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報告

真達と『フレンドシップ』メンバーは再び重い足取りを進めていく。皆が一様に不安を抱いたまま進む道では相変わらず会話もない。


いつもなら、支援物資を届けて王都に向かう道は会話が弾んでいるものだった。どんな物が喜ばれただの、次は何を持って行こうか、見知った顔のあの少年は相変わらずやんちゃだったなどの話で盛り上がる。


しかし、今はこれからどうなるんだろうという先の見えない状況を抱えて足を前に進めている。もう『フレンドシップ』の活動はできないのだろうかということが頭をよぎる。


ようやく真達が王都グランエンドに辿り着いたのは夕方になろうかという時間。だが、それで終わりではない。すぐに『フレンドシップ』のギルドマスターである真辺信也に会って、事の経過を報告しないといけない。


「疲れているとは思うが、『フォーチュンキャット』も一緒に来て話をしてほしい。巻き込んですまないが、頼む」


王都に入って千尋が一言だけ言う。真達もそれに反論することはない。事が事だけに当然の提案だろう。事情を知る者が話をしないといけない。それに『テンペスト』のメンバーを撃退したのは他でもない真だ。


そうして、王都に入っても休憩を取らずに真っ直ぐ『ボヤージュ』に向かう。『ボヤージュ』は『フレンドシップ』がいつも利用している場末の酒場。ここに行けば『フレンドシップ』の誰かに会うことができる。信也も王都に居る時は必ず立ち寄る店だ。遠征に行っていた信也も帰ってくるタイミングである。


本来であれば、信也が遠征から帰ってきてから一週間近く後に支援物資を届けたメンバーが帰ってくる予定だったのだが、意図せず早く帰ってきてしまった。


千尋を先頭にして『ボヤージュ』の古い木製扉を開ける。立て付けがあまりよくない扉がいつも以上に重く感じた。


「千尋……。待ってたぞ」


誰よりも先に声を出したのは信也だった。そのことに皆驚いている。流石の千尋も今回ばかりは信也の言葉に驚きを隠せない。信也は『待っていた』と言ったのだ。


信也の他にも遠征に行っていた『フレンドシップ』のメンバーが数人いる。信也を含めて全員が険しい表情をしていた。


「信也……」


「とりあえずここに座れ。そんな所で立ったまま話をするつもりじゃないだろ?」


何か言おうとした千尋に対して信也が座るように促す。千尋は黙ってその指示に従い、木製の丸いテーブルに信也と千尋が対面して座る。


「先に俺が知らされたことから話をしよう。その後に事実を聞かせてくれ」


「分かった……」


千尋が小さく頷き、信也の言葉を待つ。今回のことが信也の耳に入っていることは間違いないようだった。


「でだ、こっちの話なんだが……。昨日の夜のことだ。俺が遠征から帰ってくるのを『テンペスト』の連中が待ち伏せしてやがった。パシリに使われたのは下位のメンバーだろう。名前も知らないような奴が3人だ」


信也の話を真達も真剣な面持ちで傾聴する。一呼吸おいて信也は話を続けた。


「そいつらの話では、ツヴァルン周辺を通ってきた『フレンドシップ』のメンバーが突然、『テンペスト』に襲い掛かってきたということだ。そのことで俺をハーティア地域の要塞まで呼び出せと命令されたそうだ。『テンペスト』のギルド内メッセージでそれだけが書かれてたってことで詳細は不明だ」


「なんなのよそれッ!? 全然事実と違うじゃないッ!?」


声を荒げたのは翼だった。今の話では完全に『テンペスト』が被害者ということになっている。それで信也が呼び出されるなど理不尽極まりない。


「そうよ! なんなのよそれは! 分けわからないじゃない!」


華凛も思わず大きな声を出していた。真実を曲げられてこっちが悪者にされている。そういう経験がある華凛にとって許せることではなかった。


「分かってる。落ち着け。お前らがそんなことするはずがない。千尋、事実を聞かせてくれ」


信也の話に『フレンドシップ』のメンバーが声を上げなかったのは、信也が『テンペスト』の話を鵜呑みにするわけがないと分かっているから。絶対に『フレンドシップ』を信用してくれていることを理解していたからだ。


「ああ……。突然襲われたのは私達の方だ。本当に突然だった……。いつも通りの道を通っていたところにいきなり『テンペスト』の連中が襲ってきた。襲われた理由は分からない……。だが、応戦して相手を退けた」


千尋が見たままの事実を語る。


「襲われた理由は分からないか……。連中はなんて言ってた? 心当たりもないか?」


「奴らは理由を言わずに襲ってきた。心当たりもない。ずっと襲われた理由を考えていたが、思い当たるものがない……」


信也の質問に答えられるものがなく、千尋が少し目線を外してしまった。


「そうか、思い当たることはないか……。とろこで、相手を退けたって言ったな? 奴らは相当強いが……相手は何人だった?」


信也の表情は険しくなっている。自尊心が強く、他者を踏みにじることで上に上がろうとするのが『テンペスト』というギルドだ。当然のことながら、強さに対しても執着がある。その『テンペスト』を退けたということが気になった。


「私が確認できたのはスナイパーとソーサラー、ダークナイトの3人だ。それともう一人いたはずだが……」


「もう一人もスナイパーだ。スナイパーは二人いたんだ」


質問に答える千尋に割って入って真が補足した。


「合計4人か……。蒼井……お前がその4人全員をやったんだな?」


「あぁ……」


真が補足を入れたことで信也が確信を得ていた。いくら『フレンドシップ』のメンバーが相手の倍以上の数いようが、そもそもの戦闘能力が高く、攻城戦による支配地域の恩恵で格上の装備を揃えている『テンペスト』に対抗できるわけがない。


だが、先日のアンデットの海賊討伐で親玉のキール・ザ・スラッシャーを単独で倒した真であれば話は別だ。


「あ、あの……。真は確かに戦ってくれましたけど、こ、殺してはいませんッ!」


不穏な空気を感じ取って美月が声を上げた。


「別に殺したとは言っていない。連中も殺されたとは言っていないしな。それに退けたってことは、逃げていったんだろ?」


「は、はい……」


美月は少し落ち着きを取り戻して返事をした。信也は最初から真が相手を殺したとは思っていないようだった。信也が真を疑うようなことをしないとは分かっていても、重い空気からどうしても不安が顔を覗かせてしまう。


「それに、今回の件で俺たちに犠牲者は出ていないようだな」


信也は周りを見渡し、支援物資を届けに行ったメンバーが誰も欠けていないことを確認した。


「ああ、蒼井真が助けてくれたおかげで、全員無事に帰って来ることができた」


千尋も支援物資を届けるメンバーを見渡して言う。大変なことがあったのは事実だが、真のおかげでこうして皆が無事に帰ってくることができている。


「そうか。蒼井、俺の仲間を助けてくれてありがとう。礼を言う」


信也は立ち上がって深々と頭を下げた。


「いや、俺は別に……」


真はいきなり頭を下げられたことに少し驚いた。真としてもあの時はあまり考えて行動していたわけではなかった。いきなり襲ってこられたから体が勝手に動いた。生存本能的なものだった。


「それでだ。話は大体分かった。っていうか、まぁ、予想してた通りだったがな」


そこで信也は表情を崩した。そのことで周りを支配ていた緊張の糸が緩む。


「信也、どうするつもりだ? 呼び出しに応じるつもりではないだろうな?」


千尋が信也に話かける。いつも通りの気丈な千尋に戻っていた。


「呼び出しには応じるつもりだ」


「どうしてッ!?」


信也の回答に千尋は驚愕の声を上げた。それは周りの人間も同じ。なぜこんな理不尽な呼び出しに応じる必要があるのか。


「今回の件で桐山と直接話がしたい。呼び出しに応じれば奴も出てくるはずだ。それにな、このままだとツヴァルン周辺をどうやって通るんだ? 話を付けないことには通れなくなるぞ」


「それは……そうだが……」


信也の言う通り、このままではツヴァルン周辺を通る時に『テンペスト』からの襲撃を受けることになる。そうなると生きて帰って来れる保証はなくなってしまう。


「す、すみません……。ちょっといいですか?」


恐る恐る手を上げたのは彩音だった。何か気になることがあるようだ。


「どうした?」


不思議そうな顔で信也が返事をする。この大人しそうな少女が今回のことで何を聞きたいのだろうか。


「その呼び出しって、誰が行くんですか……? もしかして、信也さん1人で行くわけではないです……よね?」


「俺だけだ。それが連中の要求だ」


彩音の質問に信也が直球で返す。他に言いようもない。


「で、でも、それは危ないんじゃないですか……?」


「心配すんなって! 危ないことは危ないがな。それでも、向こうが俺一人で来いって言ってるんだ。ここで逃げるわけにはいかないんだよ!」


『フレンドシップ』と『テンペスト』には今までにも多くの確執がある。ここで逃げ腰になっては、相手の行動を助長させる結果になりかねない。だから、信也は1人で来いという要求を呑む。『テンペスト』などに臆していないと主張するためにも。





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