斗のことを悪く言ってしまったのではないかと慌て混乱している。
「コラ、真辺。いい加減にしとけよ! 龍斗さんが来いって言って、待ってるんだよ!」
信也を連行してきた4人の最後の1人が声を上げる。大声で怒鳴るわけでもなく、低い声で警告を発している。こいつはまだ見込みがあるなと信也は心の中で微笑んだ。
「ああ、分かってるよ」
信也はそう言うと黙って要塞の鉄城門の前まで連れてこれらた。鉄城門の大きさは5メートルほどはあるだろうか。真辺は見上げながら目測する。
「開けろ」
信也を連行してきた1人が鉄城門に向かって声を発する。すると、数秒遅れてズズズと唸り声を上げるように鉄城門がゆっくりと開きだした。
攻城戦によって支配権を獲得した地域の要塞は、支配権を持つギルドのメンバーであれば誰でも門を開けることができる。『テンペスト』の中では下っ端であったとしても、それはギルド内の決め事での話。攻城戦で使える機能はパシリにも平等に与えられる。
「さっさと入れ」
下っ端に急かされて信也が要塞の中に入っていく。要塞の中は外観の印象とまるで変わらない。飾り気がなく、辛気臭い、地味で武骨な要塞。戦うことだけを目的に作れらた建物。
石畳の床と巨大な柱。窓はあるがカーテンなどはない大きな玄関フロアの先には上に向かう階段がある。階段を上った先の二階部分のフロアも一階と同じ。石の床と柱と窓。広いが灰色一色で息の詰まりそうな空間だ。その先にある階段を上ると三階部分に辿り着く。要塞自体は更に上の階もあるが、『テンペスト』のギルドマスター、桐山龍斗はこの三階で待っていた。
三階には会議室がある。広さもある会議室であるため、『テンペスト』の上層はここに集まっていた。
「し、失礼しま、しますッ!」
下っ端の1人が会議室の扉を開いて頭を下げた。
「織田ァ! てめえノックしろって何回言わせたら分かるんだコラァ!」
会議室の扉を開けるなり、大柄のダークナイトの男が怒声をまき散らす。
「す、す、すみません。すみません!」
織田と呼ばれた男が必死に頭を下げる。その様子を会議室にいる上層のメンバーがニヤニヤと笑いながら見ている。
会議室の中の机は乱雑に隅に寄せてあり、もはや会議室というよりも、ただ屯するだけの部屋となっていた。
(ざっと30~40人ってところか)
必死で頭を下げている下っ端のメンバーの後ろから信也が会議室の中を覗き込んだ。ガラの悪そうな顔がずらりと並んでいる。大体は知っている顔だ。上層のメンバーは大方ここに集められていると考えていいだろうと信也は心中で呟いた。
「おい、真辺。こっちに来い!」
会議室の一番奥の真ん中。一人の男が真辺を呼んだ。年齢は20代半ばくらい。目つきが悪い三白眼。足を広げて椅子に座り、手にはナイフを持っている。中肉中背だが、他のメンバーとは明らかに異質な雰囲気をしている。その手に持っているナイフと同じ抜身の刃物のような凶悪性を感じさせる。
「言われるまでもねえよ! 桐山、俺はお前に話があってここまで来たんだからよお!」
信也の表情が一変する。怒りを含んではいるが、それよりも真剣さが強い。部屋の奥に座っている『テンペスト』のギルドマスター、桐山龍斗の前まで目線を外さず、しっかりとした足取りで進む。
「桐山ァ! てめえどういうつもりだ! なんでうちのメンバーを襲った?」
信也は龍斗の前まで行くと、相手が口を開く前にまくし立てるようにして言った。
「あぁ? 何言ってんだお前は! 俺らのメンバーがお前らに襲われたんだって言ってるだろうがよ!」
眉間に皺を寄せて龍斗が応える。だが、この反応は信也にとっても予想できていたことだ。素直に非を認めるような連中なら誰も迷惑をしていない。
「しらばくれるんじゃねえよ! お前らが先に襲ってきたことくらい分かってんだ!」
信也は更に大きな声で反撃を繰り出す。相手に詫びを入れさせるところまでは考えていない。ただ、今後の活動の邪魔をしないようにしっかりと釘だけは刺しておかないといけない。
「そんなことはどうでもいいんだよ! お前らは俺達に攻撃をしたってことが重要なことなんだよ! こっちが先に仕掛けたかどうかなんて関係ねえんだよッ!!!」
龍斗は開き直ったような態度で怒鳴った。
「はぁ!? お、お前、何言ってんのか分かってるのか? お前らが攻撃を仕掛けたきたからこうなったんだろうがッ!!!」
信じられないことを聞いたという風に信也が驚きの表情を浮かべる。先に襲ったことを認めるような発言だが、まるで悪びれる様子がない。
「だから、そんなことはどうでもいいって言ってるだろうがッ! こっちは4人レッドゾーンにされてるんだよ! 俺のメンバーがレッドゾーンになるまでやられておていて、ただで済ますと思ってんのか?」
対人戦エリアにおいてレッドゾーンは死ぬ直前まで追い込まれたということ。レッドゾーンから回復するまでにはしばらく時間がかかり、その状態で何かしらのダメージを受けると死ぬ。即ち、レッドゾーンにされた『テンペスト』のメンバーは命からがら逃げてきたということだ。
そんなところまで追い込んだのが、支援活動なんていう、龍斗からしてみれば胸糞悪いことをしてる連中だ。力を誇示して好き放題暴れてきた『テンペスト』が慈善活動をしてるギルドに返り討ちにされたなど、『テンペスト』にとって許せる事態ではなかった。
決して仲間がやられた借りを返すというようなことではない。このままでは『テンペスト』としての面子が保てないのだ。




